表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
360/500

328 再始動 (1)

前回のあらすじ ----------------------------------

武器の確認や必要な物の確認も行い、それを準備して翌日出発。

ダンジョンへと入り、前回の場所まで到達する。

「戸板の出番だな。トーヤ、大丈夫なんだよな?」

「もちろん実験済みだ。自分で使うんだからな」


 トーヤがそう言いながら、マジックバッグからズリズリと引き出したのは、正に戸板。


 古民家の雨戸とかに使われていそうな代物である。


 違いといえば、かなりぶ厚いことと、背負えるように肩紐が取り付けられていることか。


 あ、よく見ればあともう一点、肩紐の少し上の部分に、横に細長い布袋が取り付けられているな。


「その上に付いている布袋は?」


「あぁ、これはパラシュートだ。これを背負うと、バックパックを背負えなくなるからな。落ちたら、困るだろ?」


「なるほど……?」


 ナツキの作ったパラシュートは、バックパックに取り付けるアタッチメント方式で、当然、全員のバックパックに取り付けられている。


 だからこそトーヤが、バックパックを背負っていない間の対策として、これを考えたのは判るのだが……トーヤ、その戸板を背負って落下するつもりなのか?


 下は川だぞ?

 それで川に入ったら、溺れないか?


 戸板にパラシュートを付ける前に、戸板のキャストオフを考えるべきだと思うのだが……。


 チラリとナツキを見れば、彼女も知らなかったのか、目を丸くしている。

 ……うん、次への検討課題としておこう。

 今更、変更できないし。


 可能なら即座にキャストオフする機構と、トーヤと戸板、両方に独立したパラシュートを付けるようにすべきだな。


「ちなみに、間に鉄板が入っているからな。なかなかに重いぞ?」

「どれ……っ、お、重っ!」


 トーヤにホイと渡されて、持ってみたその戸板はズシリと重く、俺の筋力ではふらつくほど。


 これを背負って縄梯子を上り下りとか……うん、無理。


「トーヤ、これ、大丈夫なのか? 体力的に」

「これを背負っての戦闘は無理だが、上り下りぐらいなら、なんとか?」


 トーヤはバックパックを下ろし、俺が「よいせっ!」と返した戸板を軽く背負うと、その場を普通に歩いてみせる。


「おー、さすがだな……」

「やっぱり体力は随一だよねー、トーヤは」


 その後ろ姿は、文字通り歩く戸板。

 トーヤの全身が完全に隠れて、まったく見えない。

 これなら厚い板と鉄板を貫かれない限り、危険性はなさそうである。

 その重さにさえ、耐えられるのならば。

 俺は無理。

 そして、これを背負ったトーヤを支えるのも無理。

 もしトーヤが落下したならば、共に水泳するしかないだろう。


「縄梯子の方は大丈夫なの? 重量的に」


「そっちも対策済み。前回のこともあったからな。少し太めのワイヤーにしてもらった」


「あぁ、新しくなっただけじゃないのか」


 前回の崩落で傷が付いたので、補修してもらったのは知っていたが、太さも変更されていたらしい。


 見ただけではあまり差が判らなかったのだが、プロが大丈夫だというのだから、大丈夫なのだろう。


「そいじゃ、行ってくる! アローヘッド・イーグルの方の対処は頼むな? まったく見えないから」


「えぇ、そちらは任せて」


 弓を構えるハルカを見て、トーヤは『うむ』と頷くと、縄梯子に足を掛けてゆっくりと下りていく。


 問題がないとは言っていても、あの戸板の重量を考えれば、自重が二倍ぐらいにはなっているはず。かなり慎重に行動しなければ危ないだろう。


 そして、トーヤが五メートルほど下りたところで最初にやって来たのは、やはりアローヘッド・イーグル。それが四羽。


 俺たちもだいぶ慣れてきたので、死体が岩棚の上に落ちる位置で、ハルカが一羽、俺が二羽、ユキが一羽の割り当てで撃ち抜く。


 あっさりと命を刈り取られたアローヘッド・イーグルは、慣性のままにトーヤの方へ。


 ドン、ドン、と戸板にぶつかり、なかなかに良い音を奏でる。


「おぃぃ! 背中にぶつかってんだけど!?」

「問題ない。そいつはもう死んでいる」

「……その台詞、死体が爆発しそうで怖いんだが?」


 不本意そうな表情で見上げるトーヤだが、確実に岩棚に落とそうと思ったら、かなりの近距離で迎撃することになるわけで。


 かなりの速度で飛んできている以上、トーヤにぶつかる物も出てくるわけだ。

 だって、せっかく斃すなら回収したいじゃん?


「フライング・ガーも防ぐんでしょ? アローヘッド・イーグルなら、仮に死んでなくても大丈夫よ」


「衝撃が強いんだよ、サイズが大きいから!」


 そんなに気にする必要がないと言う俺たちに、トーヤは抗議の声を上げるが、そこに年少組から声援が送られる。


「トーヤお兄ちゃん、頑張って、なの! アローヘッド・イーグルも美味しいの!」

「焼き鳥ですよ、トーヤさん!」

「うぐっ……まぁ、事前に言ってくれれば、問題はねぇけどよ」


 事実、アローヘッド・イーグルの焼き鳥は、結構美味かった。

 特にモモ肉。


 猛禽類っぽいし、足で獲物を掴んだりするためか、モモ肉はかなり太く、引き締まって、程よい歯応えがあるのにパサついたところがない。


 豚っぽい肉や牛っぽい肉に比べ、鳥の肉は手に入りづらいだけに、それなりのサイズがあるアローヘッド・イーグルは貴重。


 一応、フレイム・ピーコックやビッグ・オストリッチも分類としては鳥なんだろうが、あんまり肉が鳥っぽくないというか、獣臭いというか……特に後者は。


 いくら他に美味い肉があっても、焼き鳥は焼き鳥で食べたいのだ。


「ただ、足を上げているときだと危険だから、ぶつかる前に教えてくれ。身構えるから」


「了解。あー、そろそろぶつかるぞ。フライング・ガーが」


「へっ? ……おわっ!?」


 俺の警告に一瞬だけ呆けて、すぐに縄梯子をガッシリと掴んだトーヤの背中に、フライング・ガーが「ガガガガッ」と突き立った。


 ――もちろん、突き立ったのは、その背中に背負われた戸板に、であるが。


「お、おぉぉ……」

「「わぁぁぁ」」


 フライング・ガーが大量に突き立つ衝撃に、なんとも言えない声を上げたトーヤに対し、メアリたちから上がったのは歓声。


 言うまでもなく、大量のお魚が嬉しいのだろう。


「トーヤ、大丈夫? 背中、痛かったりしない?」

「あ、あぁ、問題ない。きっちり防げている。重いけど」

「大盤振る舞いだからな」


 途中の崖を転移でスキップしたからか、飛んで来たフライング・ガーの数は、恐らく過去最大。


 それらがすべて戸板に突き刺さっているのだから、重くもなるだろう。


「……しかし、かなりシュールな光景ね」

「そうですね。ビチビチ動いているのがまた……」


 戸板を背負って縄梯子を下りること自体、かなりシュールなのに、その戸板には大量の魚が突き刺さり、ビチビチと尾を振っているのだから、何というか……表現に困る。


「でも、お魚はいっぱいなの!」

「あぁ、そうだな。目的はきっちり、達しているな」


 トーヤの背中を守るという目的も、フライング・ガーを効率的に捕るという目的も。


「よし、トーヤ、おかわりはないみたいだ。下りても大丈夫だぞ」

「了~解~」


 再び梯子を下り始めたトーヤを上から見守ること、暫し。


 追加でアローヘッド・イーグルが飛んで来ることも、フライング・ガーが飛んで来ることもなく、トーヤは下の岩棚へと下り立った。


「大丈夫、みたいね。それじゃ順番に下りていきましょ。最後は……やっぱり、ナオかしら」


「俺? ……まぁ、順当か」


 残ったメンバーを見て、俺は頷く。


 最後に下りる人は、縄梯子を取り外し、ロープで下りることになるのだが、前回その担当はトーヤだった。体力的に適任だったので。


 今回はトーヤが最初に下りているので、残ったメンバーの中で誰がやるかとなれば、俺ということになるだろう。


 さすがにトーヤに、『もう一度上がってこい』と言えるほど、俺は鬼畜じゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2025年3月5日発売
異世界転移、地雷付き。 12巻 書影

異世界転移、地雷付き。 コミック2巻 書影

ComicWalkerにてコミカライズ版が連載中です。


以下のような作品も書いています。よろしくお願いします。

ファンタジア文庫より書籍化しました
『新米錬金師の店舗経営』

新米錬金師の店舗経営 7巻 書影

『けもみみ巫女の異世界神社再興記 神様がくれた奇跡の力のせいで祀られすぎて困ってます。』

けもみみ巫女の異世界神社再興記 書影

『図書迷宮と心の魔導書』

図書迷宮と心の魔導書 書影
― 新着の感想 ―
[一言] 軽量化魔法かけてあげてw あれなんか制限ありましたっけ
[一言] 誰かがパラシュートのたたみ方知っていたんですね。 あれ、たたみ方間違えると開きませんが……
[気になる点] 読み返して気がついたのですが、使い道に困って死蔵しているトレントがあるんだから、戸板は木の板と鉄の二重構造ではなく、木の板とトレントの板の二重構造にすべきですよね 重量が命に係る状況な…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ