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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第九章 一周年と……
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299 二一層 (2)

前回のあらすじ ----------------------------------

シモンに頼まれて一週間ほど、銘木の伐採を行う。

その後、ダンジョンの二一層に向かうが、二一層では二〇層の転移ポイントが認識できなくなっていた。

「それって、明らかに、この階層のせいでしょ」


 ハルカが雄大な景色を見回して言うと、トーヤもまた同意するように頷く。


「だよな。階段、メッチャ長かったし、この空の高さとか……いや、空は二〇層までも一緒だったか」


「うん。天井は見えなかったけど、転移ポイントを感知した距離から言えば、そこまで高くはなかったんだよね」


「階段の長さ自体は、感知できなくなるような距離じゃないが……空間が歪んでいるのか?」


「あり得ますね。そもそも、ダンジョン自体、普通に地面の下にあるわけじゃないですから」


 場所的にダンジョンの上に位置する地面を掘っても、ダンジョンには到達できないように、ダンジョンの床を掘っていっても、下の層に到達するとは限らない、らしい。


 到達する場合もあるようだが、二〇層から二一層は、確実に到達しないタイプだろう。


 と言うか、到達してしまったら、落下して確実に死ぬ。

 階段の長さ、そのままの高さしか無かったとしても。


「……まぁ、ここに転移ポイントを設置してしまえば、実用上は問題ない、か?」

「そうよね。それなりに転移ポイントの在庫はあるし」


 最初の頃に比べ、錬金術のレベルも上がっているため、転移ポイントはある程度の余裕を見て、マジックバッグ内に確保している。


 少し多めに使ったところで、ハルカたちの手間とコストが、多少余計にかかるだけで済む。


 必要コストが低いとは言えないのだが、命の保険として使うなら、問題ないレベルだろう。


「問題はどこから降りるか、だけど……」

「こうやって見てみると、何カ所か、降りられそうな場所があるんだな」


 その場で地面に這いつくばるようにして、崖下を見下ろすトーヤに倣い、俺もまた見てみると、崖沿いの道に沿うようにして、数十メートル下に何カ所も飛び出た岩棚が見える。


 はっきりは見えないのだが、崖をえぐるようにして、その岩棚から細い道が続いている……のか?


 崖がひさしになっているようにも見え、ここからでは判りにくい。


「普通に、一番近いところで良いんじゃないかな?」

「そうですね。転移で戻ることを考えると、ここに近いところが良いでしょうし」

「と、なると、あそこか」


 階段を下りた所にある広場、そこから右側に伸びる道を一〇メートルほど進んだ場所の下に見える岩棚が、最も近い降下ポイントとなるだろう。


「一番手は、やっぱオレだよな?」

「他に誰がいる?」


 何かにつけてトーヤに一番手を任せてしまうのは申し訳ないとは思うのだが、一番堅いのが彼なので、合理的に考えればそうならざるを得ない。


「だよな。解ってた」

「あの……何だったら、私が代わっても――」

「さすがにそれは受けられねぇよ、メアリ」


 遠慮がちに口を出したメアリに、トーヤは苦笑して首を振る。


 獣人という事を考慮に入れると、もしかすると肉体強度的には、俺やユキよりも上かもしれないが、さすがに彼女に任せるぐらいなら、俺が行く方がマシ。


 そしてそれ以上に適任なのがトーヤなのだから、むべなるかな。


「ごめんね~、トーヤ。でも、代わりがいないから。決して、男女差別、とかいうわけじゃないんだよ?」


「わーってるよ。治癒担当は論外、年少組も除けば、ユキとナオ。二人と比べりゃ、オレの役目になるって事ぐらい」


「サポートはするから頑張れ」


 ため息をつきつつ、命綱を結び始めるトーヤの肩を叩き、俺は地面に杭を打ち込む。

 降りる時に使うのは縄梯子だが、万が一に備えてきちんと命綱も結んでおく。


「ナオ、ロック・スパイダーは? 降りている途中で攻撃されたら、さすがに危険よ?」


「ここの壁面に関しては大丈夫っぽい。……が、一応、チェックしてみるか」


 索敵に反応は無いが、相手は隠れるのが得意な敵である。


 万が一に備えて、何カ所か怪しげな岩には軽く魔法を撃ち込んでみるが……反応は無し。


「よし。それじゃトーヤ、逝ってこい」


 そう言いながら崖の方を指さした俺に、トーヤは訝しげに首を傾げる。


「なんか今の、イントネーションが違わなかったか……?」


「違わない、違わない。周囲の警戒はしておくから心配するな」


「そうか? まぁ、行くけどよ」


「あ、そうだ、トーヤ。ついでにそのへんに生えている、スタック・マッシュやフローニオンも採取しておいてね」


 しっかりと命綱を付けたトーヤが、縄梯子に足を掛けたところでそんな事を言ったのは、ユキ。


 そしてそれに同意するように、ハルカやナツキも頷く。


「ですね。それらがあれば料理の幅も広がりますし」

「この緊張状態で、それを言う? まぁ、余裕があればな」

「トーヤお兄ちゃん、ガンバレ!」

「おう」


 ミーティアからも声援を受け、トーヤは崖を下り始める。


 残っている縄梯子の長さから考えて、下の岩棚までは二〇メートルを優に超えているだろうか。なかなかに高い。


 俺たちの高校で一番高い校舎が、四階建て。

 降りる距離はそれの二倍ほどもあり、しかもそれは岩棚までの高さ。


 その下には底が見えない崖が続いているのだから、そんな高さから縄梯子で下り始めるとか、なかなかに恐怖である。


 だがトーヤは律儀な事に、手の届く範囲にあるスタック・マッシュやフローニオンはきちんと回収しつつ、下へ。


 そして、慎重に足を運ぶトーヤが三メートルほども降りた時、俺の【索敵】に反応があった。


「なっ! 速い!? 上!」

「鳥!?」


 俺の言葉に即座に反応したのはハルカ。

 索敵の範囲外、上空高くから一気に突っ込んできたのは、鷹のような鳥が三羽。

 まったく羽ばたくこともなく、無音で突っ込んでくる。


「――っ!」


 最初の攻撃もハルカだった。


 魔法の威力で負けるつもりは無いが、射程の長さで言うと、ハルカの弓には敵わない。


 素早く矢をつがえたハルカが、弦から手を離すと同時に空を走った矢が、一羽の鳥に向かう。


 直撃コース。

 だが、敵もそのまま突っ込んできたりはしなかった。


 僅かに羽の角度を変えて回避に移るが、それに成功するよりも、ハルカの矢が羽を貫く方が早かった。


 胴体への直撃こそ避けたものの、羽をやられては飛ぶこともできず、そのまま崖に突っ込みながら落下していく。


「「『火矢ファイア・アロー』!」」


 次の攻撃は、俺とユキが同時。


 射程範囲に入ったところで、『火矢』が敵の胴体を貫き、その二羽もまた崖下へと落ちていった。


「あ、焦ったぁぁ……」


 それを見て安堵の息を吐いたのは、もちろん縄梯子を下りていたトーヤ。

 あの鳥は明らかに彼を狙っていたし、トーヤの状態では避けることも難しい。


「すまん。索敵範囲外だった」


「いや、それは良いんだが……ナオの索敵範囲外から攻撃を開始するとか、どんだけ目が良いんだよ……」


「正に、鷹の目、ね。本家本元の」


「俺の【鷹の目】スキル、負けてる?」


 どれほど遠くからトーヤを認識したのかは不明だが、確実に狙っていたところを見れば、かなり目が良いことは間違いないだろう。


「ま、油断できないって事――っ! また! しかも、多い!」


 今度反応があったのは、左前方、滝の上部。

 そこから一気に接近してくる反応がある。

 目を向ければ小さな点がこちらに向かって飛んできていた。


「くっ! 的が小さすぎる!」


 再び素早く弓を構えたハルカだったが、黒い点にしか見えない敵に厳しそうな声を漏らす。


「ナオ、あれ、なに!?」

「たぶん、魚!」


 まだ遠く、正面から向かって来ているのではっきりとは見えないのだが、おそらくはトビウオのような魚。


 ただし、形状はダツのようで、その頭には長く鋭いふんが突き出ている。

 斜め上方から、滑るように飛んでくる無数の点。


 ある程度近づいたところでハルカから矢が飛ぶが、さすがのハルカでも、かすめるだけで撃ち落とすには至らない。


 それを確認するか否か、ハルカは弓を捨て、手を突き出す。


「「『火矢ファイア・アロー』!」」

「――『火炎放射ファイアー・ジェット』!」


 即座に慣れた魔法を使ったユキとハルカに対し、一瞬悩んで、不完全な魔法を使った俺。


 敵の多さを考えての魔法だったのだが、結果から言えば、完全に不正解。


 ユキたちの魔法が正解とは言わないが、それでも一匹ずつは弾き飛ばした彼女たちに対し、敵は俺の噴射した炎を簡単に突き抜けて来た。


 魔法が不完全なこともあるだろうが、一番の原因は使った魔法が火魔法だったことだろう。


 攻撃力が高く、使い勝手の良い魔法である火魔法だが、欠点が無いわけではない。


 その事は理解していた――いや、正確に言うならば知ってはいても、あまり深刻に問題とは思っていなかった。


 だが、その欠点がここに来て露呈した。

 それは質量に乏しい事。

 例えば突進してくるオーク。


 『火矢ファイア・アロー』で頭を吹き飛ばしても、その身体は慣性のまま、こちらへと転がってくる。


 それは、『火矢』自体には、相手を押し返すような効果が無いため。


 多少の爆発力はあるのだが、貫通力の方が強いため、後ろに吹っ飛んでいったりはしないのだ。


 そしてそれよりも効果が低いのが『火炎放射ファイアー・ジェット』。


 広範囲の敵を焼ける魔法ではあるのだが、少なくとも今の俺が使えるような物では、一瞬にして焼き尽くせるような威力はない。


 つまり、炎を突っ切って敵が飛んでくる。

 それの生死は別として、それ自体が既に脅威である。


「トーヤ!」


 炎を突き破った空飛ぶダツは、狙い違わず縄梯子を上がろうとしているトーヤへと向かい――。


「ぬあぁぁぁ!」


 トーヤが岩壁を蹴って跳んだ。

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[一言] ロープでの降下の際は本当はロープを結びつけるのではなく、1本のロープを二重にしてカラビナに引っ掛ける方がほどけるリスクを回避できるんですけどね。 ま、元々が普通の高校生だった5人が知らないの…
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