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043 絶望をプレゼント

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

アエラさんの話を訊くと、クラスメイトの口車に乗せらた事が不振の原因っぽい。

ロリエルフの不憫な様子に、手助けを約束するナオ。

仲間との相談の結果、翌日、ユキとナツキを伴って再び訪れることに。

「ここがその喫茶店ですか……正に『喫茶店』ですね」

「うん。日本の住宅街にありそうな、ちょっと良い雰囲気の喫茶店みたい」

「だろ? 取りあえず入ろうぜ」


 扉を開けて中に入ると、今日もやっぱり客はいない。


「いらしゃ――あっ! ナオさんっ!」


 アエラさんはカウンターで憂鬱そうな表情を浮かべていたが、俺の顔を見た途端、表情を輝かせてこちらに走り寄ってきて、俺の手を取って握りしめた。


「来て、来てくれたんですね!! ありがとうございます!」


 少し涙目で、こちらを見上げてくるアエラさん。

 後ろでボソリと「「ギルティ」」という声が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。


「昨日、来るって言ったよね? ほら、大丈夫だから落ち着いて?」

「あっ、そうですね、すみません」

「ほら、まずは俺の仲間を紹介するから。こっちがナツキで、こっちがユキ」

「よろしくお願いします」

「よろしく。――っていうか、ナオの喋り方が変。何か……ナンパ野郎みたい」

「そこまでか!? 滅茶苦茶心外なんだが!」


 確かに少し子供を相手にするような口調になっていたような気もするが……外向けの丁寧語で話すべき?


「あの、普段の話し方で良いですよ?」


 そうアエラさんに言われ、俺は少し考えて頷いた。


「う~ん、そこまで意識してなかったんだが……解った。ユキたちと同じ感じで話すわ。失礼だったらすまん」

「いえいえ。そんなに年も変わらないですし、大丈夫です」


 あ、同じぐらいなんだ?

 いや、当たり前か。むしろ、お店で修行して独立できるほどの資金を貯めたとなれば、年上の可能性が高い。


「ま、この2人が俺の仲間――の内の2人。あと2人、獣人とエルフもいるが、用事があるから今日は来ていない。そのうち余裕があれば、来るかも知れないが」


「あ、他にも同族の方がいるんですね。会ってみたいです。この街、同族の方を見かけなくて……」


「あー、確かにエルフ、見かけないな」


 アエラさんが修行していた街であれば、大通りを歩けば数人はエルフを見かける程度にはいたらしい。

 この街だと、エルフはアエラさんが初めて、他の種族も数人程度しか見かけた記憶が無い。


「ま、時間ができたら連れてくるよ。まずは、この店の立て直しを考えよう」

「そうですね! それで……どうしましょう?」


 そう言って首を捻ったアエラさんに、俺はユキたちを示して言った。


「まずは……この2人に今日のランチを出してもらえるか? 1人分でいいから」

「はいっ! 解りました! でも、少し時間がかかりますけど、良いですか?」

「あぁ、まだ朝だもんな。問題ない。頼むよ」

「解りました。少々お待ちください」


 アエラさんがぺこりと頭を下げて厨房へと引っ込む。


「――ふ~ん、可愛い子だね?」


「えぇ。外見的には年下に見えますし、守ってあげたくなるようなタイプです。ナオさんはあんな子が好きですか? ロリコンですか?」


「酷い言いがかりだ!? そんなんじゃないから!」


 可愛いと思っていることは否定しないが、そんなつもりは全く……あんまり無い。


 ――いや、だって、俺だって男だし? 可愛い子がいたらちょっとはそう言う気になるのも仕方ないだろ?


 むしろ、女の子に何の興味が無い方が異常である。うん。

 それにアエラさんはロリじゃない。多分、年上なんだし。


「そ、それよりも、今は店のことだろ? 何かアドバイス、無いのか?」

「へぇーー、まぁー、いぃけどぉぉぉ?」


 ちっとも良さそうじゃない言い方で、ユキが頷きつつ、店の中を見回す。


「お店の中は良い雰囲気だよね」


「えぇ。お掃除も行き届いていますし、こういう所で午後のお茶の時間、過ごせる余裕があると良いですね」


「なるほど、カフェか……」


 サールスタットに行く前に出かけた喫茶店は、少し高めの料金設定ながら流行っていた。

 あそこを目指せば良いのかも知れないが、少し場所が問題か?


 多少知名度があれば、落ち着いた雰囲気の喫茶店として人が来るかも知れないが、宣伝方法が殆ど無いこの世界では、そこに辿り着くまでが少し大変かも知れない。


「メニューは……無いんですか?」

「壁に掛けずに、木の板を渡されたな」

「うーん、そうですか……」


 ナツキが少し難しい顔でうなる。

 日本だと一般的な手法だが、こちらの世界では珍しい。じっくり選べるので、良いと言えば良いのだが……。


「お、お待たせしました! えっと……テーブルに置きますね」


 厨房から出てきたアエラさんが、持っていたお皿をカウンターに置こうか一瞬悩んだ様子を見せた後、俺たちの人数を考えたのかテーブルへとお皿を置いた。


「どうぞ! 食べてみてください」

「へぇ、綺麗な盛り付け。いただきます」


 まず最初にユキが料理を一口ずつ食べ、ナツキへと回す。


「うん。どれも美味しいね。水準以上……いや、かなり上かな?」

「えぇ、多分ですが、この街だと上位でしょう」


 ナツキがさらに一口ずつ食べたお皿が、そのまま俺の前に。

 うん、さっき朝食を食べたところだもんな。食えないよな。

 仕方ないので俺が残りを処分。

 昨日とは違う料理だが、やはり美味い。

 味付け自体は比較的シンプルなのに、これは香草のたぐいの使い方が巧いのか?


「あと……メニュー、見せて頂けますか?」

「は、はい! これです!」


 アエラさんがパタパタとカウンターへ駆けていき、そこからメニューを一枚持って帰ってくる。


「……なるほど。解りました。取りあえず、座って話し合いましょうか? いいですか?」

「はい! それじゃ、飲み物持ってきますね! 何が良いですか?」

「何でも構いませんが……こちらのムスーク茶を頂けますか? 2人もそれで良いですか?」


 なんだそれ?

 よく解らないが、ナツキが選んだなら何か意味があるのかもしれないので頷いておく。


「解りました。少々お待ちください」


 再びパタパタと厨房へと引っ込んだアエラさんを見送り、俺たちはテーブル席へと腰を落ち着けたのだった。


    ◇    ◇    ◇


「さて、まず『なぜお客さんが入ってこないか』ですが、これは簡単です」

「ほ、本当ですか!?」


「はい。アエラさんもきっと自分のお店じゃなければすぐに気付いたと思いますが、店構えが高級すぎるのです」


「あ、やっぱり」

「だよな」

「――はっ!」


 このあたりはごく普通の住宅街で、特別金持ちが住むようなエリアではない。

 大通りでもないので、別のエリアに住む人たちが通るような道でもない。


 つまり、普段この店の前を歩く人たちにとって、この店の外観はいかにも高級そうに見えるのだ。


 俺だって元の世界の常識があったから入ろうとしたが、あの時にアエラさんが出てこなければ回れ右して帰っていたことだろう。


 財布の中身なんか気にしない、というお大尽であれば入ってくるかも知れないが、ごく普通の一般庶民にとっては、『価格 時価』みたいなお店はそうそう入れないのだ。


 そう言うお店でも、誰かに紹介されて、予算が解っていれば入ってくるのだろうが、新規出店したこのお店の場合、そんな繋がりもない。

 必然的に誰もお客がいないという、この現状である。


「言われてみれば、確かにそうです。綺麗で素敵なお店ができたと喜んでいましたけど、私のお給料でこのお店に入ろうと思うかと言われたら……躊躇ちゅうちょします」


 気落ちしたように俯いてしまうアエラさん。

 普通ならすぐに気付きそうな物だけに、余計に情けなさを感じてしまうのだろう。


「でも……それが解っても、もう場所を移すお金はもちろん、外装を替えるお金も……」

「いえ、別にそんなお金がかかることは必要ないですよ」

「そうそう。要は値段が解れば良いんだから。お店の前に簡単な値段表でも出しておけば良いだけだよ」


 雑居ビルの2階以上の飲食店が良くやっている手法で、俺たちにはおなじみのアレである。

 階段の前に置いてあるメニューや写真を見て、上がるかどうか決めるアレ。


 アレがなければ、わざわざ階段を上がって上のお店に行こうなんて思わないだろう。

 それこそ、誰かからの紹介、もしくはインターネットなんかで事前に調べるとかしていなければ。


 ユキが『こんな感じ』とジェスチャーを交えて説明する看板の仕組みに、アエラさんはウンウンと嬉しそうに頷く。


「それなら、このお店の改装を頼んだ大工さんにお願いすれば、作ってもらえそうです! ありがとうございます」


「少し手間を掛けるなら、看板は黒く塗った板にして、チョークで毎日書き替えるとかしても良いかもな。日替わりランチなら、どんな料理かの説明やイラストなんかを描くと興味を引くと思うし」


「なるほど! 確かに……」


 このへんの食堂で『メシ』の言葉で出てくる日替わりは説明なんか無いから、ある意味、博打なんだよなぁ。

 しかも基本、勝率ゼロである。

 微睡みの熊亭以外。

 店の外に説明書きがあれば、『美味そうだから入ろう』という人も出てくるだろう。


「さて、これで多分、お客さんは入るようになると思いますが……」

「はい! どうもありがとうございました」


 満面の笑顔でぺこりと頭を下げるアエラさんに対し、ナツキは首を振って、きっぱりと言った。


「でも、多分失敗しますよ?」

「――えっ?」


 その言葉に、アエラさんの笑顔が固まった。

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