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第一話

 

 はてさてパーティを抜けたのはいいがこれからどうしようか?

 修行?いや、魔王軍幹部を一撃で倒してしまう俺に修行なんて必要あるか。

 じゃあ普通に働く?いやどう考えても宝の持ち腐れだろう。魔王軍幹部を一撃で倒してしまう俺が普通に酒場で「いらっしゃいませー」はおかしいし、物を壊す技術はあっても作る技術はない。


 じゃあ……ソロの冒険者に戻るか。

 金は必要だから仕方がない。


 じゃあギルドにでも行きますか。

 でもな…苦手なんだよなあそこ。

 重い足取りで俺はギルドへと向かった。


 ◇◆◇◆


 バンッ!


 ギルドの扉を開けると、ここは世紀末か!と言いたくなるようなパンクした男どもが俺を出迎えてくれた。


「ここはお前みたいな育ちのいい坊ちゃんが来るとこじゃねぇんだぞ?」

「ガキは家に帰んなー!」

「ヒャッハー!!」


 などと口々に言っているが、翻訳すると


「おう、オルク!」

「元気そうだな!」

「ヒャッハー!!」


 である。

 全く分かりにくい連中だ。

 こういうノリが俺はあまり得意ではない。

 まぁ全員が全員こういう奴らではけどね。


 適当に挨拶を交わし、カウンターへと向かう。


「あ、オルク。珍しいね1人で来るなんて」


 そう言って出迎えてくれるのはこのギルドの受付嬢のナナーラ。

 彼女とは同郷で7つの時からの幼馴染みだが、俺が冒険者になるためにこの街に行く時に「オルクが心配だから!」という理由で一緒についてきた。

 あれから3年俺は勇者パーティにナナーラはギルドの受付嬢になり腐れ縁は継続中ってわけだ。


「あれ、勇者たちは?」


 俺が勇者パーティに入ったのは2年前。

 冒険者として名が売れた頃の話だ。

 それからは俺がギルドに来るときは必ず勇者たちと一緒だっただけに少し不審に思ったのだろう。


「俺勇者パーティ抜けたんだわ」


「そうなの?まぁそろそろかなとは思ってたけど」


 ナナーラは驚くどころか知ってたみたいなリアクションをとった。

 それもそのはず。

 ナナーラは俺の実力を知る数少ない人物の1人だ。

 幼馴染みだから知っていて当然である。


「やっぱり勇者はオルクよりも弱かったってわけ?」


「まぁそうなる。昨日報告した炎帝の討伐、あれ倒したの俺ね。勇者たちはダメージを全く与えられてなかったし」


「やっぱりそっかぁ。そうじゃないかなとは思ってたけどね。でもそれは誰にも言える状況じゃないし、言ったとしても信じてももらえないだろうね」


 そう、ナナーラの言う通りだ。

 今勇者パーティの存在は絶対的なもので、そして勇者は誰もが憧れるヒーローだ。

 そんな人物を差し置いて例えば俺が


『炎帝を倒したのは俺でーす』


 なんて言おうものなら即日首と胴体が永遠の別れを遂げることとなるだろう。

 それだけ勇者という存在はこの国の誇りであり、平和の象徴なのだ。


「まぁそれはそれで構わないさ。別に俺は金さえもらえれば仕事はするし、別に地位が欲しくてあのパーティにいたわけでもないから」


「ふーん。まぁそういうことにしといてあげる。で、ここに1人できたってことはソロに戻るって事で合ってる?」


 さすがはナナーラ。

 俺のことはよく分かっている。


「ああ、その通りだ」


「じゃあちょっと待ってねー………はい!完了っと。勇者パーティからの脱退とソロ登録しておいたからね。これでまたAランク冒険者に戻るってことで」


「了解。じゃあなんか適当にクエスト見繕ってくれ。金稼がないといけないんだわ」


 俺がそういうとナナーラはちょっと困った顔になった。

 なんだ何か問題があったか?


「そうは言われてもな……今オルククラスの冒険者に頼めるクエストってないんだよね」


「いやいやこないだまでAランク向けのクエストいっぱいあっただろう?誰かが解決したのか?」


 そうつい3ヶ月前くらいまでAランクやBランク向けのクエストは掲示板を埋め尽くすくらいにはあった筈だ。

 それがこの短期間で全てなくなるなんて有り得ないだろう。

 ひょっとして誰かが全部やってしまったってことか!?

 全く他の人のことも考えてクエストは残しておいてほしいものだ。


「……あのー、オルクさん?もしかして誰のせいだとか考えてないよね?」


 やはり的確に俺の思考を読んでくる。


「で、誰なんだ?この街にそんな凄腕いないだろ?」


 真顔でそういうとナナーラは頭を抱え溜息をついた。

 そして大きく息を吸い込んで……


「あんたたちのせいだよ!!!!」


 うわっ!びっくりした!

 なんだよ急に……発情期か?

 ん?俺のせい?なにを言ってるん…………いや心当たりがある。


 俺はその時ある会話を思い出していた。


 ミ「よしみんな!3ヶ月後に炎帝ドラグニスに挑もうと思う」


 ブ「ついにこの時が来たってわけか……!」


 ア「腕がなるわね!!」


 ミ「しかしいくら俺たちが強くなったとはいえ、ドラグニスは魔王軍幹部。どれだけ強いか計り知れない」


 ヒ「確かにそうよね……私ちょっと不安……」


 ミ「そこでこれから3ヶ月、Aランク向けクエストをひたすら攻略していこうと思う。僕たちの成長のために!!」


 ブ「なるほどな!そりゃあいい!」


 ア「じゃあ早速行きましょう!」


 一同「おーー!!」


 …………俺たちのせいか。


「なんかすまん」


 提案したのは俺ではないが、一応参加していた身として素直に謝っておこう。


「いいんだけどね、Aランクが出ないといけないクエストがないことは」


 確かにそうではあるが、少し困ったことになった。

 この世界のギルドは自分のランクから2つ以下のクエストは受注できない。

 つまり俺はCランク以下のクエストは受注できないことになる。

 そして今このギルドにはBランク以上のクエストはない。

 それはつまり俺に受けることのできるクエストがないことを意味する。


「じゃあ俺はどうすればいいんだ……」


 冒険者として金を稼ぐという手段も奪われた……いや自らの手で潰したことになる。

 ……割とピンチ。

 今金に余裕がないわけではないが……


「……ねぇオルク、ちょっとした裏技なんだけど、Dランクの子とパーティ組む気はない?」


「あ、そうか。その手があったか!」


 そうちょっとした裏技だ。

 確かに下のランクのクエストは受けられない。

 しかしそれは単体での話だ。

 仲間がそのランク帯にいればパーティメンバーもそのクエストに帯同することができる。


「ちょうど今パーティメンバーを探してる子がいてね、まだDランクに上がったばかりだから不安なんだってさ。だから誰かいないかーって私に相談に来てたんだけど、オルクなら安心して任せられるわ」


 まぁパーティを組むのは互いにメリットがあるみたいだな。

 俺はクエストを受けられる。

 相手はパーティメンバーを手に入れる。

 悪くない話だと思った。


「いいぞ。ちなみにその相手の職業は?」


「オルクと同じ戦士よ。パーティ組むついでにいろいろ教えてあげたら?」


「まぁそうだな」


「じゃあ決まりね。明日の朝9時にカウンターに来て。相手にもそう伝えておくから」


 よろしく〜と言ってナナーラは仕事に戻っていった。

 さて俺も今日受けられるクエストがないならもうここに用事はない。

 どこかに宿でも取って今日はもう休もう。


 果たしてどんな奴が来るのだろうか。


 帰り際にヒャッハー集団に捕まったので、奴らをヒャッハーして俺は勇者パーティに入る前に世話になっていた宿に向かい、一夜をあかした。



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