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2話 平穏の1歩先

 マンイーターは、基本的に3つの区域に分かれている。居住可能地域(レジデンス)未開墾地域(アンポロウド)未開拓地域(ノンヒューマン)

 二つ目と三つ目がそこまで変わらない?いや、実はそこにも大きな差異があるのだ。

 あまりにも過酷すぎるが故にほぼ海岸線から開拓が進まなかったマンイーターではあるが、ある時優れた学者の一人が閃いた。


 ――――なんで、海岸は何ともないのか?


 冷静に考えればその通りである。当時、人々は熱に狂っていたのだ。今も勢いは凄まじいものがあるが。

 兎にも角にも海岸である。死ぬ気で海岸を調査した彼らは、その海岸の力がとある鉱物に依るものであることを発見した。

 名を『アンチフォース』。

 フォースを打ち消す、言うなれば反フォース力場発生装置だ。

 ちなみに、この時世界で初めて力場という考え方が生まれた。やはりマンイーターは素晴らしいな。

 話を戻そう。人々はこのアンチフォースを杭に加工し、それを地面に刺すことでフォースを抑え込むことを思いついたのだ。

 アンチフォースを打ち込まれた領域は異常気象が収まり、更に環境が外界に似通ったものとなる。この状態を未開墾地域(アンポロウド)と呼ぶ。

 マンイーターの土壌の質は外界の比ではない。街一つで国一つが賄えると謳われる程であるから、誰もが血眼になって耕す。金のなる木ならぬ土地なのだ。そうして人間の文明が持ち込まれた地域を、居住可能地域(レジデンス)と呼んでいるのである。

 そんな土地であるから、各国も競うようにアンチフォースで未開拓地域(ノンヒューマン)未開墾地域(アンポロウド)に変えていく。

 その中でも、僕の祖国であるラインハルト王国がメインで開拓している未開拓地域(ノンヒューマン)が、A3地点『ねじ巻き峠』。

 

 僕は、初めてその未開拓地域(ノンヒューマン)に足を踏み入れたのである!


 「す、凄いぞ!本物のねじ巻き峠!絵で見たものと全然違うではないか!」


 ねじ巻き峠は、到るところが不自然に渦巻いていることからそう名付けられている。元は『ねじ峠』と呼ばれていたのが、語感がいいから『ねじ巻き峠』に変わったらしい。語感は大事であるからな、うん。必殺技は名前がダサいと叫びづらいのだ。


 僕は、手元にあった渦巻きながら伸びる木に登る。


 「う、うーむ。絶景だ………」


 感嘆の言葉しか出ない。あまりにもでかいのだ。ねじ巻き峠、とは言うが山だって谷だって川だってある。ラスカル殿の言っていた『石湖』も恐らく一面石の湖なのだろう。

 雄大……あまりにも……!

 叫ばなくては。叫ばなければ、圧倒される!


 「わあああああああ!」


 僕が一人で叫んでいると、軽業師のような身のこなしでモルス殿が僕の側に寄った。

 素晴らしい、一流の開拓者(フロンティア)ともなればこれだけの芸当を……!


 「クラウス君。ねじ巻き峠はシンプルな絶景も魅力的だけど、もっと魅力的なのは生息する動物の方だよ。奥地に一杯いるから、そっちを見に行こう」


 この到るところが捻れる奇妙極まりない風景がシンプル……何ということだ。

 父上が言っていたことだが、川とは洪水の度に蛇行が解消されるという。それが、ここの川はうねりにうねっているのだ!


 「見たい、無論見たいぞモリス殿!」


 僕がそう言うと、モリス殿は僕を背負った。

 そのまま、モリス殿が駆ける!


 「は、疾い!」


 「体が弱ければ生き残れないからね」


 ほっぺに風が入ってブルブル震えているぞ!

 10分もしないうちに、周りの風景がガラリと変わる。先程までは開けた場所だったのが、いつの間にか森が濃くなっていた。

 

 「む、何もかもが捻れてるのだ」


 僕がそう言うと、モリス殿は僕を背中から降ろした。


 「実はこのねじ巻き峠には奇妙な性質があるんだ」


 モリス殿はそう言うと、自分の肩を回し始めた。

 グルングルングルングルン。


 「……風?」


 「その通り。このねじ巻き峠では、どういう訳か『回転』が物凄い力を生み出すんだ。だから、人が腕を回すだけで風が起きる」


 「そ、そんなことが……僕もやってみるのだ!」


 僕がグルングルンと腕を回すと、周りの雑草がさわさわと揺れる。

 すごい、まるで物語の魔法のようではないか!

 僕が腕を回していると、不意に後方でパァンと何かが弾けるような音がした。


 「……!?」


 「ドリルペッカーだね。これも中々に面白い生態をしている」


 そう言うと、モリス殿は全長30cm程の鳥を拾ってきた。

 む、嘴がドリル状になっている。筋肉も螺旋状になっている……本当に飛べるのか?

 しかもどういう訳か瀕死状態であるな。ピクピクとモリス殿の手の上でビクついている。


 「これはドリルペッカーと言って、高速回転しながらなんでもかんでも掘り進める鳥なんだ。筋肉が捻れているだろう?これは体を捻ったときに物凄い力で回転できるようになっていて、ねじ巻き峠によって底上げされたパワーで獲物を抉り殺すんだ」


 「お、恐ろしいのだ……」


 「まあ、狙いを外すと何かに衝突してこうして死にかけるんだけど」


 「訳が分からないのだ……」


 誠に珍妙な生き物である。

 早速メモを取り出し、僕はそれを書き込む。

 そうこうしている内に、当のドリルペッカーは次第に元気になり、そのまま跳ね跳んでモリス殿の手から消えていった。


 「回復力も凄いのだ……」


 「じゃないと絶滅しちゃうからね。ここの生き物は過酷な環境で生き残ってきた猛者しかいないんだ。ドリルペッカーも、あれはあれで危険生物なんだよ」


 な、なるほど……。

 ………。

 凄い……。


 「モリス殿、凄いぞ!本当に、マンイーターは外界とはまるで違う環境なのだな!」


 僕がそう言うと、モリス殿はニッコリと笑った。


 「だろう?本当はまだまだ見せたいものがあるんだけどね……」


 そう言って、モリス殿は天を仰いだ。


 「うん、良い時間だ。そろそろご飯にしよう。開拓者(フロンティア)御用達の保存食、気になるだろう?」


 開拓者(フロンティア)の保存食!?何を食べているのだ!?しかもこの場所、雰囲気!素晴らしい、素晴らしいぞ!


 「素晴らしい、素晴らしいぞ!それに、僕のお腹もぺこぺこなのだ!」


 「じゃあ早速食べよう、と言いたいところなんだけど……ここじゃ、場所が流石に悪いかなぁ…」


 モリス殿がそういった途端、背後でドリルペッカーが木々を食い破った。

 めりめり、と音をたてて木が倒れる。


 「そうであるな……」


 「大丈夫、すぐ近くに良いところがあるんだ。これまた渦巻いた池なんだけどね。そこではどんな動物もリラックスして静かになるんだよ」


 「おお!素晴らしいな、大自然の神秘だ!で、それはどこに?」


 僕が両手を上げると、モリス殿は僕の右方を指さした。


 「本当にすぐ近くにあるんだ。あっちに、少しきらめきが見えるだろう?あれだよ」


 「おお!」


 僕は走り出した。

 渦巻いた池、それはもはや池ではないのではないか?見たい、見たいぞ!


 きらめく水面はすぐ近く。

 背の高い植物をかき分けた、その時だった。


 不意に、地面が光る。


 「ッ!?」


 直後、僕を氷の檻(・・・)が囲んだ。

 ねじ巻き峠はかなり暑い。氷などすぐに溶ける……はずなのに、この氷の檻は凄く透き通った氷だ。


 「綺麗なのだ……じゃない、どうなってるのだこれは!」


 ガンガン、と叩いて見るが、檻はびくともしない。あまりにも分厚すぎる。僕の力ではどうしようもない……!?

 しかし、焦る僕の眼の前で、丁度モリス殿がゆっくりと歩いてきた。


 「モリス殿、良いところに!突然こんなものが出たのだ!助けてくだされ!」


 モリス殿なら、なんとかしてくれはずなのだ。

 だが、モリス殿は微笑を崩さない。


 「モリス殿!」

 「……馬鹿だなぁ、全く」


 ――――えっ?


 不意に、モリス殿が静かにつぶやいた。しかし、それは……とても暗い声。それは、蔑むような声。


 「モリス殿?」


 声を掛ける。できるだけ、明るい声を心がける。

 しかし、モリス殿は僕を無視して独白を始めた。


 「クラウス・ラフティスハルト。マンイーターを統べる十の貴族のうち一つであるラフティスハルト家の長男にして唯一の男児。母親は彼を生んだ直後に死亡、そしてラフティスハルト家当主は再婚しないことを宣言。事実上のラフティスハルト家跡取り。

 ………クラウス君、これ以上の人質がいるかい?」


 「ま、まさか……」


 僕の声が、震えているのがわかる。


 「そのまさかだ。

 はは、ラフティスハルトも馬鹿な跡取りを持ったものだ。まぁそれで僕が得をするんだから文句を言う筋合いもないか」


 そう言って、モリス殿は高笑いをあげた。

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