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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第九章 一周年と……
329/500

297 ボーナス

前回のあらすじ ----------------------------------

渓谷に行き、全員がロッククライミングができるように訓練する。

 【登攀】スキルを得て帰宅したその翌日は、明日からのダンジョン探索に備えて休養日とした。


 休養日なので、トーヤとメアリ、ミーティアを除く四人は、居間でゴロゴロと、文字通りに休養。


 メアリとミーティアは孤児院へと遊びに行き、トーヤはそれに付いて行ったのだ。


 先ほどまではナツキも、薬学の実験室で登攀訓練に行く前に仕込んでおいた物から、カビを取り分けていたのだが、今は一段落して休んでいた。


 もちろん、カビと言っても単なるカビでは無く、目的はコウジカビ。


 何種類かピックアップして、シャーレ(俺の土魔法謹製)で培養、実際に澱粉を糖に分解できるか実験するらしい。


 もちろん、闇雲にカビを集めたわけではなく、コウジカビの分離方法を試した上での実験なのだが、実験結果の確認方法が『実際に食べてみる』らしいから、なかなかにチャレンジングである。


 ナツキ曰く『私には【毒耐性】がありますから、大丈夫ですよ』との事だが……う~む。


 まぁ、ナツキとハルカ、治療の専門家がいるのだから、大丈夫だと思うしかないだろう。


「しかし、こうして居間で昼間から寛ぐのも久しぶりだな」


「そうね、最近はパーティーの準備とか、ロッククライミングに使う道具の準備とかで、慌ただしかったし」


「あと、ナオとハルカのペアリングの用意ね。地味に大変だったんだよ? 職人を急かして、『アジャスト』の練習して、本番で成功させて、と」


「はいはい、ありがと。あの時、静かにフェードアウトしてくれていれば、最高の仕事だったわね」


「うん、あれは失敗だったね。しっかりと目に焼き付けるだけにして、後から利用すべきだったよ」


 ウンウンと頷くユキに、ハルカがちろりと冷たい視線を向ける。


「……反省が足りないみたいね?」


「冗談! 冗談だから! アレは……そう! お酒が残っていたんだよ! 怖いよね、お酒って。飲んでも飲まれるな! だね!」


 焦ったように言葉を連ねるユキに向かって、寝転んでいたハルカがゆっくりと近づこうとした時、居間の扉が開いた。


 視線をそちらに向けると、そこに立っていたのはトーヤだった。

 そして彼は開口一番、言い放った。


「アドヴァストリス様に重課金ボーナスをもらったぞ」


 その言葉に俺たち全員が即座に互いの顔を見回し、状況を理解、ホッと息を吐いた。


 俺たちのそんな行動が気に入らなかったのか、トーヤは少し不満げな表情を浮かべる。


「いや、さすがに確認してるぞ? オレが最後って事は。じゃなきゃ、言わねぇよ」


 まぁ、そりゃそうか。

 いくら何でも、何も考えずに言うわけが無いよな。

 ちょうどメアリとミーティアもいないことだし。

 あの二人、暇な時には結構な頻度で、孤児院を訪れているみたいなんだよな。

 やはり、年齢層が同じぐらいだからか、孤児たちとも仲が良い様子。

 楽しく過ごせているのであれば、俺たちとしても、引き取った甲斐がある。


「つまり、私たち全員が、重課金ボーナスをもらえたって事ね」


「それなりに寄付、続けてたからな、俺たち。これでやっと口に出せるわけだが……みんな、何をもらったんだ? 俺は【ラッキー!】って、微妙な代物だったんだが」


「私は【無病息災】でした」


「あたしは【体力アップ】」


「オレは【フサフサ】っての」


「【フサフサ】? 微妙に気になる恩恵だが……ハルカは?」


 俺たちが口々に何をもらったか言う中、一人だけ沈黙を保っているハルカに話を振ると、彼女は少し視線を逸らし、頬を染める。


「わ、私は……あ、【安産】」

「あ、うん。そっ、そうか……コホン」


 小さな声で答えたハルカに、俺も曖昧な返答をして咳払い。

 ユキたちのニヤニヤが気になるが、それは無視してトーヤに尋ねる。


「えっと、トーヤの【フサフサ】って、どんな意味があるんだ? 十分フサフサだろ、お前の耳とか尻尾とか。キューティクルが良い感じになるのか?」


「いや、禿げ防止だと」


「禿げ……防止……?」


 それは……ちょっと重要か?


 禿げた獣人って……頭だけならまだしも、耳や尻尾の毛が無くなったら、かなり悲しい事になりかねないし。


「いや、そもそも獣人って禿げるのか?」


「滅多に無いみたいだが、ゼロじゃない、らしい。頭だけだけどな」


「頭だけ……なるほど。まぁ、人間でも、頭ツルツルで髭はフサフサってのもあるし、あり得るか」


 そもそも何で頭だけ禿げるんだろうな?

 髭とかなら、影響も少ないのに。


 もっとも、日本人が禿げを厭うようになったのはごく最近の話で、それは某カツラメーカーのプロモーションのせいとか何とか。


 昔は剃っている人も多かった事を考えると……日本人、流され易すぎである。


 給料三ヶ月分の指輪とか、ダイヤモンドが永遠の輝きだとか、バレンタインデーにチョコレートだとか。全部売る方の都合である。


 ……ハルカに給料三ヶ月どころじゃない、指輪を贈っている俺が言うのも何だが。


「オレとしては、ナオの方が気になるけどな。何だよ、【ラッキー!】って」


「これもそのままだな。なんか、ラッキーになるらしい。微妙に」


「微妙に?」


「微妙に。アドヴァストリス様が言うには、膝に矢を受ける場面で、その矢が太股にズレるぐらいの幸運、らしい」


 その効果に、全員がなんとも言いがたい表情を浮かべる。

 決して“凄い”とは言えないが、“無意味”とまでは言い切れない。

 そんな“微妙”さ。


「……本当に微妙ね。せめて、矢が逸れるぐらいの幸運が欲しいわよね」

「ですね。それじゃ、幸運なのかすら判らないような……」

「矢には当たってるもんねぇ……」


 ホントにな!


 貰ってからそれなりの日数が経過しているが、この恩恵が機能した事があるのかすら判らない。


 敢えて言うなら、ハルカと無事に結ばれたのは幸運だけど……いや、順当に行けば普通に結ばれたよな? たぶん。


「その点、ナツキたちのは判りやすいな。名称自体は。効果は不明だが」

「全部、悪くは無いけど、こっちもちょっと微妙、って感じだよね」

「はい、神社のお守りみたいです」


 言い得て妙。


 特に、無病息災と安産祈願。これに交通安全が加われば、神社のお守りの定番である。


「効果の方は? ナツキの方は元々病気知らずのスキル構成だし――」


「あたしは少し効果があった、ような気がしないでもない? でも、普通に訓練は続けているからなぁ」


「普通に体力が付いただけかもしれない、と」


 そして、ハルカに関してはノーコメント。

 俺やトーヤはもちろん、ユキたちも【安産】に関してはツッコまない。

 ちょっとセンシティブである。


「う~ん、ここまでアレだと、作為を感じるのはオレだけか?」


「確率の操作ぐらいはされていそうですよね」


「当たり障りの無い物が当たるようにって事? ……まぁ、元々それが目的で寄付してたわけじゃないから、別に良いんだけどねぇ」


 良いと言いつつも、少し不満そうなユキ。

 ちなみに、ユキもダーツを選んだらしい。

 他は、ナツキが紐釣りクジ、トーヤはスロット、ハルカがガラガラ。

 案外ばらけているが……。


「ハルカ、良くガラガラなんか選んだな? 怖い事言われたのに」


「“微妙なスキル”の事? うーん、それはあまり心配してなかったかしら? 私が要望したわけじゃなくて、アドヴァストリス様が最初から用意してた物だし、たぶん、地雷スキルは入ってなかったんじゃないかしら? 例えば、ほら、私がもらった恩恵、ナオがもらっても、“微妙”でしょ?」


「そ、そうだな。うん」


 確かにあれは、男がもらっても意味が無い。

 むしろ意味があったら困る。

 ……相手がそうなる、のであれば、それなりに意味はあるとは思うが。


「後は……神様から何か情報を得られた人、いた?」

「ぜーんぜん。『ヒ・ミ・ツ♪』とか言って、何も教えてくれなかった」

「私もですね。『その情報に接する権限を、あなたは持っていません』とかなんとか」


 俺の時は『禁則事項』だったが、人によって芸風を変えてきているのか、アドヴァストリス様?


 どちらにしても教えるつもりは無さそうだが。


「私たちがもらった恩恵からすると、あまり世界に影響を与えるつもりは無いんでしょうね。スロットとかにあった変な恩恵は冗談で」


「神の名前を利用して悪いことをすると、神罰を下す。私が調べた範囲では、それ以外の事例は無かったですしね」


 例えば、獣人が虐げられている国や、奴隷制が認められている国、この国でもダイアス男爵領のように、弱者が虐げられている地域もある。


 だがそれに対して、神が何かしたという話は聞いたことが無い。


 お布施の横領には厳しいわりに、と思わなくも無いが、自身の名を使っているかどうか、そのあたりが線引きなのだろう。


 もし、『神によって奴隷は認められている!』とか言い始める国が出てきたら、特大の神罰が下るのかもしれないが……。


「ま、人であるオレたちからすれば、そのぐらいの方が良いんだろうけどな。神様はアドヴァストリス様だけじゃないわけだし」


「悪神もいるかもしれないし、アドヴァストリス様だって、必ずしも善神とは言えないしね」


「自称、“邪神”だからな。程々で……あ、でも俺、『またね』とか言われたんだが」


「そうなんですか? 私の時は……その言葉は無かったと思います」


「また何かの機会に、微妙な恩恵をもらえるのかしら? ちょっとお得感があって、私は嫌いじゃないけど」


 そんな事を言って小首を傾げるハルカだが、ハルカの恩恵は、地味に凄いと思うぞ?

 どうこう言っても、医療体制が整っていない所での出産って、危険性が高いし。

 治癒魔法があるから、一概には言えないとは思うが。


「う~む、ナオは“初回ログイン”をもらったんだよな? そこから“重課金”があって……次は、“連続ログイン”ボーナスとか?」


「それって、あたしたちには無理じゃん! 毎日神殿に行くなんて、仕事をしてたら無理なんだし」


「だよな。俺ってそっち系にはあまり詳しくないんだが、他にどんなのがあるんだ?」


「記念日でのイベントとか、何周年記念とか、コラボとか、友達紹介とか、色々あるが……」


 俺の疑問に、トーヤが頭を捻り、いくつかの例を挙げたのだが……。


「……ツッコミどころ満載だな。コラボって何とだよ。他の神様と、とか?」


「友達紹介って、完全に宗教の勧誘よね」


「何周年記念は特に考える必要は無いでしょうが、記念日は……アドヴァストリス様の誕生日とか?」


「クリスマス的に? でも、神様に誕生日とかあるのかな?」


 いずれもダメそうである。

 何周年以外は。

 そして転移一周年では何も無かった。


「……狙って何かする、ってのは考えない方が良さそうだな。無駄そうだし」


「だな。それにアドヴァストリス様ってひねくれてそうだし、オレたちが敢えてやってたら、除外されそうじゃね?」


「ありそうよね。ま、何かもらえたら、運が良かった、その程度に思っておきましょ」


 所詮は神の気まぐれ。


 あまり意識せずに行動しようという事で、俺たちの間では一応の決着を見たのだった。

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2025年3月5日発売
異世界転移、地雷付き。 12巻 書影

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ComicWalkerにてコミカライズ版が連載中です。


以下のような作品も書いています。よろしくお願いします。

ファンタジア文庫より書籍化しました
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『けもみみ巫女の異世界神社再興記 神様がくれた奇跡の力のせいで祀られすぎて困ってます。』

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『図書迷宮と心の魔導書』

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだかんだ言ってても世界に良い影響を与えてる人には優しいから、スキルも微妙な効果ながらその人に取ってあった方が良いスキルを選んでる気がするなー。
[良い点] フサフサは良き
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