063 オークで稼げ!
前回のあらすじ ------------------------------------------------------
オークを2匹発見。
ナツキは槍の一撃で、トーヤも比較的あっさりと斃してしまう。
急いで肉に解体して帰路につく。
それから森を出るまで、1度だけ索敵範囲に敵の存在が引っかかった。
だが、恐らく反応からタスク・ボアーと思われたためそのまま進路を変えずに進み、戦闘をすること無く無事に森から脱出した。
ゲームなら別の意味で苦情が出そうなエンカウント率だが、現実なら1時間で何度も遭遇するレベルで魔物の密度が濃いと、戦闘している間にドンドン集まってきて確実に死ぬ。
動物なら逆に逃げるだろうが、魔物は基本的に人間を襲う存在なので、すぐ側で戦闘状態になっているのに無視するなんて事は、普通あり得ないのだ。
街道まで出た後は、再びマラソン。パンパンのバックパックに肉の詰まった袋まで持っているので結構辛いが、今回の分担は特大、大がトーヤとナツキ、俺を含めたほか3人が小なので文句も言えない。
多分、もうちょっとなんだけどなぁ、『空間拡張』。
『時間遅延』と『軽量化』の同時発動は10回に1回程度は成功するようになったので、『空間拡張』と『軽量化』の両方が付加されたマジックバッグができるのもそう遠いことでは無いはずだ。
俺自身のためにも頑張ろう。うん。
街に戻ったら最初にアエラさんのところに寄り、多少お肉を売却、残りを持ってギルドへ向かう。
いつもよりも時間帯が遅かったので少し待つことになったが、オークと多少の薬草、それにマジックキノコの売却を無事に終わらせる。
オークが魔石と肉、毛皮を合わせてトータル72,800レア、薬草とマジックキノコが32,000レア。金貨にして100枚あまりの稼ぎである。
う~む、天候さえ崩れなければ、あと2日もあれば土地代は稼げそうじゃないかい?
あ、ちなみに、オークを斃したことで俺たち全員がランク2まで上がった。
ランク2の評価としては、『ルーキーよりはちょっとマシ』程度らしいが、ディオラさん曰く「調子に乗って死にやすいのもこのあたり」との事なので、より一層注意するようにとのお言葉を頂いた。
また、オークに関しては、『近くに巣がある事もある』、『巣の近くで戦闘すると、大量の増援がやってくる』という注意点も教えてもらった。
俺の索敵範囲外から気付かれた可能性も考慮すると、これはかなり重要な点だろう。
3、4匹までならなんとかなっても、『戦いは数』である。10匹とか2桁になれば、今の俺たちではほぼ確実に負ける。
万が一の際には撤退も視野に入れて、索敵に力を入れるべきだろうなぁ。
◇ ◇ ◇
翌日、その翌日とは、オークをメインに稼ぐ事になった。
マジックキノコも探しはしたのだが、一度採取した場所にはほぼ生えておらず、新しく見つけた榾木も大抵は食べられてしまっていた。
そう考えると、最初の3つの榾木から採取できたのはかなり幸運だったようだ。
多分、あの時に斃したヴァイプ・ベアー、アイツの縄張りだったのだろう。あれ以降は他のヴァイプ・ベアーにも遭遇していないので、今後もマジックキノコに関しては期待薄かもしれない。
オークも儲かることは儲かるんだが、やっぱネックは運搬である。2匹倒した時点で引き返すことになるから。おかげで訓練時間が多く取れるようにはなったんだが。
一応、昨日の時点で『空間拡張』を発動できるようになったので、あとは『軽量化』と同時に安定的に発動できる様になれば、マジックバッグが作れるようになる。
そうなればいろんな意味で楽になる。数日中には目処を付けたい。
実のところ、『空間拡張』を発動できるようになったのが、ユキの方が先、と言うのがちょっと気になるところだが……制御に関してはまだ勝っている。コツを教えてもらったら俺もすぐに使えたし、大丈夫だよな?
明けて翌日、天候が怪しくなってきたので、タスク・ボアーを1匹だけ仕留めて昼前に仕事を切り上げてきた俺たちは、素材の売却がてら、ディオラさんに土地買収の進捗状況を聞いてみた。
「ええ、順調ですよ。そうですね、恐らく数日中にでもご納得頂けるかと」
「そうなの? てっきりもっと時間がかかるかと思ってたんだけど」
「皆さんも頑張っていますし、私も頑張ってみました。あの程度の相手、私にかかればたやすい物です。えぇ」
頼もしくも、ニッコリ笑うディオラさん。
少々不穏な物言いは聞かなかったことにしよう。
「頑張ってるってほどですか? 俺たち、結構早めに切り上げてますけど」
最初にオークを斃したときは少し遅くまで仕事をしたが、大抵は昼過ぎぐらいで引き上げてきている。
「それでもきちんと獲物を持ち帰ってるじゃないですか。ランク1や2の冒険者だと、朝から夕方までかかっても獲物を獲れず、薬草でお茶を濁す人たちも多いんですよ? そんな人たちがオークの1匹でも斃そうものなら、数日は飲んで過ごしますよ」
「数日って……そんな事をしてたら、金なんか貯まらないだろ」
オーク1匹を斃したところで、5~6人のパーティーなら1人あたり金貨6枚程度。
微睡みの熊亭ならともかく、サールスタットの宿なら、多少良い酒と食事を食べれば3日ほどで無くなる。
武器や防具なんかにも金がかかるし、とてもじゃないがのんびり休めるような稼ぎじゃない。
俺たちがそれなりに金が貯められるのは、微睡みの熊亭が安いこともあるし、誰も酒類などのような嗜好品に金を使っていないこと、それに裁縫スキルのおかげで服などもある程度自給できることが大きい。
「そうなんですよねぇ。そんな調子じゃランクアップなんて無理なんですけど、冒険者ってあまり先のことを考えない人、多いですから……」
逆に、そのあたりを考えられる人は順調にランクを上げていくらしい。
「ランク3、4ぐらいまでは努力でなんとかなる範囲なので、そこに行く前に足踏みしている人たちは、将来的にもほぼ目が無いですね」
「そういう人たちって、年取ったらどうなるの?」
「そうですねぇ、大半の人は年を取れません。途中で死んでしまうので」
「え……」
身も蓋もないディオラさんの言い方に、ユキの表情が固まる。
「何かのきっかけで踏ん切りを付けた人、もしくは何らかの幸運に恵まれた人は、定職に就くこともありますけど……、元々が計画性や根拠の無い『自分は成功できる』みたいな考えを持っている人たちですから……」
ある種、中二病みたいな物か。
いや、この世界の成人年齢を考えれば、冒険者になろうと思うような年齢はちょうど中二病世代。そのままズルズルと『自分は特別なんだ!』みたいな意識を持ち続け、冒険者を続ければ結果的に辿り着くのは人生の墓場。いや、本当の墓場。
俺たちも戒めとしておかねば。持ち家、貯蓄、これ大事。
「私が対峙した感触では、数人居ればオークを斃してお金を貯めるぐらいはそう難しくなさそうですが……。見つけるのが難しいんでしょうか?」
「それはナツキさんが強いからですよ。冒険者になりたてのルーキーなんて、そのへんの農村から出てきた若者ですよ? 多少力はあっても、これまで棒きれを振り回してきただけの、何の技術も持たない素人。ゴブリン程度ならともかく、オークに対峙するのは厳しいですよ」
そうか、スキル無しの状態か。
最初から武器スキルを持っている俺たちとは、スタート地点が違うよな。運良く師でも見つけられれば別だろうが、それにしたって無償で教えてもらえるとは限らない。
「それに、ナツキさんの持つような良い武器、買えるようになるまで貯蓄するだけの計画性も怪しいですし」
俺が買って、今はナツキが使っている槍は日本円にすると140万円。
確かに中学生程度の子供が買える武器では無い。
今俺が持っているナツキが買った槍程度なら買えるだろうが、この槍でオークに対峙するとなれば、正直俺でも怖い。簡単にバキッと折れそうで。
「もちろん、見つけるのも難しいんですけどね。オーク自体を探すのも困難ですし、その中から2匹以下、できれば1匹で居るオークを選び、3匹以上なら逃げられるようにしないといけない。ルーキーには結構難しいんです。オーク狩りでは結構、殺されてますからねぇ」
まとめると、【索敵】と武器スキルのおかげ、と。
解りやすいチートは無くても、結構楽に稼げるようにしてくれてたんだなぁ、邪神さん。
飛ばされた場所的にも。
「ですから、コンスタントにオーク肉を持ってきてくれるナツキさんたちは、正直助かってます。オーク肉は人気ありますから」
「ディオラさんも?」
「えぇ、私も好きですよ。ご相伴に与っています!」
そう言ってニッコリと微笑むディオラさん。
どうやら、ディンドルの時同様、ギルドの買い取り価格で横流し――もとい、身内価格で手に入れているようだ。
肉類が少し高めなこの世界だが、ギルドの買い取り価格程度なら一般人でも毎日食べられる程度の値段である。一応、ギルドの幹部らしいディオラさんにとってみれば、全く問題ない事だろう。
「お役に立てて何よりです。でも、多分明日は休みですね」
「雨、降りそうですからねぇ。私も暇になりそうですし、また土地の持ち主のところに行ってきますね」
「よろしくお願いします。お金の方は準備できてますから」
「はい、期待して待っていてください」









