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坂道にて

作者: 垂平 直行

 大学生の時の話だ。

 午前四時くらいだろう。友人の家で夜中まで飲んだ私は家路についていた。

 私の家は長くなだらかな坂の中腹部に位置しており、そのときの私は若干ふらつきながらも、心地よい気持ちで坂を上っていた。

 このような時間であるから、他に歩いている者などいなければ、車の通行もほとんどない。もはや早朝といってもいい時間だが、未だ日は深く沈み、ぽつりぽつりと置かれた街灯のみが頼りだった。

 道の途中、ふと前方を見上げると、坂の途中の平坦になっている場所に車椅子に乗った人がいた。それが男性だったか女性だったか、はっきりと覚えてはいない。若者ではなく中年、あるいは老人だったような記憶はある。

 平時であれば違和感を覚えたのかもしれないが、そのときの私は酔っていたし、眠かった。頭が正常に働いておらず、その人を見つけても「ああ、誰かがいる」としか思わなかったのである。

 私は目の端で車椅子を見ながら、坂道を歩き続けた。特に係わり合いになる必要はない。すると、その人は車椅子を動かし、坂道を下り始めた。

 下り坂を進み始めた時点で、タイヤは勝手に動き始めた。さほどスピードが出ていたわけではない。私は道の端により、車椅子を避けた。

 車椅子とすれ違った直後、前方、つまりは坂の上から女性が凄まじい勢いで下りてきた。女性は私に一瞥もくれず、そのまま私の横を通り過ぎていった。

 ようやく酔っていた私の頭がサッと覚醒する。もしや、あの車椅子の人は車椅子の制御を失っていたのではないか。仮にそうだとすれば大変である。車椅子が途中で倒れてしまうかもしれないし、倒れなくとも、そのまま勢いよく進めばガードレールに衝突するか、道路に投げ出されてしまうかもしれない。

 女性はそれに気づいて、慌てて車椅子を止めに行ったのではないか。罪悪感が胸のうちに生まれる。私が止めていれば、せめて大丈夫かどうかの確認くらいはしておけばよかったと後悔した。

 車椅子の人の安否を知るため、私は振り返った。

 坂道の下に車椅子の人はいなかった。かわりに、先ほどの女性がじっとで私をにらんでいた。それは私を咎めているかのようにも、恨んでいるかのようにも見えた。

 私は慌てて坂を駆け上がり、家へと逃げ帰った。

 それ以降、あの道で車椅子の人とあの女性を見かけたことはない。

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