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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第九章 一周年と……
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294 パーティー当日 (4)

前回のあらすじ ----------------------------------

ユキが酒を飲みすぎ、ナツキと共に退場。

ディオラがくだを巻き始めたので、トーヤが宥め役に。

 要らん事を言ったトーヤにディオラさんを任せ、俺とハルカは静かにその場を離れた。


 次は誰に挨拶しようかと、辺りを見回していると――。


「ナオさん!」


 パタパタと駆け寄ってきたのはアエラさん。

 そんなアエラさんに、俺も手を上げて応える。


「あの、大丈夫なんですか……?」


 心配そうに言うアエラさんの視線の先は、くだを巻くディオラさんの姿が。


「あー、大丈夫、問題ない。仕事が大変そうだから、きっと色々溜まっているんだろう。うん」


 それ以外の事の方が比重が大きそうだったが、そのへんはスルーで。


「それよりもアエラさん、手伝ってもらって、悪かったな。お客さんなのに」


「いえいえ! 配膳ぐらいで、大したことはしてませんから。でも、お米料理は面白そうですね。残念ながら、お店で出すことは難しそうですが……」


「この近くじゃ、手に入らないからなぁ。ルーチェさんもお手伝い、ありがとう」


「私は配膳しかできない、配膳のプロですからね。美味しい料理が頂けて、感謝しています」


 そんな事を言って胸を張るルーチェさんに、アエラさんは呆れたようにため息を漏らす。


「ルーチェは少しぐらい料理を覚えるべきだと思うんですけどね。ずっと年下のハルカさんたちにも負けてる……いえ、比べるのも烏滸がましいレベルですから」


「『ずっと』って何ですか。ちょっとだけです。ずっと年上のくせに、ユキさんよりも年下に見えるアエラには言われたく無いです」


「なっ。エルフならこの程度、ちょっとの範囲です! それに外見は、エルフだから――じゃ、ないかもしれないですけど、個性の範囲です!」


 言葉の途中でハルカをチラリと見て、微妙に言葉を変えつつ強弁するアエラさん。

 うん、どう見ても外見は子供……いや、少女だしね。


「個性、ねぇ。それなら私の料理の腕も、個性ですね。第一、ハルカさんたちの料理って、プロ並みじゃないですか。料理人でもないのに。私とハルカさんたち。一般的なのは、絶対に私の方です」


 ふんっ、と鼻息も荒くそう主張するルーチェさんだが、実際その言葉、そう間違っていなかったりする。


 料理に使う食材の調達、それを料理するためのレシピ。


 それらを考えると、凝った料理を作れるのは、生活に余裕のある一部の人だけなのだ。


 それに、街に出れば屋台が多く並んでいる事からも判るとおり、かなりの人の食事は基本的に外食。


 それもアエラさんのお店のような美味しい食事ではなく、とりあえずお腹に入るというレベルの代物。それが一般的。


 美味しい料理を作ろうにも、香辛料や調味料の入手に制限があるこの世界では、簡単な事ではないのだ。


 だからこそ、料理があまり作れない人というのも、そう珍しくはなかったりする。


「それは俺たちも同感だな。結構高ぇ酒を持ってきたつもりだったが、つまみには勿体ねぇレベルの料理じゃねぇか。一体いくら金を掛けてんだ?」


「ガンツさん、と、シモンさん」


「おう、今日はお招き、ありがとうな」


「いえいえ、お世話になってますから。でも、お金はそこまで掛かってないですよ? 大半の物は自前で用意した物ですし」


 ちなみに、今日並んでいる料理の中で、一番お金が掛かっているのは白米である。

 そこまで人気は無いので、消費しているのは俺たち元日本人がメイン。


 逆に、一般的にはコストが掛かる料理である肉料理は、地味に一番コストが掛かっていない。


 俺たち、つい先日、食べきれないほどの肉を手に入れたばかりだし。


「冒険者はそれができるから強ぇよな。庶民が用意できない食材を、平然と用意しやがる」


「いや、それだけじゃねぇだろ。お前らの料理の腕はプロ並み、いや、プロでもここまでのはいねぇしな、そこの嬢ちゃんが言うとおり」


「そう言って頂けると、嬉しいですね。ナツキたちも喜ぶと思います」


「事実だからな。――ところで、美味い酒を造るって聞いたんだが?」


「えっと、それは……」


 チラリとシモンさんの後ろを見ると、トミーが両手を合わせて頭を下げていた。

 喋ったのか。

 それ自体は別に良いのだが、元の世界の事とか言ってないよな?


「美味しいかどうかはなんとも言えませんが、酒を造る予定ではありますね」

「そうか、そうか。それに儂らも協力しようと思うんだが、どうだ?」

「おう、俺もな。その代わり――」

「できたら飲ませろ、って話ですね」


 大工と鍛冶師の二人が協力してくれるのは、それはそれで助かる。

 特にシモンさん。なんだかんだと、木工製品は必要になりそうだし。

 ハルカを窺うように視線を向けると、ハルカも頷いて口を開く。


「原料に限りがありますから、あんまり多くは提供できませんが、それで良ければ」

「それで構わねぇよ。美味ければ、俺たちで原料を取り寄せることもできるしな」

「儂らもそれなりに伝手はあるからな」


 そうか。高級家具を輸出しているんだもんな。


 出荷先に米の生産地でもあれば、家具を受け取りに来る時に米を持ってきてもらう、なんて事も可能かもしれないな。


「あの、ナオさん、新しいお酒って?」


「米が手に入ったから、それで作れる物をちょっと作ってみようかと思ってな。調味料を作るついでに」


「調味料! 興味あります!」


「私はお酒の方に興味がありますね」


 案の定と言うべきか、アエラさんは調味料の方に、そしてルーチェさんはお酒に食いついた。


「上手くできればお裾分けするよ」

「はい! 是非に!」


    ◇    ◇    ◇


 次にやってきたのは、イシュカさんのところ。


 イシュカさんはこちらに気づくと、手に持っていた物をすぐにテーブルに置くと、深々と頭を下げた。


「ナオさん、ハルカさん、今日はありがとうございます」

「いえ、お気になさらず。最近はメアリたちもお世話になってますからね」


 現に今も、メアリとミーティアは孤児院用に用意したテーブルで、他の子供たちと一緒に料理を食べている。競うように。


 別に二人は今必死で食べなくても、後からでも十分に食べられるのだが……友達と一緒に食べると美味しいというものだろうか?


 キャンプ飯的な。


「メアリさんたちは、むしろ私たちの方が助かっています。タダで子供たちに武器の扱いを教えてくれるのですから」


「いえいえ、私たちからしても、二人に同世代の友達ができるのは歓迎すべき事ですから」


 いつもは大人びているメアリも、孤児院の子供たちと一緒にいる時は、少し年相応な面を見せることもあり、実のところ、俺たちは安堵していた。


 もしかすると、将来的にメアリたちはここの子供たちと冒険者パーティーを組んだりして、結婚とかするのかもしれない。


 娘さんをください、的な。

 その時は頑固親父の如く、試練として立ち塞がる事になるだろう――トーヤが。


 俺だと体力面では負けそうだし、だからといって、魔法で吹っ飛ばすわけにはいかないからな。


 あー、でも、孤児の中には獣人がいないんだよな。


 獣人が周りにいない環境で育った二人だから、あまり気にしないかもしれないが……どうだろう?


「そう言って頂けるのは、ありがたいですが、ケジメは必要ですからね。少しお付き合いください」


 イシュカさんがそう言ってパンパンと手を叩くと、料理を必死で食べていた子供たちが手を止め、サッと整列。


 そして一斉に頭を下げた。


「「「ありがとうございます!」」」

「あ、あぁ、気にするな。好きなだけ食べて良いからな?」

「「「はい!」」」


 綺麗に揃った動きに、俺がちょっと驚きつつも返事をすると、子供たちから再び揃った答えが返ってきた。


 俺がイシュカさんに視線を向けると、彼女は孤児たちに向かって頷く。

 それを確認すると同時に、子供たちは再びテーブルに戻ると食事を再開した。


 ……いや、よく見ると、子供たちの中にアンジェやシドニーたち、神官や神官見習いも交ざっているな?


 見習いはともかく、確かアンジェは正神官と紹介されたはず。


 大人組に入っても良さそうだが、孤児院で育ったからか、そちらの方の意識が強いのかもしれない。


「すみません、まだ大人になりきれていなくて」


 俺の向けた視線の先に気付いたのか、イシュカさんは少し恥ずかしそうに苦笑を浮かべる。


「いえ、楽しんでもらえれば、何も問題は無いですよ」


「恐れ入ります。私たちの食べる物は子供たちと同じですから、彼女たちもなかなか……」


「あぁ、それは……」


 神官見習いの二人、ケインとシドニーは中学生ぐらいの食べ盛りである男。

 普段食べられない肉が並んでいれば、そりゃ食うだろう。

 腹がはち切れんばかりに。

 その環境なら、俺だって食う。


 普段しっかりと食事をしていたって、焼肉食べ放題に行けば、苦しくなるまで食ってたし。


 俺はエルフになって小食になったが、本来中高生の男子なんて、食べてなんぼである。


「好きなだけ食べていってください。足りないようなら、あちらのテーブルから取っていっても良いですから。……あっちはお酒を楽しんでいるようですし」


 ユキとナツキが離脱し、トーヤは酒をチビチビと飲みながら、ディオラさんの愚痴にお付き合い中。


 ガンツさんたち三人は、料理が美味いと褒めていただけあって、しっかりと食べてはいるのだが、酒がメインだし、年齢が年齢。


 トミー以外は若者のようには食べられないだろう。


「ありがとうございます。ですが、さすがにこのテーブルが空になることは……無いと思いますよ?」


 微妙に疑問形なのは、メアリとミーティアの存在か。

 あの二人、どこに入ってるのか、と思うほど食べるからなぁ。


「――と、そうだった。メアリ、ミーティア、ちょっと」


 俺の声に、メアリとミーティアは同時に俺の方を振り返ると、同じような仕草で口に中の物を慌てて飲み込むと、こちらへ駆けてきた。


「はい、何ですか?」

「来たの!」


 と応えつつ、視線が微妙に料理の載っているテーブルから離れていない。

 もう十分に食べたと思うのだが……まぁ、さっさと用事を済ませてやるか。


「注文していたお前たちの防具ができた。居間に置いてあるぞ」

「「本当ですか(なの)!」」


 言うが早いか、メアリたちはすぐさま家の中に駆け込んでいった。

 別に慌てて見に行く必要は無かったんだが……料理よりは嬉しかったらしい。


「待ち遠しかったみたいね」

「の、ようだな」

「新しい防具ですか?」

「えぇ。メアリたちも本格的に戦うようになりましたから」


 などと話している間に、メアリたちが再び走って戻ってきた。

 今度は光を反射してキラキラと光る、白鉄の鎖帷子を着て。


 俺たちの方へ来るのかと思ったら、そのまま孤児院の子供たちの所へ駆け寄っていく。


 それを見た子供たちは、二人の回りに集まり、『すげぇ!』とか『カッコイイ!』とか言いながら、バシバシと鎖帷子を叩いたりしている。


 そして二人の方も、誇らしげな表情で胸を張っている。


 正直、見せびらかすような態度はどうかと思うのだが、子供たちは羨ましそうではあっても、予想外にネガティブな様子は無いな……?


「随分と……良い物を買われたのですね? 割が合わないのでは?」

「二人の稼ぎだけで言えばそうですが、メアリたちの頑張りを評価して、ですね」

「それなりには高いですが、俺たちには出せる範囲ですから」


 実は、二人の鎖帷子の素材については、白鉄にするか、それとも属性鋼にするか、俺たちの間で議論になった。


 安全最優先であれば、属性鋼の鎖帷子を注文すれば良いのだが、メアリたちの活躍を金銭価値に換算すると、白鉄の鎖帷子ですら手が届くレベルでは無い。


 別に俺たちが金を出すこと自体には問題がないのだが、現状ではこれ以上の装備が無いので、『自分の力でより良い装備を手に入れる喜び』が無くなってしまうのはいかがなものか、という意見もあったのだ。


 そして、その意見にはかなり賛同できる部分がある。


 やはり俺たちも、新しい装備を手に入れた時は嬉しくなったし、働くモチベーションになった部分もある。


 もちろん、それと安全を天秤に掛けるべきかという部分はあったのだが、最後は『危なければオレが身を挺して守る』という、トーヤの男前の発言で、白鉄装備に決まったのだ。


「俺はむしろ、子供たちが二人を妬むような様子が無い事に驚いたのですが……」


「あの子たちは、自分と他人を比べても意味が無いことを知っていますから。今、自分に与えられる物に感謝する。それだけです」


「「………」」


 久しぶりに、イシュカさんが神官である事を思い出させる発言に、俺とハルカは沈黙する。


 確かに孤児という環境に於いて、自分より恵まれた人を妬んでいては、常に他人を妬んで生活するようなもの。


 それは決して良い事ではないだろうが、実際にはなかなか難しい。


 だが、実際孤児たちとメアリたちは友人になれているわけで、それもまたイシュカさんの手腕なのだろうか。


 子供の教育なんて、難しいだろうに……。

 そしてそれは、確実にメアリたちにも良い影響を与えている。

 俺とハルカは顔を見合わせ、イシュカさんに出会えた幸運に感謝するのだった。

BOOK☆WALKER様で新作ラノベ総選挙なるものをやっているようです。

この作品も、新文芸・ブックス部門にノミネートして頂いているようなので、よろしければ投票、お願いします。

……ビリになると悲しいので。


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以下のような作品も書いています。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メアリとミーティアに良い友達ができて良かった。
[一言] タカリのイメージが強かった神官長、少しイメージアップです
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