表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第七章 ダンジョン
262/500

第1巻発売記念 「SS6 美味い飯は……」

1巻の発売は、2月5日です。よろしくお願いします。

以下のページで口絵や本文イラストが紹介されています。

https://kakuyomu.jp/official/info/entry/2019/02/01/173728

ちなみに、SS1もこちらから読めます。


今回は、発売日の直前の更新という事で、発売記念のSSをアップしました。


特典として書いたSSのうち、ボツにした物に加筆修正。

1巻を読んだ後で読むとより楽しめるかも?

 ナオとハルカがデートに出かけた。


 ――違った。夕紀と那月の捜索に出かけた。


「ふぅ……」


 久しぶりに一人になった室内で、オレは窓を開け、ゆっくりと流れる空気を感じながらベッドへと寝転がる。


 ナオたちとは気が置けない仲だが、ずっと一緒というのは、やはり少し気疲れする。


 あいつらは自覚が無いのかもしれないが、さりげなく、自然な感じでイチャつかれると、目のやり場に困るのだ。オレとしても。


 『頻繁にデートでも行ってこい! オレのためにも!』と言いたいところだが、残念ながら今のオレたちに、そんな時間の余裕は無いのが問題だよなぁ。


「ま、おかげさまで、明日の寝床の心配をする必要が無くなったのは、ありがたいけどな」


 これに関してはハルカの功績が大きい。

 さほど余裕は無いが、一宿一飯を心配して汲々とするほどでは無い。


 現状はそんな感じ。


 オレは窓から差し込む日差しを浴び、ゆるゆると尻尾を揺らしながら微睡む。


 “微睡みの熊”で微睡む狼。くぷぷっ。


 そんな暢気な事を考えられる、穏やかで贅沢な時間。


 だがそんな時間も、『ぐるるるる~』という、オレのお腹が奏でる抗議の音で中断された。


「むー、腹が減ってきたな。何にもしてねぇのに」


 この身体になって、大幅に身体能力がアップした代わりに、燃費の方はかなり悪くなった様に感じる。


 筋肉が増えれば消費エネルギーも増えるわけで、当たり前と言えば当たり前なんだろうが……確実にダイエットは必要なさそうだな。


 逆に、食糧不足になったら、すぐに死にそうだけどな。


「……とりあえず、メシでも食いに行くか」


 たぶんハルカたちは帰って来ねぇし。

 オレは身体を起こすと、部屋を出て食堂に向かう。

 宿と言うよりも、地元民の酒場って印象が強いここは、昼間は比較的空いている。

 いつものようにカウンター席に腰を下ろしたオレは、オヤジさんに声を掛けた。


「オヤジさん、パンと卵、後は……スープ」

「肉も残っているが、載せるか?」

「お、マジで? 食う、食う!」


 ラッキー! 肉がなくても美味いが、あったらなお美味い。


 最初に泊まった頃なら、懐事情を考えて我慢するところだが、今ならば断る理由も無い。


 肉が焼ける匂いと音を楽しみながら、待つこと暫し。


 出てきたのは、あっさり塩味のスープが一杯と、三センチぐらいのぶ厚さでカットされたパン。


 大きさは食パンよりも二回りほど大きく、硬さは少し柔らかめのバゲットぐらい。


 そのパンの上を厚切りのベーコンっぽい肉が占有し、更にその上に、目玉焼きが一つ載せられている。


 野菜は無いが、そんな事は関係ない。


 オレは肉から滲み出る脂がこぼれ落ちないよう、慎重にパンを持ち上げると、大きく口を開けて豪快に齧りつく。


「ん~~! 美味い!」


 プリプリした肉の脂と塩味、そして濃厚な卵の黄身。

 それが少しパサついたパンに、良い感じにジュワリと染み込んで、とても美味い。


「――っと!」


 タラリと垂れてきた黄身を一舐め。


 目玉焼きの味付けは軽い塩のみだが、卵自体の旨味なのか、それだけでも十分に美味い。


 もう一度大きく齧り付き、パンと肉も味わう。


「この肉もやっぱ美味いよなぁ」

「お前たちが持ち込んだ肉だ」

「いや、そうだけどさ」


 最近オレたちが狩っている猪の肉。


 その大半はそのまま売却しているのだが、一部は宿に持ち帰り、オヤジさんに預けていた。


 それはオレたちの食事のグレードアップと、宿代の足しとして使われている。


「けど、焼いただけじゃこんなにならねぇもん。オヤジさんの腕だよ」

「ふん」


 無表情で鼻を鳴らしつつも、微妙に嬉しそうなオヤジさん。


 ハルカの作る串焼きも美味いんだが、手間を掛けているオヤジさんの料理もまた美味いのだ。


 何か下拵えに秘密があるのだろう。

 このプリプリ感は串焼きでは出せない。


「それでいて、高くねぇしなぁ。大して値段が変わらないオヤジさんの料理は美味いのに、屋台の料理って何であんなに不味いんだ?」


 純粋な疑問を口にしたオレに、オヤジさんは不満そうに鼻を鳴らした。


「素人だからな、あいつらは」

「素人? 屋台をやってるのに?」

「あいつらの大半は引退した冒険者だ。料理人になりたかったわけじゃない」


 訊いてみれば、怪我や年齢などの理由で引退した冒険者が始める仕事として、屋台というのは案外多いらしい。


 少なくとも、この町に関しては。

 理由は簡単。


 自分たちが現役時代に食べた屋台の味を基準に、『あの程度なら自分でもできる』と考えてしまうらしい。


「多少原価が安くても、腕があれば食える物が作れる。だがあいつらにはそれが無い。半端者なんだよ。……それだけのことだ」


 さすが料理が上手いだけあって、そのへんのことに関しては一家言あるのか、無口なオヤジさんには珍しく、長く語った。


「へぇ、つまり、屋台は避けて、普通の食堂に入れば良いのか? 美味い飯を食べるためには」


「いや、それもダメだな。現役時代に多少金を貯めて、店舗を構える奴もいるからな」


「ダメじゃん! じゃあ、不味い飯を避ける方法は無いのか……」


「簡単だ。ウチで食えば良い。それだけの事だ」


 そう言ってオヤジさんは、ニヤリと笑う。


「もう少し食うか? 卵もまだ残っているぞ」

「そうだなぁ……」


 贅沢は敵。

 だが、ナオとハルカは、現在、デート中。

 イコール、ちょっとぐらい贅沢しても良い。


「よし。オヤジさん、同じの追加で。卵も載せて!」


 再び、料理の匂いを楽しみながら待つ事暫し、同じ肉載せパンが出てきた。

 ただし、今度のパンには卵が二つ。

 オヤジさんの方を窺うと、うむと一つ頷く。


「昨日のが余っていたからな。サービスだ」

「マジで? ラッキー!」


 卵って、常温でも結構長持ちしたと思ったが、こっちではちょっと違うのか?

 だが、オレの腹ならば、多少古いぐらい、何でも無い。

 美味い物が増えて文句を言う理由があろうか。

 一つはそのままペロリと、もう一つは肉の上に載せたまま味わう。


 オレ、別に目玉焼きとか、大して好きとか嫌いとか考えた事も無かったんだが、料理のバリエーションが少ないこちらでは、これも結構なご馳走なのだ。


「黄身だけじゃなく、白身部分も美味いんだよなぁ、これ」

「ウチはまともな業者から仕入れているからな」

「へぇ、そうなのか」


 飼育方法によって白身の味が変わるのかどうかは知らないが、美味いのだから何の問題も無い。


 ちょっとした贅沢に微妙な背徳感を覚えながら、オレは舌鼓を打つ。



 ――夕方、帰って来たナオに聞かされる()()()()()の事など、今は思いもせずに。

新作の投稿を開始しています。一章は毎日投稿予定です。

お時間がありましたら、お読み頂けますと幸いです。


異世界神社の管理人

https://ncode.syosetu.com/n8742fg/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2025年3月5日発売
異世界転移、地雷付き。 12巻 書影

異世界転移、地雷付き。 コミック2巻 書影

ComicWalkerにてコミカライズ版が連載中です。


以下のような作品も書いています。よろしくお願いします。

ファンタジア文庫より書籍化しました
『新米錬金師の店舗経営』

新米錬金師の店舗経営 7巻 書影

『けもみみ巫女の異世界神社再興記 神様がくれた奇跡の力のせいで祀られすぎて困ってます。』

けもみみ巫女の異世界神社再興記 書影

『図書迷宮と心の魔導書』

図書迷宮と心の魔導書 書影
― 新着の感想 ―
気の抜けた話が続きすぎてしんどい…。 知識チートするわけでもないダラダラしたうんちくとか、 異世界じゃなくてもいいような平坦な日常の内容が多すぎると思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ