333 岩山の中へ (4)
前回のあらすじ ----------------------------------
ロック・シェルは思った以上に美味しかった。
そのおかげで、収入がほぼないことに消沈していたナオたちも持ち直す。
翌日の朝食は、ロック・シェルの入ったスープだった。
焼いても美味かったが、スープにしてもロック・シェルは十分に美味しく、自然と俺たちのモチベーションはアップ。
美味い食材の確保という方面で力の入った俺たちは、ロック・シェルが見つかる度にしっかりと確保しながら、坂道を下っていった。
当然、ロック・ゴーレムも出現はするのだが、何の価値もないそれは、今ではただの障害物である。
そう、文字通りの意味で、障害物。バリケード。
昨日、懸案となっていた、坂を転がってくるかもしれないゴーレムに対応できるよう、数体分の残骸を使って、車が突っ込んでも止められそうな物をドンと設置してみたのだが……本当に効果があるかは謎である。
ダンジョンの罠にありがちな、単純に転がるだけの丸い岩と違って、ゴーレムって脚があるからなぁ。普通に乗り越えられそうで怖い。
そんなことをやりつつも、順調に奥へと進む俺たちだったが、その日の昼頃、ついに変化が現れた。
いつも通りに現れ、いつも通りにインパクト・ハンマーを叩きつけられたゴーレム。
その時の音が、これまでと明らかに違っていた。
これまでの『ガコンッ!』という音に対して、『ガキンッ!』という、やや硬質な音。
それと同時に、ハンマーを持つメアリの口からも声が上がった。
「硬いです!」
だが、結果は変わらず、やはり一撃で崩れ落ちたのだが、その残骸をよく見れば、なんか色が違う。
「トーヤ?」
「……うん、ストーン・ゴーレムだな」
「微妙な違い!? 石が大きくなったら、岩じゃないの? 大きさ、変わらなかったんだけど」
やや困惑気味なユキを見て、ナツキがストーン・ゴーレムの残骸の傍に屈み込み、それを調べ始めた。
「ハルカ、少し『光』を明るくしてもらえますか」
「了解」
明暗差が大きくなりすぎないよう、普段は抑え気味になっている『光』の光量をハルカが強めると、ロック・ゴーレムとストーン・ゴーレムの違いは明確だった。
はっきりと判るのは、その色。
茶色っぽい岩で構成されていたロック・ゴーレムに対し、ストーン・ゴーレムの方はもっと白っぽい。
所謂、御影石みたいな素材でできていて、ナツキがピックで叩いてみても、岩よりもやや硬質な音がする。
「メアリちゃんはどう思いました?」
「硬かったのはもちろんですが、ちょっとだけ、速かったような気がします」
「つまり、殴られたら痛い、と。嬉しくないな」
「いや、待て、ナオ。この残骸、ロック・ゴーレムとは違って売れるみたいだぞ?」
「売れるって……何が?」
「“石材”が。まぁ、重すぎるから、回収する冒険者は少ないみたいだけどな」
一応、売れる素材が残る分だけ、ロック・ゴーレムよりもちょっとマシ、なのか。
意味があるのかは微妙だが。
マジックバッグが余っているならともかく、普通なら労力に見合わない。
「しかも普通に戦ったら、石材としては利用できないサイズにならないか?」
「魔石を砕けないとなぁ……。試してみるか?」
「……そうね。インパクト・ハンマーは一つしかないわけだし、複数出てきたときも想定すべきよね」
「ガーゴイル戦に向けての予行演習になるかもしれませんしね」
ハルカとナツキのその提案で、俺たちはガーゴイル対策に用意した普通の戦槌やフレイル的な武器を以て、次に出てきたストーン・ゴーレムと戦ってみたわけなのだが……結果は粉々になった石材。
かなりの時間が掛かった上に、これでは売れないし、魔石も壊れているので、完全に草臥れ儲け。成果ゼロである。
それに加え――
「お耳がとても痛いの……」
「あぁ、普通に戦うなら、耳栓が欲しいな、マジで」
自分の耳をぺたんと両手で押さえ、ちょっと涙目のミーティアや、違和感があるのか、ピクピクと耳を震わせているトーヤたち獣人ほどではないにしろ、俺やハルカもそれなりに耳が良い。
間近で石に叩きつけられるハンマーの音は、なかなかにダメージが大きかった。
「それに、安物のせいか、武器もすでに鈍っていますしね」
「うん。ちょっと節約しすぎたかもな」
普段使いする予定のない武器だけに、俺たちが使っていたのは、ガンツさんの所で入手したお手頃価格の既製品。
いつもの武器とはお値段の桁が違うだけに、その品質は値段相応である。
俺が使っていた戦槌など、何度もストーン・ゴーレムに叩きつけたせいで、それなりに鋭く尖っていた片方の先端がすでに潰れてしまっている。
平らになるほどではないにしろ、最初と比べれば差は歴然。
与えるダメージもかなり低下しているだろう。
「耳栓はないけど、ミーティアとメアリ、頬被りでもする? 少しは軽減されるかも」
「そう、ですね。その方が良いかもしれません」
一応、自分で耳を伏せることもできるようだが、むしろ戦闘中などの興奮状態だと、耳がピンと立ってしまい、意識を割いて伏せるのは少し大変らしい。
ハルカが取りだした布をメアリとミーティア、そしてついでにトーヤも被って、顎で結ぶ。
……うん、それはイマイチ。
農家のお婆ちゃんみたいだぞ。
「ちょっと貸して」
ハルカも俺と同じ意見だったのか、トーヤをしゃがませると頬被りを取り去り、額側から後ろに布を回して結ぶと、耳を丁寧に畳んで中に収める。
今度はあれだな、イメージ的にはラーメン屋の兄ちゃん。もしくは大工。
「うん、こっちの方が良いわ」
「お、そうか? オレも動きやすくて良い感じだが」
メアリとミーティアの方も、ナツキとユキが同じように結んでやっている。
あれはあれで可愛いと言えなくもなかったが、こっちの方が普通に可愛い。
――というか、先を越された。
俺がやりたかった。せっかく耳を触る機会だったのに。
いや、頼めば触らせてくれるとは思うんだが、相手、女の子だしな。
普通に考えて『手触りが良さそうだから、髪を触らせて』と言うようなもの。
よほど親しい間柄でもなければ、ただの変態である。
故に俺も自重しているのだ。
その代わりに、トーヤのはたまに触っている。
トーヤも獣耳好き故に、理解してくれるのがありがたい。
もっとも、『男に触られるのは嬉しくねぇ!』と、本当にたまにしか触らせてくれないのだが。
「ミーティアちゃん、耳が痛かったりはしませんか?」
「大丈夫なの。ナツキお姉ちゃん、ありがとうなの!」
「音の方はどんな感じ? 少しは軽減されそう?」
「耳に意識を割かなくていいのは、ありがたいです」
「その代わり、索敵には多少影響が出そうだけどなぁ。……ナオ、頼んだぞ?」
「了解……って、言ってる間にも近づいているな」
「お、早速効果を確かめられるか!」
大きな音を立てて戦闘をしている影響か、ゴーレムは定期的にお代わりがやってくる。
トーヤを中心にそれらを排除しつつ先に進むと、三日目には通路に分岐も出現した。
上る方向と下る方向。
確率的には下る方向が、ガーゴイルのいるボス部屋に繋がると思うのだが、ゴーレムが後ろから転がってくる危険性を考えると、上る方向を無視するのも難しい。
ダンジョン故に、魔物を虱潰しに排除したところで、しばらくすれば復活するのだが、だからといって放置するのも怖い。
それらのリスクを勘案し、全員で暫し相談した結果、『ダンジョンの外は寒くなってきているし、食料もたっぷり。急ぐ必要もないので、のんびり調べよう』と決まり、マップを埋める方向で行くことになった。
幸い、判りやすく傾斜が付いているので、上り方向から順に調べてマッピング、ゴーレムやロック・シェルを排除しながら埋めていく。
インパクト・ハンマーがあるおかげで戦闘は楽なのだが、ずっと坂の上り下りというのが地味に辛く、斃しても金にならない魔物ばかりというのが、モチベーションの低下に繋がっている。
唯一の救いはロック・シェルだが、あれ、ゴーレムよりも出現頻度が低いんだよなぁ。
だが、そんな俺たちに救いの手を差し伸べるかのように、五日目、久方ぶりの宝箱が、俺たちの目の前に出現した。
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