233 重課金ボーナス (2)
前回のあらすじ ----------------------------------
いつものように神殿に赴き、お布施を入れて祈りを捧げると、神の声が。
たくさんお布施をしたので、ボーナスが貰えるらしい。
「ところで神様、今回は希望を聞いてくれたりは……?」
『ダメ』
やっぱ、前回が特別だったか。
そうそう希望を聞いてられない――
『せっかく作ったのが無駄になるから』
そっちの理由かよっ!
『さあさあ、好きなのを選んで良いよ。後悔無いようにね!』
好きなようにと言われても……ダーツ以外は全部、運任せだよなぁ。
ガラガラは何が入っているのかすら解らないし、スロットも3つ揃えるタイプでは無く、ドラムは1つだけで、窓から見えているのは止まっている部分と前後の3つのみ。
こちらも『ハーレムルート突入!』、『逆ハールート突入!』、『ざまぁルート突入!』とか、突っ込みどころ満載。
『ハーレム』にツッコみたいのに、『逆ハー』とか『ざまぁ』が強烈すぎる。
全然そんな状況、無いよな!?
俺が突然、学園にでも通い始めない限り。
運命がねじ曲がるの?
相手は神様だけに、あり得ないとは言えないのが……。
紐釣りクジはまだまともな――でも、絶対当たりそうに無い物が混じっているだけで、おかしな物は無い。
ダーツも的がくるくる回る以上、ほぼ運だが、微妙に自分の行為が介在する余地がある。
中心、タワシ、だけど!
大事なことだから繰り返すけど、中心は『タワシ』!
ボーナスなのに!
「あの、これって本当にコレ?」
『いつもニコニコ、明朗会計。当たった物は確実に履行します』
「タワシでも?」
『タワシでも。でも、良いタワシだよ? 日本の職人の手による高級タワシ――のレプリカ(神製)』
あぁ、1個1万円以上のタワシってあるらしいね~~って、嬉しくねぇよ。さすがにこの状況で当たっても。
取りあえず、スロットは無し。
変に人生ねじ曲がるのは好みじゃない。
紐釣りには凄いのがあるが、あれは絶対当たらない。
当たれば履行するとは言っても、当たらなければ意味が無いのだから。
ガラガラは完全な運。俺が介在する余地は無い。
自分のミスがあり得ない分、諦めやすい気はするが、何が出るか解らないのが怖い。
「ちなみに神様、お勧めとかあります?」
『引き紐についてはノーコメント。スロットはコモン、アンコモン、レア、スーパーレア、ウルトラスーパーレアの5種類。確率的には全部出るけど、どれが出やすいかは解るよね?』
解ります。
レア以上はほぼ確率ゼロなんですね?
ウルトラスーパーレアなんて、ただの客寄せですよね?
……さっきの怪しげな『ルート』がいったいどんなレアリティなのか、微妙に気になる。
『ガラガラはある意味お勧め。あらゆる物が1つずつしか入ってないから。スロットで言うところのコモンもウルトラスーパーレアも同じ確率で出るよ』
え、マジで?
なら、ガラガラ1択じゃ――。
『但し、他の3つには入っていない物もたくさん入っているから要注意。ちょっと微妙なスキルとかね』
はい、消えたー。
無しです、無し。
絶対地雷込みですよ、それ。
『ダーツは見ての通り、すごく良い物もあるけど、外れ枠も多いよ。投げさせてあげるけど、やり直しは無し。完全にフェアだよ』
ダーツは判りやすい。
貰える物がオープンなのが良いね。
扇型の幅で確率もおおよそ読めるし。
タワシがあるけど。
当たる物もあんまりピーキーなのは無いし――ん?
「あの、神様。あの細い、『パジャマ』の欄は?」
『え? パジャマだけど? お好みのパジャマをプレゼントしてあげるよ?』
本当にパジャマだった!
タワシも大概だけど、何でパジャマ!?
『よく解らないよね。あれもタワシと同じ外れ枠なのかな?』
え――? あっ、それパジャマちゃう! パジェ○じゃん! 車の名前だよ、神様!
俺の世代だと、リアルタイムでは見たこと無いヤツだよ、それ!
『あれ、そうだった? さすがに自動車はプレゼントできないなぁ、世界観的に。そもそもガソリンスタンドないから、動かせないし』
うん、俺も貰っても困る。
ただの置物的な?
珍しい物なのは間違いないので、場合によっては売れるかもしれないが、もれなく厄介事も引っ付いてきそうである。
『だよね。じゃ、パジャマのままで』
「え? 他の物に変更は?」
『う~ん、良いのが思いつかないので、無しで』
「無し!?」
酷い。
かなーり細いから、早々当たらないと思うが……そういうときに限って当たったりするんだよなぁ。
一応、レベル1ながら【投擲】スキルを覚えたので、タワシにヒットする可能性は無いと思うが、緊張するとつい中心を狙ってしまう可能性も……。
「ちなみに、ダーツ、練習ってありですか?」
『練習? んー、ま、1回なら良いか。どぞ』
そう聞こえると同時に、スロットやガラガラなどが消え、手の中にダーツが現れる。
見た目は俺が知っているダーツと全く同じ。
フライト――羽の部分はプラスチックみたいな素材で、シャフトやバレル、ポイントの部分は金属製。
ダーツなんて、数回しかやったことないのだが、【投擲】スキルを信じよう。
今は停止しているルーレットの前に立ち、パジャマを狙って投擲。
カツン、と音を立ててダーツの矢は狙い通り、パジャマの『パ』を射貫いた。
思った以上に狙った場所に行く。
うん、これならタワシ以外の何かしらは当たりそうだ。
『準備良さそうだね。それじゃ、本番行くよ。離れて離れて』
「え?」
離れて、とか言いつつ、俺は一切動いていないのに、遠ざかっていく的。
あれあれ? どーゆーこと?
『はっはっは、【投擲】持ちに、そんな距離で投げさせるわけないじゃない。簡単すぎるでしょ?』
うわぉ、スキルでの確率操作は許さないって?
そして止まった的までの距離は、10メートルほど。
これぐらいがスキル無しの場合と同じ確率?
それとも、ダーツの上手さなども加味されているのだろうか。
『それじゃ、どうぞ!!』
的がくるくると回り始めると同時に、俺の手の中に先ほどと同じダーツが現れる。
いや、まぁ、神様が厚意でくれるボーナスだし、このくらいがフェアだというのなら、受け入れるしかないのだが……遠いなぁ……。
【鷹の目】があるから、見るのには苦労しないが、かなり高速で回っているため、何処に何があるのかはさっぱり解らない。
判るのは中心に広がるタワシの領域のみ。
「……ま、気楽に行くか。仮にタワシでも、マイナスじゃ無いだけマシ」
『そうそう。女性たちにプレゼントしたら、喜ばれるかもよ?』
「いや、このこと、喋っちゃダメなんじゃ?」
『おっと、そうだった。それじゃ、君たちの中で一番最後に条件を満たした人に伝言しておくよ。もう仲間内なら喋っても大丈夫、って』
それは地味にありがたいな。
何かスキルを得ても、それをどうやって得たのか説明ができないのも困るし。
「それじゃ、いきます」
『いっちゃってー』
神様の軽い言葉に気が抜けそうになりながら、俺は遠くに見える的に向かってダーツを投擲。
シュッと高速で飛んだダーツは、カツンと音を立てて、狙い通り中心を避けて突き刺さる。
――よしっ、タワシは回避!
それと同時に、ルーレットの回転が緩やかになり、先ほどとは逆に、的がゆっくりとこちらに戻ってくる。
おっ、パジャマ並みに細い場所。
何か良い物かな……?
「『ラッキー!』?」
『お、「ラッキー!」、だね』
これがボーナス?
ラッキーだから投げられる本数が増える、とかではなくて?
てか、こんなん、さっきあったっけ?
「えっと、『ラッキー!』ってなんですか?」
『ラッキーはラッキーだよ。ちょっと幸運になるの』
「幸運……」
この世界、ステータスの能力値には、幸運値があったのだろうか?
『神はサイコロを振らない』んじゃないのか?
――いや、この神様、振りそうだなぁ、サイコロ。
それにボーナス値が付くのなら、価値はあるかもしれない。
『そうだね、例えば、「膝に矢を受けてしまった!」になるところを、「太股に矢を受けてしまった!」になるとか、雨でずぶ濡れになっても風邪を引かないとか、そんな幸運』
「随分とショボ――いえ、ささやかな幸運ですね?」
せめて矢に当たらないとか、雨に降られないとか、そのくらいにはならないのだろうか?
しかもそのレベルの幸運だと、本当に幸運なのかすら解らない気がする。
矢に当たったら、普通に不運だと思ってしまうし。
『いやいや、こんなささやかな幸運も重要だよ?』
自分で『ささやか』って言った!?
『具体的には1D100が1D100+1になるぐらいの幸運だよ?』
また、一部の人にしか解りづらい表現を。
D100、つまり100面ダイスを振る場合に、1~100の出目が、2~101になるという事である。
1が出ると、ファンブルで死亡! とかいう状況だと凄くありがたいボーナスだが、神ならざる人の視点では認識できないのが、ちょっと空しい。
「え~っと、まぁ、うん。ありがとうございます?」
『存分に感謝すると良いよ。地味に君の人生を良い物にしてくれる――可能性があるから』
「はい……」
『それじゃ、またね~』
ボーナスを与えれば用はないとばかりに、あっさりと消えていく神の声。
「え? 『また』? 次があるんですか!? ねえ!」
だがそんな俺の問いかけに応える声は無く、次の瞬間に俺は、いつものように神殿で立っている自分を認識することになる。
何の変化も無い自分の身体。
だが確認したステータスには……恩恵欄に【経験値ちょっぴりアップ】に続いて【ラッキー!】が追加されている。
……どっちも字面が酷いな!
だが今のところ、そんな気持ちをハルカたちと共有することもできない。
俺は深くため息をつくと、気を取り直し、何事も無かったかのようにいつも通りに帰宅したのだった。









