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003 やって来ました、異世界! (2)

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

尚史が異世界に辿り着くと、側には幼馴染みの悠と知哉が居た。

堅実に行くことを確認し、互いにスキルの確認する。

「――あれ? なんかオレのスキルと比べ多くない?」


 知哉がそう言って首を捻る。


「そう、だな。俺と比べても多いが……悠、お前、ポイントいくつあった?」


 明らかに数が多い。

 各スキルの必要ポイントは、はっきりとは覚えていないが、俺のポイントだとたぶん足りない、と思う。


「ポイント? 200だったけど?」


 しれっとそんなことを言う悠。

 ――え? 200?


「はぁ!? オレ、120だったんだけど!?」

「俺は150……。俺と悠って、そんなにスペックに差があったの?」

「お前なんかまだ良いよ! オレなんか下手したらダブルスコアだぜ!?」


 確かに悠の成績は俺より良かったし、容姿だって優れていた。

 運動神経も良いし、コミュニケーション能力だって……。

 だけど、こうして数値で明示されると……ヘコむ。


「い、いや、こんなのってあの邪神の独断と偏見だって! あなた達の人間としての価値が私より低いとか、そんなんじゃ無いって!」

「人間としての価値……」

「半分近く……」


 ガックリと肩を落とした俺たちに慌てたのか、悠からフォローと言う名の追い打ちがかかる。

 知哉なんて、すんごいどんより(・・・・)してるぞ。


「気にしない、気にしない! スキルレベルなんかはこれから上げていけるんだから! ほら、次はなお、あなたの番よ!」


 さすがにしまったと思ったのか、悠は慌てたように俺の背中をポンポンと叩き促す。


「あ、ああ……こんな感じだが」


 なんだか釈然としない物を感じながらも、ステータスを表示する。


-------------------------------------------------------------------------------

 【ヘルプ】     【槍の才能】     【魔法の素質・時空系】

 【槍術 Lv.2】   【回避 Lv.1】    【頑強 Lv.2】

 【鷹の目 Lv.1】  【忍び足 Lv.1】   【索敵 Lv.1】

 【看破 Lv.2】   【罠知識 Lv.1】   【時空魔法 Lv.2】

 【火魔法 Lv.1】

-------------------------------------------------------------------------------


 俺のスキル構成、ちょっと良い感じじゃない? とか思っていたのに、悠のを見た後だとちょっと微妙。

 悠が高すぎるのだと、そう思いたい。

 俺が他のクラスメイトに比べて低すぎる、なんてこと無いよな?

 知哉よりは多かったけど、【ヘルプ】の有無を考えると使えるポイントはほとんど同じなんだが。


「ふむ。なおは中衛って感じ? 予想通り……かな」

「え、そうなのか? 考えて取ったわけ?」

「そりゃそうでしょ。知哉は猪突猛進、尚史はどっちつかずになると思ったから、私がサポート系を取ったんだから」


 おう……確かに外れてないが、せめて前衛向きとか、万能型とか言ってくれ。

 何も考えてなかった手前、文句も言いづらいけどさ。


「ま、上手い具合に前衛・中衛・後衛と分かれたんだから結果オーライよね。なら、早いところ街へ移動しましょ」

「――そういえば悠は【異世界の常識】というスキルを取ってたな。なにか急がないとマズいのか?」

「ここが街の側ならそこまで危険じゃ無いわ。ただ人間なんて猪相手でも殺されるのよ? スキルを手に入れたとしても、まずは安全な場所で検証しないとマズいでしょ」

「ああ、時々ニュースになるよな、猪が出て大怪我とか、運悪く亡くなったとか」

「本気になった猫に人間は敵わないとかも聞くが、実際どうなんだ?」


 確かに、逃げる猫を捕まえる事ってかなり難しい。それを考えると、知哉の言うこともあながち間違っていない気がする。

 というか、スキル以前に俺たち、丸腰なんだよな。

 格好だけは(たぶん)こっちの世界風の服装になっているが。


「ほらほら、話をする前に動くわよ! なおは【鷹の目】持ってるでしょ? どこかに街は見える?」


 そう急かされ、改めて周りを見回すが、目に入るのは草原と森。

 街らしき物は無く、遠くに見えるのは山で……お、あれはもしかすると道か?


「街は解らんが、あっちの方向に道らしき物は見えるな」

「街は見えないか。でも道があっただけマシかも……。とりあえずそっちに向かいましょ」

「おう」


 俺が指さした方向に歩くこと10分あまり。

 見えてきたのは幅3メートル程度の道。

 周りより少しだけ高く土を盛って表面を固めただけの簡単な物だったが、確かに人の手が入っている道だ。


「街道で間違いないみたいね。後はどっちに行くかだけど……どっちにする?」


 悠が左右を見回して俺たちに聞いてくるが、俺にだって解らない。


「どちらも街らしき物は見えないな……もう少し高ければ見えるかもしれないが、この辺には木も無いし……」


 多少の起伏はあるものの、地平線まで道が続いている。

 そういえば、地平線って遠くに思えるけど、案外近くて、地球だと5キロも無いんだよな……。

 惑星の大きさで距離が変わるから、ここでも同じとは限らないが。


「よし、尚、こういうときこそ、アレじゃね?」


 そんなことを考えていると、知哉がニヤッと笑って、唐突にそんなことを言い始めた。


「アレってなんだよ?」

「こう、オレが手を組んで、そこにお前が足を乗せて、エイッと放り投げるやつ。前ならできなかったが、お互い、この身体ならできるんじゃね?」


 ああ、あるね。マンガとかでそうやって壁を越えたりするの。

 確かに今なら俺の体重は減ったと思うし、獣人の知哉は筋力が上がっているだろう。

 が、しかし――


「……いやいや、思うんだが、アレって下手したら、変則的な投げっぱなしジャーマンにならないか? やったことも無いのに、上手く真上に投げられるのか?」

「そういえばそうだが、何とか――」

「止めなさい。怪我したらどうするのよ」


 首を捻りながら、なんか投げる身体の動きを確認し始めた知哉の頭を、悠がペシンと叩いて止めさせた。


「とりあえず、知哉の肩に尚が乗ってみなさい。それでも何キロか先まで見えるから」

「賛成。俺はいきなり怪我したくない」

「そっかー、一度やってみたかったのに」


 なにやら不満そうな知哉だが、悠に睨まれると、慌てて笑みを浮かべて足を踏ん張り、『よし、来い!』と手を構えた。


「よ、っと」


 知哉の手を踏み台にして、その肩に上がる。

 思った以上にガッシリとして危なげが無く、俺自身も身体能力が上がっているのか、ふらつくこともなく上に立つことができた。


「えーっと、何か見えるかな……?」


 正面は……何も無し。後ろは……ん? 壁、か?


「どうだ?」

「こっちの方に、たぶん壁みたいなのが見えるな」


 知哉の上から降りながら、壁が見えた方を指さす。


「っと、サンキュ。大丈夫だったか?」

「ああ、全く問題ないな。肩揉みされた程度? やっぱり身体能力はかなり上がっているみたいだな」


 ちょっと土が付いた肩を払いながら、そう答える知哉。


「知哉もそうか。俺もかなり感覚が異なっているから、要調査、だな」

「そうよね。魔法もあるわけだし。でも、それはそれとして、早く街に向かいましょ。話は歩きながらでもできるんだから。野宿なんて嫌でしょ?」

「ああ。食い物もないし、無理があるな」


 悠の言葉に、知哉を先頭に歩き出す俺たち。

 悠曰く、街近くの街道ならそこまで危険は無いらしいが、一応用心して、一番硬い知哉を前に、回復ができる――はずの悠が最後である。


「えーっと、尚が知哉の上に乗って見えたって事は、5キロ以上、7、8キロ未満の距離にある、って事かしら? 地球だったら」

「そうなのか? さすが悠。秀才は伊達じゃないな! オレなんかそんなの全然解らないぞ!」


 はっはっは、と笑いながらそんなことを言う知哉に、悠がため息をつく。


「知哉、自慢にならないことを堂々と言わない。それに、私だって暗算できるわけじゃ無いわよ? 単に地平線まで5キロ程度で、身長が2倍になっても見える距離は1.5倍にもならないことを覚えてただけ」


 雑学の範囲かもしれないが、それを覚えているだけでも十分すごい。

 さすが200ポイントの女は違う。……ひがみじゃないぞ?


「ま、それなら2時間もすれば着くな」

「そうね。――ところで、尚と知哉は何か持ってる?」

「ん? 見ての通り、身体一つだが?」

「そうだな?」


 歩きながら後ろを振り返り、手を広げる俺。

 粗末……とは言わないものの、やや厚手の布でできた、手作り感溢れる至極しごく普通の服を着ているのみで、荷物一つ持っていない。


「あ、それともインベントリとかあるのか?」


 嬉しげに知哉がそう言うが、悠はあっさりと首を振った。


「いいえ、私の『常識』の中には無いわね。たくさん物が入る、めちゃくちゃ高価な魔法の鞄や袋はあるみたいだけど。そうじゃ無くて、ポケットよ、ポケット。付いてるでしょ、その服に」


 悠に言われて服を確認してみると、ズボンにポケットが付いている。

 そこに手を突っ込んで取りだしたのは数枚の硬貨。サイズと厚みは……百円玉ぐらい?


「お金、だよな? 1、2……10枚だな」

「お! オレも同じだ!」


 俺と同じように手の上に硬貨を広げてみせる知哉に、それを確認して頷く悠。


「うん、私と同じね。それが大銀貨。ここの物価だと、大体……千円ぐらいかしら? 物によって違うけどね。ここの単位だと、100レアね」


 ほうほう。コレ全部で1万円ぐらいの価値があるワケね。


「服もそうだが、これってあの邪神がくれたのか? さすが邪神、身一つで1万円だけ持たせて放り出すとか。追加スキルもひどいの多かったしなぁ」


 追加スキルの酷さは、分不相応なスキルを希望した奴らが悪い気もするが、罠っぽいのは意地が悪い気がする。


「そう? 結構優しいと思うけど。違和感の無い服をくれてるし、お金の方も、街に行って身の回りの物を買って一泊するのに必要な程度はくれてるんだから。それも、クラス全員だから32人分でしょ? 知哉だったら初対面の相手に32万円を渡して、服も用意してあげる?」


 そうやって言われると、凄くいい人(?)な気がしてくる。

 生き返らせてくれたわけだし。


「いや、そう言われたらそうだけどさ。神だろ? 本当に優しかったら、地雷なんか仕込まないだろ」

「神に期待してどうするのよ。古今東西、神話の神なんて、そのほとんどが自分勝手じゃない。ギリシア神話の主神なんて、人間なら酷くたちの悪い性犯罪者よ」


 確かに。

 あの神話は酷すぎる。

 ある意味、まともな神の方が少ない。

 あの理不尽さを考えれば、この程度の地雷、軽いジョークみたいな物である。

 ジョークで死ぬ方は堪ったものではないが、相手は神だからなぁ……。


「それに、追加スキルだって、高望みしなければ便利なのがあったわよ」

「そうなのか? 【ヘルプ】だけじゃなしに?」

「ええ。私の【異世界の常識】も追加スキルだし」

「あ、そういえば聞こうと思ってたんだが、そんなスキルあったか? 気付かなかったんだが」


 一応、最初に全部チェックだけはしたと思ったのだが。


「私がキャラメイクの途中で願ったら追加されたから、そのせいじゃない?」

「なるほど。【ヘルプ】を取って、追加スキルのアレさに引いてからは見てなかったからなぁ」

「【異世界の常識】はたぶん、かなり重要よ。あなた達も何かやる前には私に聞くようにね。悪目立ちしたくないでしょ?」


 だよな。悠がいなければ、お金の価値すら解らなかったんだから。

 特に常識的な事って、人には聞きにくいし。

 俺たちだって仮に日本で、通行人に硬貨の額や価値を訊かれたら、ひとまず警察に案内するだろう。それが常識であるだけに。


「了解。早速だが、街には普通には入れるのか?」

「いいえ。街壁があるような街の場合、税金が必要ね。街によって違うけど、相場は100レア前後。あと、街に定住している人と冒険者ギルド登録者は不要になるわ」

「おお、あるのか、冒険者ギルド!」


 知哉が振り返って嬉しそうに言う。


「ええ、あるわね。お約束的なのが。ただし! これは要注意だけど、ケンカとかは御法度よ? 冒険者同士でも何でも、普通にしょっ引かれて牢獄行きだから。むしろ、一般人のケンカよりも厳しいぐらいね」


 冒険者同士の争いは不介入、なんてことは無いんだな。


「まぁ、普通に考えたら武器持ってるわけだしな。日本でも格闘技やってると罪が重くなるとか聞くし」

「そーなのか。じゃあ、ギルドの登録で絡まれるというお約束は無いわけだな」


 おい、なんでちょっと残念そうなんだ、知哉。


「しばらくの間は、目立たず真面目に生活を安定させることが目標、だな」

「そうよ。さっき復唱したことを忘れずに!」

「了解。ま、オレはそのうち、獣耳の嫁を手に入れるがな!」

「――ああ、うん。頑張ってくれ」


 ぶれない知哉に、俺と悠は苦笑したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] チートはないよ、地雷付き までは良かった [一言] ヘルプと異世界の常識がなぁ… 取ってない人は取ってる人の腰巾着としてしか生きれなさそう 何をするにも常識とヘルプ持ってる人にお伺いを立…
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