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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第十三章 誰が為の……
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419 坑道の中へ (2)

 坑道の探索を始めて三日目。


 特に問題が発生することもなく、探索は順調に進んでいたが、残念ながらシャリアたちの精神の方はダレ始めていた。


 当初こそ緊張で固くなり、ちょっとした音でもビクついていた三人だが、これまで一度も魔物と遭遇していないこともあり、緊張感の維持が難しくなっているのだろう。


 ダンジョンであれば、こんなに長時間、敵と遭遇しないなんてことはないのだが、ここは坑道。基本的には敵がいない場所なのだ。


 気持ちは理解できるが、どこかに魔物がいるのはほぼ確実なのだから、この状態はちょっとマズい。


 そろそろ注意するべきか、それともシャリアをリーダーとしているのだから任せておくべきか。


 そんなことを考えていたら、メアリが「ちょっと待ってください」と手を上げて全員を止めた。


 メアリも気になったのか、などと思ったのも束の間、彼女が口にしたのは別のことだった。


「そこの横穴、地図に載っていません」

「横穴ってこれ? ただの記載漏れじゃないのかな?」


 メアリの指さした先にあったのは、直径一メートルに満たないほどの丸い穴。


 まるでシールドマシンで掘り進めたかのように綺麗な円形で、ランタンの明かりでは見通せないほど、遠くまで真っ直ぐに続いている。


「それはあり得ないと思います。そもそも、人が掘った穴じゃないと思いますし」

「ちょっと小さいし、形が綺麗すぎるにゃ。これ、なんだにゃ?」


 例えば放水路などであれば、このような形の穴もあり得るだろうが、坑道と考えるならあまりにも狭すぎるし、ここまで綺麗に整える必要性もない。


 おおよそ予測は付くが……。


「メアリは何だと思う?」

「おそらくですが、ロック・ワームが通ったあとじゃないかと思います」

「おぉ、ちゃんと勉強していたか。えらい、えらい」


 そう言いながら俺が頭を撫でると、メアリは「えへへ」とはにかみ、嬉しそうに胸を張った。


「環境を整えてもらってますから。鉱山に出そうな魔物については、ちゃんと復習しておきました!」


 魔物の情報が載っている魔物事典は何巻もあり、それなりに稼いでいる冒険者でなければ買うことは難しく、持ち歩くこともまた難しい。


 それに拠点としている町から移動しないのであれば、その周辺の魔物については冒険者ギルドに情報があるため、無理して買う必要性もなかったりする。


「むー、ミーも魔物事典は読んでるの! だからちゃんと判ってたの!」


「そうか、そうか。それじゃ、他の魔物である可能性は?」


「この穴の大きさだと、たぶんないの。アシッド・ワームも岩山に来ることがあるけど、壁の跡が違うの」


 しゃがみ込んだミーティアが指でなぞったのは、縦方向に刻まれた筋のような物。

 それが穴の全周に亘って細かく刻まれている。

 もしもアシッド・ワームなら、これがもっとツルツルで跡が残っていない穴となる。


「よく覚えていたなぁ。ミーティアもえらい、えらい」


 ミーティアの方も撫でてやれば、鼻から息を吐きつつ、メアリ以上に胸を張る。


「むふんっ。魔物事典はもう何回も読み返してるの!」


 それにしたって、言われてすぐに出てくるのは、きちんと覚えている証拠。

 やはりミーティアは、かなり地頭が良いのだろう。


 俺は出発前に読み直していたから思い出せたが、そうでなければアシッド・ワームは出てこなかっただろう。


「他にもこんな穴を掘る魔物はいるが、ミーティアが指摘した跡からして、ロック・ワームで確定だろうな」


「へぇ……さすがは高ランク冒険者、知識も豊富――えっ? ってことは、今回の事件は、そのロック・ワームが原因ってことなの!? 全然、ゴブリン関係ないよっ!」


 シャリアはどこか拍子抜けしたように叫ぶが、俺は首を振ってその言葉を否定した。


「それはどうだろうな。この穴、外に続いていそうじゃないか? 空気の流れも感じられるし」


「ゴブリンなら、十分に通れる大きさなの」


「逆に言えば、オークやオーガーが侵入している確率は、かなり低くなったとも言えそうです」


「ついでに言っておくと、ゴブリンよりロック・ワームの方がよっぽど危険だからな?」


 個体差はあるが、ロック・ワームの長さは直径の一〇倍から二〇倍。

 この穴の大きさからして、一〇メートルを超えることは十分に考えられる。


 その巨大なワームの先頭部分はほぼ全てが口になっていて、岩をガリガリと削り取る丈夫な歯が並んでいるのだ。


 そんな物に噛みつかれでもしたら、余程丈夫な防具でなければ、簡単に齧り取られてしまうことだろう。


「俺やメアリたちの着ている鎖帷子なら耐えられると思うが、シャリアたちの防具だと……」


「ボクたちのは、安物の革だよ!? 岩なんかより、ずっと柔らかいから!」


「そ、それって、私たちで斃せるにゃ?」


「俺が参戦すれば?」


「ナオ抜きだと?」


「正攻法じゃ無理だろうな。状況を整えれば、なんとかなると思うが……」


 これは単純にスペースの問題。

 この通路で戦うとなると、敵と対峙できるのは一人が限界。


 ほとんど動けないこの場所では、シャリアやアーニャはもちろん、メアリでも一人で斃すのはたぶん厳しい。


 その間、他のメンバーは手持ち無沙汰となるし、頑張って石を投げたとしても、ロック・ワーム相手ではほとんど意味はないだろう。


 せめて弓でもあれば多少は効果があるだろうが、それで斃せるかどうかはかなり怪しい。


「ど、どうしましょう~?」


「えっと、えっと……外まで引っ張り出す?」


「そうだな、上手く引っ張り出して、罠なんかを併用すれば、ワンチャンあるかもな。――どうやって釣るかという問題があるが」


 ロック・ワームは魔物であるが、その捕食対象は岩。

 人間を積極的に襲ったりはしないので、何かを餌にして誘導することが難しい。


 一応、岩が餌と言えば餌なのだろうが、周囲にいくらでもあるのだから、食いつかせることは困難だろう。


「ナオさん、この穴の中に『(ライト)』を入れてもらえますか?」

「ほい、ほい」


 この状況で魔法禁止もないだろう。

 俺は『(ライト)』の魔法を唱え、穴の中に侵入させる。


 ふよふよと漂うその明かりはランタンと比べると段違いに明るく、穴の中をずっと遠くまで照らし出したが、それでもなお穴の果てを見通すことはできなかった。


「すっごく深いね……。どれぐらいの長さがあるのかな?」


「この穴、ちょっとだけ上方向に傾斜してるにゃ」


「地上に続いているとしても、この地図だと距離までは判りませんよ~」


「かといって、入るのも危険ですよね。頑張ればなんとかなるかな、とは思いますが……」


 メアリが迷うように俺の顔を窺う。


「そこまで危険を冒す必要はない、か」


 今回の依頼内容は、坑道の調査とそこにいる魔物の討伐。

 地図に載っている坑道をすべて歩いて、そこにいる魔物を斃せば依頼は完了である。


 厳密に言えば、地図にないこの穴を放置したとしても、依頼達成と強弁することもできるだろう。


「シャリアたちのランクなら、むしろそうするのが正解なんだろうが……」


「そういうものなのにゃ?」


「そういうものだ。実力に見合わない仕事を無理にするより、正しい報告をする方が正解だ。無理をして死んでしまえば、対応可能な人を派遣することもできないわけだからな」


 これまでの冒険者がこれを見つけたかどうかは不明だが、ロック・ワームがいるという報告が最初にあれば、二度目のパーティーの全滅は防げたんじゃないだろうか?


 当然、ロック・ワームに対応できる冒険者を雇う必要があるため、依頼料は上がっただろうが、それが危険に見合った報酬なのだからそうあるべきだろう。


「けどまぁ、今回は俺がいるからな。依頼料も上乗せさせたわけだし、ちょっと行ってくる」


「えぇ!? ナオが一人で? 大丈夫なの?」


「だ、誰かついていった方が良いような~?」


「いや、一人で良い。屈んだ状態では戦えないだろ?」


 穴の直径は一メートル足らず。

 四つん這いとは言わないが、腰をかがめた状態でなければ移動も難しい大きさ。

 武器を振るとか、振れないとか、そういう問題以前である。


 一番影響が少ないのは、元々小柄で小太刀をメイン武器にしているミーティアだが、彼女一人だけでこの穴に突入させるのはあまりにも酷。


 きっと悲しいことになってしまうだろう。

 ――具体的には、それを容認した俺が。

 ハルカたちに知られると、な。


 ミーティア自身は、危なくなれば普通に逃げ帰ってきそうだが、そんなリスクを取る価値があるとは思えない。


「ただ、さすがにこの穴の広さで、後ろから襲われると厳しい。シャリアたちはこの入り口をしっかりと守っておいてくれ」


「ま、任せて! そのぐらいはボクたちでもなんとかなる……と、思う!」


「強い魔物が来なければ、大丈夫にゃ」


「大剣は振れないですが……頑張りますぅ~」


「微妙に不安だなぁ……。頼んだぞ?」


 この中では年少ながら、信頼感は他の三人以上。


 俺はメアリとミーティアに視線を向け、二人が力強く頷いたのを確認して、慎重に穴の中へと足を踏み入れた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ナオの言動が悉く残念。こんなに、迂闊な感じじゃ無かったのに。もっと慎重に行動してたのに。あの、獣人姉妹に引きずられてる感じがします。
[気になる点] ワームは土竜のように通路を巣のように移動する魔物なのか? ミミズのような生き物なら一度作った道には戻ってこないし、ギザギザの口で穴を掘って移動するならバックアタックもなにも振動で検知し…
[一言] ナオの行動が地雷な気がする。 例え、高ランクであってもこの穴は放置一択じゃないかなぁ。 本当は探索中というかこの後の探索もあるから放置はしたくない気持ちはわからないでもないけど魔物の対処…
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