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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第十三章 誰が為の……
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411 冒険者ギルドにて (5)

 さすがは大都市にある冒険者ギルドと言うべきだろうか。


 ヴァルム・グレの冒険者ギルドに併設された訓練場は、なかなかの広さを誇っていた。


 訊けばこの訓練場、冒険者であれば誰でも利用できるようで、今も数組の冒険者たちが武器を手に汗を流している。


「取りあえずは二人ずつ、三つに分かれて模擬戦をしてみるか。アーニャはメアリ、タニアはミーティア、シャリアは俺でいいか?」


 しっかりと見るのなら一人ずつやるべきなのだろうが、今回の目的は最低限の腕を見ることにある。


 俺たち三人が戦ってみて、それぞれが判断すれば良いだろう。


「えっと、タニアたちは解るけど、ボクは? ナオって槍を使うって言ってなかったっけ? ボクは剣だよ?」


「心配するな。俺は剣も多少は使える」


 正確に言うなら【短刀術】だが、模擬戦であればさしたる問題はないだろう。


「槍で相手をしても良いが……さすがに厳しいだろう?」


「むむっ、言ってくれるね? メインの武器で勝てるなんて自惚れないけど、サブならちょっとは相手ができるんじゃないかな? かな?」


 ちょっと口を尖らせて不満を表明するシャリアに、俺とメアリは顔を見合わせて苦笑する。


「ナオお兄ちゃん、剣でも戦えるよ?」

「でも、サブなんだよね? 予備の武器なんだよね?」


 メインとサブ、技術的に劣るのはサブであることは間違いないのだが……。


「私だって、さすがにミーティアみたいな子供には負けないにゃ」

「一番厳しいのは私でしょうかー。力では勝てると思いますが」


 そう考えてしまうのは理解できるが、世の中、そんなに甘くないんだよなぁ。

 いや、()()世の中、と言うべきか?


 元の世界とはひと味違うこちらでは、ミーティアのような子供でも、その外見通りの強さとは限らないわけで。


「ま、やってみれば解るだろ」


 俺はちょっと肩をすくめ、おもむろに武器を構えた。



 結果。

 当然ながら、俺たちの全勝だった。


 平然と立っている俺たちに対し、シャリアたちは地面に座り込んでいるところからして、勝敗と力の差は明確である。


「ま、負けた。しかも、結構あっさりと……。ねぇ、ナオ。本当に槍がメインなの? 実は剣の方を多く使ってたりしない?」


「しないな。自分で言うのも何だが、槍の腕前の方が圧倒的に上だぞ?」


「これ以上って……」


 シャリアは肩を落として、がっくりと項垂れる。

 しかし、良い勝負になるようでは俺の方が困る。

 こちらに来てからこれまで、何をしていたのかってなもんである。


 槍の訓練をメインにしていたことは確かだが、槍が使えない状況も考えて、結構頑張って小太刀の扱いも覚えたのだから。


「まぁ、ランク分の経験はあるからな、俺たちも」


 依頼を熟した数では圧倒的に少ないだろうが、治癒魔法を背景とした継戦能力があることから、戦闘回数はかなり多い。


 敢えて言うなら、対人戦の割合が少ないが、俺とシャリアの間にある差は、それでどうにかできるようなレベルにはない。


 俺は苦笑して肩をすくめ、メアリとミーティアに視線を向けた。


「それで、どう思った?」

「とても読みやすかったの」

「うにゃ!? 高ランクでも、何歳も年下の子に負けると、ヘコむにゃ……」

「素直な太刀筋というのでしょうか。攻撃する場所は判りやすかったですね」

「うぅ、普通に受け止められました……」


 二人の評価はなかなかに厳しく、しかも似たようなものだった。


 三人とも揃って情けない表情になったためか、ミーティアが慌てたように付け加える。


「でもでも、孤児院の子たちよりは速いの!」


「技術的にも勝ってますね」


「えっと……孤児院の子って?」


「俺たちが拠点にしている町の孤児院だな。暇があれば、ちょっと手ほどきとかしている。冒険者になりたい子供も多いみたいでな」


 基本的には、メアリとミーティアが遊びに行ったついでに武器の扱いを教え、俺やハルカなんかは、たまに魔法講座なんかを行っている。


 素質持ちは数人しかいなかったし、使える魔法もまだまだ未熟だが、決して無駄にはならないだろう。


「孤児たちに……随分と優しいのにゃ?」

「アドヴァストリス様の神殿に参拝した時に縁ができたから、だな」

「ナオさんたちはアドヴァストリス様の信者、ですか~?」

「そういうわけじゃないが……まぁ、お世話になったからな。詳しくは言えないが」


 巡り合わせと言うべきだろうか。


 恩恵を貰ったり、レベルや経験値の確認ができたりしなければ、何度も神殿に行くことはなかっただろうし、孤児たちと同年代のメアリたちがいなければ、今ほど孤児院に関わることもなかっただろう。


「ちなみに、この町にもアドヴァストリス様の神殿はあるか?」


「この町はオーファー様の信者が多いけど、あったと思うよ。大きい町だから。ねぇ?」


「あるにゃ。……ちょっと小さいけどにゃ」


「そうか、あるのか。人気がないのは……そんなものかもな」


 なんか、こう、あんまり尊敬されそうな神さまじゃなかったし。

 でも、俺たちが世話になっているのは間違いないので、また今度参拝に行こう。


 レベルアップ毎に能力値がアップするわけでもないので、経験値はもうあまり気にしなくなったが、その増え方で訓練の成果が出ているかは確認できるので、そこについては重宝しているし。


 逆に言えば、怠けてもよく判るわけで……うん、この休暇中にはあまり行かない方が良いかもしれない。心安らかに過ごそうと思うなら。


「ところで、アーニャたちはどこかで剣術を習ったのか? ルーキーだと、まともに剣を扱えない奴らも多いって聞くが」


「はい~。町の道場で短期の講習を受けました。金貨数枚で、基礎を教えてくれるんです」


「ちょっと頑張って節約してね。ボクたち、全くの素人だったから」


「我慢した甲斐はあったにゃ。講習を受けてなかったら、きっと怪我してたにゃ」


「なるほど、どうりで」


 俺の【看破】では、全員レベル1の武器スキルを持っているのが見えるが、ルーキーと考えれば、これはかなり珍しい。


 冒険者になる奴らなんて、大抵は余り物の子供など。


 武器に関するスキルを得るような機会もないし、少なくともラファンの辺りでは、採取依頼などをしている冒険者の大半は、持っていないのが普通だった。


 金貨数枚はルーキーからすれば決して安くはないが、それでレベル1のスキルが得られるなら、無理をしてでも講習を受ける価値はあるだろう。


「道場なんてあるんですね。私たちの町では見たことないですが」


「この町は獣人が多いから、血の気の多い奴らも多いにゃ。そんな奴らに、道場は人気なのにゃ」


「と言っても、大半はお金持ちの道楽か、ボクたちみたいな冒険者が短期講習を受けるか、少し余裕のある家の子供が成人までに通うぐらいだけどね」


「人気はあっても、道場に通ったところで、仕事にはなりませんからねぇ。趣味みたいなものですから~」


 残念ながらこの世界の庶民は、休日なんてなくて当たり前。


 病気や外せない用事で仕事を休むことはあっても、趣味のために休むなんてことはしない。


 普通に考えれば道場の経営なんて成り立つとは思えないのだが、それでも存在するということは、需要があるのだろう。


 まぁ、町から一歩出れば危険なことも多いこの世界、音楽教室とかそういった所謂カルチャースクールに比べれば、実用性のある分、商売としてはやりやすいのかもしれない。


「道場に通ってから、兵士や騎士を目指す人もいるけど、本当に極一部なのにゃ」


「でも、講習を受けた価値はあると思いますよ? 私の知っているルーキーの冒険者だと、力任せに振り回すだけでしたし」


「その技術でも、メアリちゃんには負けてるんだけどね~」


「そこは実戦経験の差、だろうな。これでもメアリたちはかなりの回数、戦いを経験しているわけだから。シャリアたちはあまり討伐依頼を請けていないんじゃないか?」


「うっ、否定はできない……」


 俺の指摘に、ガクリと項垂れるシャリアたち。


 ルーキー、つまりランク1ぐらいだと、雑用や採取依頼などが主体で、場所にもよるだろうが、そんなに頻繁に戦闘なんて発生しない。


 それ故、積極的に時間を取って訓練をしなければ、戦いの技量なんて上がらないだろう。


 そもそもメアリたちに比肩するぐらい強いなら、俺たちを誘う必要もなかったわけで。


 及ばなかったからといって悲観するようなことでもない。


 俺がそれを指摘すれば、シャリアは気を取り直したように顔を上げ、上目遣いで窺うように、俺の顔を見た。


「……うん、まぁ、さすが高ランクってことで! それでどうかな? 一緒にお仕事、できそうかな?」


「そうだな……メアリ、どう思う?」


「たぶんですが、ゴブリンの上位種ぐらいであれば、問題ないと思います。仮に少し強い魔物がいても……坑道のような狭い場所限定ですが、オークぐらいまでの魔物も大丈夫じゃないかと」


「オ、オーク!? ボクたち、斃せないよ!?」


「戦ったことはないけど、絶対無理にゃ!」


「見たこともないです~」


 慌てて首を振る三人に、ミーティアが胸を張り、自信満々に言い切った。


「大丈夫なの! 危なくなれば、ナオお兄ちゃんが魔法を使って助けてくれるの!」


「本当、なのにゃ? 足手纏いがいても、大丈夫にゃ?」


「問題ない。戦いの邪魔をするような素人でもなければ、オーク程度は問題にならない」


 『火矢(ファイア・アロー)』があれば遠距離から斃せるし、接近されたとしても、俺はもちろん、メアリたちも戦える。


 前後から挟まれたりすれば少し危険だが、そもそも俺には【索敵】があるので、不意を打たれる可能性もほとんどない。


 まさか坑道で出てくる魔物が、避暑のダンジョンの現時点での最下層、森で出現する魔物より隠密能力が優れているとも思えないしな。


「さ、さすがは高ランクだね!」

「頼りにしてます~」

「ま、まぁ、それなりに経験は積んでいるからな」


 三人の女の子からキラキラとした尊敬を含んだ瞳で見つめられ、少し居心地の悪くなった俺はコホンと咳払い。


「さて。依頼について、話を詰めようか」と言葉を続けた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そこまで俺つぇーが見たい訳では無いんだけどなぁ
[一言] わお、見落としてました。 >素質持ちは数人しかいなかったし、使える魔法もまだまだ未熟だが 「孤児院で授業」では魔法発動ならずだったのがレベルの低い魔法は使えるようになったんですね、
[一言] もっと近場で、もっと普通の依頼なら多分なんで?な感想にはならないんだけど、わざわざ難易度不明の依頼に新人っぽいの突っ込むのはちょっと ナオってこんな迂闊なキャラでしたっけ? まぁ遠距離ゆえ…
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