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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第十二章 新たな一歩と新しい命
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389 お仕事のお誘い (6)

 俺の手から噴き出した炎が、巨大なペトシーの身体を舐めていく。

 少しの煙とパチパチという音をたてながら、目に見えて粘液が消えていく。


「お、効果あるじゃん! よっしゃ、ナオ、頑張れ!」

「まぁ、頑張るが……」


 しかし、デカい。

 その上、一瞬だけ炎を噴射するのではなく、継続的に出し続けるのは、地味に辛い。


「ユキにいて欲しかった」


 思わず漏れた愚痴に、トーヤがニヤリと笑う。


「おっ。浮気か? ハルカには秘密にしておこうか?」

「ナオ、恋人がいるっすか? 羨ましいっす!」

「違うわっ! いや、恋人がいるのは違わないが……」


 言葉を濁した俺に、フレディとサイラスは、笑顔でウムウムと頷く。


「大切にするっすよ。冒険者と付き合ってくれる娘は貴重っすから」


「だよなぁ。金がある冒険者なら、一夜の恋人には困らねぇんだが、本気で付き合ってくれる相手っつうのはなぁ……」


「厳しいっすよね、サイラスさん。告白しても、『まともな職に就いてから言え』ってフラれるっす! ちょっと腕が立つぐらいじゃ、対象外になるっす!」


 悲しい思い出でもあるのか、サイラスは涙を堪えるように空を見上げた。


「せ、世知辛い……。もしかしてオレ、当分結婚できねぇ?」

「安心しろ、トーヤ。大丈夫だ」


 笑顔で肩に手を置いたサイラスに、トーヤは救われたような顔を向けた。


「希望はあるか?」

「男は引退してからでも結婚できる」

「それは当分先ってことだよ!」

「ちなみに俺は半引退で多少は蓄えもあるが、結婚できていない」

「更に安心できねぇ!?」

「大丈夫なの、トーヤお兄ちゃん。そのときは、ミーが結婚してあげるの!」


 冒険者になって自信を付けてきたのか、『養って』もらう対象から、『結婚してあげる』相手にクラスチェンジを果たしたらしいミーティアは、笑顔でポンと自分の胸を叩いた。


 だが、言われたトーヤの方は半笑いで首を振る。


「すまん。年齢的にミーティアは対象外だ。せめて揺れるぐらいにはなってくれ」

「酷いの!? ミーはこれから成長するの!」


 トーヤは『何が』とは言わなかったが、その視線から言いたいことを理解したらしく、ミーティアがトーヤに食ってかかる。


「いや、どうだろ。ミーティアは可愛いが、成長するかは……」


 ミーティアの頭を押さえつつ、トーヤがチラリと視線を向けたのは、ミーティアの後ろに立っているメアリだった。


「トーヤさん……」


 当然、視線を向けられた方はそれに気付き、文句こそ言わないが、明らかに不満そうな表情になる。


 そんなメアリを庇うかのように、ミーティアがずずいっとトーヤに迫る。


「トーヤお兄ちゃん、それは『せくはら』なの。謝罪と賠償を要求するの!」


「おぉ、ミーティア。難しい言葉を覚えたな。ハルカたちに教えてもらったのか? だが残念。お前たちはまだ、性的云々言うのは早いぞ~?」


 ミーティアの頭を撫でながら、揶揄うように言うトーヤに、ミーティアの頬が膨らむ。


「むぅ……。えっと、えっと……それなら『もらはら』なの! 謝罪と賠償を要求するの!」


「ぐっ。そ、それは……ハルカたち、いらん言葉ばかり教えやがって」


 セクシャルハラスメント――つまり、性的な嫌がらせには該当しないとは強弁できても、モラルに反すると言われてしまっては、トーヤとしても返答に困ってしまうだろう。


 実際、身体的特徴を揶揄したのは間違いないだけに。


 俺としては、まだ十になったばかりのメアリに対し、女性的身体の発育を云々すること自体無意味だと思うし、気にすることでもないと思うのだが、少なくとも今の段階に於いては、メアリに女性らしいプロポーションの良さは皆無である。


 そもそも、俺たちが引き取るまで、あまり良い食事をしていなかったらしい二人だけに、身体の成長は遅れ気味。


 一緒に生活するようになって以降は、好きなだけ肉を食べさせているし、身体も動かすようになった影響か、ぐんぐんと成長し、体力も大幅についた二人ではあるが、それでも女らしくなったとは言いづらい。


 トーヤも、被保護者として可愛がりはしても、恋人や結婚相手としては考えにくいようで、完全に子供の扱い。


 まぁ、あと一〇年も経てば、この世界では全然問題ない――どころか、少し遅いぐらいの年齢になるので、トーヤを除く俺たちの間では、その頃まではのんびり見守るというコンセンサスができている。


 最初、ミーティアが養ってもらう気満々だったので、ちょっと煽ってみたものの――なんというか、思ったよりもトーヤがまともだったので。


 トーヤのことだから、『ウホ! 獣耳。嫁さん。ウホ!』と暴走するかも、と俺たちが思っていたのは内緒である。


「――つか、お前ら、無駄話してるなら手伝え!」

「す、すみません」

「何すれば良いの?」

「いや、オレは魔法使えねぇし?」

「俺もっす! それはナオにしかできないことっす!」

「同じく。適材適所だな」


 素直なメアリたちと違って、飄々と応えるサイラスたちの様子に俺は拳を握りつつ、ペトシーを指さす。


「適材適所には同意する。だから、ひっくり返せ」


 上側は炙り終わったが、ペトシーの腹側、地面に着いている部分については、このままでは炙れない。


 俺でもちょっとずつ転がすことはできるだろうが、明らかに効率が悪い。

 体力自慢に働いてもらうべき。


「へーい。……お、滑らねぇ。サイラス、フレディ、一気に転がすぞ」

「おう。そいじゃ、フレディはそっちな」

「了解っす!」


 言えばすぐに動く。それは評価すべきだろう。


 トーヤたちがペトシーの胴体に足を掛け、ぐいっと押すと、ペトシーの身体はゴロリと転がり、腹側を見せる。


 俺はラストスパートと、そこに向かって炎の威力を強めた。


    ◇    ◇    ◇


「やっと、終わった……」

「ナオさん、お疲れ様でした」

「ホントにな。後処理の面倒くささでは、過去随一じゃないか?」


 時間がかかるという意味ではエルダー・トレントなんかもそうだが、あれは全員でやったし、魔力をずっと消費し続けるような作業ではなかった。


 他の人が暢気に話している中、俺だけ苦労しているというのは、なんというか、地味にしんどい。


「でも、ナオのおかげで、こうしてまともに触れるようになったな。なんか香ばしい匂いもしているし」


「火加減、適当だったからな」


 粘液だけを焼き払う、なんて繊細なことができるはずもなく――いや、頑張ればできたかもしれないが、やる意味も見いだせず適当に炙ったものだから、表面の皮の一部は炭化し、あたりには少し香ばしい匂いが漂っていた。


「サイラス、これって食えるのか?」


 食えないのなら持ち帰るまでもなく、この場でバラして埋めていくという重労働が追加されるのだが、幸いなことにサイラスの返答は、肯定だった。


「モンスター・イール自体は食えるぞ? 小骨が多くて、あんまり好まれないが」

「でも、すっごく、食べ応えがありそうなの!」

「う~ん、ここまで大きいと、かなり大味なんじゃないか?」


 いや、巨大生物でも美味い物もいるから、必ずしもそうとは言えないか。

 野菜や果物なんかだと、大きく育ってしまうと美味しくなくなったりするが。


「もし大味でも良いの。お腹いっぱいは正義なの! それに、お姉ちゃんたちなら、大抵の物は美味しくしてくれるの!」


「なるほど、正論だな」


 ハルカたちの【調理】スキルは伊達じゃない。

 そのことは俺も、この一年あまりで良く実感している。


「それじゃ、解体すっか。ギルドに持ち込めば売れるよな?」


「このサイズなら、小骨も大骨になってそうだし、切り身としては売れるんじゃないか? 取り分は等分で良いか?」


「良いと思うの。それでもたくさん、食べられるの」


 等分しても、一人当たり三メートルを超えるわけで。

 仮に毎日食べたとしても、優に一〇年以上は食べ続けられるだろう。


 食べ続けたいとは思わないし、そんなに長期間保存することも、普通は難しいのだが。


「良いんすか? 俺、あんまり役に立ってないっすけど」


「構わねぇだろ。この程度でケチ臭いことを言うほど、俺もナオたちも金に困ってねぇだろ」


「助かるっす。――あ、運搬も頼めたりするっすか?」


「せざるを得ないだろうな」


 荷車を借りて戻ってくるという手もあるが、俺たちだけでさっさと帰って、フレディとサイラスは頑張れ、というのは、あまりに薄情すぎるだろう。


 それに時間的にも日暮れが近いし、さっさと帰って休みたい。


「つーことで、切り分けていくか」

「了解。手早くやっていくぞ」


 俺とトーヤは大物用の解体用ナイフを取り出すと、それをペトシーに突き立てた。

今週26日はコミック版の「異世界転移、地雷付き。」一巻が発売されます。

どうぞよろしくお願いします。


また、四巻の表紙も公開されています。

下にも表示されていると思いますが、活動報告にも詳細を掲載していますので、よろしければ。

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2025年3月5日発売
異世界転移、地雷付き。 12巻 書影

異世界転移、地雷付き。 コミック2巻 書影

ComicWalkerにてコミカライズ版が連載中です。


以下のような作品も書いています。よろしくお願いします。

ファンタジア文庫より書籍化しました
『新米錬金師の店舗経営』

新米錬金師の店舗経営 7巻 書影

『けもみみ巫女の異世界神社再興記 神様がくれた奇跡の力のせいで祀られすぎて困ってます。』

けもみみ巫女の異世界神社再興記 書影

『図書迷宮と心の魔導書』

図書迷宮と心の魔導書 書影
― 新着の感想 ―
[一言] 何故、マジックバッグを持ってこなかったんだ?
[一言] トーヤさん、貧乳こそが正義なのですよ。胸の事なんです気にしては駄目なのです。エロい人には分からんのです。 だからミーと結婚してあげてね? あと、メアリに誤ってあげてね? それと3メートル四方…
[一言] ナオは女に貢がせるのが上手くてホストかヒモ的な才能があるから、今の幼馴染みに捨てられても全く問題ないですな!既に美少女料理屋のエルフ娘をスペアとして確保済ですし。
感想一覧
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