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268 続・事件調査 (3)

前回のあらすじ ----------------------------------

グッズが姿を見せないことから、彼の行動を調査する。

領兵のサジウスも連れ、聞き込み、怪しい家の目星を付ける。

「ネーナス子爵家、領兵のサジウスだ」


 各種準備を終わらせた俺たちは、対象の家の門を抜け、扉の前に立っていた。

 その扉をノックしながらサジウスが声をかけるが、中から反応は無い。


 更に少し荒々しく何度かノックを続けていると、やっと中から弱々しい「はい」という声が聞こえ、小さく扉が開かれた。


 そこから見えたのは、話に聞いていたとおり二〇歳前後の女性。

 なかなかに美人だが、その顔色は少し青白く、不健康そうである。


「領兵のサジウスだ。現在、犯罪捜査を行っている。家の中を検めさせてもらう」

「こ、困ります……」


 戸惑うように視線をさまよわせる女性の反応も、サジウスにはまったく関係が無かった。


「そんな事は関係ない。協力してもらう」


 超強引。

 押し問答なんて一切無い。


 サジウスは扉に手をかけると、一気に引き開け、たたらを踏んで家の外にまろび出た女性を拘束する。


 日本の警察がこんな事したら、確実に有罪だが、ここならオッケー。

 問題なし。

 それに、ある意味都合が良い。


「あー、サジウスはその人を頼む」

「解った。気を付けろ」

「もちろん」


 彼女が“敵”かどうかは判らないが、一人を拘束できて、サジウスも現場から離せるのであれば、それはそれで意味がある。


 トーヤを先頭に俺たちが家の中に入ると、その中はかなり薄暗かった。


 今は朝と昼の中間頃にもかかわらず、窓にはカーテンが引かれ、日の光が入っていないのだ。


 ――これは、やっぱり当たりかもな。


「反応があるのは……二階だな。たぶん、三人」


 普段の冒険では活躍している【索敵】スキルだが、そこはアドヴァストリス様がくれたスキル、もちろん万能ではない。


 まず、魔物以外の反応は鈍く、感じ取りにくい。

 特に敵意の無い人間などはなかなかに難しく、人が多い街中などではかなり厳しい。

 例えるならば、蜜蜂の巣。

 ごちゃっと固まっている蜂が何匹いるか、と言われるような物である。


 森の中のように人が少なかったり、かなり親しい相手ならそれなりに判るんだけどな。


 更に建物の中など、遮る物が多かったり、壁がぶ厚かったり、気密性が高かったりすればそれだけ感じ取れなくなる。


 “音波”みたいな物と思えば判りやすいだろう。

 なので今回も、事前に“建物の中に何人いるか”なんて事は判らないのだ。


 まぁ今は、押し入った時点でかなり敵意がビンビン来ているので、判りやすくなったのだが。


「階段は……あそこか!」

「気を付けろよ?」

「おう!」


 先頭を走るトーヤの後を追い、俺たちも駆ける。


 階段を上りきったトーヤは一瞬立ち止まったが、耳をピクピクと動かすと、すぐに一つの部屋に向かって走り、扉を開けると盾を構えて突撃した。


 下手に考える時間を与えない、それが今回の作戦。

 俺たちが懸念しているのは、相手がクラスメイトだった時のこと。


 であるなら、所詮は素人、瞬間的な対応力なんて持ってないだろう、という予測に基づいた作戦である。


 そして案の定と言うべきか、俺がトーヤの後から部屋に飛び込んだ時、そいつはベッドの上で身体を起こし、茫然とこちらを見ていた。


 その部屋はやや広めの、二〇畳ぐらいはありそうな薄暗い部屋で、その一角にテーブルやベッドが置いてある。


 そのベッドの上には身体を起こした俺たちぐらいの年齢の男、そしてその横に座る、二人の薄着の女性……いや、女の子?


 次の瞬間、ハルカが放った『ライト』によって部屋の中が煌々と照らし出される。


 それによってはっきりと見えた女の子の顔は……片方は俺たちが探していた似顔絵の娘。


 ナツキに見せてもらっていた似顔絵の出来はかなり良かったようで、間違いようが無いほどに似ている。


 そしてもう一人は、初めて見る顔だが、少々幼い。

 メアリよりは少し上か?

 確か、行方不明者の中には一二歳の女の子がいたはず。彼女だろうか?


「クソッ! 令状も無しに押し入るとか、ふざけてんのかよっ!」


 ベッドの上で茫然としていた男は、その時点でやっと我に返ったのか、ベッドから飛び降りるとそんな悪態をつく。


 黒である。

 この世界の人間が令状とか言うはずが無いし。

 【看破】でも、種族が“バンパイア”と表示されている。

 そう、黒なんだが……コイツ、誰だ?

 顔色が青白くて不健康そうなのは、バンパイアだからだろう。


 髪がダラッと伸びているが、そんな奴はクラスメイトにいなかったから、そこは頭の中で短髪に変換して思い出してみるのだが……。


 一年前で記憶が薄れているのを考慮しても、微妙にヒットする対象がいない。


 俺の顔認証システムは高性能じゃないので断言はできないが、バンパイアになって顔立ちも変わったに違いない。きっと。


「おとなしく投降しろ! 誰か知らないが!」


「観念した方が良いぜ? か……か……ナントカ!」


加地かじだよっ! クソが! 目立たないからって名前ぐらい覚えとけ! 永井! それに神谷だろ、てめぇ!」


 地団駄を踏みながら、俺たちを指さす男――もとい、加地。

 なるほど、加地か。

 言われてみれば、確かにそんな気がする。

 だが、覚えておいて欲しいなら、そんな似合わない長髪とか止めるべき。

 イベント盛りだくさんで、俺としても魔法やらなんやら、覚える事が多いんだから。

 重要度の低い情報なんて、ところてん式に押し出されるのは仕方ないよな?


「そんな事どうでも良いから、投降してくれない? 誘拐容疑……いえ、誘拐犯として拘束するわ」


「東に紫藤、古宮か! クソ、お前ら、こっちに来てもリア充かよ!」


「そんな事言って、加地君もこっちに来て、好き勝手やってたんじゃないの?」


 ユキはそう言って、未だベッドに座ったままの女の子にチラリと目をやると、加地に対して嫌悪感の籠もった視線を向けた。


 まぁ、俺も男だから、まったく気持ちが解らないとは言わないし、魅了の力が手に入ったら誘惑に駆られそうな気はするが、実際にやったらマズいだろ。


 特に片方なんて子供だろうに。

 ……いや、実際にそういう事をしていたとは、決まってはいないのだが。


「ま、それは犯罪だから、素直に償おうね」


 実際、どこまでが加地の犯行か判っていないので、少々対応が難しい部分があるのだが、誘拐だけは間違いなさそうである。


 不審死なんかが全部コイツの仕業なら、サックリと殺ってしまっても良い気もするのだが……。


 武器を構える俺たち五人を前に、少し焦ったような表情になった加地だったが、すぐに余裕を取り戻したかのように笑みを浮かべた。


「フ、フフフ。バレたのはちょっと厄介だが、東たちを連れてきてくれたのは感謝すべきかもな。――さぁ、東! 神谷を殺せ!」


 加地のその言葉に、俺たちは緊張し、ハルカに注意を向ける。


「ハルカ、どうだ?」

「……うん。問題、無いみたいね」


 俺の問いに、ハルカは軽く手を動かしてから頷く。


「そうか」


 たぶん大丈夫だろうとは思っていたが、実際に問題が無いことが判り、俺たちはホッと息をつく。


 もしハルカが魅了されるようなことがあれば、ユキとナツキでハルカを抑え、俺とトーヤが問答無用で加地を殺す予定だったが、ひとまずその事態は避けられたようだ。


「な、なぜだ!? 紫藤! 古宮!」


 全く動じていないハルカを見て、ナツキたちの名前も呼ぶ加地だったが、やはりナツキたちにも変化無し。


「クソッ! 男なんか魅了したくねぇが、しかたねぇ! おい、神谷! 東を押さえ込め!」


 なんか、俺を見るアイツの目がキラッと光ったような気がしたが、それだけ。

 何かに抵抗するとか、そんな感覚も何も無い。


「なぜだ! なぜ魅了が効かない!?」


 まぁ、一応効果のありそうな防御魔法は使っているし、一年間、それなりに頑張ってきた俺たちに対し、あっさり魅了が効いたりしたら、アドヴァストリス様が与える能力としては強力すぎる。


 その点、俺たちはアドヴァストリス様を信頼しているのだ。


 能力アップのために努力し続けていたなら別かもしれないが、そういうタイプには見えないし、それならそれで魅了を悪用なんかしないだろう。


「クラスメイトだからか? いや、そんなはずは無い。高松には問題なかった」

「……ん?」


 投降する様子も無いし、俺を『殺せ』とか言っちゃってるから、そろそろぶちのめして捕まえるか、と思ったところで、焦ったように頭をガリガリと掻いている加地の口から、何か気になる名前が飛び出した。


「高松って、サトミー聖女教団のか?」


「あ? ああ、そりゃ知ってるよな。ちょっと魅了して背中を押してやったら、良い感じに踊ってくれたぞ、高松は。俺も随分と楽しませてもらったぜ?」


 俺の問いに、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべていた加地だったが、ふと何かを思いついたかのように、笑みを深くした。


「おぉ、そうだ! 俺に手を出したら、サトミー聖女教団がだまっちゃいねぇぞ? 宗教団体の厄介さ、知ってんだろ、お前たちなら」


 そうだな。確かに宗教団体は面倒だよな。

 特に狂信的なところは何をするか判らないし、テロとかもやりかねない。

 けどなぁ……。


「得意気になってるところ悪いけど、サトミー聖女教団、既に潰されてるわよ?」

「……なにっ!?」


 ハルカがあっさりと暴露した事実に、得意気だった加地の顎が落ちる。

 コイツ、絶対家に引きこもって、淫蕩にふけっていたとか、そんな感じだろ。


 ある意味、正しく自堕落な生活を送っていてくれたようで、敵対する俺たちとしてはありがたいところではあるのだが。


「ク、クソッ!! ま、まぁ良い。俺直々に相手をしてやるしかないようだな」

「うわー、それってすっごく雑魚っぽいボス台詞だよ?」


 引きつりつつも笑みを浮かべ、そんな台詞を口にした加地に、ユキが呆れたような言葉を返す。


 だが俺も同感。

 そういう台詞を吐くボスほど、実は雑魚だったりするのだ。

 そもそも武器すら持ってないのに、何を言っているのやら、である。

 注意すべきは魔法だろうが……。

さすがに、一晩待っても再起動、シャットダウンが終わらないPCは使い勝手が悪すぎる――いえ、それ以前に、色々とマズいので、買い換えを検討しているのですが……。


執筆自体はノートPCでもできますけど、空き時間がそっち関連の検討・調査に吸い取られるのが困る~~。

滅多に買い換える物じゃないし、安い物でも無いので、適当には買いたくないし……。


いい加減、ストックがヤバいですよ?

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