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077 戦力アップ作戦 (3)

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

魔道書などを9冊買い込み、購入した土地へ行くと工事が始まっていた。

トーヤ対ナツキ・ナオで複数相手の模擬戦。

ハルカとユキは大工に木刀を作ってもらい、トーヤとナツキの指導を受ける。


 結構な時間、俯いて基礎魔道書を読み続けていた俺は、パタンと本を閉じて大きく息を吐くと、ぐっと伸びをして力を抜いた。


 体勢があまり良くなかったので、ちょっと身体が硬くなってしまった。グリグリと肩と首を回してりをほぐす。


「そこまで目新しい中身はないか。……一部、役に立ちそうな情報もあったが」


 基礎魔道書に書かれていたのは、魔法全般に関する基礎的な事や、学ぶ上で知っておいた方が良いような事で、内容的にはさほど難しい物ではなかった。


 その殆どは、これまで体感的に理解していたことを系統立てたような内容だったが、その中に一部、気になる事が書かれていた。


 それは、『魔力を消費しても気絶することはない』という事。


 正確に言うなら、『原理的には気絶するが、現実的にはほぼあり得ない』らしい。


 どういうことかと言うと、例えば『気絶するまで走り続ける』事は不可能ではない。ただ、普通の人はその前に立ち止まって休む。


 魔法を使うときも同様で、術者の意識に問題が出るようなレベルで魔力が少なくなれば、自然とそれ以上は魔力を使えなくなり、仮に呪文を唱えている途中でも魔法は中断されて失敗する。


 魔法という物は、術者が魔力を注ぎ込むことによって完成する物で、決して魔法が勝手に魔力を吸い上げる物では無いのだ。


 例外として、錬金術師が作る魔道具は自動で魔力を吸い取るが、それは相手に魔力が潤沢にある場合のみで、普通の魔道具は魔力が少ない相手から過剰に吸収することはできない。


 それ故、通常『魔力不足で意識を失う』という事は、ほぼあり得ないのだ。


「気絶の心配が無いのはありがたいんだが、やっぱり魔力を測る方法は無いんだなぁ」


 本によると『魔法使いにとって自身の魔力量を把握することは肝要である。特によく使う魔法に関しては、平常時から何度使えるのか、魔力を消費しきってどのくらい休めば再び使えるようになるのか。それらを確実に把握していなければ、戦闘に於いて思わぬ不覚を取ることにもなりかねない』らしい。


 ただ、訓練を積み重ねる事で、魔力量を増やす事ができると解ったのはありがたかった。


 これまでの訓練で威力、回数共に増えている実感はあったが、それが魔力量に由来するのか、それとも魔力の扱いに慣れた為なのかはっきりとしなかったのだ。


「さて、読み終わったが……あいつらの指導はまだ続きそうだな」


 今はハルカとナツキ、ユキとトーヤに分かれて指導しているようで、トーヤは剣術としての剣の振り方、ナツキは短刀術特有の扱い方を教えているようだ。


 う~ん、何か格好いいな、短刀術。ユキに黒装束とか着せたら小柄で素早い忍者っぽくて似合うかもしれない。


 身体強化で、素早さも向上できたら不可能じゃないよな? ユキは【隠形】、【忍び足】、【投擲】、【回避】など、それっぽいスキルを得たわけだし。色っぽい方面のくノ一は無理だろうが。


「俺は、【鉄壁】の訓練もしてみるかな」


 こちらも一応練習していたのだが、【筋力増強】に比べて、自主訓練ではイメージが掴みにくかったのだ。


 【筋力増強】の訓練では、宿のベッドの下に手を掛けて、身体に魔力を巡らせて持ち上げようとすることで訓練ができたのだが、【鉄壁】の方は、自分ではやりづらい。


 一応、魔力のバリアのような物をイメージして、自分で手や足をぺしぺし叩いてみたのだが、イマイチ感覚がつかめなかった。


 叩こうとする手と、それをはじき返そうとする自分の意識。

 相反するそれが混じり合って混乱する。


「誰かに手伝ってもらえれば一番だが……魔法、ぶつけてみるか?」


 屋内ではさすがに攻撃魔法を発動させることはできないが、ここなら問題ない。


 それに、魔法なら『攻撃』した瞬間から、着弾するまで僅かな間隔があるので、同時に『攻撃と防御』の意思を持つ必要は無く、着弾の時には『防御』のみを意識すれば良い。


「多少熱いぐらい……ミスっても軽い火傷で済むぐらいにしたいな」


 普通ならこんな訓練お断りだが、この世界には治癒魔法が存在する。火傷程度なら簡単に治してもらえるのだ。


 俺は、超微弱な『火矢ファイア・アロー』を自分に撃つ……前に、そのへんの草に向かって撃って練習する。


 一瞬で焼けるレベルはマズいよな。緑の草が茶色くなる……いや、黄色くなるレベルに調整しよう。


 数度練習した上で、ズボンの裾を捲り、いざっ!


「――っ!」


 熱い! けど、耐えられないレベルではない。熱湯を一滴落としたぐらいだろうか。

 俺は、バリアー、バリアーと心の中で唱えつつ、自爆? 自傷? を繰り返す。


 そして、痛みに耐えつつ頑張ることしばらく。


 俺の足が真っ赤に染まった頃、ついに……。


「おっ!!!」


 熱くない!

 放った『火矢ファイア・アロー』が何かに阻まれるようにして消える。


「やっったぁぁぁ!」


 ヨロコビの叫び声を上げた俺に、ハルカたちが訝しげな表情を浮かべて近づいてきた。


「ナオ、いったい何――って、ホントに何してるの!?」


 俺の真っ赤になった足を見て、ハルカが慌てて走ってくると、素早く治療してくれる。


「おお、すまん。正直、結構痛かった」


 火傷をしたとき特有のヒリヒリした痛み。それがスッと引いていく。


「どうしたの? いきなり自傷行為に目覚めたわけじゃないでしょうけど……」

「ふっふっふ、俺もついに【鉄壁】を……って、無いし! 違うし!」


 そう言いながらステータスを確認した俺は、愕然とした。

 なんと取れたと思った【鉄壁】のスキルが無い!

 そして、その代わりに、【魔法障壁】ってスキルがある!


「どうしたんですか?」

「いや、【鉄壁】を獲得するために頑張ってたんだが――」

「あぁ、それでそんな足になってたのね」


「おう。自分で叩くのはイマイチだったから、魔法を使ってたんだが、それで取れたスキルが【魔法障壁】」


「【魔法障壁】? そんなのもあるんだ!? うふふふ、早速コピーしないと!」


「くっ、俺が痛い思いして獲得したスキルを、あっさり覚えるつもりかっ!」


 嬉しげに笑うユキを睨む俺。スキルコピー、かなり微妙な気がしていたが、パーティーメンバーが新しく有用なスキルを覚えると、かなり有効だなぁ。惜しげも無く教えてくれる相手が居てこそだが。


「でも、結局は『教える』必要はあるんだから、程度の差はあってもユキも痛い思いはするわよね?」


「ほうほう。つまり、ユキに叩き込む魔法の強さは俺次第、と?」


「えっ! ナオは私の柔肌にあとを付けるつもりなの!? 責任、取ってもらうよ?」


 自分の身体をギュッと抱き締め、そんなアホなことを言うユキに、俺はニッコリと微笑んだ。


「安心しろ。ハルカの治癒魔法は強力だ。な?」

「……治してあげるけど、程々にね?」

「ひどい! どうせなら止めてよ!?」


 肩をすくめるハルカの手を握って、ユキが抗議しているが、まぁ、実際には俺が自分に使ったレベルの魔法を使うだけなのだが。別に俺はSじゃないので、女の子を痛めつけて喜ぶ趣味もない。


 かといって、多分、ある程度の痛みがないと意味が無いだろうから、あれ以上弱くすることもできない。俺よりは短い時間で覚えられるはずだから、その程度は耐えてもらおう。


「それよりも、ユキとハルカは短剣は使えるようになったのか?」

「えぇ。一応、【剣術 Lv.1】と【短刀術 Lv.1】が得られたわ」

「ハルカもか? ユキならコピーで【剣術 Lv.1】がすぐに覚えられると思ったが……俺も剣術、習うべきか?」


 あの程度の時間で【剣術 Lv.1】が得られるのなら、俺も覚えておいて損はない気がする。狭い場所では、やはり槍よりも剣の方が使い勝手が良いのは確かなのだから。

 ユキとハルカに比べて俺の才能が無いとしても、半日も訓練すれば覚えられる……よな?


「覚えたいなら、教えてやるぞ?」

「そうだな。近いうちに頼む。今は【鉄壁】を覚えたいところだが」


 【魔法障壁】を覚えてしまったのは、ある意味、手違いである。


「【鉄壁】か。ナオの訓練を真似るなら、オレがビシビシと叩き続ければ良いのか?」

「そうだな、実績もあるし、それでやってみるか」

「よし、任せろ!」


 そう言って木刀を構えたトーヤに、俺は付け加える。


「俺も後から手伝ってやるからな?」

「……ははは、それは助かるなぁ」


 乾いた笑いを浮かべながら木刀を地面に置いたトーヤは、改めてそのへんの灌木から小枝を折ってきて構えた。


 賢明な判断である。あんまり痛いと俺が手伝うときに、つい力が入りすぎるかもしれないからなぁ?


「私たちは私たちで訓練、しましょうか」


「そうですね。【筋力増強】、【鉄壁】、それに可能なら【魔法障壁】も、生き残るためには重要なスキルですから」


「よしよし、あたしがしっかり指導してあげるからね!」


 そんなことを言いつつ、俺たちから少し離れ、訓練を始める女性陣。


「オレは適当に叩けば良いのか?」

「おう。――頭は止めろよ?」

「解ってるって」


 何か嬉しげに俺の周りを歩きながら、木の枝で俺の身体をパシパシと叩き始めたトーヤを睨み付け、その枝をはじき返すイメージを思い浮かべる。


 先ほどの【魔法障壁】を得た時と何が違うのかと言われると困るのだが、それ以外にやりようがないのだから、仕方ない。


「おーい、ナオ、目が怖いんだが?」

「気にするな。気合いを入れているだけだ」


 気軽に叩かれるのがちょっとムカつくのは確かだが、別にトーヤが憎いわけではない。

 魔力を意識しつつそんなことを続けることしばらく。

 叩かれた時に感じる痛みがかなり軽くなったように思った瞬間、即座にステータスを確認。


「――ぐっ!」


 手を握りしめガッツポーズをした俺に、トーヤが手を止めて、目を丸くする。


「あれ? もしかしてもう獲得したのか?」

「ああ。【魔法障壁】を覚えたおかげか? もしかすると、身体強化に関する魔力操作は似ているところがあるのかもな」


 ステータスに燦然と輝く、【鉄壁 Lv.1】の文字。

 先ほどに比べると、半分ぐらいの時間でできたような気がする。


 もちろん、これ以前にも【鉄壁】が覚えられるように、色々試行錯誤はしていたので、それが影響していないとも言えないが。


「マジか~。じゃあ、攻守交代か?」


「そうだな。【筋力増強】は自分で頑張ってもらうとして、【魔法障壁】と【鉄壁】、どちらからやる?」


「【鉄壁】なら室内でもやろうと思えばできるからな。【魔法障壁】から行くか」

「そうか。じゃあ、腕か足を出せ」


 ニヤッと笑って促す俺に、トーヤは嫌々ながら、ズボンの裾をまくった。


 火傷なら治癒魔法で癒やせるが、焦げた服は直せないのだ。服の上から『火矢ファイア・アロー』をぶつけるわけにはいかない。


「それじゃ行くぞ?」

「よし来い! 覚悟完了だ!」

「遠慮無く」


 むき出しになったトーヤの足めがけて『火矢ファイア・アロー』を発射。もちろん威力には細心の注意を払っているが……まだ身体に残る痛みのせいで、多少制御が甘くなってしまったのは、仕方ないよな?


「あっつぅ!! お前! これ! マジでこれでやったのか!?」


 魔法が当たった途端に飛び上がり、俺に信じられないような目を向けてくるトーヤ。


おおむね?」


 僅かに威力は高かったかもしれないが、そこまでは違わないだろ。もちろん、太股ふとももの内側に当たったのは、ただの偶然である。


「もっとソフトに! ソフトに!」

「仕方ないなぁ」


 今度はもう少し集中して、膝頭あたりを狙ってやろう。皮膚も厚めだし、少しはマシなんじゃないか?


「熱っ! けど、耐えられる!」


「そりゃ良かった。ガンガン行くぞ? 頑張って耐えろ。そして、【魔法障壁】を手に入れろ!」


「アドバイス! アドバイスは!?」


「考えるな。感じろ。――そう、魔力を!」


「何か深そうで、全然深くない! その魔力がわかんねーんだよっ!」


 そんなトーヤの抗議を聞き流し、攻撃を続ける俺。


 実際、「魔力って何?」と聞かれても、説明できないからなぁ。


 無責任かもしれないが、魔法を喰らい続けていれば、そのうち感じ取れるんじゃないだろうか?


 俺にできるのは、曖昧な『何となくこんな感じ?』と言う程度のアドバイスのみである。

 頑張れ、トーヤ。俺は応援しているぞ?



 結局夕方まで続いたその訓練が、トーヤの【魔法障壁】取得によって終わりを告げた頃、彼の両足は、ほぼ隈無く真っ赤になっていたのだった。

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― 新着の感想 ―
ペシペシで取れるなら、この世界の人は幼少期ぐらいに獲得しそうだけど、簡単に取れるのはサービスされてるのかな
[良い点] 枝でぺしぺししてるの想像すると和む
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