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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第十四章 新たな道

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486/511

452 顔合わせ (4)

『異世界転移、地雷付き。第6巻』が発売されました。

どうぞよろしくお願いいたします。


詳細は活動報告、下記URLにて。

ご購入特典のSSも公開中です。

https://itsukimizuho.com/

 突然ぶち込まれた豪速球を喰らい、フィナンシェもどきが変な場所に入る。


「――っ、んっ、んぐっ!」


 だが、侯爵を目の前にまさか吐き出すわけにもいかず、俺は必死で喉を動かす。


「ナ、ナオ、大丈夫!? これ、飲んで!」

「ナオくん、大丈夫ですか!」


 そんな俺にハルカが持っていたティーカップを差し出し、素早く立ち上がったナツキが俺の背中をさすってくれる。


 その手からなんだか温かいものが――あぁ、治癒魔法か。


 僅かに楽になった俺はハルカ差し出すカップに手を伸ばし、なんとか口の中の物を嚥下した。


「た、助かった……。ふぅ……」


 お茶を一口飲んでカップをハルカに返し、俺が深く息を吐くと、中腰になっているユキが何故か歯噛みしていた。


「くっ、出遅れた!」

「いや、何が!?」

「敗因は席順か!」

「いや、だからなにが!?」


 意味不明なことを言うユキに俺が思わずツッコむと、正面に座っているマーモント侯爵がニヤニヤと笑う。


「おー、おー、仲よさそうだなぁ?」


 ――原因、あなたなんですけど!?


 とはいえ、そんなことを侯爵相手に言えるはずもなく、俺は数度深呼吸をし、気持ちを落ち着かせてから尋ねた。


「……どういうことでしょうか? 俺が貴族?」

「どうもこうも、そういうことだぜ? 良かったな?」


 良くはない。


 俺は別に貴族になりたいとは思っていなかったし、その必要があるのはトーヤである。


 俺がなってどうするのかと。


 そんな俺の戸惑いを感じてか、レイモン様が呆れたようにため息をついてマーモント侯爵に視線を向けた。


「父上、唐突すぎですよ」

「話が長いつーから、端的に言ってやったんだが?」

「端折りすぎです。ちゃんと説明しないと彼も困るでしょう」

「ふむ、そうだな……」


 マーモント侯爵は少し考えるように腕組みをして、言葉を続ける。


「切っ掛けは、儂とお前たちが出会ったダイアス男爵の婚礼だな。あの時、アーランディ・スライヴィーヤとも会ったことを覚えているか?」


「はい、エルフの」


「そうだ。あいつはスライヴィーヤ伯爵の名代として来ていた。つまり、領地に戻れば父親に報告する必要があるワケだ。で、あれだけ目立っていたお前たち二人のことも当然報告する」


「……そんなに目立ってましたか?」


「かなりな。エルフが少ないこともあるが、護衛としては華がありすぎた」


「あぁ、確かにハルカは」


「ちょっと、ナオ……」


 思わず頷く俺の脇をハルカが恥ずかしそうに肘で(つつ)くが、変な貴族もナンパしてきたし、ある程度の視線を集めていたことは間違いないだろう。


 ドレスも似合っていたし、俺も思わず見惚れてしまったほど――惚気じゃないぞ?


「そういえば、あの時はアーランディ様に助けて頂きましたね。ですが、それにしても――」


「それだけじゃない。イリアスへの襲撃を退けたのもお前たちだろう?」


「……確かにあの賊は、かなりの強敵でしたね」


 自惚れるつもりはないが、おそらく俺たちがいなければ、退けることは難しかっただろう。


 アーリンさんもそれをやや誇張気味に噂を流したようだし、目立つことも理解できる。


 もっとも、それだけであれば『有能なエルフの冒険者がいる』という程度のこと。

 スライヴィーヤ伯爵としても、数ある情報の一つでしかなかった。


「だがその直後、ネーナス子爵がお前たちにダンジョンとその周辺の土地を譲った。娘の命を救ったにしても、護衛の報酬として与えるにはやや過剰――つっても、あそこの実情を知る儂からすりゃ、上手くやったなって程度なんだけどな」


 マーモント侯爵はそう言って苦笑し、肩を竦める。


 ネーナス子爵と付き合いがあり、その内情を知っているマーモント侯爵であれば、俺たちに渡された報酬がネーナス子爵家にとっての不良債権と理解できるが、スライヴィーヤ伯爵はそうではない。


 ただの冒険者にそこまでの報酬を与えることに疑問を覚え、更なる情報収集を始めたらしい。


「そこで更に『ダンジョン内で海を発見』という報告が加わった。これは確定的かとナオを貴族にしようと根回しを始めたということだな」


「それが解りません。何故そんなことに……」


 ダンジョンを手に入れようと動き始めるのなら解る。

 そんな面倒事を避けるため、俺たちはラファンを離れたのだから。

 それがどうすれば、俺を貴族にするという話に?

 あまりにも状況が飛躍しているんじゃないだろうか?


「簡単に言えば、スライヴィーヤ伯爵がエルフで、お前もエルフだからなんだが……解らねぇよな? お前たち、この国の事情に疎そうだしなぁ。――この国が多種族融和の方針を採っていることは知っているか?」


「はい。おかげで俺たちも問題なく暮らせています」


「そうだろうな。当然そこには、優秀な人材を集めるという狙いがあるわけだが」


 人族以外が差別される周辺国――ユピクリスア帝国やフェグレイ王国などにいる人たちからすれば、少なくとも明確な差別が禁止されている分だけ、レーニアム王国は暮らしやすい。


 それだけで自然と人は集まるし、そのような人たちはレーニアム王国がユピクリスア帝国などに征服されることを恐れ、国に対する忠誠心も高くなり、防衛にも積極的になる。


「そんな中から、更に才ある者を掬い上げるために考えられたのが、貴族の入れ替わりが起こる現在の制度なんだが、やはり人族の割合が圧倒的に多くてなぁ……」


 種族的な性格によるものか、人族の人口割合に比べて、貴族に於ける人族の割合が非常に高いらしい。


 そんな貴族の中には、大っぴらにではないものの、人族以外を差別する者も存在している。


 現状はなんとか上手くいっているが、種族間のパワーバランスがあまりにも崩れると、国の方針が変更されることにもなりかねない。


 この国の力の源は、多種族融和にある。

 それが崩れるようなことになれば、どうなるか……。


 そのような危惧を抱く貴族たちは、常々人族以外の貴族を増やすことを目指しており、スライヴィーヤ伯爵もその一人だった。


「そこで白羽の矢が立ったのが、ナオ、お前ってわけだ。冒険者ランクはまだ低いが、海のあるダンジョン。あれの政治的価値は大きい」


 利益は上がりそうもないが、戦略的には価値のあるダンジョン。

 それの所有権が個人になっている現状は、国としてはあまり嬉しくない。


 無理をして手に入れようとする貴族が出かねないし、まかり間違って他国の息の掛かった人物に譲渡されても困る。


 かといって、国が一度認めた権利を理由なく取り上げることは避けたい。


「そんな国の思惑と、エルフの貴族を増やしたいスライヴィーヤの思惑が重なった結果、ナオをダンジョン周辺を領地とした貴族として、独立させてしまおうっつー流れになったわけだな」


「そうですか……でもそれなら、トーヤを貴族にするべきなのでは?」


 リアとの結婚に貴族位が必要なのはトーヤなのだ。


 ダンジョンが問題であれば彼が代表になれば良いし、むしろそうした方が色々スッキリ収まるはずだが、マーモント侯爵は苦笑して首を振った。


「先に動いていたのが、スライヴィーヤのやつだったからなぁ。儂が動き始めたのは、リアからトーヤの話を聞いた後。二、三歩出遅れておきながら、横車は押せねぇ」


 獣人でも『人族以外の貴族』ではあるが、先に根回しを始めたのはスライヴィーヤ伯爵。


 そこでマーモント侯爵が、強引にトーヤを押し込もうとすればどうなるか。


 トーヤがエルフならそれでも問題はなかったのだろうが、獣人ではすんなりといくはずもない。


「そんなわけでな、儂は逆にナオを後押ししてやったわけだ。やや強引だったが、子爵の地位をぶんどってやった」


「……はい?」


 貴族といっても、せいぜい最下級の騎士爵、良くて男爵だと思っていたのだが、いきなり子爵?


 どーゆーこと?

 困惑したのは俺だけではないようで、ハルカが眉根を寄せて口を開く。


「子爵、ですか? ネーナス子爵のお隣なのに、どう考えても良好な関係を築けるとは……」


「安心しろ。そこは儂が話を付けておいた。ネーナス子爵家にも利益がある形で纏めたから、問題ねぇよ。まぁ、実際に任命されたら、挨拶ぐらいは行った方が良いと思うがな」


「それは……はい……」


 伯爵に言われてしまえば、子爵としては不満があってもそれを表には出せないだろう。


 本当に問題ないのかは疑問だが、それ以上はハルカも何も言えず、釈然としない表情ながらも頷く。


 マーモント侯爵もそんなハルカの心中は察しているのだろうが、それについて言及することはなく、そのままトーヤに視線を移してニヤリと笑った。


「で、トーヤ、お前は男爵な?」


「――はいぃ? オレが?」


「ナオの配下となるが、文句はねぇだろ?」


「え、い、いや、それでリアと結婚できるなら、全然構わねぇけど……男爵?」


「レアが嫁ぐのに、男爵ぐらいの地位は必要だろうが。そのために、ナオを子爵にしたんだからな。それにダンジョンの権利者を一つの家に纏めておけば、面倒事も起きにくいしな」


 本来であれば、ダンジョンに関連して増える貴族は一人だけだった。


 だが、スライヴィーヤ伯爵の提案にマーモント侯爵が賛同することで彼を味方に付け、更にはネーナス子爵家にも根回して推薦を取り付けた上で、侯爵家の長女であるリアが嫁ぐことも利用して貴族の枠を二つに拡大。


 結果的に俺を子爵に、トーヤを男爵にすることに成功したらしい。

 さすがは侯爵と言うべきか。

 一見すると脳筋にも見えるのに、やっていることはとても貴族っぽい。


「俺が子爵家になり、トーヤが家臣……ハルカたちは?」


 ダンジョンの権利というならハルカたちも外せない。


 そのぐらいはこちらで調整しろということなのかもしれないが、俺とトーヤだけでは、権利の過半数にも満たないとマーモント侯爵を見れば、マーモント侯爵は不思議そうにこちらを見返した。


「あん? お前とその三人、結婚するんだろ?」

「んな!?」


 そこからそんな話が――もしかして、ミーティアか!?

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2026年4月3日発売
異世界転移、地雷付き。 14巻 書影

異世界転移、地雷付き。 コミック2巻 書影

ComicWalkerにてコミカライズ版が連載中です。


以下のような作品も書いています。よろしくお願いします。

ファンタジア文庫より書籍化しました
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― 新着の感想 ―
ダンジョンに海があるという事は塩が取れる可能性があるという事ですからね 製塩技術や輸送力に難がある世界では国内で塩を生産できるというのは重要 普通なら海のある階層まで往復して塩を取るのは困難ですが、ナ…
そ、そうきたかぁ〜〜っ 前話の引き見たときは「貴族(ナオ)がリーダーの冒険者パーティーに所属してる」じゃ理由としては弱いからどうするんだろうと思ってたけど、ナオを子爵にしてトーヤを男爵にするとはw
なるならないはこの世界の貴族にどこまでの義務があるかによるけど 普通に考えて本人に一言もなく、貴族の話しが進むのはありえないのでは? 1冒険者でしかなく、いくら情報が入ってたとしても断られたら根回しし…
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