348 方針決定会議 (1)
前回のあらすじ ----------------------------------
サンダーエッグのみ売却し、残りの原石は粗加工のみ頼む。
「と、いうことで、今後の方針について、会議を始めようか」
自宅の食堂。
全員がテーブルに着き、各自の前にはお茶と大皿に盛られたお菓子が。
見た目的にはお茶会だが、少し真面目なお話し合いの時間である。
このへんで今一度、自分たちの立ち位置について考えておこうと、俺の提案で集まってもらったのだ。
「あの、私たちが参加しても?」
「もちろん。メアリとミーティアも私たちの家族だし、将来にも関わることだから」
「はい、自由に意見を言ってくださいね?」
「解りました」
メアリとミーティアがこくりと頷いたのを確認し、俺は何から話すべきか少し考えて、口を開く。
「最初は、俺たちが冒険者になった初心から確認しておくか」
「迷ったら初心にかえる、悪くないですね」
「最初は、安全で安定した生活を手に入れる、だったよな」
「えぇ、そうね。これは達成できたわよね、比較的早期に」
トーヤがすぐに出した答えに、ハルカが同意し、ユキたちも頷く。
「はい。こうして、家を手に入れて、不自由のない生活をしていますからね」
「うん、最初の一ヶ月を思い出すと、夢のよう……。むしろ、あれが夢であって欲しかった!」
苦労したみたい……というか、俺たちもその一端を味わったからな。文字通りの意味で。
あれを食べながら朝から晩まで労働、というのはキツすぎるし、あの賃金では夢も希望も持てない。
「俺たちはそんな感じだが、メアリたちが冒険者になったのは……」
「私たちは自立できるように、です。冒険者なら、私たちみたいな孤児でもお仕事ができますから」
「お兄ちゃんたちみたいに、なりたかったの!」
嬉しいことを言ってくれる。
この世界の一般的な常識として、『成人したら家を出て自立するのが当然』というものがある。
家の跡継ぎ以外は、就職先があろうが、なかろうが、家から追い出されるのが常。
出て行かないのなら、跡継ぎの下働きのような扱いをされても文句が言えない。
なかなかシビアなことに。
俺たちとしては、引き取った以上は成人まで面倒を見るし、それ以降も家の管理人として二人を雇っておくことも視野に入れていたのだが、メアリとしてはそれでは少々不満だったようだ。
いや、正確に言うなら、『不安』だろうか。
俺たちに解雇されてしまえば後がない状況。
与えられるのは誰にでもできるような仕事で、必要性も乏しいもの。
事実、メアリたちが家に残っていなくてもあまり困っていないのだから、彼女の懸念は理解できるし、俺たちが雇用を続けられない状況――つまり、死ぬことがないとも言えない。
まぁ、その場合でも家に残している物を売れば、彼女たち二人がかなりの長期に亘って生活するだけの資金にはなるのだが、それで安心と考えられるほど、メアリは楽観的ではないだろう。
戦う力のない二人がそれだけの大金を持つ危険性、本当の子供ではないことによる相続の正当性など、懸念材料は多い。
その点、冒険者になっておけば、多くの問題は解消される。
実力があれば身を守ることもできるし、自分たちで食い扶持も稼げる。
少なくとも、路頭に迷う可能性は大幅に減るだろう。
「メアリたちは将来的な希望とかってあるの? 時々、孤児院の子たちと訓練をしているみたいだけど、今後、一緒にパーティーを組んで私たちから独立したいとか――。あ、私たちのことは気にせず、やりたいことを言ってね?」
ハルカの言う通り、仕事が休みのときのメアリたちは、孤児院に出かけていることが多い。
休みとは言っても、俺たちとの訓練は普通にやっているので、少々オーバーワークにも思えるのだが、孤児院に遊びに行くと、冒険者になりたい孤児から手合わせと指導を頼まれるらしい。
「いえ、私にそのつもりはありません。組んでくれと言われることはあるのですが……」
「お姉ちゃん、大人気なの!」
首を振り、言葉を濁したメアリに、ミーティアが万歳をして、嬉しそうにそんなことを教えてくれる。
だが、メアリならそれも納得。
「あぁ、強くて可愛いから」
今冒険者になろうとしている孤児たちはメアリよりも少し年上だろうが、そこにメアリぐらい腕が立ち、可愛い女の子がいれば、誘わないのは嘘だろう。
俺がその立場でも、絶対誘う。
「い、いえ、そんなことはないですよ!? 誘ってくれているのは本当ですが……」
「でも、組まないの?」
「はい、こう言っては何ですが、彼らとは差がありますから」
「まぁ、そうよね。レベルが違うわよね」
孤児の子供たちもトーヤやメアリたちが指導することで、単なる素人ではなくなっただろうが、それでも他のルーキーよりもスタート地点がちょっとマシ、という程度。
彼らが多少頑張って孤児院で訓練を重ねたところで、すでに俺たちと組んで仕事をしているメアリたちと比べれば、技術的な差は広がる一方だろう。
それに加えて装備的な面。
メアリとミーティアの装備は先日更新したばかりで、属性鋼を使った物に変わっている。
当然、彼らが冒険者になって最初に手に入れる武器・防具とは隔絶した差が存在する。
さすがに俺たちのように、『最初は木剣一本』なんてことはないにしても、比較するのも愚かしいほど品質に差があることは間違いない。
そこに生まれるのはたぶん、嫉妬や劣等感。
それらの差を乗り越えて、パーティーが維持できるかといえば……難しいだろう。
保護者と被保護者という関係ならともかく、メアリたちと孤児たちとはそういう関係ではないし、年齢的にも孤児たちの方が上になるのだから。
そういったことを考えれば――。
「まぁ、組んだとしても、破綻しそうではあるよなぁ、パーティー内の不和で。技術や装備以外にも、メアリを取り合ってとか、あるんじゃね?」
「い、いえ、私なんてそんな!」
「うん、ないとはいえないね! 冒険者って、女が少ないから」
メアリはトーヤの言葉を慌てて否定するが、ユキも、そして俺たちもトーヤの言葉を否定することはできず、思わず頷いてしまう。
そんな俺たちをメアリはきょときょとと見回すと、慌てたように声を上げた。
「わ、私としては、このままハルカさんたちと一緒にやっていけたらな、と思っています! ダメでしょうか?」
「ミーも! ミーも同じなの。一緒なら、美味しいご飯に困らないの。ナツキお姉ちゃんたちのご飯、すっごく美味しいの!」
メアリに続き、ミーティアもシュピッと手を挙げてそんなことを言う。
そして、ミーティアの言はとても重要なことである。
俺だって、今更ハルカたちと別れて生活ができるとは思えない。
少なくともこのラファンでは。
アエラさんの店はあるけど……うん、やっぱハルカの作る飯の方が良いよな。
「ミーティアちゃん、別に他の人とパーティーを組んでも、この家で暮らしていたら、ご飯は作ってあげられますよ?」
「そうだよね、別に出て行く必要もないし? 部屋は余ってるんだから、宿暮らしをする必要もないよね」
別に実家(?)暮らしの冒険者がいたって良い、ナツキとユキはそう言うが、ミーティアは悲しそうに首を振る。
「でも、冒険中は、きっと貧しいご飯なの」
「……それは、そうでしょうね」
「普通、のんびりと料理なんかしねぇみたいだしなぁ」
そして当然のこととして、普通の冒険者には、美味しい料理をできたてのまま持ち運ぶことも不可能である。
「まぁ、メアリがそうしたいなら、別に良いんじゃないか?」
「そうね、反対する理由はないわね、私としては。ミーティアとは少し年齢差があるけど、少なくとも私とナオは、ミーティアが引退する年齢までは一緒にできるだろうし」
「一〇歳以上だから、オレはなぁ……。引退する頃のことなんか、あんま想像できねぇけど」
ハルカの言葉に、トーヤが腕を組み、少し遠くを見る。
年齢の数え方が違うため、それを計算に入れて、俺たちの年齢が向こうで死んだ時と同じと考えるなら、実際は一二歳ぐらい違う、のか?
つまり、ミーティアが三〇歳のとき、俺たちは四二歳。
中年以降のことなんて、今の俺にはあまり想像が付かないが、三〇歳と四二歳では、体力的にはかなり差がありそうである。
少なくとも、俺たちの世界の人間であれば。
その点、俺とハルカはエルフ。
トーヤたちが引退した後でも、四人で仕事を続けることも可能だろう。
俺たちとしても、前衛を任せられるメアリがいることは、ありがたいのだから。









