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第5話 ロクな設定じゃない。

「でも、いきなり付き合うとしても、どうしようか?」


 お互いに環境が違うんだ。それもゲーム世界という縛られた環境だ。


「そうね。まずは名前で呼び合いましょうか?それで良い?玲。」


「お、最初は極普通の所からスタートするんだね。良いよ?沙希。でも1個上の先輩だから『さん』付けの方が良いかな?」


「沙希で良いわよ。

玲。こうしてお付き合いをすることになって本当にありがたいのだけれど、どうしても叶えて欲しいお願いがあるの。」


 先程までガチ泣きしていたので、若干目を腫らした沙希は真剣な顔つきで頼み事を言う。


「なんだい?俺に出来る事があれば協力するよ。」


「……ありがとう。玲。あのね……来年の春までに私を抱いて欲しいの。」


 来た時に注文し、飲んでいたコーヒーをむせて少しだけ口から零してしまった。流石のイケメンもこれには台無しだった。


「急に何故?一体……あっ!ああ、そういう……来年の春にあのケダモノに襲われる予定なのか。」


「理解が早くて助かるわ。その通りよ。私は3年だから丁度卒業前に襲われるのよ。」


「でも、俺が沙希を抱いたとしても、結局襲われる事には変わりないんじゃないかな?」


「それがどうなるか分からないのよ。もしかしたら!……という可能性もあるわ。今までは相手が居なかったから試せなかったけれど、玲が居てくれて本当に良かったわ。」


「その根拠はどうしてだい?」


「玲は、私のゲーム世界『恋は色々なるままに』の内容をあまり知らないのね。このゲームは、私も含めて女性キャラは全員、処女なのよ。」


 またもやコーヒーを吹き出しそうになったが、今度は寸前でなんとかなった。イケメンはイケメンでないといけないのだ。


「突拍子の無いことかしら?大半がまだ高校生ですもの。それに去年までは女子高だったのよ?有り得なくは無いかもしれないでしょ?でもね。このゲームが狂ってるのはそんな程度じゃないわ。」


 続けて沙希はまたも爆弾を落とす。


「先程居た3人の女の子が居たでしょ?当然、全員が攻略対象ではあるわ。その内の1人はケダモノの幼なじみなんだけど、その母親も攻略対象であり、処女なのよ。」


 は?意味がよく分からなかった?


「え?養子とか?」


「いえ、ちゃんと血は繋がっている設定よ。それどころか、40代の女性理事長や30代前の保健室の先生も全員処女よ。」


 処女のバーゲンセールだな。唖然としてポカンとしていると、沙希はその顔を見て苦笑した。


「頭がおかしくなってくるでしょ?本当になんでこんな世界に来てしまったのか……。」


「ああ。そういえば、それを聞きたかったんだ。

どうしてそんな世界に来たんだい?」


「玲はどうなのよ?」


「俺は姉に頼まれて、このゲームのこの俺をひたすら攻略していたら、その後倒れて……ってまさか!?」


 思った事をそのままの流れで言葉と紡いだら、先ほどの告白とは別の意味で顔を赤くして沙希は遮ってきた。


「それ以上言わないで!好みも人それぞれでしょ!?」


「……ということは、沙希。そのキャラも?」


 俺の玲と一緒なのか?そんな意味を込めて、その疑問はしっかり受け取ってくれた。


「ええ。隠しキャラよ。玲ほど隠れても居ないけれどね。学園の所有する女子寮の寮母を兼任しているわ。私の場合は寮に住んでいる全ての女性を落としたら、攻略対象として私のルートが発生するわね。だけど、私も完璧に全てを覚えている訳じゃないのよ。」


「なるほど。それなら俺のようにまだ時間的な余裕はあるのか。」


「今の今まではそんな余裕なんて無かったけどね。玲に会うまでは回避の方法すらも思いつかなかったもの。」


「ああ。寮での生活だから逃げる事も出来ないのか。それなら、一人暮らしの俺の部屋に来る……のも微妙だな。」


「一人暮らしなの!?それなら入り浸ろうかしら?」


「いや、こちらの主人公、姫野にはバレているんだ。出会いイベントを回避した日に速攻で突撃してきたんだ。」


「確かにゲームキャラにプライベートなんて無いものよね。」


「それでも部屋の中までは来る事は無いし、防音も大丈夫だから俺の家にするか?俺達は一応高校生だからな。他の場所なんて中々見つけられないだろ。俺が女子寮に行けるはずも無いし。」


「そうね。この辺りだと私のゲーム範囲だし、そっちもそっちでそうでしょ?変な場所で会ってるのがバレたら大問題だわ。」


「後は、部屋に来る時に姫野が寄り付かない時間帯を考えてくれれば良いかな?」


「彼女は一応ちゃんとした学生生活するのじゃなかったかしら?それなら寮の仕事で平日でも学校を休める日が結構あるから、その日にしましょう。本当になんで留年しないのかしらね。それは玲も一緒ね。」


「ああ。でもそのお陰で会うことが出来るんだ。良い事だと思っておこう。」


「そうね。買い物で出掛けることも出来るし、遠出もそこまで難しくないわ。あと、1ヶ月もすれば通って無いけど免許持ちになるし、車もどこからか手に入るわ。」


「めちゃくちゃ便利屋だね。色々と出来過ぎじゃないか?」


「そうでもしないと夏の海での水着回が無くなるのでしょうね。」


「ああ、定番か。とにかく、俺には便利な設定があるから、こっちは何時でも良いよ。連絡さえくれれば学校も簡単に休めるからね。」


「本当に全然病弱に見えないわね。ただ移動や買い物で使うお金が厳しいわ。寮の管理費はそんなに出てないのよ。」


「それなら、そこは俺が出すよ。なんたって金持ちでもあるからね。」


 ニヤリと顔を歪めて、手で金のサインもする。がっつり悪役だが、そこは元の素材が違うので大丈夫……でも無かった。沙希から小言を言われた。


「玲はちょっとズルいわね。設定盛り過ぎよ。」


「それはお互い様じゃないかな?」


「フフッ。それもそうね。お互い隠しキャラでもあるしね。」


「そういう事。これからよろしく、沙希。」


「ええ。今日は来て良かったわ。よろしく、玲。」

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