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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第十二章 新たな一歩と新しい命
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382 月を待つ (3)

「ミーティアとはかみ合っていたな。どちらも速度重視だし」

「速度はミーティア、手数はフレディだったな」

「経験の差で、フレディが勝ちを拾った感じだな。おい、フレディ、情けねぇぞ?」


 かなりの僅差だったので、ミーティアは最初にちょっと怖がっていたのも忘れたように、「むぅぅぅ~~!!」と、地団駄を踏んでかなり悔しがっていた。


 だが、フレディは休みを挟みつつも連戦していたので、万全の状態で戦えば、もう少し余裕を持って勝っていたんじゃないだろうか。


 そんなフレディは、さすがに疲れがピークに達したようで、息も上がり、今は地面に倒れ込んでしまっている。


「勘弁してほしいっす、サイラスさん。そっちのランク六はまだしも、女の子二人もかなり強いっすよ?」


「確かにな。けどよ、コイツら、冒険者になって一年ほどだぞ?」


「マジっすか!? それ、超ヘコむんすけど……。しかも、まだ未成年っすよね? 当然ながら」


「指導者が良いんだろう。自己流で技を磨き上げるのも、それはそれですげぇとは思うが、効率は悪ぃからなぁ」


「指導者に関してはなんとも言えないが、一応言っておくと、訓練時間も違うぞ? メアリたちは。そのへんの冒険者と比べれば、確実に何倍もの時間を費やしている」


 普通のルーキーの場合、朝から晩まで働いて日銭を稼がなければ、泊まる場所、食べる物にも事を欠く。


 必然的に訓練に費やせる時間などほとんどなくなるのだが、その点、俺たちは違う。


 効率良く稼げている上に蓄えもあり、かなりの時間を訓練に費やす余地があるし、俺たちというスキル持ちの指導者もいる。誰かに指導を受けて身に付けた技術ではない分、俺たちの指導力に疑問符は付くが、少なくとも正しい動きを見せ、模擬戦で鍛えることはできる。


 ついでに、訓練時に怪我をする危険性。


 蓄えの乏しい新人の場合、もし訓練で怪我をして働けなくなれば、それ即ち、命に関わる。こちらに来た最初の頃、俺たちが恐れていたように。


 しかしメアリたちは、ハルカたちの治療があるおかげで、骨折レベルの怪我すら恐れる必要もなく、激しい訓練ができている。


 相手は小さい女の子、最初の頃は俺たちも遠慮があったのだが、本人たちの希望もあり、訓練で骨折させてしまったことも一再ではない。


 そのような訓練を続けているのだから、その密度と時間は普通の冒険者とは比較にならず、結果に大きな差が出るのも当然だろう。


 それに加えて、俺がさりげなく疑っているのは、俺の持つ恩恵(ギフト)【経験値ちょっぴりアップ】の効果。


 神様がくれたのだから、その効果がトーヤたちに及んでいることは間違いないはずだが、メアリたちには無意味かといえば、おそらくそんなことはないだろう。


 この世界の経験値とは単なる数値ではなく、俺たちの行動の結果が数値として表されたものである。


 つまり、経験値が増えるということは、それ即ち、戦闘や訓練で得られる経験が増えるということ。


 まさか、その影響範囲から、メアリとミーティアだけ除外するなんてケチなこと、アドヴァストリス様がするとは思えない――と断言できるほどアドヴァストリス様を知らないが、そうとでも思わなければ、メアリたちの成長の早さは説明できないような気がする。


 もっとも、この世界の標準なんて知らないし、獣人の身体能力を以てすれば、このぐらいできることなのかも、と考えなくもないのだが。


「よし。フレディ、お前はそっちの嬢ちゃん二人と訓練しろ。トーヤとナオは俺とやろうぜ?」


「ええっ!? 続けるんっすか?」


 やっとこさ立ち上がったフレディが顎を落とすが、サイラスはそんなフレディの肩に手を置くと、男臭い笑みで激励をする。


「俺は以前から、お前がもう一段上に行ける奴だと思ってたんだよ。ここで終わるのは勿体ない。そうは思わないか?」


「本当……っすか? 行けると思うっすか?」


「もちろんだ。だが、それにはお前の努力が必要だ。経験を積め! 技術を磨け! そんなところで立ち止まってんじゃねぇ!」


「サイラスさん……。俺、やるっす! 見ていて欲しいっす!」


「おうっ! 頑張れ!」


 目を輝かせるフレディの背中を叩いて、メアリたちの方へと送り出すサイラス。


 半ば巻き込まれるような形になっているメアリたちの方は、俺たちへ窺うような視線を向けてきたが、俺が頷くと真剣な表情になってこくりと頷く。


 ミーティアなんて、「今度は勝つの!」と鼻息も荒い。


 勝てるかどうかはともかく、吸収すべきところはあると思うから、ミーティアたちにも良い経験にはなるだろう。


「サイラス、俺たちは今日も訓練の予定だったから、別に構わないんだが……アイツ、良いのか? 仕事とかは」


「アイツがこの時間にギルドにいるなら、暇してんだよ。それに、判ったとは思うが、アイツは完全な自己流。それであそこまで腕を上げたのはすげぇと思うが、正当な剣術を知る経験もあった方が良いからな。あの二人はそれに都合が良い」


「正当な剣術、か。そう見えるか?」


「違うのか? 確実になにかしらの流派の動きに見えたんだが?」


「違わない、と言うべきだろうな」


 メインでミーティアに教えているのはナツキで、メアリはトーヤ。


 ナツキの教える技術は、元の世界で習っていたものをベースとしているだろうし、トーヤはスキルとして得た技術が元。おそらくそれは、きちんとした剣術なのだろう。


「それで俺たちの相手は、サイラスが?」


「俺も、まぁ、時間があるからな。お前たち、対人戦はあまり経験がないだろ?」


「判るか? 基本、パーティー内での模擬戦だけだな。オレたち、大半は魔物相手に戦ってるし」


「ネーナス子爵の領兵の訓練に参加したことはあるが、その程度かな」


 それも、あんまり強くはなかったしなぁ。

 たぶん領兵の一般兵なら、フレディでも勝てるだろう。


「普通の冒険者ならそれでも構わねぇんだが、ランクが上がると、盗賊の討伐やら護衛の依頼やら、人を相手にすることも増えてくる。経験を積んでおいて損はねぇぜ?」


「そういうことなら、胸を貸してもらうか。楽しませてくれるんだろ?」


「お、トーヤからか? ま、それなりにはできるつもりだぜ?」


 ニヤリと笑って剣を構えたトーヤに、サイラスの方もどこか嬉しげに剣を構えた。


「……はぁ。双方、怪我をしないようにな? 特にトーヤ。手加減……と言うか、今日は寸止めを忘れるなよ? 治してくれるハルカはいないんだから」


 俺とやるとき、トーヤは普通に折ってくるからな、骨を。


 たまにはやり返したいのだが、残念ながら筋肉に包まれたトーヤの骨を折れるほど、俺とトーヤの技量に差はない。武器の差と、本質的な肉体強度の差は大きい。


 そのお返しに、程々に魔法で焼いてやっているんだけどな!


「わーってるって。骨は折れないように加減する。サイラス、打ち身程度なら良いよな?」


 ポンポンと木剣で肩を叩きつつ、気軽にそんなことを言ったトーヤに、サイラスは鼻白んだ様子を見せながらも頷く。


「打ち身ぐらいはもちろん、構わねぇけどよ……お前ら、普段は骨折するような訓練をしてるのか? 毎日? そりゃ、嬢ちゃんたちも強くなるわ」


「さすがに毎日は骨折させねぇよ? たまにだよ、たまに」


 させられている俺の感想としては、全然()()()じゃないのだが、それを今ここで言っても仕方ない。


「準備は良いか? サイラス、トーヤが骨折するのは構わない。思いっきりやってくれ。むしろ折ってやれ」


 仕方ないのだが、ちょっとした意趣返しぐらい、良いよな?


「マジで?」

「ちょ――」

「あぁ。帰ったら治してもらえる。それじゃ、始め!」


 トーヤの抗議を聞き流して開始の合図をすれば、二人は間合いを開け、武器を構えて対峙する。


 だがそれも僅かな時間。

 すぐに互いに踏み込み、二人の武器がぶつかり合い、大きな音を訓練場に響かせた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんでここまでトーヤは蔑ろにされてるんだろう…そんなに主人公が偉いんか。
[良い点] 流石ナオ、ナチュラルに屑いですな!女を引っ掻けて貢がせる事といい主人公は良物件に見せ掛けた地雷男ですな!
[気になる点] 骨折り損のくたびれ儲けに成らない様に技術・技・対人戦の呼吸を覚えられると良いですね。 [一言] スキルはやっぱり正統派の剣術とか武術なんですね〜知らない事でも出来るは便利だ! 技術を覚…
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