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330 岩山の中へ (1)

前回のあらすじ ----------------------------------

繰り返し崖を下っていると、ナオが途中に存在する穴を発見。

そこから岩山の中に入ることを試みる。

 その後、ロープを二本に増やした俺とトーヤは、『隔離領域アイソレーション・フィールド』で背後を守りつつ、並んで崖を懸垂下降、穴の直上まで達したところで『(ライト)』を発動し、穴の中へと先行させる。


「よし、それじゃオレから行くぞ」

「大丈夫か?」

「お前が行くよりはマシだ。……よしっ!」


 穴の大きさが小さいため、トーヤは少し身体を丸めるようにして岩壁を蹴ると、振り子の原理で穴の中へと飛び込む。


 結構ギリギリのサイズだけにちょっと危なげではあったが、壁にぶつかったりすることもなく、トーヤの姿はきっちりとその中へと消えた。


 それを確認し、俺も同様に飛び込むと、そこには奥へと続く通路が延びていた。


 やや狭かった入口に対し、中は少し広がっていたが、それでも高さは二メートルほど。幅も一・五メートルほどで、これまでのダンジョンと比べると、人一人がやっと歩けるという広さ。


 そこを一〇歩ほど入った所で、トーヤが中腰で盾と剣を構え、洞窟の奥を睨んでいた。


「敵か!?」


 その姿にやや焦って尋ねた俺に、トーヤは曖昧に応える。


「いや……判らん。けど、なんかいそうな気がする。ナオは?」

「これは……また【擬態】か?」


 注意深く周囲を見回し、俺は洞窟の一点を指さす。


「トーヤ、そこの岩を叩いてみてくれ。インパクト・ハンマーで」

「これか? ――セイッ」


 トーヤが俺が指さした岩を『ガツン』と叩くと、四〇センチぐらいのその岩に震えが走り、バラバラと崩壊。その下からでろりとした軟体動物が地面の上に広がった。


「ぬわっ! 気持ち悪っ!? ――ロック・シェル?」

「みたいだな。――っと、先にハルカたちを呼ぶか。遅くなると、心配するだろうし」


 ロック・シェルの死体を剣で突いているトーヤをその場に残し、俺は入口まで戻ると上に呼びかけた。


「問題ない! 下りてきても大丈夫だ」

「了解です!」


 上から返ってきたのはナツキの声。

 そしてすぐに、メアリとミーティアが下りてくる。


 安全は確保されているので、俺たちみたいに勢いを付けて飛び込むことはせず、穴の位置まで下りてきたところで、俺が一人ずつ中へと引き込む。


 そして、ハルカたちも後に続き、無事に全員が揃ったのだが……狭いな?

 すれ違うのがやっとという広さなので、いつものような隊列を組むこともできない。


 取りあえず一列になってトーヤの所まで戻ると、ミーティアが地面にでろりと広がったロック・シェルを小太刀で(つつ)いていた。


「これ、食べられるのです?」


 ミーティアの疑問に、トーヤがじっとロック・シェルの死体を見つめてから、頷く。


「あぁ、一応食える。だが、大きさの割に食える場所が少ないみたいだな」


 先ほど斃したロック・シェルの大きさは、直径で四〇センチほどだったが、岩にしか見えないその殻は、厚みが五センチほどもあり、殻の残骸を取り除けて残った中身は、存外大きくなかった。


 単純に考えれば、中身は直径三〇センチほどの塊なのだろうが、殻がなくなると形状が保てないのか、地面で潰れているそれは、かなり見た目が悪い。


「えっとだな……この中で食べられるのは、中心部分の直径一五センチ、厚さ一〇センチほどの部分。それ以外は内臓などで、食用には適さない。しっかりと加熱して食べなければ、腹を壊すこともある、だと」


 おそらく【鑑定】を使ったのだろう。

 トーヤから、とても受け売りっぽい説明を頂いた。


「なら、回収するの! 食べたことないの!」


 アグレッシブにもミーティアは、叩き潰されてグチャッとなっている軟体生物に怯む様子も見せず、むしろ嬉々として魔石を回収すると、ロック・シェルの解体を始める。


 トーヤの指示するまま、周辺の不要な部分を切り分けてミーティアが取り上げたそれは、一見するとアワビにも近い。


 こうなると食材に見えてしまうから、不思議である。


「取り除けた周辺部分は食べられないの?」


「毒はないが、岩を多く含んでいるらしい。食べたら、ジャリッていうか、ゴリッて感じで歯が欠けるかもな。対処方法としては、生きたまま岩から剥ぎ取り、水の中に放り込めば、岩とか土を吐き出すらしいが……手間とコストが合わないみたいだな。一番美味いのは、今ミーティアが回収した場所だから」


 貝ではあっても、完全に陸に適応しているのか、水の中に入ると溺れるらしい。


 そのため、自重を軽くして水から逃げ出すために、重たい殻を捨て、岩を吐き出すようだ。


 まぁ、それで水から逃れたとしても、殻をなくした貝が生き延びられるとは、到底思えないのだが。


「ちなみに、攻撃手段は?」


 これまでのパターンからして、絶対なんか厄介な攻撃手段があるに違いないと思ってトーヤに訊いたのだが、返ってきたのは予想外の答えだった。


「いや、それが、コイツってほぼ無害らしい。無視しても問題ないんだと」

「……え、マジで? この何かと凶悪なこの階層で?」

「そう。近くにいても、それこそ上に座ってもほぼ動かないらしい」

「ホントに? それって、ダンジョンの魔物としてどうなのかな?」

「だよな? 何で存在するんだ?」


 自然界の普通の動物ならともかく、ダンジョンにいる魔物の生態としては、間違っている気がする。


「でも確か、野営をする前には近くにいないか、確認しないといけないと書いてありましたよね?」


「あぁ、そこだけは気を付けないとダメだな」


 ナツキの注釈に、トーヤは頷いて言葉を続ける。


「傍で暢気に寝ていると、ジリジリと近づいて来てのし掛かられるらしい。顔とかに」

「うっ、これが、ですか?」

「気持ち悪いの……」


 ミーティアによって捨てられた死体を見て、メアリとミーティアが顔を顰める。

 食べるのは楽しみでも、それとこれとは別問題なようだ。


「動きは遅いから、起きていれば問題ないんだが、岩にガッチリと張り付いたり、岩をガリガリと削ったりするようなのが肌に張り付いたらどうなるか……想像はできるよな?」


「やっぱ凶悪じゃねぇか!」


 下手に切られたり、噛まれたりするより(こえ)ぇよ!


「イメージ的にはそうだけど、実際は起こらないでしょ、誰かが見張りで起きてれば」

「だよね。ダンジョン内で、見張りも立てずに寝るなんて、あり得ないし」

「だから普通は、居眠りした見張りの足をやられる程度で済むらしい」

「程度っつーか、それでもかなり嫌だな」


 たぶん、足の肉を削り取られるんだろ?

 この傘貝っぽい形状からして。

 治癒魔法がなければ、かなり酷いことになりそうである。


「でも、事前に注意すれば大丈夫そうなので、そこは安心ですね。周囲にある怪しい岩、叩けば良いですから!」


 そう言いながら、手に持ったバスタード・ソードをちょっと持ち上げたのは、メアリである。


 忘れがちだが、俺たちの中でトーヤの次にパワータイプなのは彼女なのだ。

 体格的には下から二番目なのに。


 これから彼女がどう成長していくのかは判らないが、俺の希望としては、あまりムキムキのお姉さんにはなって欲しくない。貴重な獣耳なので。


 幸いなのは、この世界の場合、見た目上の筋肉がなくても高い膂力が得られることか。


「……ま、叩いてみるのは良いけど、その時はそれじゃなく戦槌でな? ガーゴイル用に用意したのがあるから」


「はい、解りました。頑張って粉砕しますね!」


 そう言って、「ふんすっ!」と鼻息も荒く、可愛く拳を握るメアリだが……言っていることはなかなかに凶暴なのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] メアリは完全にパワータイプになってるね。
[一言] ロックシェル乾燥して干物にしたら良い出汁が取れるかもね⁉
[一言] ウポツでーす。
感想一覧
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