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262 事件調査 (1)

前回のあらすじ ----------------------------------

ディンドルの採取から帰り、神殿に寄るとイシュカさんと出会う。

庭が荒れていることを話すと、孤児を雇うことを提案され、草むしりを依頼する。

その頃、ピニングに残ったトーヤたちは……。

「さて、ナオたちは行っちまったわけだが、オレたちどうする? 帰ってくるまで、あんま、本格的に動くわけにもいかねぇだろ?」


 ナオとハルカがラファンへと発ったその日の朝、残ったトーヤたちは割り当てられている部屋に集まって、方針を話し合っていた。


 と言っても、話に参加しているのはトーヤとナツキ、ユキの三人。


 メアリとミーティアはベッドの上でゴロゴロとしながら、耳を傾けているのみである。


「少なくとも、戦闘になるような事は避けないとね。クラスメイトが出てくるかもしれないし」


「クラスメイトでなくとも、先日の襲撃者、あのレベルの人が普通にいる事が判りましたし、油断はできませんよね」


 あの時、地味にピンチだった事を思い出して、三人揃って深刻そうな表情になる。


 一人に大怪我は負わせたものの、一対一以上の状況で全員に逃げられているのだから、その技量の高さは決して侮れる物では無い。


 それに対して、その状況を直接は見ていないメアリたちは少し不安そうな表情を浮かべる。


「そんなに強かったのですか?」


「お兄ちゃんたち、すっごく強いのに?」


「いや、オレたちなんて、正直、まだまだだな。あれも良い機会だったのかもな。立ち位置を知れたという意味では」


「サジウスさんたちには勝てたからねぇ……やっぱ、言うとおりだったって事かぁ」


 ユキの言うとおりとは、サジウスが暗に臭わせた“ネーナス子爵領の兵士は自分も含めて弱い”という事である。


 事実、ネーナス子爵家の領兵は弱い。


 そもそも領兵が強ければ、ラファンの町の銘木が不足気味になるまで放置するわけがない。


 重要な特産品であり、他領へも輸出可能なのだから、領兵を使って確保に動くのが当然だろう。


「ま、そんなわけだから、もしメアリたちがオレに勝てたとしても、謙虚にな? まだまだ上はいる、そう思っておかないと、足を掬われるぞ?」


「とても勝てるとは思えませんが……はい、忘れないようにします」


「解ったの」


 トーヤの言葉に、メアリは少し困惑したような表情を浮かべつつも、素直に頷き、ミーティアもそれに倣う。


「しかし、どうしましょうか? 解決しろと言われても、私たち、完全な素人ですからね……」


「うん。あたしの知識なんて、推理小説で知った事ぐらいだよ。トーヤは?」


「いや、お前ら二人がダメなら、オレに期待してどうするよ。せいぜいゲームぐらい? でもゲームって、選択肢総当たりで何とかなるしなぁ」


「聞き込み、張り込み、囮捜査? そんな感じだよねー、ドラマとかだと」


「はい。詳しいやり方は判りませんけど」


 三人とも、元々は警察でも探偵でもないただの高校生、捜査方法など判るはずもない。


 故に、思いつくのもテレビドラマとか、推理小説とか、そのレベルの知識でしかないのは仕方のないところだろう。


 ついでに言うなら、写真など無いこの世界では――正確に言うなら、それに類する物はあるが、ドラマのように容疑者の写真を簡単に用意できたりはしない――写真を見せながら聞き込み、なんて手法も取れない。


 戸籍も曖昧なだけに、本当に行方不明なのかすら判らないわけで、確実に捜査の難易度は上である。


 もし有利な点を上げるとするならば、人口の少なさぐらいだろうか。


「……とりあえず、領兵の人に話を訊きに行きましょうか。それなら危険性もないですし、捜査に関しても私たちよりは詳しいでしょうから」


「そうだな。それぐらいから始めてみるか。よく解らねぇし」


 そう言って立ち上がったトーヤたちに、ベッドに寝っ転がっていたメアリたちも同様に立ち上がるが、少し困ったように彼らに声を掛けた。


「あの、私とミーはどうしましょう?」

「んー、一緒に付いてきても良いけど、あんまり意味は無いよね」


 大人びているとは言っても、二人ともまだ一〇にもならない子供。


 普通に考えて、捜査の役に立つわけがないし、万が一にでも荒事になった場合には、逆に足手まといになりかねない。


 小学生が都合良く事件を解決できるのは、少年向けマンガの世界だけである。


「街に出なければ、自由にしていても構いませんが……領兵の訓練に参加するとか、もしくはイリアス様と一緒に遊ぶ――いえ、勉強するとかでしょうか?」


 さすがに行方不明事件が起きている街に遊びに行けとも言えず、ナツキが提案したのはそんな選択肢。


 それを聞いて、メアリは少しだけ考え込み、すぐに『うん』と頷いた。


「解りました。適当にしますね。ミーもそれで良い?」

「うん。お姉ちゃんに任せるの」

「大丈夫だとは思いますが、子爵家の方に迷惑を掛けないようにね」

「もちろんです。ナツキさんたちもお気を付けて」

「お姉ちゃんたち、行ってらっしゃいなの」


    ◇    ◇    ◇


 部屋を出たナツキたちが最初に向かったのは、サジウスが仕事をしている執務室。


 トーヤたちからすれば、訓練をしている印象しかないサジウスではあるが、領兵をまとめる立場でもあるため、当然ながら事務仕事もあり、そのための部屋も持っている。


 ネーナス子爵家の本邸から少し離れた場所にある、領兵たちの宿舎も兼ねた建物。

 その一角がサジウスの執務室であった。

 既に話は通っているようで、トーヤたちが訪ねていくとすぐに迎え入れられる。


「今回はすまないな、面倒なことを頼むことになって」


「いや、構わねぇよ。正式な依頼だしな。しかし……お前もそんな仕事、するんだな?」


 トーヤが興味深そうに見回した執務室の中は、正に事務仕事をしている部屋という様相を呈していた。


 サジウスが座っている机には書類が乱雑に積まれ、壁際に並べられた本棚にも何かの資料なのか、紙を束ねた冊子がずらりと並んでいる。


 彼らからすれば、本屋を除けば初めて見るような大量の紙である。


「俺ぐらいになれば、こちらの方が多いんだよ。ジャスパーぐらいなら、まだ現場の方が多いんだが……はぁ、俺もあれぐらいの立場が良いんだがなぁ。面倒くせぇ」


 本当に面倒くさそうに、手に持っていたペンを放り投げたサジウスに、トーヤたちは苦笑を浮かべる。


 実際、サジウスが事務仕事をあまり得意としていないことは、その整理されていない机の上を見ただけでも明確である。


「気持ちは解らなくもない。が、今日のところは話を聞かせてくれ。一応、お前が一番把握しているんだろ?」


「了解。そうだな……事の起こりと言えば、春になるだろうな。若い女の死体が一つ見つかったんだよ。まぁ、それ自体はたまにあることだからな。大した事でもない。問題は、その女がケルグの住人だったことだ」


「……? ちょっと待ってください。何でその人がケルグの住人と判ったんですか? ここ、ピニングで見つかったんですよね?」


「あぁ、お前たちは冒険者だから知らないか? ネーナス子爵領では、希望があれば住人証を発行してるんだよ。持っている奴は少ないがな」


 町に定住して税金を納めている人が、その町の役所に申請することで発行してもらえる住人証。


 これの主な用途は、町の出入りの際、税金の免除を受けるため。


 この免除は住んでいる町だけではなく、ネーナス子爵領の他の町でも同様に受けられる。


 謂わば、冒険者ギルドのギルドカードと同じような効果があるのだ。


 だが、街から出ることが無い大多数の住人には使い道が無いため、持っているのはごく少数。


 他の町に買い出しに行く商人や、町の外に出掛ける農家などが持っている程度なのだが、それらの人たちにしても、大抵、自分の町の門番とは知り合いなので、実際に発行を受ける機会は少なかったりする。


「で、まぁ、その被害者の死に方がやや不審だったんでな。一応確認してみるかと、ケルグでも調査した訳なんだが……そいつ、冬頃に知り合いにも告げることなく町を出たみたいなんだよ。おそらくは、だが」


「それ自体は、ピニングに用事があったと考えられなくもないですが……」


「ま、ピニングに来た事自体はな。被害者は行商みたいな事をしていたから。だが、逆に周りに何も言わずに行く事も無かったらしい」


 行商とは言っても、被害者のおこなっていたのは、一般人向けではなく商店向けの卸業。


 そのため、どこかに仕入れに向かう場合には事前に御用聞きに行くし、仕入れて戻ってくるのがいつになるかも伝えるのが当然である。


 にもかかわらず、それらが一切ないまま行方不明。


 そんな不審な状況であったからこそ、サジウスは情報を仕入れることができた部分もあるのだ。


「ちなみに、不審な死に方ってなんだ?」


「あぁ、死因となる外傷が見つかってねーんだよ。たぶん、毒だとは思うんだが、転がってたのが路地裏だからな。どこかで毒を飲まされて、そこまで歩いて来て力尽きたのか、それとも死んだ後、捨てられたのか。あ、ちなみに被害者は女な」


「外傷無し……ちなみに年齢は?」


「二十代半ばだな。けどまぁ、所詮女一人が不審死しただけだからな。その時はそれで終わったんだ」


「あ、終わるのか、それで」


 トーヤが少し意外そうな声を漏らすが、実際のところ、街中で死体が見つかる事自体は、一般的にそう珍しい話ではなかったりする。


 比較的治安の良いネーナス子爵領ではあまり多くないため、一応調査されたわけだが、クレヴィリーであればそれなりに頻繁に、ミジャーラなら多少歩けば死体が見つかるほどにありふれている――そんな世界である。


 それ故、人目がある状態で殺人が行われたり、殺された人物が有力者かその関係者でもない限り、そのまま焼却されて終わり。


 殺人事件であっても、平民が一人死んだぐらいで多大な労力をかけて捜査していては、とても人手が足りないのだ。


「で、次は夏前だったか。とある女の家族から、娘の行方が判らなくなったという訴えがあった」


 そう言いながら、サジウスは一枚の紙を取り出し、それを見ながら説明を続ける。


「その女の交際相手の男、その男の死体が見つかって、女の方は行方不明って話だな。だが、調べてみたら、その女と男が争っているのを見たって話が出てきてな。痴情の縺れで男を殺して女は逃げた、という形で終わった。()()()()な」


「この時は?」


 サジウスの言葉をナツキが聞きとがめ、聞き返すと、彼は軽く頷く。


「そう、この時は、だ。そのへんは後で説明するが、この頃は俺たちも忙しかったからな。余裕がなかったんだよ」

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