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Episode.7 初デート(仮)


 二週間が経過した────


 学校終わりには、香音の家に集まり勉強会──ほとんど香音の赤点回避のためのものであったが──が続けられた。


 俺は、勉強会一日目の帰り道で、玲奈に「彼女をほったらかしにするな」と注意されたので、過ちを繰り返さぬよう心掛けた。


 その二週間の間に二回ほど帰ってきた母から、「仲の良い友達が出来て良かったわねー」と安心された。


 しかし母よ、聞いて驚け。仮ではあるが早くも彼女が出来たのだぞ。それも浮世離れした銀髪美少女の。加えて俺の一作目のWeb小説から読んでくれているファン第一号なのだ。


 ただ、この関係は俺と玲奈の秘密なので、母に言うわけにはいかない。二週間前に香音の自称魔眼に見破られそうになったが、もちろん友達である彩夏や香音にも秘密だ。


 そんな秘密の仮の恋人関係。


 中間テストが終わった今日の学校からの帰り道、いつものように俺と玲奈が並んで歩いていると……


 「もうすぐ夏休みですよね」


 玲奈がそんな話を切り出してきた。


 「そうだな」


 「……町にお出掛けしに行きませんか? その……二人で……」


 恥ずかしそうにモジモジとしながら、玲奈がそう言ってくる。


 「良いけど……どこへ?」


 「少し遠いですが、町まで行ってみませんか?」


 この千本松には二時間に一本バスが通る。そして、そのバスに乗って一時間半程で町に行けるのだ。


 「良いな! コレが俺の人生初デートか、感慨深い……」


 「か、仮ですけどねッ!? カナタ君もちゃんと小説の描写に活かしてくださいよッ!?」


 そんなことは言われなくてもわかっているのだが、やけに慌てた様子の玲奈が念を押して“仮”を強調してくる。


 「任せとけ。レーナがここまで俺のためにしてくれてるんだ、俺もそれに応えないとな!」


 俺は右手親指をグッと立てて玲奈に見せ付ける。


 「別にカナタ君のためじゃなくて、私が行きたいからなんだけどなぁ……」


 「ん、何て?」


 「──えッ!? あ……いや何でもないですよ!?」


 「そう?」


 ボソッと小声で玲奈が何かを呟いたので、少し気になったのだが、どうやら大したことではなかったらしい。特に詮索する必要もないので、そのまま流す。


 そして、今日の約束から数週間が経過した────



 □■□■□■



 ────小学生くらいまでは、一日がとても長く感じられ、一週間や二週間などは気の遠くなるような時間の感覚だったのを覚えている。


 しかし、中学生になった辺りから、次第に体感する時間の流れは早くなっていく。そして、今日この日──玲奈と町に仮デートしに行く日もすぐにやって来た。


 「お、お待たせしました……」


 「いんや、俺もさっき来たところ……だから……」


 「カナタ君、どうかしましたか?」


 俺は一足早く(楽しみすぎて三十分前から来ていたのは秘密)バス停に来て、ベンチに腰掛けていた。


 そこへ、玲奈がやって来る。


 爛々と降り注ぐ夏の日差しを乱反射し、ハーフアップにされた銀髪が目映く輝いている。暑さからか、頬がほんのりと赤く染まっていて、夏でも涼しさを感じさせるほどの白肌に彩りを付けている。


 また、着ている膝丈程の純白のワンピースには、フリルなどの装飾があり可愛らしさが取り入れられているが、肩やデコルテは(さら)されており、可愛さと同時に、どこか男心を(くすぐ)るような大人の色気も持ち合わせている。


 俺はそんな玲奈の姿から目が離せなくなってしまった。


 「あ、あの……どうでしょうか……?」


 「凄く、綺麗だと思う……ッ!」


 もう可愛いとかそういう次元ではなく、一つの“美”がそこにあった。


 「えへへ……ありがとうございます!」


 玲奈は照れ臭そうにしながらも、ニコッと微笑んでくる。


 語弊があったなら訂正しよう。“美”と言ったが、決して可愛さが欠落してしまったわけではない。むしろ可愛すぎるくらいだ。可愛らしくて、美しくて……本当に、俺にはもったいなさすぎる少女だ。


 やがて到着したバスに乗り込むと、俺と玲奈は約一時間半掛けて町へ向かった────



 □■□■□■



 「着いたらもうお昼……どっかで食べよっか?」


 「そうですね、どんなものにしますか?」


 「そうだなぁ……」


 俺はぐるりと辺りを見渡す。


 決して大都会というわけでは全くない。普通に地方の町といった感じだ。車道は二車線、ときに三車線で、そこそこの交通量。千本松と違って道路には等間隔に街灯が設置されている。


 そうやって町を眺めること数十秒。少し遠くに、大きめの街路樹で日陰になっている小洒落たカフェテラスがあるではありませんか。


 昼といっても、朝食を食べてから特に運動したわけでもなくバスに乗って揺られていただけ。まだ空腹という程ではない。それは玲奈も同じだろう。


 (カフェくらいが丁度良いか)


 「あそこのカフェにしないか?」


 「良いですね! デートっぽいです!」


 「仮だけど?」


 「ええ、仮ですけど!」


 なんだか仮仮と言うのが面白くなって、俺と玲奈は二人で小さく笑った。そして、やや歩いてカフェの店内へ。


 レジで注文した後、番号札を渡されたので、それを持ってテラスへ出る。日差し避けの大きなパラソルの下にあった手頃な席に向かい合って座る。


 別に冷房の掛かっている店内でも良かったのだが、玲奈はテラス席で食べたいらしい。


 まあ、街路樹プラスパラソルで日陰になっていて、サービス精神高めの風が通り抜けてくれるので、ほとんど暑いとは思わない。


 しばらくして、「お待たせいたしました」と店員さんが料理を運んでくる。


 俺はジェノベーゼ……つまりはバジルソースのパスタ、そしてサラダ、飲み物はアイスコーヒー。玲奈はワッフルがメインのプレート料理で、飲み物はカフェラテ。どちらも量はそこまで多くない。


 「「いただきます!」」


 俺と玲奈は両手を合わせた後、目の前の料理を口に運ぶ。


 (旨い……!!)


 仄かなバジルソースの良い香りと、ガーリックの旨味が口一杯に広がる。


 俺の前でも、玲奈が美味しそうにワッフルを食べている。


 「あ、そうだ!」


 しばらく食べていると、何かを思い付いた風に玲奈がそう言う。すると、一口大に切ったワッフルをナイフに刺して突き出してくる。


 「どうぞ!」


 「……どうぞとは?」


 「この状況でわからないんですかー?」


 玲奈がワッフルを突き出したまま、呆れたような目を向けてくる。


 まあ、俺に食べさせようとしてくれているのはもちろんわかる。しかし、こんな人目のある場所でそれを実行に移すのはかなりの勇気がいる。


 「恋人なら、こういうこともすると思います……」


 少し恥ずかしくなったのか、玲奈は僅かに口を尖らせて頬を赤らめる。


 「わ、わかったよ……」


 俺は少し身を乗り出し、玲奈が突き出してきたワッフルをパクリと口に入れる。


 「うん、普通に旨いな……って、おい」


 俺は思わず呆れてしまう。


 自分でやってきたくせに、玲奈は顔を真っ赤に染め上げて視線をずらしていた。


 「や、やってみると意外に恥ずかしいですね……」


 「そりゃそうだろ」


 この後、俺も玲奈にならって、自分のパスタをフォークに巻き取り玲奈の口に運んでみたのだが、意外と食べさせられる方が恥ずかしかった。

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