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1話 自然!超自然!すごいなぁ!!!!!

 「父上!このクラウスめに開拓者(フロンティア)になることを許してくだされ!」

 

 降臨歴1637年、6月27日。新大陸『マンイーター』最大の街『ニューラピス』で、僕は父上に額を地面に擦り付けながら懇願していた。

 しかし、父上の声音はやはり苦渋に満ちたもの。


 「……クラウス、何度も言っているだろう。お前はこのマンイーターを統べる十の貴族の一つ、ラフティスハルト家の長男なのだぞ。開拓者(フロンティア)などという危険なものになる必要性は欠片もないのだ」


 ――――ああ、今日もだめか。


 「……失礼しました」


 とぼとぼと父上の部屋から退出する。

 その部屋の外で、姉上(セシリア)は壁にもたれかかりながらニヤニヤと笑っていた。


 「ついに土下座までいったのね」


 姉上はいつもこれだ。普段は優しくて僕によくしてくれるのに、こういう時に限って僕をからかう側に回る。僕は噛み付いた。


 「茶化さないでください、姉上!僕は本気なのです!」


 「わかってるわ、貴方が本気なのはよーくわかってる」


 わかっておられない!

 クツクツとできるだけ笑い声を抑える姉上に、僕は腹を立てながら通り過ぎる。

 背後から姉上の声が飛んできた。


 「クラウス、今日もあそこ(・・・・)にいくの?」


 「………」


 僕は敢えて答えなかった。

 無言の肯定というヤツだ。我ながら風流であるな。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 

 少し前のことだ。少し前と言ってももう25年前になるのだが、新大陸発見の報が世界を大きく揺るがした。

 その新大陸は、すぐに『マンイーター(人食い大陸)』と名付けられた。各国は全く別の名前をつけたのだが、それよりも早くマンイーター、という名が定着した。理由は単純だ。発見されるなり異様なスピードで人々が移住し、そしてこれまた恐ろしいスピードで屍が積み上げられていったから。

 そのマンイーターが人を次々と飲み込んでいった理由は、ただ一点に収束される。

 『フォース』

 この大陸のみに存在する、摩訶不思議なエネルギー。あるいは力場と言うべきかもしれない。海岸を除いた全域に拡がるこの力場が、マンイーターに強力な神秘性を持たせたのだ。

 マンイーターの特殊さは、3つに大別される。

 第一に、異常気象。『フォース』は気象に強く影響するらしく、豪雪地帯のすぐ隣に熱帯があったり、そもそも気候区分に当てはまらなかったりとメチャクチャな気候を生み出す。

 第二に、凶悪な生物相。異様な風土に耐えるために独自の進化を遂げた生物たちが、この大陸には大量に存在している。そして、大体が飢えているため凶暴。大砲すら受け付けない生物も存在していて、人類ではどうしようもない生物も多い。

 第三に、これが一番の問題点なのだが、ほぼ全域が特殊な地形で覆われている。水晶の森は序の口で、ひどいものは既存の概念では言葉では語り難いものとなる。

 しかし、これだけの難題がありながら、それでもマンイーターには挑むだけの魅力があった。『フォース』がもたらす上質な鉱物、土壌、毛皮。それだけではない。植民地主義全盛の今、巨大な土地というものはそれだけで国を湧き立てる。

 だからこそ、その開拓の最前線で森を切り開き、化物を切り倒す開拓者(フロンティア)達は人々の尊敬を集める存在なのだ!


 

 ――――チリンチリン。


 僕が木製のドアを押すと、聞き慣れた鈴の音が出迎えた。

 次に漂ってきたのは濃厚なアルコールの匂い。おまけに男達の喧騒付きだ。

 

 ここは『ホーホー亭』。

 オーステラ公国出身の初老のマスターが経営する酒場で、兎に角大きいのと立地の関係でいつも賑わっている。名前の由来は闇夜の王者フクロウの鳴き声で、要は夜間も営業している、という意味らしい。僕は夜更かしはしないので昼にしか来たことがない。


 「マスター、僕も酒というものを飲んでみたいぞ!」


 グラスを拭いているマスターは、僕を見るなりニッコリと笑みを浮かべた。


 「申し訳ございません、クラウス様。ラフティスハルト家の大事なご子息に酒をだしてはとお館様に示しがつきません」


 「むぅ、そう言われては仕方があるまい」


 僕がマスターに出してもらった水をちびちびと飲みながら喧騒の様子を楽しんでいると、横にどかっとアフロ男が座った。


 「おーうクラ坊、陰気臭い顔してるじゃねえか。さてはまた親父さんにフラれたな?」


 僕に話しかけたのは、アフロヘアーの開拓者(フロンティア)であるラスカル殿。強者だけに許された異名持ちで、『爆ぜるラスカル』と呼ばれているそうだ。どこらへんが爆発しているのだろうか、やはり髪なのだろうか。そうだ、きっとそうに違いない。

 性格も中々に爆発していて、まさに荒くれ者や奇人変人ばかりな開拓者(フロンティア)を体現したような人だ。

 

 「ラスカル殿、帰っていたのですか!それで、今回はどのような冒険を!?」


 僕が鼻を膨らませると、ラスカル殿はニヤリと笑った。


 「今回は結構やばかったなー。旨味はなかったが、B6地点『石湖』に行ってきたぜ」


 「おお、石湖!名前しか知りませんな!」


 僕は早速メモ帳を取り出した。10歳の誕生日、姉上に買ってもらったものだ。いつも大事に使っている。

 鉛筆を小型ナイフで尖らせる僕を見て、ラスカル殿は満足げに頷いた。

 

 「相変わらず勉強熱心だなおい。おーし、耳ん穴かっぽじってよーく聞いとけよ。

 いつもどおり『ねじ巻き峠』を通り抜けた俺たちはそれはもうウッキウキだった。石湖っていっちゃあちょっと見ただけでメリットの無さ見えてくるからな、誰もロクに探索したこと無いわけだ――――」


 得意げに語り始めるラスカル殿の周りに、わらわらと人が集まっていく。

 最前線を走る開拓者(フロンティア)の話は役に立つ。マンイーターで成功できるかどうかは開拓者(フロンティア)の利用法にかかっているのだ。

 僕は単純に楽しんでいる側だが。

 

 ラスカル殿は、興が乗ってきたのか腕をグルングルンと振り回しながら唾を飛ばす。


 「石湖って結構やばいんだぜ?なんたって液体の石がそこら中から湧き出てくんだ!」


 「「おおぉぉぉ!?」」


 「それがな、乾いたら固まって何故か綺麗な石版みたいになるんだが、こいつがまたやばい!地面が石の重さに耐えられないくて定期的に落ちるんだ!1時間に一回くらいか?

 ピシッとなって、どっかこっかに割れ目が出来る。そしたらずりずり下に落ちてくのさ!」


 「「やべぇぇぇ!!!!」」


 落ちる?落ちるとどうなるのだ!?実は下に何かあるのではないか。そうか、わかったぞ!古代文明だ!実は古代文明が石湖の下には埋まっているのだ!間違いない!


 「ラスカル殿!石湖の下には古代文明があるに違いない、違いないぞ!次は僕も連れていけ!」


 僕が立ち上がってそう叫ぶと、皆一同にキョトンとした。

 直後、爆笑がホーホー亭を包む。


 「ぎゃはははは!クラ坊、今回もケッサクだなぁおい!」

 「前はなんだ?『大骨宮』の深部には聖剣が眠ってるんだったか?」

 「小説家の才能のがよっぽどあるぜ、あはははははは!」


 「む、むぅ……皆そこまで笑わんでもいいではないか……」


 は、恥ずかしくなってきたぞ………。

 しかし、しかしだ。やってみなければわからないではないか。開拓者(フロンティア)は情報が命だから重大な発見は隠蔽する。なんでもありなマンイーターなら古代都市くらいあってもいいではないか……ないか……。

 無論言わない。言ったらどうせまた笑われるのだ。くそう。というかなんで僕はいつも気づいたら口にしてしまうのか。後悔が頭の中をぐーるぐる……。

 

 顔を真赤にする僕の頭を、ラスカル殿が高笑いしながらボサボサにした。


 「ひー、やべー、腹いてぇー!

 いや、俺も別にクラウス、おまえを連れてってもいいんだけどさ。俺、『ラインハルト帝国』お抱えの開拓者(フロンティア)だからよぉ、報酬はラフティスハルト家から貰ってんだよ。

 というわけで、俺は親父さんのお怒り食らったら生きてけねーの。兎に角親父さんのお許しを得るんだな!」


 「無理だろー、お館さまそういうところ厳しそうだもんなー」

 「坊っちゃんもよく諦めねえもんよ」


 く、くそう。悔しすぎて涙が出てきそうではないか。だめだ、こらえろ……開拓者(フロンティア)に涙はないのだ。そんな弱々しいことでは開拓者(フロンティア)にはなれぬぞ……ああ、悪循環だ。

 涙がこぼれ落ちる。


 「ああー!クラ坊泣かしたー!」

 「おいアフロ謝れー!」

 「謝れー!」

 「クラウスさんに謝れー!」


 皆がいい機会を見つけたとばかりにラスカル殿を口撃する。

 そこで、またチリンチリンとドアの鈴がなる。入ってきたのは『ハンマーヘッド』――ラスカル殿のパーティ――の面々だった。


 「やっぱここかー。お頭、仕事。遊んでないで行くぞー」


 ラスカル殿は満面の笑みで跳躍した。


 「仕事じゃ仕方がねえな!わり、俺、行かないと!」


 「あ、おい!逃げるなー!」

 「謝れー!」


 ラスカル殿がいなくなったことで、ホーホー亭は元の程よい喧騒に戻る。

 ……今日はもう帰ろう。

 目をゴシゴシと擦って、僕は席を立つ。


 「ま、待ってよクラウス君!」


 「………む?」


 そんな僕を、優しい声が呼び止める。

 振り向くと、そこにはよく見慣れた方がいた。


 「モリス殿?」


 僕に呼ばれて笑う彼もまた、開拓者(フロンティア)だ。ソロで活動しておられる方で、よく冒険話を聞かせてくれる優しい御仁である。開拓者(フロンティア)にしては珍しく、物腰が柔らかい。

 その彼が、僕に声を潜めて語りかける。


 「これから僕も仕事なんだけど……もし良かったら、今から一緒に行かないか?」


 僕は全力で首を縦に振った。


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