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Episode.8 望まない再開。明かされる過去


 「恋人達は、よくあんな恥ずかしいことを当然のように出来ますよね……」


 「恋人に夢中すぎて、周りの視線が気にならなくなるのかもな」


 もちろん、あんなこととは俗に「あーん」とさせるやつだ。


 俺と玲奈はカフェテラスで軽い昼食を済ませた後、適当にぶらぶらと町を歩いていた。


 横目に色々な店舗が通り過ぎていく。飲食店はもちろんのこと、コンビニ、不動産、ブティック、ブティック、ブティック……


 (いや、ブティック多いなッ!?)


 俺は思わず心の中でツッコミを入れてしまう。


 ちなみに、コンビニは千本松には存在しないので、俺は久し振りに見るコンビニの姿に、僅かではあるが感動してしまう。


 まあ、これまでの人生を千本松で過ごしてきた彩夏と香音がこの場にいれば、「コンビニって実在したんだ……ッ!?」みたいな反応をしてくれるだろうか。


 (いや、流石に一度くらい見たことあるか)


 俺は少し可笑しくなって、顔を緩める。すると、それに気が付いた玲奈が不思議そうな顔を向けてくる。


 「カナタ君? どうかしましたか?」


 「ん、いや、大したことじゃないよ」


 そういえば、玲奈は中学二年生のときに千本松に引っ越してきたといっていた。理由はイジメられていたからだと聞いたが、それ以上詳しい話は聞かされていないし、俺も聞かない。


 ただ、千本松の外で生活していたのなら、彩夏や香音と違ってコンビニは知っているだろう。俺と同じように懐かしく思ったりしているのだろうか。


 そんなことを考えていると────


 「──えー、マジィ~?」


 「いや、ホントだってぇ!」


 「ウケるんですけどぉぅ!」


 友達と話しててテンションが上がっているのだろう──俺達にも問題なく聞こえてくるくらいの声量で会話をしている三人の女子。


 三人とも俺や玲奈と同い年くらいだろう。


 一人は鮮やかに染め上げた金髪、一人は赤茶色の髪、一人はアッシュピンクの髪。三人とも黒を基調とした服装で、太股(ふともも)が丸出しのスカートやジーンズを履いている。


 (うっわ……学校のカースト上位組のギャルって感じ……)


 俺はこういう系統の人間があまり好きではない。


 まあ、特に関わりもないので普通に通り過ぎるだけなんだが────


 ピタッと急に玲奈が足を止めた。


 「どうしたレーナ?」


 「……」


 振り返ると、レーナは両手を胸の前で固く握り締め、何かに怯えるような表情を浮かべていた。


 どう見てもただ事ではない。


 「お、おい……大丈夫か──」


 ──レーナと続けようとした瞬間、俺ではない別の誰かが玲奈を呼んだ。


 「──あれ……つゆりんじゃね?」


 『つゆりん』とは初めて聞いたが、俺は直感的にそれが玲奈の名字『栗花落(つゆり)』からもじったあだ名だと理解する。そして、そのあだ名を呼んだのは、今通りすぎようとしていた三人のギャルの一人──金髪の女子だ。


 「あ、ホントだ! つゆりんじゃん!?」


 「ウケるぅ~、運命じゃぁーん!」


 金髪の女子の言葉で気が付いた赤茶髪とピンク髪も玲奈に視線を向ける。しかし、対する玲奈は目を伏せていた。


 (……何となく、嫌な感じだな……)


 口振りからするに、確実にこのギャル三人は玲奈と知り合いだ。恐らくは玲奈が千本松に引っ越してくる前に通っていた中学の同級生と言ったところだろう。


 普通なら「あ、久し振りぃー!」となって、最近どうしてるかなどの話題で盛り上がるのかもしれないが、今はそんな感じではない。


 「ねぇ、つゆり~ん。元気してたぁ~?」


 金髪が、玲奈の顔を覗き込むようにそう聞く。声からは、小馬鹿にするような感じが伝わってくる。


 「は、はい……」


 「はい、だって! あっははははは!」


 玲奈が震える唇でそう答えるが、それを聞いた金髪は仲間二人に振り返って笑い出す。一体何が面白いのか是非教えていただきたいものだが、構わず三人で笑う。


 「で、では私はこれで……」


 早くこの場から立ち去りたいのだろう。玲奈は細々とした声でそう別れを告げると、足を踏み出そうとする。しかし、その行く手を阻むように金髪が立つ。


 「えー、もう行っちゃうのぉ? つれないなぁ~?」


 「あたしら友達じゃん? 久し振りにあったんだし、何かして遊ぼー?」


 「遊びと言ったらさ、昔中学のときに良く一緒に遊んでたよねぇ? あれマジでウケたわぁ!」


 いつの間にか玲奈を取り囲むような立ち位置についた三人のギャル。俺がいることに気が付いていないのか、それとも無視しているのかは知らないが、俺は自然な流れで外に追いやられている。


 「ね、何で転校しちゃったのぉ?」


 金髪が怯える玲奈に近付いてそう尋ねる。しかし、玲奈は無言のままだ。


 「うっわ、シカトされたんですけどぉ!?」


 「つゆりん冷たぁ~い!」


 「ちょーウケる!」


 金髪の女子に乗っかるように、赤茶髪とピンク髪も玲奈を笑い者にする。


 (見てられねぇ……)


 俺は無理矢理玲奈の前に入り込み、ギャル三人の前に立つ。


 「わりぃ、今忙しいんだわ」


 「か、カナタ君……?」


 背中越しに、玲奈の泣きそうな声が聞こえる。


 「え、何お前?」


 一気に不機嫌そうな表情を浮かべた金髪が、俺を睨んでくる。


 「え、なになにー?」


 「ウケる」


 (さっきからこのピンク髪は何にウケてるんだ? ……後で聞こうか)


 と、俺は一瞬そんなことを考える。


 「誰お前、関係ないでしょ? しゃしゃり出てくんなし」


 金髪はどうやら相当俺のことが気に食わないらしい。ただ安心してほしい、俺も気に食わない。


 何と答えるべきか。俺は玲奈の仮彼氏……何だそれはとなるだろう。それに、玲奈はなるべくこの関係を人に知られたくないようだし……


 「友達だが?」


 「あっそ。ま、どいて? そこ邪魔」


 俺は誰かと聞いてきておいて、その反応はないだろう。俺の苛立ち指数はぐぐぐっと上昇していく。


 「無理だな。レーナが嫌がってるし……俺らは行くわ、じゃあな」


 と、俺は玲奈に小さく「行こう」と声を掛けて、ここから離れようとするが、金髪はまたもや立ち塞がる。


 「はぁ……お前こそ何なの? 進入禁止のコーンごっこはもう止めてくれ」


 「はッ!? 馬鹿にしてんのッ!?」


 「いや、馬鹿だろ?」


 人を見かけで判断するのは良くない。しかし、どうしてもこんなチャラチャラした格好の人間が頭が良いとは思えない。それに、話していてわかるが、確実に馬鹿だ。


 「うちら中学んときの友達なわけ、だからどいて? つゆりんと話したいわけ」


 「そうか、友達ならメアドくらい知ってるだろ。話ならそれですると良い、俺達は今忙しいんだ」


 「うっざ、マジうざい……いいからどけっつってんの!?」


 金髪の声に怒気が籠り、声量も上がっている。


 「あちゃー、キレたよこれ」


 「ウケる」


 赤茶髪とピンク髪はどこかこの状況を楽しんでいるようだ。


 「無理だ、どけない。お前らがレーナの友達であるはずがない」


 「はぁ? お前知らないだろ? うちら同中(おなちゅう)なんだって!」


 「じゃあ知ってるよな、何でコイツが引っ越さなきゃならなかったのか! どう考えてもお前らだろ、原因は!」


 俺ももう我慢の限界だ。声に怒りを込める。


 「あ、何だ知ってんだ。つゆりんから聞いたわけ?」


 急に冷静になった金髪。口角を吊り上げて、まるで嘲笑っているかのようだ。


 「じゃあ、どんなことされたかも聞いたんだ?」


 「は?」


 「え、何? 聞かされてないのぉ? つゆり~ん、何で話さないの? あっははははは!」


 金髪は俺の横から、後ろにいる玲奈に視線を向ける。玲奈は無言で俺の服の端を掴んできた。そして、その手から震えが伝わってくる。


 「じゃあ聞かせてあげる。そしたら、お前もつゆりんに引くかもだけど」


 その後、金髪が話す言葉が理解出来なかった。いや、脳が勝手に理解するのを拒んでいた。想像したくもない、悲劇だった────

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