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359 再戦、エルダー・トレント! (3)

前回のあらすじ ----------------------------------

葉っぱを燃やすことには成功したが、代わりにエルダー・トレントの動きが速くなった。

『爆炎』で枝を落とすことを試みる。

「……しゃあない。大盤振る舞い、するか」


 エリクサーを一度も使わずゲームをクリアするタイプの俺は、使い捨てアイテムでゴリ押しのボス戦は好みじゃないが、それで怪我をしてしまっては元も子もない。


「そうね。はっきり言って、ここで苦労する時間分、魔物を狩れば賄える額だしね」

「身も蓋もないが、その通りだな」


 森に入ってスタブ・バローズの一匹でも狩れば、爆裂矢数本分のコストは賄えるのだ。


 そんなことは解っている。

 でも、もったいなく感じる。

 それが、貧乏性。


「それじゃ、やるか」

「えぇ」


 決心すれば遠慮するつもりはない。


 立て続けに炸裂する『爆炎(エクスプロージョン)』と爆裂矢で、更に四本の枝が落ちる。


 これにより、予想通り俺のいる場所に届く枝はなくなり、その後ろにいるハルカの安全も確保された。


 このまま他の場所の援護に行きたいところだが、問題発生。

 それは、地面に転がったままの巨大な枝。


 離れて攻撃している俺たちには関係ないが、根っこの近くで武器を振るっているトーヤたちには、かなり危険な障害物である。


 そのまま放置もできず、俺はロープを取り出して、急いでその枝に巻き付けた。


「――よし、ハルカ! 引っ張れ!」

「えぇ!」


 二人でズリズリと引きずり、戦闘範囲から枝を遠ざける。

 枝といっても、サイズがサイズ。木を一本切り倒したのと、ほとんど変わらない。

 それが計四本。なかなかの重労働。

 二人して息を弾ませながら作業を終え、他三人の状況を確認する。

 攻撃していない分、一番余裕がありそうなのはミーティアだが、枝はすべて健在。


 ナツキは多少、枝を落とせているが、使っている武器の関係上、太い部分には対応できていない。


 三人の中で一番余裕がなさそうなのはユキ。


 身体能力の差もあるだろうが、『爆炎』によって落下した枝が動きを阻害していることも、要因の一つだろう。


 大変そうではあるが、確実に攻撃が効いているのは、ユキだけで。


「……よし、ハルカはナツキのほう、俺はミーティアの方に向かおう」

「了解」


 もうちょっと頑張ってくれ、ユキ。


 彼女が「のわ~~!」とか叫びながら、三本目の枝に『爆炎(エクスプロージョン)』を叩き込むのを横目に見つつ、俺とハルカは移動を開始した。




「ぬわっとぉぉ! 危ねぇ!」


 魔法と爆裂矢で対処すると決めて三〇分ほどだろうか。

 戦闘はまだ継続していた。


 俺とユキの魔力の大半、それにハルカの爆裂矢で、頭上からの攻撃はなくなったのだが、それで終わるほどエルダー・トレントは甘くなかった。


 上が軽くなるに従って、逆に根っこの攻撃は激しさを増し、地下から地上に向けて、突き刺すように根っこを伸ばしてくる攻撃までしてくるようになった。


 今トーヤが慌てて飛び退いたのも、その攻撃。


 まるでトーヤの尻を狙うかのように伸びてくる細い根に、戦慄を禁じ得ない。二重の意味で。


 勿論、エルダー・トレントにそんなつもりはないのかもしれないが、尻から突き刺されて死亡とか、絶対に嫌である。


 運良く生き残ったとしても、ハルカやナツキに治療を頼むことになるとか……魔法での治療とはいえ、かなり屈辱的だ。


 幸いなのは、【索敵】スキルで、なんとか知覚できることか。


「おい、ナオ。なんとかならねぇ?」

「無理。これ以上魔力を使ったら、行動に支障が出る」


 枝を吹き飛ばし終わった後は、根っこに対しても同様の攻撃を行っていたのだが、再生能力のある根っこは一筋縄ではいかなかった。


 枝の場合は自重で折れてくれたが、根っこの場合はそうはいかず、ある程度の損傷であれば修復してしまう。


 それでも集中して攻撃を加えることで、何本もの根っこをちぎり取ったのだが、俺とユキの魔力も、そしてハルカの矢も、すでにない。


 なので、ミーティアとハルカを除いた五人で周りを囲み、少しずつ削っているのが現状。


 ハルカたち二人の仕事は、切り取った根っこを片づける役目。


 踏んづけて転けでもしたら、胴体を貫かれかねないので、地味ながら重要な役割である。


「でも、たぶん、もう少しだと思いますよ?」


「なんで?」


「先ほどから移動していません。移動に使えるほどの根っこがなくなった……なら良いですよね?」


「単なる希望かーい! でも、うん。その可能性はあるよね!」


 動けば倒れる。


 ナツキの言う通り、それぐらいまで根っこを減らせたのであれば、助かるのだが……。


「はぁぁ。マジで、そうあって欲しい。さすがにつらいぞ」


 荒い息を吐きながら攻撃を続けるトーヤに、俺も頷き、バルディッシュを振り上げる。


 だが、そんなトーヤの希望もむなしく、エルダー・トレントが倒れるまでには、更に三〇分ほどの時間が必要になるのだった。


    ◇    ◇    ◇


「くはぁぁぁ! やっとかよ!」

「つ、疲れました……」


 地響きと枝がへし折れる音を立てながら、地面に倒れ伏したエルダー・トレントを見て、トーヤとメアリが崩れるようにその場に座り込む。


 途中、何度か『体力回復リカバー・ストレングス』をかけてもらっていたとはいえ、一時間以上、神経をすり減らしながら動き続けていたのだ。それも仕方のないところだろう。


 エルダー・トレントの方はまだ少し根っこをうにょうにょと動かしているが、あの状態から立ち上がることはたぶんないだろう……いや、気は抜けないか。


「ユキ、ナツキ、根っこを刈るぞ」

「ですね」

「うん、まだ生きてるみたいだしね」

「ミーも手伝うの!」

「そうか。それじゃナツキとペアで、向こう側から頼む」

「解ったの!」


 安全な場所からがつがつとバルディッシュをたたき込んでいけば、だんだんと根っこの動きも緩慢になり、やがてその動きを止める。


 だが、念には念を入れ、【索敵】反応が完全に消えるまで斧を叩き込み続け、ついに俺たちのエルダー・トレント討伐は終わりを告げた。


「なんとか、無事に倒せましたね」

「お疲れ様。怪我は?」


 ハルカの問いに手を上げたのは、トーヤとメアリ。


「腕と指をやられた。折れてはないと思うが……」

「私は胸を……ちょっと痛いです」


 さすがにあの攻撃をすべて避け続けるのは、不可能だったらしい。

 他にも何カ所か殴られたが、最も酷いのがそこらしい。


「それじゃ、まずはメアリから……あ、トーヤとナオは、後ろを向いて周囲を警戒していてね」


「「了解」」


 鎖帷子、かなり優秀な防具なのだが、全部脱がないと患部を見ることもできないのは難点。


 俺たちはメアリの姿が目に入らないように森の方を向き、【索敵】に集中。


 かなりの長時間、ドンパチやっていたのに、ボスエリアに他の魔物は侵入してこないようになっているのか、森の様子に変わったところはない。


 いくらでも集まってくるようだと、さすがに少人数では斃しようがないので、そこはありがたいのだが、ボスはボス部屋から出られることを考えると、少し不思議ではある。


 まぁ、ダンジョンだから、不思議なことはいくらでもあるのだが。


「あぁ、これは肋骨が折れてるわね。メアリ、よく我慢したわね。『治癒(キュアー)』」


「はぁ~、ありがとうございます、楽になりました。息をするのも痛かったので……」


「それはそうですよ。よくあの状態で戦えましたね。交代しても良かったんですよ?」


「いえ、私は前衛ですから!」


 聞こえてくる会話からして、メアリの怪我はそれなりに酷かったらしい。


 冒険者だから怪我をするのは必然だし、彼女自身が選んだ道ではあるのだが、メアリの年齢を考えると、どうしても可哀想に思ってしまうのは、少々傲慢だろうか?


「おーい、もう振り返っても良いか? オレも治療して欲しいんだが?」

「ちょっと待って……えぇ、良いわよ」


 ハルカの声に振り返ると、メアリはまだ鎖帷子は着ていなかったが、服はきちんと整え、地面に座って休んでいた。


「そいじゃ、オレも頼む」


 言うが早いか、トーヤも鎧を脱ぎ始めるが、腕を動かすと痛いのか、時折顔を顰めている。


「手伝おう」

「おぉ、すまん。助かる」

「なんの、なんの。ほら、トーヤくん、バンザーイ」

「オレはガキかっ!」


 などと反論しつつも、痛みがキツいのは間違いないらしい。


 素直にその場に座り、万歳したトーヤから、ナツキにも手伝ってもらって、鎖帷子を引き抜く。


 更に鎧下を脱がせ、怪我をしているという腕を露出させたのだが……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 助骨折れたのをすぐ治せるまで熟練度上がってて良かった。 今回皆頑張った。
[一言] なんだどうした引退考えるほどの大怪我ですか
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 一歩間違えていたらオネエ・トーヤにクラスチェンジしていた 可能性もある(笑)
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