346 成果 (6)
前回のあらすじ ----------------------------------
冒険者ランクを六に上げてもらい、宝石屋を目指す。
お店に入った俺たちを出迎えてくれたのは、前回の時と同じ、落ち着いた雰囲気の男性だった。
彼は俺たちをさっと見回すと、穏やかな笑みを浮かべて、俺に声をかけてきた。
「いらっしゃいませ、お客様。もう追加の指輪がご入り用ですか?」
「危険なことを言わないでくれ!?」
突然投げ込まれる危険球に、俺は慌てて首を振る。
雰囲気はめっちゃ紳士なのに、油断ならないな!? この人。
俺が指輪を買ったことも、あの時のやり取りも、きっちりと覚えているみたいだし。
確かにこんなお店に女性を連れて来店したら、そっちの用事だと思うのが普通だろうけどさ!
「おや、そうでしたか。では、そちらの方が?」
「オレも今のところ必要ないな、残念ながら」
トーヤの返答に、後ろでミーティアが微妙に残念そうな表情になっているのだが、まだトーヤを狙っているのだろうか?
ミーティアはトーヤに頼らなくても、そして『養ってくれる相手』を見つけなくても、もう十分に独り立ちできるぐらいの実力は身につけつつあると思うのだが。
「今日は冒険者ギルドから紹介されて、宝石の原石を売りに来た……いや、鑑定のお願いに来た、かな? まぁ、そっち方向の用事だから」
「なるほど、冒険者としてのご用件でしたか。では、別の部屋へ」
ユキの言葉に、店員はふむふむと頷くと、前回宝石を見せてもらった応接セットではなく、奥にある別の部屋へと、俺たちを案内してくれた。
ちなみに、今日の俺たちの服装は、全員私服。
町から出る予定もないので、防具も着けていないし、武器を携行していたりもしない。
ラファンでの生活も長くなり、すでに地元といっても過言ではないほど。
以前のように、過剰に警戒する必要もなくなっている。
こうやって気軽に出かけられるようになったのも、成長といえば成長なのかもしれない。
「そちらにお掛けください」
「ありがとうございます」
『冒険者として』と言われたので、どんな部屋かと思ったが、案内された部屋も普通に品の良い応接室だった。
俺たち全員がゆったりと座れるソファーに、テーブル。
調度品なども手抜きがなく、ギルドの部屋とは一線を画している。
扱う品を考えれば当然なのかもしれないが、根が庶民である俺からすれば、少々落ち着かない。
そして俺と同じタイプなのがトーヤとメアリ。
ナツキは当然として、ハルカやユキも平然と腰を落ち着かせている。
そして意外な大物がミーティア。
柔らかなソファーに深く腰を下ろし、その反発を楽しみつつ、足をぶらぶらさせるほどの余裕を見せている。
「それでは見せていただけますか?」
店員はテーブルの上に厚手の布を敷くと、そちらを手で示して微笑む。
「はい、解りました」
マジックバッグから取り出した石を、俺が布の上に順に並べていくと、店員さんは興味深そうに一つずつ手にとって調べていく。
ディオラさんと同じように、うんうんと頷きながら見ているが、きっと彼女とは違うはず。『石ですね』なんてことは言わないだろう。
かけている時間もかなり長く、じっくりと見ているから。
そして当然ながら、俺の期待は裏切られなかった。
「――はい。拝見いたしました。宝石の原石とサンダーエッグですね。如何されますか? すべて買い取りでよろしいのでしょうか?」
「えっと、まだどうするか決めかねているので、ひとまず、粗加工だけしてもらうことはできますか?」
「えぇ、可能ですよ。この原石のままだと、不要な部分も多いですしね。専門家を呼びましょう」
ハルカの言葉に、嫌な顔も見せずに微笑んだ店員さんが退出。
しばらくして連れてきたのは、いかにも職人という風に見える人物だった。
――ドワーフの。
この町ではほとんど見かけないドワーフだが、ドワーフというだけで信用できそうな気がするから不思議である。
「ほうほう、こいつはなかなかの数、持ち込んだな。どれ」
彼はこちらに軽く会釈だけすると、早速テーブルの上の石を手に取り、小さな金槌でコツコツと叩き始める。
一見、なんとはなしに叩いているように見えるのに、パラパラと黒っぽい部分が剥がれ落ちて、だんだんと原石の形が変わっていく。
それに従い、光沢のある石の姿が露わになっていくので、落ちているのは不要な部分なのだろう。
「申し訳ございません。無愛想な職人でして。その分、腕の方は信用できますので」
「みたい、ですね」
わずかな時間で一回り以上小さくなった原石だが、そこからは明らかに宝石とわかる物が姿を現していた。
「今されている作業は?」
「どんな宝石が含まれているかの確認だけじゃな」
「粗加工のためにお預かりするにも、どのような宝石で、どの程度の価値があるかを確認しておかなければ難しいため、現在はそれの確認を行っています」
職人の簡単な説明に、店員さんが詳しい説明を加える。
原石なんて一見すると、小汚い石にしか見えないのだ。
預けた後で、『内部にはたいした宝石が含まれていなかった』と言われても、素人には嘘か本当か、判断がつかない。
場合によっては、『宝石があったことを隠しているのでは?』と疑われることすら考えられるし、怪しい店なら実際に起こりうること。
それを避けるためには、客の前で全部の作業をするのが一番ではあるのだが、それは短時間で終わるものではなく、ずっと待っているのは、見ている方も、見られている方もキツすぎる。
そのため、こうやっておおよその原石の状態を確認し、どのような原石を預かったか、互いに情報を共有するため、今の作業を行っているのだとか。
「ふむ、いずれも上等じゃな。これ、ダンジョン産じゃな?」
「判るんですか?」
「判る。自然に掘り出した物には、こんなに宝石は含まれておらん」
普通に鉱床から掘り出される宝石の原石と、ダンジョンの宝箱から得られる原石。
見た目は似ていても、明らかに後者の方が価値が高いらしい。
だが、その見た目が似ているという点が危うく、下手なところに持ち込んで預けたりすると、すり替えられる危険性もあるとか。
「多少手間賃は高いが、安全を考えるならウチみたいなまともな店に持ち込むことだ」
「そうなんですか……?」
「私どもは信頼を大切にしております。それを裏切ってしまえば、ギルドからの推薦もいただけませんし、お客様方のような、有望な冒険者の方との縁も切れてしまいます。そうなると、このようによい物を手に入れる機会も、また商品をお売りする機会も逃してしまいますから。これからも、安心してお持ち込みください」
店員本人が言う言葉をどれだけ信用できるか、という部分はあるが、ここはディオラさんに紹介してもらったお店だし、作ってもらった指輪には満足している。
いきなり危険球を投げてくる店員さんではあるが、対応は悪くないし、あえて怪しい店に持ち込む理由もないのだが……。
「そうですね、それは今回の結果次第、でしょうか」
「ハハハ、これは手厳しい」
俺の返答に店員さんはそんなことを言いつつも、にこやかな表情はまったく崩れない。
自分たちの対応に自信があるってことなのだろうか。
だとすれば、俺たちとしても楽で良いのだが。