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245 クレヴィリー (4)

前回のあらすじ ----------------------------------

宿に戻り、各自が町の様子などを報告。

夕食として出てきたのは魚だったが、サールスタットで食べた物とは違った。

馴染みの無い味付けで少し戸惑ったが、十分に美味しい物だった。

「おい、ナオ、起きろ」

「……んあ?」


 翌日の早朝、惰眠をむさぼっていた俺は、身体を揺すぶられてうっすらと目を開けた。


 目の前にあったのは、狼の耳……じゃなくて、トーヤの顔。


「なんだよ、今日は朝練とか無いだろぉ」


 移動時間が長い上に、交代で見張りも必要な関係で、護衛の間はやや睡眠不足。


 そのため、宿に泊まっている間は早朝の訓練などは取りやめ、自由に起きるように決めていた。


 目を向ければ、大抵は俺よりも早く起きるハルカやナツキのベッドも、まだ埋まったまま。


 窓を見ればすでに日は昇っているが、その角度を見るに朝早い事は間違いない。


「こんな時でも早起きとか、トーヤ、どんだけだよ……」


 寝不足はきっちり解消しておかないと、パフォーマンスが落ちるんだぞ?

 そんな思いを込めた苦情を呈し、俺は布団を引き上げてその中に潜り込む。

 だが、そんな俺の行動を気にした様子も無く、トーヤは俺の布団を引っ張る。


「いや、重大事、なんだよ。米? っぽいものを見つけたんだよ」

「マジで!?」


 それなら仕方ない。

 トーヤの重大発言に即座に飛び起き、つい声が大きくなる。


 慌てて口を押さえてハルカたちの方を見るが、少し身じろぎしただけで、誰も起き出す事は無かった。


「で、当然確保はしたんだろうな?」


 声を潜め、トーヤに確認するが、トーヤは少し困ったような表情で、首を振る。


「いや、それが……一応、ハルカたちに相談した方が良いんじゃね? と思って、買ってはいない」


「バッカ! 売り切れたらどうする!」


「それは多分心配ねぇよ。たくさんあったし、普通に入荷するらしい。……まあ、来い」


「おう、もちろんだ!」


 米のために惜しむ労力は無い。

 俺は素早く服を着替えて、トーヤに案内されるままに朝市へと出向いたのだが……。


「米、だよな?」

「多分な? オレが躊躇うのも理解できるだろ?」

「あぁ……これは、ちょい困ったな?」


 朝市の一角にある露店。

 そこに、麻袋に詰められて並んでいたのは籾状態の米。

 但し、サイズ感が全く違う。


 形はタイ米などよりもジャポニカ米に近いのだが、縦方向のサイズが明らかに一センチを超えている。


「これ、サイズ的には米と言うより、豆じゃね?」

「あぁ、確かに、そんな感じだな!」


 精米すればある程度は小さくなるだろうが、イメージとしては小粒納豆サイズの米、だろうか?


 これを茶碗に盛った姿は……う~ん、味次第?

 美味ければすべて許せる。

 だが、本当に米なのだろうか?

 イネ科の植物である事は間違いないと思うのだが……。


「兄ちゃんは、さっきも来てたよな? 買ってくれる気になったのかい?」


 店番をしているのは三〇ぐらいの男。

 他に並んでいるのも穀物ばかりなので、穀物を専門に扱う行商なのかもしれない。


「いや、相談に行ってた。これ、どうやって食うんだ?」


「ん? 適当に砕いて煮込むのが一般的だな。ドロッとするから好みがあるんだが……。それを利用して、ドロッとした料理を作る時に使ったりもするな。あぁ、もちろん、皮は剥くんだぞ?」


 ドロッとするのか。

 お粥みたいな感じか?


「一粒もらっても良いか?」

「あぁ、一粒なら構わないぜ?」


 男に許可を取り、一粒手に取り、籾殻を剥いてみれば、出てきたのは玄米――に見える物。


 ぬかの部分を爪で削ると、半透明の米が現れる。


「サイズ以外は間違いないみたいだが……これ、いくらだ?」

「それなら、一袋で大銀貨五枚だな」


 袋の大きさ的には二〇キロから三〇キロはあるか。

 それなら、そんなに高くはないな。


 袋の底まで手を突っ込んでかき混ぜてみても、砂や石が混ざっている様子もないし、粗悪品をそこに詰めていたりもしない。


「おいおい、心配しなくても、この町で騙すような奴はいねぇぞ? 見つかれば一発で追い出されるからな」


 そんな俺の様子を見て、店番の男は苦笑を浮かべる。

 こんな露店で買う時には必須の確認なのだが……。


「そのへん、厳しいのか?」


「ああ、厳しいな。たまに抜き打ちでチェックされるからな。しかも、普通の客の振りをして。当然だが、見せる物と売る物をすり替えたりもできねぇよ」


 ホント、商売のしやすさだけは間違いないんだな……。


「よし、買って帰って、ハルカたちと相談しよう。作るのはあいつらなんだ。俺たちが悩んでも仕方ない」


「だな。このぐらいなら、失敗しても痛くねぇし。おっちゃん、一袋くれ」


「毎度!」


 トーヤが大銀貨を五枚差し出すと、それを受け取った男は、俺が確認した米袋の口をちゃっちゃと縛り、トーヤにホイと渡す。


 結構重いと思うんだが……穀物を扱うだけあって、力はあるのだろう。


「ちなみに、他の種類はあるのか?」


「もちろん。コイツは小さい方だな。大きい種類だと一粒のサイズが二倍ぐらいはあるぞ。えーっと、この辺だな」


 蓋代わりなのか、袋の上に被せていたザルをいくつか、ひょいひょいと取りのけると、その下にあったのは確かに二回りほどは大きい米(?)だった。


 先ほどの米が小粒納豆だとすれば、今回のは大粒納豆か。


「これも確認して良いか?」

「構わねぇぜ。コイツと、コイツ、それにコイツが別の種類だな」


 見た目は大粒、中粒、小粒という感じ。

 籾殻を剥いてみると、大粒が白っぽい以外はあまり違いが無い。


 大粒の白っぽさも、単純にデカいからそう見える、と言われれば納得できそうな程度。


「どうする?」

「買って帰れば良いんじゃね? 大した額じゃねぇだろ。おっちゃん、いくら?」

「全部大銀貨五枚だ。――あぁ、ただし、量は違うからな?」


 具体的には小粒はトーヤが買った物と同じだが、中粒は少し少なく、大粒はそれよりも更に少ない。


 この世界で売っている物は結構こんな感じで、『一〇キロでいくら』とかではなく、『大銀貨一枚で買える量』とかになっている場合が多い。


 値段の比較がしづらくはあるのだが、硬貨の扱いや計算は楽である。


 一〇レア未満の少額硬貨がほぼ流通していない事や、計算ができる庶民があまりいない事から、そうならざるを得ない部分も大きいのだろう。


「それじゃ、全部貰おう」


 俺が金貨一枚に大銀貨五枚を渡すと、男は嬉しそうにそそくさと袋の口を締めると、袋を持ち上げ、俺とトーヤの間で視線をさまよわせる。


「二袋はあっちに。これは俺が持つ」

「お、そうかい? 兄ちゃん、力持ちだねぇ。さすが獣人!」


 種族に関して含むところは全くないのだろう。


 男はニカッと笑うと、二袋をポンポンとトーヤに渡し、俺は大粒が入っている袋を持ち上げた。


 一番軽いはず、と選んだのだが、これでも二〇キロは超えてそうだな……?


「おぉ、オレが三袋か。いや、別に持てるけどよ」


 一〇〇キロまでは無いだろうが、トーヤはそれを片方の肩の上に積み重ね、軽々と担いでいる。


 別に俺ももう一袋ぐらいは持てるのだが――。


「俺の方がトーヤの三倍、金を払ったしな」

「なるほど。そう言われると、荷物持ちぐらいしねぇとな!」


 ま、この米が美味く食べられれば、共通費から出してもらえそうだけどな。


「兄ちゃんたち、気に入ったらまた買いに来てくれよな! 俺は毎回の朝市で、この場所で店を広げているから」


「ああ、美味ければまた必ず寄らせてもらう」


 たくさん購入したからか愛想良く、笑顔で見送る店番の男に別れを告げた俺たちは、他に掘り出し物が無いかと、朝市を見ながら宿へと向かう。


 昨日の昼間は、屋台すら無かった道の両側に多くの露店が並び、食料品を主とした多くの商品が販売されている。


 ハルカたちに比べると、俺たちが朝市に行く回数は少ないが、それにしても見かけた事が無いような食べ物も数多く、活発な流通を感じさせる。


「品揃えはやっぱり良いな」

「だな。果物も多くあるし……」


 そもそも特定の時期を除けば果物の販売自体が少ないのだが、ここには多くの種類の果物が豊富に並んでいる。


 もちろん、全体として値段は高いのだが、これだけ並べられる事自体、この町の流通の良さを示していると言えるだろう。


「あ、乾燥ディンドルが――って高っ!」


 たった一個で、二千レア。

 さっき買った米全部と同じ値段だが、腹持ちという点では天と地ほども差がある。


「これって、オレたちが持ってきたら、それぐらいで売れるって事か?」

「かもしれないが、売るか? わざわざここまで来て」

「……無いな、うん」


 去年の事を考えれば、()()()()には儲かると思うが、()()()()でしかない。


 自分たちが食べる分を確保すれば、せいぜい金貨数百枚ぐらいか?

 ここまでの距離を考えれば、その時間分、別の狩りに精を出す方が良いだろう。


「だが、それはそれとして。これは、是非ハルカたちを連れてくるべきだろ。上手くすれば、俺たちの食事が更に充実する」


「ああ。香辛料っぽい物も色々あるし……もしかしたら、カレーとか食えるかも?」


「カレーか! それは日本人ホイホイだな!」


「おう。もし面倒くさいクラスメイトがいても、カレーを餌にすれば……?」


「ナイスアイデア! 米もセットなら、言う事無いな!」


 もちろん、それで敵対的なクラスメイトがいきなり友好的になる、なんてイージーモードでは無いと思うが、美味い物が食えれば気分は良くなる。


 交渉等もやりやすくなるだろう。


「んじゃ、早く帰ろうぜ! どうせあいつらを連れて見て回るなら、オレたちだけで見ても意味ねぇし」


「そうだな。米も地味に重いし。急ぐか」


 敢えてマジックバッグは持ってきていないので、二人して米袋を担いだまま。

 トーヤは大して気にした様子は無いが、決して軽い物では無いのだ。


 俺は米袋を一度おろし、逆側の肩に担ぎ直すと、トーヤを急かしてやや足早に宿へと道を辿った。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?ハルカとナツキは、就寝時には護衛として、イリアス様の部屋にいるのでは?
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