表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/500

060 にょきにょき

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

マジックキノコで儲かったので、翌日も探索範囲を広げて探すことに。

だが翌日はあいにくの雨。

トーヤとナツキはギルドで勉強、他のメンバーは魔法の訓練を行い室内で過ごす。

 昨日の雨とは一転、今日は朝から綺麗な青空が広がっていた。

 森へ向かって歩く俺たちの足取りも、心なしか軽い。


「雨が降ったし、キノコ、たくさん生えてるかな?」

「そう簡単に生えるものじゃないと思うけど、天候的には生えやすくなる時期なんでしょうね、やっぱり」


 俺にとってのキノコと言えば、スーパーで買う人工栽培の物で天候なんて関係なかったが、天然物となれば、やはり影響は大きいのだろう。


 テレビのニュースで、『今年は天候不順で松茸の価格が――』とか聞くことはあっても、庶民の俺には全く関係の無い話だったからなぁ。


 松茸自体はもらって食べたことはあるが、俺の感想としては「確かに美味いが、あの値段を出すなら肉を食う」という感じである。


「そういえば、昨日調べて解ったんですが、オークも結構お金になるみたいですよ?」

「そうなのか?」

「はい。ゴブリンに比べれば魔石も高いですし、肉が売れますから」


 売れるのか、オーク肉。

 どんな外見かは解らないが、俺の想像するオークの外見なら、あまり食べたくは無いなぁ。


「オーク……『くっころさん』か」

「バカ! フラグを立てるな。マジになったらどうする」


 バカなことを口走ったトーヤの頭に突っ込みを入れる。

 ギャグなら「くっころ、くっころ」言っていられるが、身内に被害が及ぶと可能性があるならシャレにならない。


「くっころ? 何ですか、それ?」


 さすがに『くっころ』が通じるのは一部の人種だけだよなぁ。むしろナツキが知っていたら驚く。

 かといって詳しく説明するのはハードルが高い。俺の羞恥心的に。なのでややマイルドかつ迂遠な表現で……。


「あー、オークに女性が襲われることもあるのかな、と」

「襲われるのに女性も男性も無いと思いますが……。いえ、もちろん体力的には女性、子供の方が危ないでしょうけど」


 そう言って首をかしげるナツキ。

 意味は正しく伝わっていないが、問題は無い。頷いておこう。


「コイツらが言っているのはそうじゃ無くて、性的に襲われるのかって事よ」

「性的……えっ?」


 せっかくごまかせたと思ったのに! ハルカの冷たい視線と、ナツキの驚いたような視線が痛い。

 ユキは……面白がってやがる。こっちは解っていた可能性大だな。


「あんなの、普通に考えてあり得ないでしょ。違う生物なのよ? それで生殖可能とか、どんなスーパー遺伝子を持ってるのよ、ゴブリンやオークは」


 『スーパー遺伝子』……言い得て妙である。

 そう考えれば、人間相手に可能なら、猿や猪、そのへんでも全然オッケーそうである。


「しかし、『あんなの』って、ハルカは知っているんだな」

「あ、バカっ!」


 引っかからなくて良い部分を指摘するトーヤを止めようとするが、時すでに遅く――


「えぇ、ナオの部屋で見たわ」


 やっぱり忘れていなかったしっ!


「ぐはっ! い、いや違う! あれはトーヤので」

「あ、てめぇ! 俺を巻き込むな!」

「事実お前のだろうが! いいからやってみろって、あのゲームを渡したのは!」

「そこは事実でも黙っておくのが友情ってもんだろ!」

「ばーろー! 一蓮托生だ!」


 俺も男、ちょっと喜んだのは否定できないが、きっかけを作ったトーヤを許しはしない!

 『くっころ』言い出したのも、ハルカにツッコミを入れたのもトーヤなのだからして。


「はいはい、醜い争いをしないの。どっちの持ち物でも同じだから。結局やったんでしょ? 2人とも」

「「うぐっ」」


 そりゃやるさ! 年齢的に正規手段じゃ手にできないゲームが手元にあったら!

 合う、合わないは別にして、手元にあっても起動しない奴がいたら、それは思春期の男じゃないね! 断言する。


「そもそも、99%同じ遺伝子でも無理なのよ? あり得ないわよ。もちろん、本来の意味で食べられることはあるでしょうけど」


 それはそれでキツいな。人生の末路がオークの腹の中とか。

 だが、確かにハルカの言うとおりではある。


「いや、もしかするとアイツら、実は単為生殖なんじゃないか? ゴブリンの牝が存在しないという設定もそこに理由が……」


「つまり何か? あの行為は生殖行為じゃ無くて、つまりは――寄生蜂みたいな産卵行為。孵った暁には中から食い破って――」


「うわぁぁぁ、止めてくれ! 想像しちまったじゃねぇか!!」


 俺の生物学的考察をトーヤが遮り、頭を抱えた。

 お前が言い出したんだろうに。


「コラコラ、そろそろ止めなさい。ナツキがドン引きだから。それにこの世界じゃ関係ないから」

「おっと、すまん。忘れてくれ。色々まとめて」


 俺がトーヤから借りた物も含めてな。


「えっと、はい。2人とも健全な男性ですし、少し特殊な趣味も、個性だと思いますよ。受け入れられるかは、ちょっと、ですけど……」


「待ってくれ。理解を示さないでくれ。逆にいたたまれない。フィクション、フィクションだからな? 現実の趣味嗜好とは全然別の話だからな?」


 例えばエロマンガでロリなキャラが好きだからと言って、現実のロリコンとは全く違うし、妹キャラや姉キャラが好きでも現実の妹や姉はノーサンキューな人は普通に居る、いやむしろ大多数だろう。


「そうそう。現実との混同なんて――」


 俺の意見に同意するように頷いていたトーヤだったが、急に言葉を止め考え込んだ。


「どうした?」

「いや、よく考えたら、オレ、獣耳の嫁さんを――」

「今ここで言うなぁぁぁ! 確かにお前はフィクションを現実にするつもりかも知れないが! それとは全然別の話だから!」


 日本でマジで「獣耳の嫁さんをもらう」とか言っていたら痛いヤツだが、この世界ではごく普通のことである。今ではトーヤも獣耳なのだから。

 比較すること自体がおかしい。


「ナツキ、安心して。ナオの持っている物、大多数は普通の物だから」

「そうなんですか?」

「えぇ。知られると人生終わるような特殊性癖は無いと思うわ」


 自信満々に頷くハルカに、俺はなんと言うべきだろう?


「……ここは、理解して貰えて嬉しいと言うべき?」

「オレとしては、もっと上手く隠せと言いたいな」


 おかしい。トーヤから借りたアレの時は追及されたが、それ以外で見つかった記憶は殆ど無いのに。

 実は見つけても黙っていただけだった……?


「ちなみに、どのような趣味か訊いても?」

「そうね、ナオは確か――」


「さぁ! 気を引き締めていこうぜ! なんと言っても初めて行く場所だからなっ! なぁ、トーヤ」


「お、おう、そうだな! 油断は禁物だよな!」


 これ以上話を続けるとマズい。

 そんな当たり前のことを改めて認識した俺は、トーヤの背中を叩いて森へと足早に向かう。


 俺の耳には、決して後ろで3人が話している内容なんて聞こえていない。

 あぁ、全くな! メイドさんとかセーラー服とか聞こえるのはすべて幻聴なんだ。そうに違いない。


    ◇    ◇    ◇


「これは……思った以上に成長が早いんだな?」

「ああ。キノコってこんなもんなのか?」


 新しいエリアに行く前に、一昨日採取した場所を訪れた俺たちは、そこに生えているマジックキノコを見て少し困惑していた。


 一昨日の時点ではまだ採取対象になっていなかったキノコが、今では軒並み5センチ超え。大きい物では7センチに迫る大きさになっている。

 つまり、僅か2日間で2センチ以上も成長したことになる。


「私もキノコの栽培はしたことありませんので解りませんが、環境が良いと一気に大きくなると言う話は聞いたことがあります」


「あ、あたしはある。キノコ栽培。と言っても、家の中で作れる家庭用の栽培キットだけど。あの時は、最初はゆっくりだったけど、育ち始めると一気に大きくなったなぁ」


「じゃあ、キノコってこんな物なの?」

「おかしくは無い、かな? でも、今生えているのを採っちゃったら、当分は生えてこないと思うけど」


 当たり前だが、成長が早いからと言って、ドンドン生えるような物では無いようだ。

 環境が合えば数週間後に、基本的には翌年まで待たなければいけない。


 しかもマジックキノコの場合、倒れてから1、2年の木に生えるらしいので、来年もこの木に生えるとも限らないわけだ。


「しかし、この成長速度なら、あと3日ほどおいておけば、一気に値段が10倍近くになるんだよな?」

「10センチ超えか……計算上はそうだが、そんなに上手く行くか?」

「何か落とし穴ありそうよね。そんなに簡単なら、高くならないでしょ」

「食べられちゃうのか、成長速度が遅くなるのか……どっちかかな?」


 簡単に10センチ超えを達成できるなら、あの値段はあり得ないよなぁ。


「どうする? 採るか? 置いておくか?」

「難しいですよね。数日置いておいて10倍になるか、それとも無くなってゼロになるか。多分、確率としてはゼロの方が高いと思いますが」

「それじゃ、多数決で。今採取すべきと思う人!」


 手を挙げたのは、俺とハルカ、それにナツキ。


「堅実タイプとギャンブラーに分かれたか」

「ギャンブラーってほどじゃ無いだろ? 一応、理由もあるんだぜ?」

「ほう?」


「ほら、一昨日、ヴァイプ・ベアーを斃しただろ? このへんがアイツの縄張りなら、このへんに食べに来るヤツはいないんじゃ無いか?」


「確かに、食べるのがヴァイプ・ベアーだけならそうかも知れないが……他の動物、それに同業者もあり得るだろ?」


 ルーキーで2パーティー、それ以外で何パーティー居るのかは解らないが、可能性が無いとは言えない。このへんで出会ったことは無いんだがな。


「ユキの方は?」

「あたしは特に……ただ、多少食べられたとしても少しは残るかな、と」


「あのサイズの熊が食べたら、根こそぎだと思うけど。仮に小さい物は残す知恵があっても、10センチを超える前に食べるでしょ」


 ヴァイプ・ベアーが大きく育てて食べるなら、もっと採れるだろうしなぁ。


「ま、一応多数決を採ったし、ここは全部収穫して移動しましょ」

「はい」


 そうして5センチ以上のマジックキノコを採取して移動した2カ所目。

 そこは少し予想外の光景が広がっていた。


「全滅、ね」


 5センチ以上はもちろん、それ以下の物まで綺麗に無くなっている。


「これは、動物の仕業ですね。囓り取った跡があります」


 ナツキが指さしたところを見ると、俺たちが採取したところとは明らかに違う。

 軸の部分が中途半端にちぎれ、石突きが残ったままになっている上、木の方にも傷が多く付いている。


「これ、ヴァイプ・ベアーの仕業かは解らないけど、さっきの所では採って正解だったみたいだね。さすが自然、争奪戦が厳しいよ」

「うむ、それじゃ急いで3カ所目に移動しようぜ」

「そうだな」


 そしてやや足早に移動した3カ所目。こちらは問題なく残っていたので、採取。

 1カ所目と同様、5センチ以上を採取すると残りはごく僅かなので、もう一度採取に来る価値があるかどうかは微妙である。


「それなりには採ったけど、金貨20枚程度よね、これだと。頑張って新しい物を探しましょうか」

「そうですね」

「それじゃ、オレが先頭、ナオがその後ろで索敵を重視。移動優先で薬草の採取は程々に、で良いか?」

「おう」


 トーヤの方針に全員が同意し、俺たちは探索範囲を広げて歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2025年3月5日発売
異世界転移、地雷付き。 12巻 書影

異世界転移、地雷付き。 コミック2巻 書影

ComicWalkerにてコミカライズ版が連載中です。


以下のような作品も書いています。よろしくお願いします。

ファンタジア文庫より書籍化しました
『新米錬金師の店舗経営』

新米錬金師の店舗経営 7巻 書影

『けもみみ巫女の異世界神社再興記 神様がくれた奇跡の力のせいで祀られすぎて困ってます。』

けもみみ巫女の異世界神社再興記 書影

『図書迷宮と心の魔導書』

図書迷宮と心の魔導書 書影
― 新着の感想 ―
[気になる点] 恥球の方でも、動物趣味は男女共に居るし 動物の方から(性的に)襲ってくる場合もあるしねぇ
[一言] 異種族という意味では獣人、人族、エルフそれぞれも異種族ですよね。この中では交配可能という設定ですか…… 99%同じでも交配不能は確かですがあまりそこを主張してしまうと異種族である彼ら同士の関…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ