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041 喫茶店?

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

微睡みの熊で宿泊。

翌日、ハルカたちはバックパック作り、トーヤはどこかに出かける。

ナオは1人、街へと散策に繰り出した。

 オシャレな店構えに、店の前に飾られた鉢植えの花。


 これまでのお店にあったような『一見さんお断り、この店には独自ルールがあるぜ!』的な雰囲気の無いお店。


 うむ、これなら入れそう。良い感じの喫茶店だし……ん? 喫茶店?


 ふと気付き、俺は店の扉に伸ばしかけた手を止めた。

 このお店、外観的にはちょっとオシャレな喫茶店という雰囲気だが、ここは日本の常識が通じない異世界である。


 ――これって、ある意味、超高級店じゃないのか?


 ことさら言うほどのことでもないが、俺自身(・・)はさして金を持っていない。

 俺たちのお財布はハルカが管理しているし、ほぼ常に一緒に行動していたので金を持つ必要が無かったのだ。


 なので、持っているのは小遣い程度である。

 具体的には500レア。

 というか、本当に小遣いなのだが。


 ハルカが「所持金ゼロじゃ不安でしょ?」と渡してくれただけで、実際に使った事はない。

 朝夕は宿でそれなりに美味い食事、昼は森の中で食事。

 『小腹が空いた』と買い食いしようと思うには、『初日の屋台の味』というブレーキが利きすぎている。


 もちろん美味いところもあるんだろうが、ちょっとした間食程度なら、ハルカがまとめ買いしているドライフルーツで十分である。それなりに美味く味も保証されているので、あえて少ない所持金で冒険しようとも思えないのだ。


 だが、不足は無いと思っていた小遣いも、この店だとちょっと不安が残る。

 店構えが他の食堂とは一線を画しているのだ。料金だってそうで無いと言い切れるだろうか?

 俺は伸ばしかけた手をそっと引っ込めて、きびすを返そうと――


 がちゃっ!!


 きびすを返す直前、扉が開いて中から出てきたのは、俺よりも頭一つ分は背の低い女の子。後ろでまとめた髪の間から、ちょこんと出ている耳が少し尖っている。


「い、い、いらっしゃいませ!! お客さん、お客さんですよね!?」

「お、おう」


 し、しまったぁぁ! つい肯定してしまった。


 だけど仕方ないだろ? 美少女のエルフさんですよ?

 ちょっと涙目で、ロリっぽい感じの。


 そんな娘にちょっと必死そうに言われたら、頷くしか無いだろ? 男として。


 え? 自分もエルフだし、ハルカだってエルフだろ、って?


 そんなの関係ねぇ。美少女は何人居ても美少女なんだ!


 ……おっと、最近、オヤジ成分ばかり多かったから、ちょっと暴走してしまったか。


「ささっ、入ってください!」


 涙目から、満面の笑顔に変わったエルフさんに促され、お店に入る。


 外観から想像されたとおり、内装も落ち着いた喫茶店風。

 カウンター席とテーブル席が複数。比較的余裕を持った配置で、少し腰を落ち着かせてのんびりできるような雰囲気。


 これまでこの世界で見てきた食堂などとは一線を画し、店の所々には観葉植物っぽい物も置かれていた。


 ――はい、どう考えても高級店です。


 元の世界なら、いくら高級な喫茶店でも500レア――おおよそ5,000円相当――あれば、軽食ぐらいは食べられたが、ここだとヤバイかもしれない……飲み物ならなんとかなるよな!?


「ここ、ここに座ってくださいっ」


 ニコニコと、それでもやや緊張気味なエルフさんに促されるまま腰掛けたのはカウンター席。

 エルフさんはそれを確認するとすぐにカウンターの中に入り、俺の正面に立つ。


「ご注文、な、何にしましょうかっ」

「えっと……」


 高級感を感じさせる内装に内心ビクビクしながら、さりげなく店内を見回す。

 この世界だと、一般的には壁にメニューが掛かっていたりするのだが……ないな。


 あとは、適当に『肉と酒』みたなアバウトさで頼んだりするみたいなんだが、さすがにここでそれをやる勇気は無い。


「メニュー、は……」

「あ、す、すみません! これ、ですっ!」


 慌ててしゃがんだエルフさんはカウンターの下から一枚の板を取り出し、俺に差しだしてきた。


「ありがとう」


 なんだかエルフさんが余裕無い感じだからか、逆に俺が落ち着いてきた。

 なんというか、まるで背伸びをしてお店を手伝っている小さい子、みたいである。微笑ましい。


 もちろんエルフだけに、俺よりも年上という可能性も多分にあるのだが。

 しばらく鑑賞していたい気分ではあるが、今はメニューだ。

 俺のお財布で賄える物を探さないといけない。


 一番安い物は――


「……あれ?」


 メニュー表に視線を落とした俺は、内心首をかしげた。


 なんというか……安い?


 いや、屋台なんかに比べるともちろん高いし、ドリンクも少し割高なのだが、食事関係は普通の店と変わらない。


 平均よりも安い『微睡みの熊』亭と比べれば高いが、俺のお小遣いで十分食べられるお値段なのだ。


 俺はメニューから少し視線を逸らし、そっと店内を見回す。


 ――うん、改めて見るまでも無いね。誰も居ない。


「あの、どうかしましたか?」

「い、いや、何でも無いよ。うん。じゃぁ、この日替わりをもらおうかな?」

「はい! わかりました! 少々お待ちください」


 エルフさんはにっこりと微笑むと、すぐにバックヤードのキッチンへと引っ込んだ。


 ……う~ん。これはどうしたことか。


 今は昼時である。

 このお値段で誰も客がいないって……?


 俺が頼んだ日替わり定食で50レア。食堂で食べる食事としては平均的か、少し安いぐらいのお値段だ。


 この世界の食堂だと、ほぼどこでもこれぐらいの値段で日替わりが食べられる。

 日替わりとしてメニューに載っていなくても、『メシ』とか『何か食い物』とか言って注文すれば出てくるのがそれだ。


 比較的安く腹に溜まるものが食べられるので、かなりの割合で注文されるのだが、一般的なその中身と言えばかなり微妙。


 俺たちも一度注文したことがあるのだが、出てきたのは一枚の皿の上に塩ゆでしたニンジンとアスパラのような野菜が数本、内臓混じりの屑肉を塩で炒めた物が一山、デカい黒パンが一塊。


 はっきり言って不味かった。クセの強い野菜は筋っぽいし、肉のくさみも強く、黒パンも固くて酸っぱかった。


 ()()屋台よりは多少マシだったが、それでも全部食べきるのにはかなりの苦労を強いられた。


 それ以来、昼食時に街にいる時には多少時間がかかっても、宿に戻ってから食事するようになったほどだ。


 もしかすると探せば同じように美味い飯屋もあるかもしれないが、外れる度に不味い飯を食べなければいけないのはキツすぎる。


 ――まぁ、今日は一人だったから、こうしてギャンブルに出てみたわけだが。


 店の外観からはあたりかと思ったのだが、()()屋台ですら、購入者はいた。

 なのにここには誰もいない。

 客が一人も居ないレベルでマズイとか、逆に興味深いかもしれない。


 いや、もちろんマズイと決まったわけではないのだが。


「お待たせしました! 今日の日替わりです!」

「おっ、これは……」


 さほど待つこともなく出てきたその料理。

 その見た目はこれまでの食事とは一線を画していた。


 まず野菜。

 4種類の野菜が一口大に揃えてカットされ、綺麗に盛り付けられている。


 肉もサイコロ状にカットされ、全面こんがりと美味しそうな焼き目が付いている。


 主食となるものは潰したイモのようだが、その中にはミンチにした肉や野菜のような物が見て取れ、それが綺麗に整形されて乗っている。


 元の世界で言えばファミレスレベルではあるが、他の食堂のドチャ、グチャが基本の『皿に料理を乗せただけ』、『盛り付け? なにそれ?』に比べれば雲泥の差がある。


「ほうほうほう……。では、いただきます」


 いざ、実食。


「……うむ」


 普通に美味い。


 調味料のバリエーションの少なさから如何いかんせん淡泊な味ではあるが、決して不味くは無いし、俺でも時々食べに来ても良いかな、と思えるレベル。

 宿のオヤジの料理とも甲乙付けがたい。


 宿の料理がやや野趣溢れると表現するならば、こちらの料理は少し上品。女性受けしそうな味付けだ。

 逆に肉体労働者には少し物足りないかもしれないが、この店の雰囲気ならこれで正解だろう。


「どう、ですか?」


 カウンターの向こうから心配そうに俺を見ていたエルフさんが、おずおずと訊ねてくる。


「かなり美味しい。どうしてお客さんがいないのか、不思議だね」


 そう素直に感想を言ったところ、エルフさんは顔をゆがめて目尻に涙を浮かべ、カウンターから身を乗り出して俺にすがりついてきた。


「ど、同族のよしみでお話、聞いて頂けますか!?」

「は、はい。聞くだけになるかもしれませんが……」

「それでも構いません……」


 かなり追い詰められていたのか、俺のそんな曖昧な言葉にも安心した様な表情を浮かべるエルフさん。


 彼女はホッと息を吐くと、2人分のお茶を用意してカウンターに置き、俺の隣に座ってポツポツと話し始めた。

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