302 崖を下る (1)
昨日、コミカライズ予告編がComicWalkerで公開されたようです。
是非、読んでみてください。
前回のあらすじ ----------------------------------
崖に突き立ったフライング・ガーを回収。
安全に降りる方法を考える。
「う~ん、それじゃ、ここはやっぱ、トーヤに頑張ってもらおうよ。フライング・ガーが飛んできたら、後ろを向いて、すべて切り飛ばす、とか」
少し考えていったユキの言葉に、トーヤが目を剥く。
「無茶振りするな!? 片手しか使えない上に、足場が定まってねぇのに!」
「まぁ、そうよね。それができたら、ホントに、凄いけど」
「弓矢なんか、怖くないよな」
少なくとも、不意打ちさえされなければ。
残念ながら、トーヤの技量は未だそこまで到達していない。
「むしろユキ、お前が行け。お前もナオが使った魔法、『隔離領域』が使えるんだろ?」
「あたし? それなら、ナオの方が良くない? あたし、魔法の技術ではナオに負けてるし」
「撃退じゃなくて、防ぐ方向性か。それなら俺でも良いが、問題は降りた後だよな」
たぶん、『隔離領域』であれば、アローヘッド・イーグルも、フライング・ガーも防げるとは思う。
だが、下の岩棚に降りた時、そこに他の魔物がいたら、俺では少々心許ない。
「もういっそ、オレとナオで、一気に懸垂下降するか? さっきの事を考えれば、飛んでくるまで多少の時間があるし、何とかなるんじゃないか?」
フライング・ガーが飛んでくる前に、下の岩棚まで到達しようという考えか。
「悪くない提案だけど、それ、戻れなくなるわよね? 下手をしたら、ロープは切られる事になるし」
三、四メートルほど降りて、アローヘッド・イーグルが三羽とフライング・ガーが二〇匹弱。
同じ割合で飛んでくるなら、岩棚に降りるまで、フライング・ガーは七〇~八〇匹は飛んできそうである。
それらすべてが運良くロープには突き刺さらない、なんて事は期待すべきではないだろう。
「一応、転移魔法で戻れるが、完全に魔法頼りってのは怖い部分があるな」
「魔法に頼って良いのなら、下の岩棚まで、ナオの転移魔法で跳ぶ、という方法もあるけどね」
「あ……そういえば、その方法もあったな」
ユキの提案に、俺は思わず言葉を漏らす。
視界内であれば、転移もそうそう失敗しないのだから、敢えて崖を降りるという、危険な方法を取る必要は無かった?
そう思った俺に対し、ハルカは首を振る。
「いえ、それ自体は私も考えたわよ? でも、ワープで先に進むのって、碌な事にならない気がしない? 転移魔法も実力と言えば実力なんだけど、ちょっと違うというか……」
「……あぁ、ワープポイントを使って先に進むと、そこの敵が強すぎて全滅するとか、あるよな」
ゲームで、だけど。
曖昧な笑みを浮かべていったハルカの言葉に、俺やトーヤは深く頷く。
「転移を使わずに進めねぇなら、実力不足って事か」
「そう。そのぐらいの方が良いと思わない?」
「はい。ある程度の安全マージンは必要ですね」
「だから、魔法を使わずに降りられた方が良いと思うんだけど、もう一つ疑問なのは、一度飛んできたら、再度同じ場所には飛んでこないのかどうかよね」
「それもあったか……」
さっき、トーヤが回収に降りた時には飛んでこなかったが、何度も飛んでくるようなら、全員が対処できないといけないわけで……。
「ダンジョンという事を考慮に入れたら、パターンはありそうだよね。とりあえず、ナオを囮にして、実験しよっか?」
「あっさり“実験”と言われるのは気になるところだが、やるしかないか」
「ま、ナオなら、引っ張り上げるのも楽だしな。オレが上にいるなら」
俺の体重がこのパーティーメンバーの中で、どの場所に位置にするかは機密事項だが、トーヤに比べて軽い事は間違いない。
その上でトーヤも参加して引っ張るのなら、先ほどよりも楽なのは間違いないだろう。
「でも、それなら、もう少し軽い人がいるわね?」
「そうですね。ついでに、『隔離領域』も使える人が」
ハルカとナツキの言葉に、視線が集まった先は、当然、ユキ。
急にお鉢が回ってきて、ユキの目が泳ぐ。
「あ、あたし? や、やるの?」
「ま、俺がやるから――」
苦笑して俺が言った台詞に被せるように声が上がった。
「ミー! ミーがやるの!」
「「「えっ?」」」
俺たちの視線が一斉にミーティアに集まるが、彼女は怯む様子も無く、胸を張り、ふんすっと鼻を鳴らす。
「体重はミーが一番軽いの!」
「それは、間違いないけど……」
さすがに、女性陣の中に『ミーティアよりも私が軽い』と主張する人はいない。
「それに、ナオお兄ちゃんの魔法だと、お魚が全部落ちちゃうの! 勿体ないの!」
「……まぁ、弾き返すわけだしな」
運が良ければ下の岩棚に落ちるかもしれないが、俺の背中、ギリギリの場所に障壁を張るわけではないので、そのほとんどは崖下行きだろう。
「ミーもきちんとお仕事、できるの!」
ミーティアはそう主張するが、どうしたものかと、実の姉のメアリに視線を向けると、彼女もまた、真剣な表情で頷く。
「任せてくれませんか? 私たちも仲間として認めてもらえるなら」
ミーティアの事を被保護者と考えるなら、危険な事をさせるのは避けるべきなのだろうが、ユキたちと同じように、対等なパーティーメンバーと見るのであれば、ミーティアの提案には一定の合理性がある。
彼女の体重とロープを引く側の膂力、先ほどの事を併せて考えれば、さほど危険性は高くない。
パーティーメンバーに任せる仕事としては、許容範囲、か……。
「……そうね。ミーティアを先行して下ろしそのすぐ上にナオを配置する、ってのでどうかしら?」
「それは良いかもな。ナオも敵の感知がしやすいだろうし、ミーティアもナオの場所まで引き上げれば安全になるわけだし」
「それじゃ、それでいってみるか?」
方法としては、ミーティアは縄梯子を使わずにゆっくりと下ろし、そこから数メートルほど空けて、俺が縄梯子を使って後を追う。
フライング・ガーが飛んできた段階で、ミーティアを引き上げて、状況によっては『隔離領域』を使って防御する形。
「行ってくるの!」
トーヤの惨状を見てもあまり恐怖を感じていないのか、俺たちを信頼しているのか、笑顔のまま吊り下げられていくミーティア。
「行ってくる」
「ナオ、しっかり守るのよ?」
「了解」
ミーティアの場所を確認しつつ、俺もゆっくりと後を追う。
そして、先ほどトーヤが襲われた場所を過ぎ数メートルほど下がったところで、俺の索敵に反応があり。
上を見れば、既にハルカは弓を構えていた。
飛んできたのはアローヘッド・イーグル四羽。
先ほどよりも一羽多いが、事前に予測していたハルカの攻撃は速かった。
俺の射程に入った時点で二羽が打ち落とされ、一羽は上から飛んできた『火矢』で、そして残り一羽は俺の魔法で対処する。
今度は少し余裕があったため、少し攻撃距離を考え、下の岩棚に落ちるように調整したのだが……うん、上手くいったようだ。
『火矢』なので、羽に価値が残っているかは不明だが。
「ナオお兄ちゃん、上手いの」
いつの間にか、スルスルと俺の隣まで引き上げられていたミーティアが、パチパチと手を叩きながら褒めてくれるが……ミーティア、なかなかに余裕だな? ぶらんぶらんしてるのに。
「問題は無いか?」
「うん。大丈夫なの」
とか話している間にも、ミーティアの身体が再び下がっていく。
その様子を見て、思わずミーティアを餌にした釣りを想像してしまう。
狙っているのが魚だけに。
そして、すぐに本命が飛んできた。
先ほど同様、滝の上部からこちらへ向かって一直線。
数もほぼ同じぐらいである。
「トーヤ!」
「判ってる!」
「わわっ!」
再び俺の所まで上がってきたミーティアの身体を片手で抱き寄せて、念のため『隔離領域』を発動。
その直後、俺の足よりも少し下にカッカッカッと突き立つ、フライング・ガー。
それだけではなく、数匹は俺の張った障壁にぶつかって跳ね返され、落下していく。
「う~ん、これはきっと、引き上げるのが早かったの!」
確かに、その軌道からして、俺を狙ったと言うよりも、上に移動したミーティアを狙って軌道を変えたと思われる。
速度が速度だけに、自由に軌道を変えるのは難しいようだが、ある程度の距離があれば、若干は到達点をずらす事はできるのだろう。
しかし――。
「……ミーティア、余裕だな?」
「うん! お兄ちゃんたちがいたら大丈夫なの!」
「あんまり過信されても困るんだが……信頼は嬉しいけどな」
まぁ、ヤバければ『隔離領域』をミーティアの場所まで拡大する事は不可能ではない。
魔力的には少々キツくなるが、そんな状況になったら、撤退を決断する事になるだろうから、問題ないと言えば問題ない。
「トーヤお兄ちゃん! もうちょっとゆっくりでも大丈夫なの!」
「えぇ……」
ミーティアの言葉に、上から覗くトーヤの顔が困惑に彩られる。
だが、そんなトーヤの困惑など関係ないとばかりに、手を振ってロープを緩めるように指示を出すミーティア。
「まずは今回のお魚を回収するの。新鮮なお魚がいっぱいなの!」
「確かに、いっぱいだな」
数匹ほどは落下していったが、岸壁に突き立つ魚の数は二〇匹前後。
俺もミーティアに協力して、回収していく。
先ほどのトーヤのやり方を真似て。
考えてみれば、この方法、なかなかに合理的。
首を折り取らずに引き抜いたりしたら、危険な吻を振り回されるわけで、きっちりと鞘(?)に収まっている状態で絞めてしまうのが安全である。
……見た目が悪いのは如何ともしがたいが。
「終わり! ドンドン捕まえるの!」
一度成功したからか、笑顔で急かすミーティアに引きずられるように、同じ事を繰り返す事、更に四度。
一〇〇匹以上の魚を手に入れて、俺たちは下の岩棚に降り立つ。
最後、岩棚に降り立つところだけは俺が先行したが、幸いな事にそこに魔物は存在せず、俺たちは無事に降下を成功させた上に、きっちりと大量の魚と数羽の鳥という報酬も得たのだった。
BOOK☆WALKER様で新作ラノベ総選挙なるものをやっているようです。
この作品も、新文芸・ブックス部門にノミネートして頂いているようなので、よろしければ投票、お願いします。
明日、28日が最終日のようです。









