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4話 旅立ち

 僕のお見送りは、ありがたいことにラフティスハルト城総出でのものとなった。

 総出、というのはメイドさんもコックさんも誰も彼も、みーんなのことである。いや、一人いないか………。


 「お館さまも、坊ちゃまの門出なんですからこういう時くらい仕事を休めば……と思うのですけれども」


 「仕方がないのだ。父上はラフティスハルト領を背負っているのだから、僕がこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないのだ」


 父上は、食事の時と見回りの時しか自室から出ない。それほどに仕事が多いのだ。今のマンイーターはまだまだ黎明期の段階で、父上はそれをなんとか秩序立たせようと苦心している。

 お蔭でラフティスハルト領はとびっきり治安が良い。でも治安が良いから沢山人が来る。そんな状況で父上は頑張っているのだ。とても僕のためだけにその仕事に穴を開けさせられない。

 

 僕は、一晩かけて整理したリュックを背負い直した。


 「みんな、それでは行ってくるのだ!」


 僕が背を向けて歩き始めると、後ろからみんなの声が飛んでくる。


 「坊っちゃん!頼むから生きて帰って来てくださいよー!」


 「帰って来たら大好物のアップルパイ焼いてあげますからね!」


 アップルパイは今すぐ焼いてくれても良いのではないか………?

 


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 愚弟(クラウス)が旅立った後の、ラフティスハルト城最上階。

 (セシリア)はソファに腰掛けながら、事務作業に勤しむお父様に声をかけた。


 「お父様。クラウスを一目見ておかなくてよかったんですか?」


 「あいつが勝手にやることだ。私には関係ない」


 ペン先の速度は微塵も変わらない。顔を上げすらしない。そんな状態で、お父様は言葉を続けた。


 「我が子ながらこうもまで似ないとはな。全く、我が父に似てやることが理解できん」


 羽ペンの立てるカリカリという音が虚しく部屋の中で響く。

 私は頭の中で何を言うべきか組み立ててから、口を開いた。

 

 「……嘘ばっかりですね。本当に開拓者(フロンティア)になりたかったのはお父様の方でしょう?」


 ペン先が止まる。ビンゴだ。


 「クラウスがいつも熱心に読みふけっていた未開拓地域(ノンヒューマン)に関する資料……あれを集めたのはお父様ですね?あれらは高いですし、お父様以外に購入者は考えられません。

 居能地域(レジデンス)で働くお父様が、それも無駄を嫌うお父様が、何の理由もなしにそのような資料を購入するでしょうか?」


 お父様は無言だ。しかし、ペン先はやはり止まっている。


 「お父様?」


 「……優秀な娘を持ったものだ」


 クックックと笑いながら発せられるその言葉は、事実上の肯定だ。

 しかし……優秀云々には疑問が残る。


 「なんだかんだでクラウスには甘かったじゃないですか。これだけ材料があれば、誰でもとは言いませんがそういう結論に辿り着きますよ」


 お父様は、一度もクラウスが開拓者(フロンティア)を目指すことについて叱ったことがない。ただ「やめろ」とだけ言っていただけだ。

 

 「クラウスはあれで天才だ。ラフティスハルト家次期当主に相応しい才能を秘めている。だが……それ以上に評価すべきはあいつの行動力。

 そしてその行動力は、私が持ち得ず……亡き父上が有り余るほど持っていたものだ」


 確かに、言われてみればそうだ。

 お父様の独白は続く。


 「かつての私も、遍歴の騎士として殉職した父上に憧れていたものだ。

 だが、私には行動力がなかった。周りの期待に応えることばかり考え、行動し、ラフティスハルト家を騎士から貴族の家柄に引き上げた。

 皆は私の功績が偉大だと言う。しかし、結果として私が開拓者(フロンティア)になれなかったことは事実」


 一度、お父様はそこで言葉を区切った。


 「……違うか。私はクラウスの根気に負けただけだ」


 そう言って、お父様は微笑を浮かべた。


 

 ~~~~~~~~~~~~~~~


 

 道に迷いながらも、なんとか僕はルーキー選定会場に辿り着くことが出来た。

 

 「ここが会場であるな?」


 「えっ……あっ、はい。そうですそうです」


 受付らしきの女性に確認をとる。これで大丈夫であるな。

 と思ったのだが、やはりネックになるのは僕の見た目であるらしい。


 「見学ですか?」


 言われて、僕は自分の見た目を顧みた。

 服装は大丈夫。死んだ開拓者(フロンティア)のお古を短めに切ったもので、物凄く機能的だ。だから開拓者(フロンティア)志望ととわかっても良さそうなものだけど……。

 やはり年齢か。一応最年少は10歳だから12歳も大丈夫だとは思うのだが……。


 「開拓者(フロンティア)志望なのだ。年齢制限はないと聞いているぞ!」


 「え、ええ。そうなんですけど……いいのかなぁ…。本当に危険なんですよ?死んじゃうかもしれない、と言うよりも半数以上は死んでるんですよ?

 それに開拓者(フロンティア)ってゴロツキばかりだし……」


 「もとより危険は承知なのだ!死にたくはないが、覚悟は出来ている」


 はっきりとそう言うと、お姉さんはぽかんとした。


 「す、凄いね。こんな雑念無く言い切る人なんて大人でもいないよ。

 よーし、半数が死亡って言ったって半数は生きてるってことだもんね!頑張れ少年!個人的にだけどお姉さんは応援してるぞ!」


 「うむ、応援ありがとうなのだ!」


 いい人だったのだ。

 しかし、反対に会場にいる人はガラが悪い人ばかりだった。


 (睨まれているな……!)


 会場に辿り着いた僕は、好意的ではない視線に囲まれる。

 会場にいる人は、殆どが大柄の男である。開拓者(フロンティア)は腕っぷしに自信がある人か、進退窮まった人ばかりだという。なるほどその通りだ。

 兎に角居心地が悪いので会場の端に寄る。本来ならここで仲間探しをしておきたかったのだが、これでは上手くいきそうにない。うぅむ……。

 しかし、何をどう考えても仲間は必要である。僕の脳裏にラスカル殿とののやりとりが蘇る。


 『ラスカル殿、何故ソロの開拓者(フロンティア)は少ないのだ?』

 『そりゃ坊主お前、人間なんてのは一人で出来ることなんて殆どないからな。それに、報酬が金だけってのは物足りないだろ?一緒に喜ぶ仲間がいなきゃあ』


 一緒に喜ぶ仲間!全くもってその通りである!信頼できる仲間と命がけの冒険をくぐり抜け酒盃をあげる!酒場で思い出話に花を咲かせる様はロマンそのもの!そしてその興味深い内容に酒場にいる皆が聞き入り!出来上がる空間!素晴らしい!至上!うおおおおおお!!!!!


 「仲間が欲しいのだあああああ!」


 「「!!!?????」」


 会場の隅でいきなり叫んだ僕をみんながぎょっとした目で見る。い、いかん……思わず声が……。

 露骨に距離を取られた。悲しいのだ………。

 大体これなのだ。気分が高まると勝手に声が出る。いつもであれば呆れた目で見られるだけなのだが……。

 

 (……気を取り直そう!)


 頬をぱちんと叩いて気合を入れる。

 兎にも角にも、仲間が欲しい。僕は弱い。ラスカル殿は僕をアルカナに関しては稀代の才能があると言ってくれたが、そもそも僕の持っているアルカナは『(fire!)』だけだ。

 それに、僕には経験も鍛え上げられた肉体もない。知識はあるが、それは所詮書物と伝聞に依る知識、アテには出来ないだろう。

 困った、僕を売り込む要素がない。読み書きは出来るし、算術も多少は出来る。けどそれは開拓者(フロンティア)に必要なのか?必要なさそうなのだ………。

 こうなると、仲間になれそうなのは歳が同じくらいの人だ。父上はギブアンドテイクの関係を成り立たせることが重要だと言っていた。ギブアンドテイクギブアンドテイク……。

 

 (いた!)


 見渡せば、僕と同じように会場に隅に座っている少年がいるではないか。

 僕が嬉々として彼に駆け寄ると、露骨に嫌な顔をされた。構うものか。


 「僕と冒険を共に楽しむ仲間になろう!」


 「うわ、まじもんだ」


 更にひかれてしまった……。

 しかし、背丈は僕よりも少し高いくらい。どうにかして仲間になりたい!

 待てよ?もしかしたら、もう仲間がいるのかもしれない。


 「もしかして、他にもう仲間がいたり?」


 僕が問うと、少年は顔をしかめながら自分の後ろを親指で指差した。


 「みればわかるだろ?俺もソロだよ」


 「では何故!」


 はぁ、とため息をつかれた。ぐぬぬぬ……!


 「俺は金持ちになりたいんだよ。二人だったら取り分減るだろ?それに、なんかお前足手まといになりそうだし」


 「し、失礼な!?」


 僕が反論しようとしたその時、ゴーンと10時を知らせる鐘が鳴った。

 それと同時に、会場に試験管らしき人物が登場。


 「皆様集まっていますね。それでは、今からルーキー講習を始めようと思います!」


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