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第8話 ロクな二股じゃない。

 心垣さんと付き合うことになってしまった。


 放課後ということもあり、連絡先を交換して、その日はすぐにわかれた。普通の彼氏なら今日から一緒に帰る?そういえば、心垣さんの家を知らなかった。というか、あるのだろうか?もし設定に無かったとしても、流石に家ぐらいはあるか。

 では、何故一緒に帰らない?もちろん、俺にそんな心の余裕がどこにも無かった。むしろ、1人で自分の家に帰ったのだが、俺はどうやって?どの道を通って帰ったのか?覚えてすらいなかった。いつの間にか家に帰り着いていた。


 昨日、沙希が帰ってから、いつもの俺1人だけの部屋なのが、急に1人取り残されたようで少し寂しい気持ちを芽生えさせていた。しかし、たった1日経った次の日の今日は、俺以外誰も居ない寂しい部屋が逆に安心感を与えてくれて少しだけ落ち着きを取り戻した。


 やっと1人なれた。今までロクに考えられなかった。色んな事が起こり過ぎて頭がパンクしてしまいそうだ。


 心垣さんが俺に抱き着いたのはほんの少し前、にも関わらず残り香なんて一切無く、完全に無臭。それにすら恐怖を抱いて、無理矢理シャワーを浴びる。家で使っている、シャンプーやボディソープの匂いに安らぎを感じて、出る頃にはようやくまともな状態に戻ってくることが出来たと思う。


 ベッドに腰かけ、ようやく気持ちの整理が出来そうだ。


 恐怖を再び!なんてあまり考えたくもない。だから、まず他の事から考えよう。


 昨日、俺に彼女が出来た。そして今日、別の彼女が出来た。どう言い繕っても俺はクソ野郎だ。


 「ハハッ……。」


 自虐的に乾いた笑いが出る。自分を責めて少しでも楽になりたかったんだ。


 「はぁ……沙希に言った方が良いのだろうか?」


 どうする?完全に二股だ。黙っているべきなのか?いや、ゲームの、この世界の仕様にも関わっていそうだから、伝えた方が良いのかもしれない。沙希の世界が、こっちの世界と同じなのかどうかは分からないが、くっついているんだ類似性はあるだろう。


 ……それに、二股と言っても、二股と言っていいのかすら微妙な関係だ。もしかしたら、怒られないで済むかもしれない。何故なら俺は、俺のルートだけはしっかり記憶している。その中で心垣さんとの関係は1ミリも進展しないんだ。多少、手を繋ぐぐらいしかしない。


 そりゃそうだろ?最終的には姫野に俺がネトラレるのだから。主人公あっての親友キャラ。そしてその彼氏だ。姫野がせっせとハーレム作ってる間に、そのハーレム要員の俺を親友が好き放題しているゲームなんて、クソゲーもいいところだ。

 小学生のカップルですら、チュウという名の軽いキスはするだろう。しかし、俺と心垣さんの関係は、それすら無い。


 あくまで主人公の為の親友キャラが心垣さんなのだ。だから、俺には一切の手垢をつけず、綺麗な状態のまま、後々主人公の為に俺を渡す役割だ。


 なので、説明すればするほど二股については大丈夫な気がしてきた。そして、その説明をすればするほど、恐怖と向き合わなければならなくなる。


 これから俺はどういうルートを進めばいいのか?寧ろ、進めるルートがいくつもあるのだろうか?キャラクターと関わっている場合はほとんと一方通行なのではないか?いや、分岐も色々あったはずだ。これはしっかり検証しなければならないかもしれない。


 となると、やはり沙希には伝えた方が良いだろう。あっちは更に切実な問題も控えているのだから。



 携帯電話を取り、昨日追加したばかりの沙希へメールする。


『昨日会ったばかりで、ごめん。大事な話があるんだ。明日会えないかな?

あ、別れ話じゃないから、安心してね?』


 時間的には夕食やお風呂の準備で忙しいはずだ。電話で直接声が聴きたいのだが、それは厳しいだろう。そして何より俺の世界は何処までがゲームなのか?電話というシステムを軽々しく使っても良いのか?少し怖くなってしまったんだ。メールすらも躊躇したが、それでは1歩も進めなくなってしまう。


 思考を巡らせて、夜も更け22時頃、ようやく沙希から返信が返ってきた。


『急にどうしたの?良いわよ。じゃあ、明日ね。昨日と同じぐらいだと思うわ。』


 ありがたい。沙希の優しに救われる。


『ありがとう。待ってるよ。』


 沙希にお礼の返事を送って、ベッドに横たわる。


 明日は学校を休むことになるのだが、致し方ない。

 未だにどうやって?どんな顔して?会えば良いのか分からないんだ。心垣さんも当然の事だが、蓮司や他の友人達とも何を話したら良いのか分からないんだ。

 今まで俺は灰原 玲に成りきってしまっていた。だから蓮司達と普通に会話が出来てしまっていたのじゃないだろうか?それを無理に壊すと、蓮司達もあの時の心垣さんと同じ事になってしまうのではないだろうか?


 無理だ。怖すぎる。沙希に会う会わない以前に、明日学校へ行きたくなかった。



 翌朝、昨日の出来事もあり、体調も思わしくなく普通に学校は無理そうだった。


 学校への連絡や念の為に心垣さんにも連絡しておく。すぐに心配した感じの返信が来たが、いつも通りの事だから昨日は関係ないという感じのフォローをしておいた。


 昨日の事があって、優し過ぎる?だって、この関係を壊すと恐怖が舞い降りてくるんだぞ?ならば、彼氏彼女の関係は良好にしておいた方が俺の精神的に良くないか?と寝る前に思ったんだ。そして、それは多分間違っていないはずだ。


 心垣さんや蓮司達にはどうしようもない。だからこそ俺は俺のルートを通りながら、解決法を見つけるしかないんだと思った。そして唯一、他キャラとは違う自由に動ける、もう1人のこの世界の住人……


 このゲームの主人公である、姫野 由愛といつか対峙しなければならないだろう。

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