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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第十五章 王都 アルシェグリム

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471 厄介兄貴が現れた! (2)


 屋敷に近付いたところで、バタンと開く玄関の扉。

 そこから飛び出してきたのは、剣を片手に握った熊の獣人である。


 年齢は二十歳(はたち)前後。おそらく彼がリアの言っていた下の兄、オルスクだろう。


「ちぇすとぉぉぉぉっ!!」


 少し高くなった玄関ポーチから、鬼の形相で斬りかかってくる。

 気合いは十分だが、脅威となるほどの太刀筋ではないし、トーヤがすぐに対処――。


「って、俺ぇぇ!?」


 なぜか、そいつが睨み付けているのは俺であり、剣を振り下ろす先も俺。

 慌てて飛び退くと、オルスクは「ちっ」と舌打ちをして俺に指を突き付けた。


「貴様が可愛いリアを誑かした痴れ者かっ! 少し顔が良いから許されるとは思うなよ!!」


「なんでだよっ!? どう考えてもあっちだろうが!」


 慌ててトーヤを指さす――って、コイツ、気配を消してやがるっ!?

 俺が睨むと、トーヤは『何のことやら……?』とばかりに視線を逸らした。

 本来、【隠形】スキルはそこまで万能じゃないが、存在感を薄くすることはできる。


 頭に血が上って周りが見えていない男なら、誤魔化すことも可能ということなのだろう。


「むっ? ――はっ!? 確かに、その耳と尻尾はリアとお似合い!」


 オルスクはトーヤの獣耳と尻尾に目をやり、今気付いたとばかりに目を丸くする。


「だが、隠れるとは卑怯なり! 狼の獣人だからと許されるわけじゃないぞ!」


 そしてオルスクは改めて、トーヤにズビシッと指を突き付けた。


「……トーヤ、隠れていたかしら?」


「気配は薄かったけど、ちゃんと見れば気付けたよ?」


「リアのお兄さんは、なかなか面白い方……みたいですね?」


「すまない。悪い人ではないのだが、オルスク兄上はちょっと直情なところがあるんだ」


 反応に困るハルカたちと、疲れたように謝罪するリア。

 そして、リアは深いため息と共に前に出て、オルスクに声をかけた。


「オルスク兄上、トーヤと戦うなとは言いませんが、玄関先でいきなり襲いかかるのはどうかと思います。別の場所を用意しますので、そこで挑んでください。トーヤも良いよな?」


 リアがそう提案すると、トーヤは即座に頷く。


「もちろんだ。リアが言うなら、オレに否やはねぇよ」

「俺もそれで構わない。おいっ、首を洗って待っているんだなっ!」


 即座に頷いたトーヤにオルスクは威勢良くそう宣言、背を向けて立ち去ろうとするが――。


「あ、オルスク兄上、待ってください。面倒なので先に済ませましょう」

「…………お、おぅ。そうか」


 リアに呼び止められ、少し気まずそうに振り返るオルスク。

 だが、突然斬り掛かられた俺は同情などしない。

 むしろ少し落ち着けと言いたい。


「でもリア、どこでやるの? あたしとしては、綺麗な庭が荒れるのは忍びないんだけど」


「心配しなくても、この屋敷にも訓練場はある。来てくれ、こっちだ」


 そう言ってリアが俺たちを案内したのは、屋敷の裏手。そこにも表と同様に手入れの行き届いた裏庭があったが、リアはその庭を通り過ぎ、更に奥にある林の中へ。


 樹高の高い木々の間を抜けた先にあったのは、土が剥き出しになった広場だった。


「ここが、訓練場か……?」

「庭を潰さずに大規模な物を作るのは難しいから、最低限だがな」


 背後を振り返ると、目に入るのはきちんと手入れがされた林の木々。

 それに視界を遮られ、この場所からはお屋敷が見えない。


 逆に言えば、お屋敷からもこの場所が見えにくいということであり、この場所がただの空き地のようになっているのは、おそらくはあえてそうしているのだろう。


「ふん。王都の中に領地の訓練場ほど大規模な物を作るのは、さすがに難しいからな。だが、それで俺が鈍っているとは期待するな。自己鍛錬など、一本の棒と地面があればそれで十分だ」


「へぇ? つまり遠慮は要らねぇし、言い訳もしねぇってことだな?」


「お前の方こそ、負けたら素直にリアを諦めるんだな!」


 戦う前からバチバチに遣り合っている二人を見て、リアは困ったようにため息をつく。


「はぁぁ。勝ち負けに関係なく、既に婚約は決まっているのだが。すまないが、ハルカたちも協力してくれるか? オルスク兄上のことだ、一度負けたぐらいでは諦めないだろう」


 リアの頼みを受け、ハルカが少し考えるように小首を傾げて尋ねる。


「えっと……、つまり治療してほしいってこと? 私たちが治せる範囲なら構わないわよ」


「助かる。後からごちゃごちゃ言われるのも面倒だから、今回で決めておきたいのだ」


「リアも仲間だもの。気にしなくて良いわ。宿泊費の代わりだとでも思って」


 ハルカの言葉にリアが「ありがとう」と頬を緩め、ユキはフムフムと頷く。


「つまりリアとしては、何度やってもトーヤが勝つと思っているんだ?」


「私はオルスク兄上に勝ち越しているし、私はトーヤに勝てない。オルスク兄上が私の想像以上に腕を上げていれば別だが、剣術はそんなに甘くはないしな」


 リアはトーヤと婚約する前からサルスハート流の師範代で、今では皆伝を得ている。

 だがオルスクの方はといえば、まだ師範代とも認められていないらしい。


「そう言われると、トーヤに勝つのは難しそうだな?」

「だろう? ――それじゃ、早速やるぞ!」


 パンッと手を叩いたリアに促され、睨み合っていたトーヤとオルスクが向かい合って立つ。


 トーヤの鍛えられた肉体はなかなかに見事だが、オルスクもさすがはあのマーモント侯爵の息子、体格の良さはトーヤ以上であり、鍛錬も怠っていないのか、筋肉もしっかり付いている。


 そんな二人が持つのは木剣。真剣勝負でも、さすがにホンモノを使うのは避けた形だが、木剣に使われている素材は一般的な木材ではなく、下手な金属よりも硬い代物である。そんな武器をトーヤたちの筋力で振るえば骨折は免れず、当たり所が悪ければ命の危険まであるだろう。


 それを懸念してか、厳しい表情でリアが注意を促す。


「双方、これは手合わせだ。意図的に致命的な攻撃をすることは禁止だ。良いな?」

「了解。ま、力加減は慣れているからな」

「すべて解っている。心配するな」


 その『慣れ』に貢献させられてきた俺としては、微妙に安心できないトーヤの発言。

 そして、何やら『確信』を得たようなオルスクの言葉。

 う~ん、これ、大丈夫か……?

 だが、そんな俺の心配を余所に試合は始まる。


「改めて問う! 小僧っ! 貴様にリアが守れるか!!」


「小僧と言われるほど、年齢は離れてねぇよ! ――いや、当然守るけどよ」


「良く言った! だが、口先だけの覚悟など無意味! 嘘ではないと見せてみろ!!」


「おうっ、言われなくても! リアはオレの理想の女。命に替えても守ってみせるぜ!」


 何とも言い難い舌戦に、リアが僅かに頬を染めて何度も瞬き。尻尾もパタパタ。

 小さく咳払いをして片手を上げると、一瞬動きを止めてから振り下ろした。


「――始めっ!」


 リアがそう宣言した直後、オルスクが動いた。


「死ねぇぇぇ!」


 気合いは十分。

 だが、致命的攻撃禁止はどこへ行ったのか。

 思いっきり殺気の籠もった唐竹割りでトーヤに迫る。

 しかし、トーヤはそれを軽く受け流し、がら空きの胴体に一撃。


「ぐっ……、き、効かんなっ」


 オルスクは腹を押さえ、数歩後退しつつそう言うが……いや、確実に効いているだろ。


 全力ではなかったようだが、良いのが一本、しっかり入っていたし。

 普通の試合であれば、仕切り直しの状況である。


「う~ん、良いのか……?」


 トーヤが判断を仰ぐようにリアを見る。

 だが、この程度で止めるつもりはないようで、リアは小さく首を振った。


「ふっ、怖じ気づいたかっ」

「それはオレの台詞なんだが……。もう少し、本気で行くぞ?」

「うっ……。の、望むところだっ!」


 若干怯みつつも、武器を構えたオルスクにトーヤが飛び込む。

 斜め下から切り上げるような攻撃をオルスクが受け止め、始まったのは鍔迫り合い。

 場所を入れ替えつつ、互いに押したり引いたり。状況が膠着する。


「……どうやら、少し長引きそうね」


 ハルカのその呟きが聞こえたのだろうか?

 トーヤが一度大きく退いてから再度踏み込み、試合は激しい打ち合いへと移行した。


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― 新着の感想 ―
なるほど。オルスク兄上は悪い人ではないが頭が悪い人ではある、と_φ( ̄ー ̄ ) 気持ちは分からんでもないが、子供ならまだしもいい大人がこの言動はちょっとね…まあトーヤにボロ負けするのが確定的に明らかだ…
バカは半殺しにならなきゃ学習しないのよ(笑)
いくら直情的でもまずは謝ろうな 父親が良かったのもあって評価だだ下がりだよ長男くん
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