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354 森エリアを抜けろ (3)

前回のあらすじ ----------------------------------

トレントを一体斃し、ハルカたちもトレントがどういう物か認識する。

進む方向を決めるため、崖に登って森の全景を確認する。

 それは巨大な木。


 いかにもファンタジーとか思ってしまうような、非現実的な大きさではないが、周囲に生えている木と比べれば、一回りも、二回りも大きく、高さは三倍を軽く超えている。


 それがまるで通せんぼをするかのように、切り通しの前に屹立していた。

 そしてその前には、少し広い空き地が存在し――うん、あからさますぎるな。

 俺のゲーム的思考に則れば、あれってほぼ確実にボスエリア。

 きっと、あの木が動き出すに違いない。

 逆に動かなければ拍子抜けである。

 俺は再度全体を見渡すと、ロープで降下、次の人に交代する。


 ここよりも高い場所で、何度も崖の上り下りを経験している俺たちの中に尻込みする人はおらず、さほど時間もかからず全員が終了。


 唯一、ユキだけは少し時間がかかったが、彼女の場合、上で地図を取り出して書き込んでいたので、当然といえば当然である。


「どう思った?」


「たぶん、というか、ほぼ確実に、岩山エリアに続いて、森林エリア。あの切り通し部分がボス部屋――いえ、ボスエリアでしょうね」


「だよねー。絶対、巨大なトレントが出てくるよね」


「出てくるっつーか、すでに立ってたよな」


「同じ階層に複数のボスがいるのは初めてですが、必ずしも階段で区切られているとは限らないようですからね、ダンジョンの本を読むと」


 やはり皆、俺と同じ感想を持ったようだ。


 ここがダンジョンの外なら別なのだろうが、きっちりと岩山で囲んで行動を制限しているあたり、何もない方がおかしい。


「あの、川を下る方法はどうでしょうか? あそこも岩山が切れていましたよね?」

「山を登る方法もあるの。ちょっと高いけど……頑張れないこともないの」

「うん、選択肢としてはありよね。ただ、何事もなく通れるとは思えないのが……」


 言葉を濁すハルカに、全員揃って頷く。


 俺とナツキが落ちたときに、ダメ押しのように鉄砲水がやってきたように、川の部分を通ろうとしたときに何が起きるのか。


 興味はあるが、体験したいとは思えない。


「窒息だけは魔法で回避できるけど、濁流って息ができれば大丈夫ってものじゃないからね」


「普通に考えて、岩に激突したり、流木が()()()きたりすんじゃねぇ? 文字通りの意味で。トレントとかいるし」


「あの根っこに水中で絡みつかれたら……危ないよね」


「だな」


 流木が激突するだけでも危険だが、その流木が攻撃を仕掛けてくるとか、シャレになってない。


「それに、あの先に滝がある危険性もありますよ?」

「落ちたら死んじゃうの」

「罠がなくても、危険ですね」

「あそこから出るってのはなしか」


 俺とナツキがボスのガーゴイルをショートカットしたように、『ゲームシステム的に通行不可』ってことはないかもしれないが、危険度は高そうである。


「だからといって、周囲の岩山の方も、これまでに出てきた魔物を思うとなぁ……」


「対処法が判ればカモでも、初見だと厳しい魔物も出てくるからなぁ。さすがにオレも、戸板を背負ってロッククライミングはできねぇし」


「フライング・ガーとか、正にそのタイプだよねー」


 登るだけなら、ロッククライミングをする覚悟でいけば何とかなりそうだが、敵への対処はまた別。


 背後だけじゃなく、ロック・スパイダーのように岩壁側から攻撃してくる敵もいるのだから、もしトーヤが戸板を背負って登れても、決して油断はできない。


「普通なら、情報収集してからダンジョンに入るみたいですが、このダンジョンには当てはまりませんから」


「私たちが初めてだものね。逆に、だからこそ良い物が手に入るとも言えるけど」


「リスクとリターンは比例する、と。初回討伐報酬とか、宝箱とかな」


 俺たちが行きつ、戻りつ、不要な装備を買うことになったり、非効率なことをすることになったりするのも、先を進む冒険者がいないから。


 その報酬が宝箱なのだろうが、そのために無用な危険までは冒したくない。


「そうなると、あの切り通しを目指すことになるわけだが……ルートとしては三つか?」


「えっと、まっすぐ森を突っ切る、ここから岩山沿いに進む、川沿いに進むの三つ?」


 俺の言葉にユキが指を折りながら具体的に例示し、俺もそれに頷く。


「あぁ。川向こうの森に関しては行く意味はないだろう?」


「宝箱とか、探索を考えなければね」


「その可能性は……ゼロとは言わないが、低くねぇ?」


「これまで、草原エリアや森では見つかっていませんからね」


「だよねー。ハルカが行きたいなら反対はしないけど、ナオたちの話を聞く限り、結構面倒そうだよ? この森って」


「私もそこまで行きたいわけじゃ……取りあえず、ユキの提示した三つの案を検討しましょうか」



 森を突っ切る。

 言うまでもなく最短距離。


 ただし、それでも一日では到達できないだろうし、移動中は常に気を張っていなければいけないので、なかなかに疲れる。


 具体的には俺が。


 俺が休めるかは、トーヤの【索敵】がどの程度信頼できるかにかかっているわけだが、現実的に考えて、トーヤに任せて俺が気を抜く、ということは難しいだろう。




 川沿いを進む。

 道が判りやすく、森からの脅威を若干減らせるのが利点だろうか。


 問題は川に脅威がないとは限らないことと、都合良く川沿いに歩ける場所があるとは限らないこと。


 川の中にワニみたいな魔物が存在しないとはいえないし、両岸が切り立った岸壁になっていたら、川を離れるか、川の中を行くか。


 鉄砲水があったことを考えれば、メリットは少ないように思える。



 岩山沿い。


 上から確認できている通り、道に迷う危険性はほぼゼロだろうし、片側が岩山だけに、森からの脅威も軽減できる。


 難点は、かなり遠回りになることと、崩落の危険性だろうか。

 一度そんな罠を経験しているだけに、油断はできない。



 いずれも一長一短だが、相談の末に俺たちが選択したのは、岩山沿いの道だった。


 色々意見が出た中で一番の決め手は、『現時点では森で得られる素材をあまり必要としていない』こと。


 シャドウ・マーゲイなどから得られる魔石の値段は一万レア前後なので、このダンジョンの入り口付近で遭遇する魔物よりも、少し安い程度。


 危険な割に、魔石での利益は少ない。


 トレント素材の販売先は未定で、毛皮や肉に関してもどの程度で売れるか、はっきりしない。


 バインド・バイパーのことを考えれば、それなりの値段では売れそうだが、魔物の肉の買い取り価格は魔物の強さなど関係なく、単純に食べて美味いかどうか。


 どんな強敵だろうと、不味ければゴミなのだ。


 そして、大抵の場合、オークよりも使い勝手が良く美味い魔物――つまり、高く売れる魔物はそうそういない。


 毛皮などの素材に関しても似たようなもので、強い魔物の素材でも、使い道がなければやっぱりゴミ。


 単純に強ければ強いだけ高く売れるのは、魔石だけなのだ。

 とても世知辛いことに。


 もっとも皮などは、強い魔物ほど丈夫な革になるので、多くの場合は強さと値段が比例しているのだが。


    ◇    ◇    ◇


 岩山沿いを選択して数日。

 俺たちの行程は順調に推移していた。

 少し警戒していた岩山側からの襲撃や落石などは特になく、問題となるのは森だけ。


 そちらの方も、トレントやシャドウ・マーゲイなどによる襲撃自体はそれなりにあったのだが、周囲を囲まれている状況と、一方だけを警戒すれば良い状況。


 俺の精神的疲労は大幅に軽減された上、ユキが『空間分断(プレーン・シフト)』を使えることも助けになった。


 何より人数が多いことで、ナツキと二人で行動していた時よりも、ずっと安心して行動できる。


 やはり、数は力である。



 そしてこのエリアに入って六日後。

 俺たちはボスエリアと目した場所まで到達していた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 完全にダンジョン探索モノになっちゃってなんか微妙ですね
[気になる点] 「は得ている気」
[良い点] コミック版読みました 前話で飛ばされたと思ってた黒パン屋台がちゃんと出てきてよかった、そして不憫なトーヤ再び、と [一言] > そしてこのエリアに入って六日後。 外周半分歩いてこの期間とか…
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