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Episode.3 夕食作るレーナさん


 「えへへ、何だか不思議な感覚です……このお話は昨日私の目の前で執筆されていたものだと思うと……」


 学校に着くなり、俺が昨日玲奈の前で執筆し投稿したWeb小説をスマホの画面に映した玲奈が、嬉しそうに笑いながらそんなことを言っている。


 「カナタ君、次の話も楽しみにしていますね!」


 「ああ、任せてくれ」


 少しでも何かの作品を書いたり作ったりした人ならばわかるだろうが、こうして自分の作品を評価してくれる人がいるというのはとても嬉しい。


 「レーナよ、またしても来訪者と親しくなったようだな。二人の間に盟約の絆が結ばれているのが見える……!」


 今日は右手から腕にかけて包帯を巻いて、一層中二病が悪化している香音が話し掛けてくる。


 「そ、そうかな?」


 玲奈自身は自覚がないようだ。というより、それ以上にやはり香音の格好の方が気になっていると見える。


 「盟約の絆うんぬんは置いといて、確かに交久瀬君のこと下の名前で呼んでる……」


 その変化に気が付いたのは彩夏だ。


 「ああ、名字っていうのも距離を感じますし……私のことも『レーナ』と呼んでもらうことにしたんです」


 「ね?」と玲奈がニコッと笑って俺に視線を向けてくる。俺はそれに答えるべく一つ頷く。


 「そう、なら私も名前で呼んで良い? 私のことも名前で良いから」


 「ああ、もちろん。えっと……彩夏?」


 「ん……カナタ君」


 普段あまり感情を表に出さない彩夏は、微かに笑った。


 「ならば、ボクのことも名で呼ぶが良いさ! どうやら来訪者君……君とボクとは前世の因果で結ばれているようだ……」


 ふっと、不適な笑みを浮かべる香音が、そう言って包帯ぐるぐる巻きの右手を差し出してくるので、俺はその手を取り、握手を交わす。


 「よろしく、香音」


 「それは世を忍ぶ仮の名だ……ボクの真名『ベルゼバノン』と呼ぶが良いさ」


 「い、いや……それは誰かに聞かれると、ほら、何かとマズいだろ? だから、仮の名で呼ばせてもらおうか……」


 「そうか、確かに天使どもに聞かれるとボクの正体がバレかねないな……流石は前世でボクの相棒だっただけのことはある、素晴らしい警戒心だ。ならボクも、君を呼ぶときは本名ではなくカナタと呼ばせてもらおうか」


 「お、おう……」


 紛れもなくそれが俺の本名なのだが、こんなことでいちいちツッコんでいてはキリがないだろう。


 ────紆余曲折あったが、こうして俺は、少し三人と仲良くなれた気がしたのだった。



 ■□■□■□



 「──あ、しまった……」


 学校が終わり、十字路で彩夏と香音と別れた後、途中まで帰る道が同じの玲奈と歩いているとき、重大なことを思い出してしまった。


 「どうしたんですか?」


 「いや……母さんがさ、町に仕事に出ててあんまり帰ってこれないんだけど、時々帰ってきたときにご飯を作り置きしておいてくれるんだよね……」


 「な、何となく展開が読めました……」


 「多分レーナの読み通りだけど……今晩、夕食どうしようッ!?」


 作り置きといっても、料理がそう何日も持つわけない。ましてやそろそろ夏にはいるこの時期は、特に日持ちが悪い。それはもちろん母もわかっているので、作り置きする量は調整されてある。


 つまりは、昨晩食べた惣菜が作り置きの最後。朝はパン、学校で食べる昼食はおにぎりを適当に握るとして……流石に晩御飯もパンかおにぎりで我慢するというのは、まだギリギリ成長期の俺には酷な現実だ。


 「ま、まぁ……死ぬワケじゃないし……」


 「ダメですよ、ちゃんと食べないと! 背が伸びなくなっても良いんですか?」


 まるで母親のような口調で玲奈が注意してくる。


 「で、でも俺、料理はちょっと……」


 全く出来ないわけではない。ただ、やはり慣れていないので、手際は悪いし味はそこまで美味しくないしで、それならいっそのこと、面倒臭いし食べなくても良いんじゃね? という考えに至ってしまう。


 そんな俺の考えを悟ったのか、玲奈は呆れたように深くため息を吐くと、立ち止まる。


 「仕方ありませんね……私が作りに行ってあげますよ」


 「……え?」


 何かの聞き間違いだろうか。俺は耳を疑う玲奈の発言に足を止めて振り返る。


 「だから、私がカナタ君の夕食を作ってあげます」


 「マジですか?」


 「マジです」


 「作れるのか?」


 「お任せください!」


 玲奈はふんすと鼻を鳴らして、自身ありげに胸を張る。


 「めちゃめちゃ出来そうな感じ醸し出して、出来上がった料理は劇物とかいうのは求めてないぞ?」


 「し、失礼な! ちゃんと料理できますよ! カナタ君の頬っぺた削ぎ落としてあげます!」


 「いや削ぐな!? ……ま、まあわかった。もし迷惑じゃないんだったら是非お願いしたい」


 「はい、お願いされました!」


 この後、俺は玲奈に家にどんな食材があるかを聞かれ、覚えてる限りで答えた。すると、玲奈は早速献立を決めたのか、足りない食材を自宅から持ってくるといって、一旦別れた。


 そして────


 「では、お邪魔しますね」


 「ど、どうぞ……」


 しばらくして、いつも見る制服姿ではない、私服に着替えた玲奈がカバンに食材を詰めて我が家へやって来た────

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