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Episode.4 胃袋掴む仮彼女


 「あ、あの……カナタ君?」


 「──え、何!?」


 「いえ、こちらをボーっと見ていたので……私の顔に何か付いていますか?」


 「あ、いやそうじゃなくて……」


 夕食を作ってくれるという玲奈をキッチンに案内した後、俺は居間に座ってじっと玲奈を見ていた……というか、目が離せなかった。


 初めて見る玲奈の私服姿に新鮮さを覚えるし、何より自分のために料理を作ってくれるのだと改めて考えると、何だか胸がドキドキする。


 玲奈はオフホワイトのキャミソールワンピースを身に(まと)い、いつも下ろされている銀の長髪は、軽く捻られて後ろで一つに束ねられている。


 (これがローポニーテールってやつか……)


 小説を執筆するにあたって、女性の髪型などについても調べる機会があるのだが、写真で見るより断然今の玲奈の方が良い。


 「いつもと雰囲気が少し違うレーナも良いなと思って」


 「そ、そうですか?」


 「眼福眼福」


 「な、何だか目がやらしいのであんまり見ないでください……」


 「酷い言われようだな」


 「そ、それよりお風呂にでも入ってきたらどうですか? その間に料理を作っておきますので」


 「え、レーナが料理してるとこ見れないじゃん」


 「見なくていいです! さ、早く行ってきてください!」


 正直、料理をしているレーナの姿を眺めていたかったのだが仕方がない。俺は「へーい」と答えながら、パジャマを持ってお風呂へ向かう。


 (さ、とっとと入ってとっとと出て、アイツの料理姿を眺めますか……)


 俺はそう心に決めて、浴槽に張られたお湯から舞い上がる湯気の中へと入った────



 ■□■□■□



 「ふぅ……良いお湯だった」


 俺は普段絶対言わないようなセリフを口にしながら、早速戻ってきましたアピールをする。


 すると、まな板で何かを刻んでいたのか、トントンという包丁の小気味良い音を立てながらキッチンに立っていた玲奈が振り返る。


 「は、早いですね……綺麗に洗いましたか?」


 「そりゃもうバッチリ。それに、早く出てこないとお前の料理姿が拝めないだろ?」


 「本当に拝まないでくださいッ!?」


 俺が手を合わせて玲奈を見ていると、玲奈は華麗にツッコミを入れてくる。その後「まったくもう……」とかブツブツ言いながらも作業に戻る玲奈。


 (それにしても……)


 かなり手際が良い。


 恐らく、普段も家で料理をしているのだろう。この歳で、そこらの主婦と何ら遜色ないくらいに、手慣れた感じで調理を進めている。


 そして────


 料理開始から二十分弱。玲奈が作った料理が、居間のテーブルに並べられる。


 ピカピカと白く輝く炊きたてのご飯に、お味噌汁。やや深めのお皿には(たけのこ)とジャガイモの煮物、そしてメインは鶏肉とシメジの炒め物だ。


 「す、すげぇ美味しそう……」


 「へへ、ありがとうございます」


 玲奈は嬉しそうに、そしてどこか照れ臭そうに笑うと、テーブルを挟んで俺の対面に座る。


 「い、いただきます!」


 「どうぞ召し上がれ!」


 俺は箸を手に取り、まずお味噌汁の具材をチェック。なんと中には山菜が入っていた。


 「コレはアレか? 俺が山を散策しててお前とあったとき、お前が手に持ってた……」


 「はい、()()のカナタ君を見付けたときに、私が詰んでいた山菜の一つです」


 「迷子じゃない」


 「遭難ですか?」


 「そうなんです」


 「ぷっ……」


 俺の渾身のジョークがヒットしたのか、笑いを頑張ってこらえる玲奈。俺は少し満足感に浸りながら、筍とジャガイモの煮物に箸を伸ばす。


 「コレも旨い……ッ!? 筍柔らかいし、ジャガイモ甘いし」


 「まだ残りがあるので、明日にはもっと味が染み込んでいると思います」


 俺は明日もこの料理を食べられると知って、心の中でガッツポーズ。加えて、より味が染み込んでいるときた。玲奈には感謝しかない。


 「さて」


 俺は一つご飯を挟んだ後、メイン料理と思われる鶏肉とシメジの炒め物に目を向ける。


 湯気と共に、ガーリックと黒胡椒の食欲そそる匂いが香り立ち、俺の鼻腔を(くすぐ)る。


 「ほっぺた覚悟しておいてください」


 「削ぎ落とすなよ?」


 下校途中で頬を削ぎ落とす宣言されたので、俺は一応確認しておく。そして、玲奈の視線のもと、俺は鶏肉とシメジを箸で掴み、口内へと持っていく。


 すると────


 何ということでしょう。ピリッと黒胡椒のスパイシーさが来ると同時、バターの濃厚さが口一杯に広がる。そして、鶏肉と愛称抜群のガーリックの旨味が、肉汁と共に溢れ出す。


 「……結婚してください」


 「えッ!?」


 いや、胃袋を掴まれるというのはこういうことなのだろう。考えて喋る前に、本心が思わず溢れてしまった。


 「ま、まあ冗談は置いておいて……」


 「び、ビックリしましたよ……そうですよね、冗談……ですよね」


 玲奈も急にプロポーズされたらそれは驚くだろう。火照った顔を手で扇いで冷まそうとしている。


 まあ、取り敢えずさっきの言葉は冗談ということにしておいて……


 「でも、本当に美味しいぞ。正直ここまでとは思ってなかった……というか、最悪腹壊すのを覚悟していたんだが……」


 「期待薄かったんですねッ!?」


 「そりゃまあ、美少女が作る料理は激マズと相場が決まってるだろ?」


 「んんんー、誉められてるのか(けな)されてるのか……美少女といってくれるのはお世辞でもありがとうですが、その料理が激マズというのはアニメの見すぎ、漫画の読みすぎ、小説の書きすぎです!」


 「残念、漫画はあんまり読まないな」


 「そういうことを言いたいんじゃないんですが……」


 「ま、とにかく旨い! ありがとな、作ってくれて」


 「え……あ、はい! ……えへへ、そんな真っ直ぐ言われると少し照れますね」


 玲奈は恥ずかしそうに笑いながら、頬を掻いた。


 その後、二人で他愛のない話をしては笑ったりして、楽しく夕食のひとときを過ごした────



 ■□■□■□



 「ってか、だいぶ暗くなってきたが帰らなくて大丈夫なのか?」


 時計を確認すれば、午後七時過ぎ。玲奈は丁寧に食器まで洗ってくれている。


 「はい、家を出るときに、友達の家に夕食を作りに行くので遅くなると言ってありますから大丈夫です」


 玲奈はキッチンの蛇口をキュッと閉めると、濡れた手をタオルで拭いて、居間に戻ってくる。


 「まあ、親は当然女の子の友達だと思っているでしょうけど」


 「ダメじゃんッ!?」


 「そうですねー、カナタ君が私を見る目って少しやらしいですもんねー」


 「え、マジ?」


 「まあ、ウソですけど」


 (コイツ……本当にそういう目で見てやろうか?)


 からかわれた俺は、仕返しにそういうのもアリなのではないかと考える。対する玲奈は、クスクスと可笑しそうに笑っている。


 「でも、そうですね……確かに日が暮れて男の子の家に長居するというのは良くないので、手早く用事を済ませてから帰りますね?」


 「ん、用事? もう特にすることはないと思うんだけどな……」


 俺は何かあるかと思って、部屋をぐるりと見渡してみる。すると、テーブルを挟んで座っていた玲奈が、俺の隣まで来てちょこんと座る。


 「な、何……?」


 「昨日、カナタ君は恋愛描写が苦手でそこが課題だと言っていましたよね?」


 「あ、ああ……まあ恋愛経験ないからな」


 「そこですよ!」


 「どこですか!?」と聞く前に、ぐっと身を乗り出してきた玲奈に若干気圧されてしまう。


 「カナタ君が恋愛を経験すれば良いんです」


 どんな解決策が飛んでくるのかと思いきや、まさかの至極当然で、かつ俺にとって最高難度の方法を提案された。


 「いや、それはそうなんだが……それが出来れば苦労しないというか……」


 「出来ます……出来ますよ!」


 「何を根拠に……」


 「こ、ここに……私がいるじゃないですか……」


 「……ん、ごめん良く聞こえなかった」


 「だから……わ、私が、カナタ君が恋愛描写を書けるようお手伝いしてあげるって言ってるんですッ!」


 しばらく俺は何も考えられなくなった。玲奈から発せられた言葉があまりにも衝撃的で、完全に思考が停止してしまったのだ。


 俺と玲奈の間に沈黙が流れる。


 「そ、それは……レーナが俺の彼女になってくれるということで……?」


 「あ、あくまでも仮ですけどね!? その、えと……カナタ君が恋愛描写を上手く書けるようになるまでの!」


 「仮彼女?」


 「そ、そうです! 仮彼女!」


 「……」


 「……」


 まあ、確かに悪くない方法だ。それがたとえ恋愛感情をきっかけに始まった恋愛でなくても、仮の恋愛でも、本物の恋愛を再現することは出来るのではないだろうか。


 少なくとも、全く恋愛を知らないままでいるよりマシなはずだ。


 「俺的には凄くありがたいんだが……レーナはそれで良いのか? 仮とはいえ、俺なんかと……」


 「い、嫌だったらこんな提案しません……」


 今までにないくらい顔を真っ赤に紅潮させた玲奈が、視線を斜め下に逃がしてそう呟く。そして、はっと気付いたように顔を上げると、不満げな色を浮かべて言ってくる。


 「あと、()()()()って何ですか? そんなカナタ君のファンである私まで侮辱されてる気分になります!」


 「す、すみません……」


 「で、どうでしょうか……?」


 再び恥ずかしモードに入った玲奈が上目遣いで聞いてくる。


 「ど、どうでしょうかとは?」


 「い、言わせないでくださいよ……私を、その……仮彼女にしてくれるかどうかです……」


 「あ、ああ……よろしくお願いします……」


 「は、はい……お願いされました……」


 こうして、甘酸っぱい恥ずかしさが漂う中、俺と玲奈は“仮”の恋人になったのだった────

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