337 ガーゴイル (1)
前回のあらすじ ----------------------------------
ゴーレムが次第に巨大化していった結果、インパクト・ハンマーでも簡単には斃せなくなる。
他に有効な攻撃手段がないことから、インパクト・ハンマーが効く範囲で先に進むことにする。
そういう方針で探索を続行した俺たちだったが、幸いなことに通路幅の拡大が終わると同時に、ゴーレムの巨大化も止まった。
サイズ的には、トーヤの身長の二倍、それより少しだけ大きいゴーレムが最大だった。
だが、そのサイズのアイアン・ゴーレムは、かなり手強かった。
正面からの攻撃はほぼ効果がなく、トーヤが後ろに回り込み、背中側から魔石の位置を何度か殴りつけることで破壊に成功。
そんなゴーレムが何体も同時に出てくるようであれば、撤退も視野に入れる必要があったのだが、そのサイズのゴーレムは同時に出ても二体まで。
小さいゴーレムでも四体までが上限だった。
おそらくは、これ以上巨大化してしまうと、腕を振り回すスペースも取れないことが影響しているのだろう。
そして出てくる敵の種類も、メインディッシュがアイアン、ストーン、たまにロック・ゴーレムの三種類。デザート的にロック・シェル。
そのパターンになっていたので、一週間も戦い続ければ、戦闘の型もできあがり、大きなゴーレムでも、危なげなく斃せるようになっていた。
最も強いのは当然、アイアン・ゴーレムなのだが、むしろコイツが地味にウマい。
トーヤが指摘したように、持ち帰ることさえできれば、かなりの金になるのだ。
そして俺たちにはそれが可能。
普通は荷車でも持ち込まなければ難しいのだろうが、マジックバッグ様々、そして作った俺とハルカ&ユキ、偉い、である。
代わりに、ゴーレムの魔石は一つも確保できていないのだが……些細な問題だろう。
ストーンとロック?
ゴミですね、あれは。
特にロック、おめーはダメだ。
マジで金にならないから。
ストーンはまだ売れなくもないんだが、こちらも今は放置している。
いや、むしろ、確保していた物を捨てている。
ついに、マジックバッグに限界が来たので。
さすがはアイアン。重すぎである。
そんなこんなで、二一層に入って一ヶ月ほど。
そろそろ青空が恋しくなってきた頃、ついに俺たちの前に、ボス部屋が姿を現した。
◇ ◇ ◇
「ここが、ナツキたちが見たガーゴイルがいる部屋、で良いのかしら?」
「たぶん? 同じようなところに、複数のボス部屋があるとも思えませんし」
「間違いないと思うぞ。転移ポイントの感覚的に、だが」
前回落下したとき、俺は転移ポイントを持っていなかったので、残念ながら転移陣がある場所に転移ポイントを設置することはできなかった。
だが、あの場所で確認した、ハルカたちが設置した転移ポイントとの位置関係については、なんとなくではあるが記憶している。
あのとき最後に確認した感覚と、今この場で確認した感覚はかなり近い。
それこそナツキが言うように、同じようなボス部屋が複数近くにありでもしない限り、この扉の向こうにいるのは、あのガーゴイルだろう。
「そう。二人が言うなら、間違いないんでしょうね。問題はガーゴイルとどう戦うか、だけど……」
「ナオとナツキは一応見たんだよね? どんな感じだった? ガーゴイルって」
「すぐに逃げ帰ったから、見たと言えるほどには見てないんだが……」
「空を飛ぶ石像って感じでしたよね。ゴーレムよりは確実に手強いと思います。動きが速い上に、空まで飛びますから」
「素早さなら負けないの!」
むふんっ、と鼻息も荒いミーティアが、『こんな感じに!』と小太刀をシュシュッと振り回すが、相手は石である。
「そうだな、ミーティアなら速度面では問題ないとは思うが、結構硬そうだったぞ?」
グリグリと頭を撫でれば、ミーティアは不満そうに口を尖らせる。
「むぅー、硬いのは困るの。ちょっとズルいの」
「石像並みなのかしら? だとすると、やっかいそうね」
「確か、六体いたんだよな? 当然、オレが一体を受け持つとして、メアリ、ナツキ、ナオには頑張ってもらって……残り二体は、しばらくの間、ハルカとユキ、ミーティアで抑えられるか?」
トーヤの言葉にハルカは暫し考え込んだが、目を伏せて首を振る。
「……正直、判らないとしか言い様がないわね。見たことないのだし」
「そうなるよなぁ……」
俺が思うに、確実に斃せそうなのはトーヤだけ。
トーヤに次いで自信のありそうなメアリも、これまでのゴーレム戦でかなり上手く戦槌を使い熟しているので、邪魔さえ入らなければ倒せるかもしれない。
対して俺とナツキは……戦槌の扱いに関しては微妙。
メアリが使い熟していることを思えば、技術が足りないことも原因なのだろうが、体重が軽い俺に重い戦槌は合わない。
正直、俺もフレイルを用意したほうが役に立った気がする。
それを考えれば、俺とナツキは無理に斃そうとはせず、自前の槍や薙刀を使って時間稼ぎに徹する方が現実的かもしれない。
ハルカたちに関しては、前衛がいない状況でガーゴイルと戦うのは、ちょっと厳しいと言わざるを得ないだろう。
ユキもそれを解っているようで、難しい表情で唸る。
「う~ん、トーヤが捨て身で飛び込んで、即座に一体倒し、ハルカたちの一体を受け持つのはどうかな?」
さすがユキ。俺には言えない無茶を言う。
そこに痺れる、憧れる。
トーヤ、ガンバ。
「それは良い考えね」
「ですね。トーヤくんならきっとできます」
「トーヤさん、頑張ってください!」
「トーヤお兄ちゃん、凄いの!」
などと、女性陣全員から応援を受けたトーヤだったが、当然ながら、揺らぐこともなく首を振った。
「いや、良い考えじゃねぇよ? 強さも判らねぇ敵に捨て身で突っ込むとか、あり得ねぇからな?」
「おいおい、トーヤ。女性の声援を受けても断るとか、空気読めてないな」
「読まないんだよ、こういうときは! 何だったらナオ、インパクト・ハンマーを貸してやるから、やるか? お?」
手に持っていた戦槌を俺に向かって突き出し、ジト目を向けてきたトーヤから俺は視線をそらし、話を変える。さすがに、本気じゃないし。
「トーヤを主体にする作戦は無理そうだな。これまでのパターンからすれば、そこまで強くはないと思うが……」
ここまで出てきたボスの強さは、その階層に出てくる敵の強さとおおよそ比例していた。
具体的に言うと、その階層で出てくる最も強い敵、それを数体纏めて相手にできるなら、ボスも問題ない。そんな感じ。
今回で言うなら、ビッグサイズのアイアン・ゴーレムだろうか。
あれを数体……ちょっと厳しい?
上手く逃げ回って時間を稼げば斃せるだろうが、俺たちの実力が足りていると言えるだろうか?
「……やはり、『爆炎』を使うか?」
「だいぶ使い慣れてはきたよね、ここしばらくで」
ゴーレムに使うのは危険かも、と思われた『爆炎』ではあるが、完全にインパクト・ハンマーだけに頼るのもまた危ないと、多少の怪我は許容して、俺とユキで練習を重ねてはいた。
やはり最初のうちはミスもあり、何度か怪我をしたり、させたりと被害も出たのだが、今となっては、良い感じにロック・ゴーレムを破壊したり、ストーン・ゴーレムの足だけを吹き飛ばすことも可能になっていた。
えっ、アイアン・ゴーレム?
それは今後の検討課題ですね。
――さすがに、鉄は硬いです。
「そうね、初撃で一体でも二体でも倒せれば、かなり楽になるわよね」
「はい。幸いここには扉もあります。放り込んでから扉を閉めるという方法も採れますし」
なかなかにズルい方法だが、安全には代えられない。
前回の『空間分断』は失敗したが、『爆炎』の場合は、狙いをつけて投げつける魔法なので、発動直前まで扉を開ける必要がない。
発動までの間隙に攻撃される心配はないのだ。
それにゴーレム相手に使うのと違い、扉を閉めて退避してしまえば、周囲への被害や威力の調整を考える必要もない。
「それじゃ、その方向性で行く? 魔法で倒せた数に応じて、残ったガーゴイルは先ほどのトーヤが言った順に受け持つって感じでいいかな?」
「『爆炎』が効かなければ、撤退も選択肢に入れて、な」
「ですね。無理する必要もありませんから」
「そうよね。それ、大事」
ここまで来て面倒といえば面倒だが、幸い、鉄塊と宝石の原石で十分な稼ぎは上げられているのだ。
一度引き返して出直すという選択肢も、問題なく選べる。
だから、焦る必要はまったくない。
俺たちはそのことを改めて確認し、明日の決戦に備えて、早めに野営の準備に入ったのだった。









