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067 教えて、ディオラさん!

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

どんな感じの家にするか話し合い、大まかな間取りを決める。

大工のところへ相談兼注文へ行った女性陣に対し、ナオとトーヤは冒険者ギルドへ向かう。


 空模様を気にしつつ赴いたギルドは、閑散としていた。


 まぁ、この街のギルドに人がたくさん居るのは、早朝と夕方ぐらいなんだが。

 ディオラさんも暇そうにカウンターに座っていたが、俺たちが入ってくるのを目に留めると、軽く会釈をしてニッコリと笑った。


「おはようございます、ディオラさん。昨日はお世話になりました」

「いえいえ。冒険者の方のサポートは私たちの仕事ですから。……個人的にもちょっとお得でしたしね」


「お互い、良い取引だった、ということですね」

「ええ、まったく。それで、今日は? ハルカさんたちが居ないということは、お休みですか?」

「そうですね。天気が良くないですから」


「雨が降ると、ベテランでも不覚を取ることがありますし、良いと思いますよ。皆さんはオークを頻繁に持ち込んでますから、お金にも余裕があるでしょうし。そういえば、皆さんが頻繁にオークを持ち込んでくるので、大規模な巣があるんじゃないかという話が出ているんですが、心当たりはありますか?」


 ディオラさんにそう言われ、俺とトーヤは顔を見合わせる。

 大規模かどうかは解らないが、巣自体には心当たりがあった。


 俺たちは索敵やトーヤの感覚を頼りに、少数のグループになっているオークを見つけて討伐を繰り返しているのだが、その出現範囲を基にどのあたりに巣があるのかを推測、偵察に赴いたことがあった。


 スキル的な問題でナツキと俺の2人で向かったその先、索敵範囲に入ったそこには40匹以上の反応があった。


 目視確認こそしていないが、俺もある程度の経験を積んでいる。少なくともオーク並みの魔物が多数いることは間違いなく、俺たちはすぐさま引き返してその場を離れた。


 あれからも何匹もオークを斃しているので、供給源がその巣だけなら数は減っているだろうが……。


「ディオラさん、大規模ってどの程度からなんですか?」


「基準はオークの上位種が居ればって事なんですけど、数としては決まってないんですよね。目安としてはおおよそ30匹を超えると上位種が生まれると言われていますね」


「30匹……それなら多分、ありますね、大規模な巣」


「やっぱりですか……。これだけ頻繁に持ち込まれるとなると、そうだとは思いましたが。討伐依頼、出さないといけませんね」


 ディオラさんが困ったようにため息をつく。


「大規模な巣はマズいんですか? オレたちでもオークは斃せるし、さほど脅威でもない気がしますが」


「放っておくと、規模が拡大して、森の浅いところや街道にまで出没するようになるから。普通の旅人やルーキーには厳しい相手でしょう? オークも」


 街道まで出てくるとなると、危ないな。


 今でこそ危なげなくオークを斃している俺たちだが、ナツキたちを探しにサールスタットへ向かうときに出てこられたら、万が一のことがあったかもしれない。


 冷静に考えれば、オークは最初に苦労したヴァイプ・ベアー以上の敵なのだから。


「冒険者が適度にオークを狩ってくれれば、問題ないんですが……」

「オーク、人気が無いんですか? 俺たち、結構儲けてるんですけど」


「そうですね、ある程度の腕があって、マジックバッグを持っていれば儲かるんですけど、そうじゃないと少し中途半端なんですよね。ほら、重いじゃないですか、お肉って。何匹斃しても持ち帰れるのは1匹ぐらいでしょう?」


 オーク1匹あたりから得られる肉はおおよそ300キロぐらい。6人パーティーで分担して持つとしても、1人あたり50キロぐらいにはなる。


 俺たちが完全版のマジックバッグができる前に2匹分持ち帰れたのは、ひとえにバックパックと『軽量化ライト・ウェイト』のマジックバッグがあったからこそである。


「1匹分だと、1人あたり金貨5、6枚ですから、あまり割は良くないんですよ。それに、オークってあまり1匹じゃ行動しないでしょ? そうなると、何匹斃しても1匹分以外は全部捨てることになるわけで、冒険者の心情としてはかなり複雑ですよね」


「あ~、それは確かになぁ……」


 仕方ないとは解っていても、持ち帰れば30万円以上になる物を捨てていくのは精神的にキツいものがある。


「最近は、ハルカさんの作ったバックパックのおかげで、少しはマシにはなってるんですけどね。それでも2匹が限界ですから」


 全員がバックパックを持っていれば1匹半程度、根性があれば2匹分持ち帰ることができるため、少しオークの人気が回復しているらしい。


 それでも稼ぎは金貨10枚に届かないが、オークなら何とかというランクのパーティーなら、それなりに稼げる、というレベルらしい。


 でも、2匹は無理しすぎだろ。6人パーティーなら100キロ持たないといけないんだぜ?


 ……いや、戦闘を考えなければ無理じゃないか? 尾瀬の歩荷ぼっかは100キロ以上を運ぶと聞くし、それより身体能力の高いこの世界の人間なら。


「討伐依頼が出たら、巣を殲滅に行く冒険者はいるんですか?」

「いえ、正直なところ、ダメですね、この街だと。多少討伐報酬が上乗せされても割が合いませんから」


 低ランクの冒険者だと巣の殲滅自体が不可能で、高ランクだと稼ぎとして微妙。

 結果、依頼を出しても残り続けてしまうらしい。


「じゃあ、どうするんですか? 被害が出るまでは放置?」

「いえ、国としても被害を出してしまうと損失が出ますので、ギリギリの所で補助金が下りて、ギルド主催で討伐を行います」


 ギルド主催の討伐とは、ギルドが直接冒険者たちに声を掛けて、多人数で行う討伐のことを言うらしい。


 強制ではないが、十分な人数を集めるために危険性が低く、更にオークの巣の殲滅の際には荷運び隊も手当てするため、僅かな手数料で街までの運搬も担当してもらえる。故に十分な利益が見込め、必要な数の冒険者を集めるのはそう苦労しないらしい。


「本当は早めに実行できれば良いんですが、ギルドとしても補助金が出ないと赤字になってしまいますからね。なかなか厳しいんですよ」


 そう言ってディオラさんはため息をつく。


 国は街道を歩く人に被害が出る寸前でなければ対応しないため、森に入るルーキーの冒険者に被害が出た程度では補助金は下りないらしい。


 冒険者ギルドとしてはルーキーの冒険者も守りたいが、ギルドの完全な持ち出しで討伐を行うのは難しい。結果として、注意喚起ぐらいしかできることがない。


「なるほど。オレたちのパーティーで殲滅できれば良いんだけどなぁ……」


「あぁ、いえいえ、愚痴ってしまいましたけど、危険は冒さないでくださいね? それでトーヤさんたちに被害が出たら、本末転倒ですから」


「少数ずつおびき出すことができれば、オーク自体は難しい相手じゃないんですけどね。オークの上位個体は、やっぱ強いんですか?」


「そうですね、オークリーダーぐらいなら、オークを単独で斃せる冒険者が数人いればさほど脅威ではありません。しかし、最上位個体、オークキングともなれば、通常のオークの相手ができる程度の冒険者では簡単に蹴散らされてしまうみたいですね。このあたりで出たことは無いので、側聞でしかありませんが」


 オークリーダーなどと比べても、正に桁違いの強さらしい。

 もちろん、俺たちも蹴散らされる類いの冒険者だろう。「このあたりでは出たこと無い」というディオラさんの言葉が救いか。


「ちなみに、オークリーダーって高く売れますか?」


 そう尋ねると、ディオラさんは苦笑して、少し言いづらそうに口を開いた。


「あー、いえ、実はそれほど。魔石と皮は通常のオークの2倍以上にはなりますが、肉自体は殆ど変わらないので……。儲けだけ考えるなら、普通のオークを2、3匹斃す方が安全で良いですね」


 そう言って、「そのせいで依頼を受けてもらえないんですけど」と付け加えるディオラさん。

 オークの利益、半分以上は肉の売り上げだからなぁ。


 強くなってもオークはオーク、肉の味が劇的に上がったりはしないので仕方ないか。むしろ強くなると、肉が硬くなって味が落ちるんじゃないだろうか?


 ちなみに、皮が高く売れるのは、通常のオークよりも硬くて丈夫だかららしい。逆に言うなら、それだけ攻撃も通りづらいのだろう。


「さすがにオークキングなんかになると、魔石や皮がすっごく高く売れるみたいですよ。それでも、強さに見合うかどうかは解りませんけど」


 でも、やっぱり肉の味は大して変わらないらしい。ただし、運が良ければ珍しい物好きの貴族が高く買ってくれることもあるので、若干期待は持てるとか。


「あぁ、でも、巣の討伐依頼が出ているときだと、オークの魔石は2倍で買い取りますよ。ですので、オークリーダーだと14,000レアですね」


「2倍ですか。高いと言えば、高いんですけど……肉や皮の方が儲かりますよね?」

「そうですね。通常オークの肉の方が高いわけですし」

「皮や肉の値段は?」

「……変わりません」


 なるほど。依頼が残るわけだ。

 これは無理して巣の討伐を目指す意味は無いかなぁ? あえて理由を付けるなら、俺たちの経験のため、ぐらいか。慎重派のハルカはあまり賛成しそうにない。


「ところでディオラさん、話は変わるんですが、オレみたいな魔法を使えない人が魔力を使う方法って知りませんか?」

「えーっと、それって魔道具じゃなくて、魔力による身体強化とかそういう話ですか?」


 やっぱりあるんだ、身体強化!?

 ディオラさんのその言葉にトーヤが嬉しそうに頷く。


「――っ! えぇ! そういうのです。ディオラさんならギルドの職員ですし、詳しいかと思って」

「私もさほど詳しくはないですよ? それでも良いですか?」

「はい、もちろん!」


「解りました。えーっと、最初はそうですね……魔物を斃し続けると通常では考えられないレベルで防御力が上がるという話はご存じですよね?」


「はい。包丁が刺さらないんですよね?」


 トーヤ、それはハルカの例え話だ。

 ほら、ディオラさんも怪訝な顔をしている。


「なぜ包丁……? えぇ、まあ、要はそういう事です。なぜそうなるかという理由について、現在2つの意見があります」


「2つですか? たった?」

「はい。簡単に言えば、原理がある派と無い派ですね」


 ざっくり過ぎる!


「無い派は、魔物を斃す我々への神様からのご褒美とか、魔物から不思議な力を吸い取っているとか、いろんな意見がありますが、よく解らないという点では一致しています」


 ふーむ、俺たちで言うキャラレベルの原理か。ハルカが説明してくれたのも、この派閥だな。


「ある派が提唱しているのは、『魔物を斃すことで魔力の扱い方が上手くなり、無意識に魔力で身体強化している』という説明です。ですが、これはあまり支持されていません」


「そうなんですか? ある意味、納得できるんですが」


「であるなら、ナオさんみたいなエルフは、最初から人間よりも遥かに強くないとおかしくないですか?」


「あぁ、確かに。だとすると、魔力による身体強化は否定される?」


「それがそうとも言えません。魔物を斃して云々の話とは別に、明らかに普通以上の身体能力を発揮する人はいますし、それを魔力でしているという人もいます。数が少ないので、誰でもできることではないのでしょうが、不可能では無いのかもしれませんね」


「なるほど……逆に言うと、そう簡単に教えを請えるような人もいないと」

「そうですね、難しいでしょうね」


 希望がありそうで、無さそうな微妙な感じである。

 俺たちも魔力操作ぐらいなら何とか教えられるかもしれないが、後はトーヤ自身で試行錯誤してもらうしかないか?


「あともう1つ、これも側聞ですが、達人の中には素手で岩を砕いたとか、剣で壁を切り裂いたという人もいるらしいです。これらに関しても、魔力が関係している可能性はあると思います。剣で『砕く』ならともかく、普通は『切れ』ませんからね」


「なるほど。可能性はあるって事ですね。ありがとうございます」

「すみません、あまりお力になれず……」

「いえいえ、参考になりました。あと、ついでにオークの買い取り、お願いできますか?」

「あ、はい。今日もあるんですね。それでは裏の方に」


 ディオラさんに促され、裏に移動した俺たちは、マジックバッグから4匹分のオークを取りだしてテーブルの上に並べる。

 それを見て、ディオラさんが苦笑して言う。


「そのマジックバッグ、かなり量が入りますよね?」

「どの程度が一般的なのか解りませんけど、それなりに? 内密にお願いします」

「それはもちろん。これでもギルド職員ですから」


 最近は狩ったオークを全部この古ぼけた鞄に入れているが、今のところ入らなくなったことはない。ちなみに、正確に言うとマジックバッグはこの鞄自体ではなく、その中に貼り付けられた布の袋だったりする。


 最初は「鞄の革に刺繍するのは難しいから、魔法陣はインクで書くか」と言う予定だったのだが、「そんな事しなくても、布の袋を中に入れれば良いよね?」という話になって、麻袋を鞄の内寸ピッタリに作り直して貼り付けたのだ。


「でも、この街ではさほど心配は無いと思いますが、他の街に行ったときには注意した方が良いと思いますよ? 下手に知られると、力尽くで手に入れようとする人が出てくる可能性もありますから」


「ご忠告、ありがとうございます。そう言う場合ってどうすれば良いんでしょうね? 返り討ちにしても良いんでしょうか?」


「えっと、はっきり言ってしまうと、街の外だと殺してしまっても、問題はありません。襲ってきたらただの盗賊ですし、目撃者もいませんからね。……逆に襲われる危険性も高いということなんですが」


 街の外での人の生死なんて把握できないし、ステータスの賞罰欄に『殺人』が記載されるなんて事も無い。


 賞金首にでもなって人相書きが配られない限り、街の出入りが制限される事も無い――いや、正確に言うなら、制限することができないのだ。


 水晶玉で犯罪歴が解る、みたいな魔道具でもあれば便利なんだろうが、この世界には存在しないらしい。


「街の中だと、少し対処が難しいですね。基本的に返り討ちにしても問題ないのですが、周りに被害が出ると処罰対象になります。また、どちらが先に攻撃したとか曖昧な状況だと、下手をすると襲われた方が罪に問われるかもしれません。可能なら、逃げる方が安全ですね」


「う~む、結構、難しいんですね」

「スラムにでも近づかない限り、普通は街中で襲われる事なんて無いですけどね」


 この街にはスラムと言うほど酷い場所はないが、他の街には下手に足を踏み入れると、身ぐるみ剥がされて道の片隅に転がされるような所もあるらしい。


 そういった場所だと扱いは街の外とほぼ変わらないので、遠慮無く返り討ちにしてしまえば良いとか。怖すぎ。


「はい、それでは、お肉の代金がこちらになります。魔石の方はいったんお返ししておきますね。オークの巣、討伐依頼が出てからなら2倍になりますから、それまで貯めておいた方が良いですよ」

「えっと、良いんですか?」


 そう言って魔石を返してきたディオラさんに俺は思わず聞き返した。

 俺たちにとってはありがたいのだが、ギルドとしては損失になる。依頼の出る前に倒しているわけだから、対象外と言われても全くおかしくないんだが……。


「皆さんはオーク肉を頻繁に持ち込んでくれて、利益に貢献してくれていますから。オーク肉や皮を卸すだけでも、結構な利益になってるんですよ?」


「俺たちも肉を売りに行くのは結構面倒ですからね」


 タスク・ボアーを狩り始めた当初こそ肉屋に売りに行っていた俺たちだが、最近は専らギルドで全部売り払っている。


 肉屋に売りに行くと確かに少し高く売れるのだが、交渉作業が必要だし、オークほどの量になると1軒では買い取りして貰えないこともある。細かい交渉をせずに規定通りの値段ですべて買い取ってくれるギルドは俺たちにとってもかなり助かる存在なのだ。


「多分数日中には依頼書が出ると思いますので、確認してみてください。依頼自体を1パーティーで受けるのはお勧めできませんが、魔石分の利益は増えますからね」

「はい、ありがとうございます」


 そう言って微笑んでくれるディオラさんに俺たちはお礼を言い、ギルドの資料室へと向かった。

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