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022 友は何処(いずこ)?

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

ディンドルをギルドに売ってかなりの額を稼ぐ。

干し肉も作り終え、一段落したところでハルカが街を出ることを提案する。

「街を出るって……本気で?」

「ハルカが?」


 トーヤが「討伐依頼を受けようぜ」と言っても、「危ないからダメ」というのがハルカなのだ。

 危険なことは極力避け、自分自身はもちろん、俺たちにも常に慎重な行動を求める。

 そんなハルカが、やっとこの世界に慣れはじめた段階で、街を出ることを提案する……?


「あ、別に旅に出ようとかそんな話じゃないわよ? ただ……できれば、那月なつきたちを探したいな、って……」


 少し言いづらそうに、俺たちの顔を窺うようにして付け加える。


夕紀ゆき那月なつきか……」


 紫藤しどう夕紀ゆき古宮ふるみや那月なつき

 その2人はハルカと特に仲の良かった親友で、よく3人で連んでいた。

 俺たちとも面識があり、時々5人で遊びに行くほどには親しい間柄である。

 もし俺が、クラスメイトで親しい人物を上げていくなら、幼馴染み2人の次に来るのがこの2人だろう。



 那月は一見すると大和撫子的な外見で、お淑やかそうながらも少しキツそうな――そして、実際にはめっちゃキツい女の子である。

 とは言っても、思ったことをはっきり言うだけで別に暴言を吐くわけではない。


 俺たちぐらい親しくなればかなりラフな話し方をするのだが、そうで無い相手には少し距離を置いた様な丁寧な話し方をするので、あまり親しくない人にとっては取っつきにくい印象を与えるようだ。

 それは、場合によっては超・毒舌になる事も影響しているのだろう。


 以前5人で待ち合わせをしていたときの事だ。

 俺とトーヤが合流する前、3人でいるところをナンパされたらしく、俺たちがそこに行くとチャラい男2人が彼女たちと対峙していた。

 慌てて助けに行こうとしたのだが、どうも様子がおかしい。

 男2人が半泣きなのだ。

 そして聞こえてくる那月の言葉。


 その詳細については省くが、男の精神を木っ端微塵にする程度には、十分な攻撃力を備えていた。

 いや、むしろオーバーキルか。

 少し躊躇しながらも声を掛けた俺たちに、ある意味救われたような視線を向け、チャラ男たちは捨て台詞を残す間もなく逃げ去っていった。

 そして何事も無かったかのように良い笑顔を向ける那月に、俺たち男2人は戦慄を覚えたのだった。


 それに対し、夕紀ゆきはちょっと小柄で社交性が高く、人当たりが良い女の子。

 誰とでもそれなりに仲良くなれるので、那月に比べて取っつきやすいのだが、その実、本当に仲良くなるには那月以上に壁があるという、ちょっと難しい女の子。


 いや、難しいとも少し違うか。

 少し警戒心が強くて、慣れるまで時間の掛かる小動物?

 ついでに言えば、2人とも容姿のレベルが高いので、俺たちが3人に混ざってよく遊びに行っていたのは、厄介ごとを避けるためのボディーガード役を期待されてのことである。


 おかげで、クラスメイトの嫉妬の視線がウザかった上に、「誰と付き合っているんだ」とか「紹介してくれ」とかうるさかったものだ。

 まぁ、そんなことで友達との付き合い方を変える気なんて更々ないので、面倒くさい奴らの方と距離を取るようにしたのだが。


「確かに2人のことは俺も心配だが、他のヤツらは? 何人か一緒に飯を食っていた女子もいただろ?」

「う~ん、そっちは、まぁ……」


 夕紀の警戒心が強いと先ほど言ったが、実はハルカも似たタイプである。

 ハルカはコミュ力が高いので、クラスのほとんどとそれなりに上手く付き合っていたのだが、それと仲が良いかはまた別問題で、ある一定以上にはなかなか踏み込ませない部分がある。


 面倒見が良さそうでいて、実際その通りなのだが、結構面倒くさがり屋な面もあるのだ。

 ある程度までは世話を焼くが、本当に親身になって対応するのは、ごく少数の相手のみ。

 パブリックな場面とプライベートを切り替えるので、学校外で付き合いがあるのなんて、俺たちの他にはたぶん夕紀と那月ぐらいだろう。

 それを考えれば、明確には口にしないものの、2人以外に頓着しないのも仕方ないのか……?


「ナオたちはどうなの? 友達、探さなくて良いの?」

「友達……こう言っちゃ何だが、こういう状況でわざわざ探そうと思うほどじゃないかな?」

「おう。命を危険にさらしてまで合流を目指す理由が薄いな」

「うっ……ごめんなさい」


 気まずげに謝るハルカに、俺たちは慌てて首を振った。


「ああ、いや、俺たちとは状況が違うだろ。俺たちの友達は男。自分でなんとかしろ、って話だろ? なぁ?」

「おう。別にオレたちが助けてやる義理もないだろ。みんな同じ状況なわけだしな」

「那月と夕紀は友達で女だし、できたら手助けしてやりたいのはハルカと同じさ」


 まぁ、男とか以前に、こんな状況で助けてやりたいと思うような友人関係が無いだけなんだが。

 少なくとも、クラスメイトの中には。


「しかし、なぜ今なんだ?」

「色々あるけど、まずこのラファンの街には居ない可能性が高いわよね?」

「そうだな」


 この半月あまり、俺たちはディオラさんから情報を聞いたり、空き時間で街を捜索したりして、クラスメイトの情報を集めていた。

 まずは生き残ることが重要なので、そこまで必死に行ったわけではないが、その範囲内では2人の情報は全くなかった。

 その代わり、クラスメイトっぽい人物については数人見つけていたが、親しい相手でもなさそうだったので、面倒を避けて接触はしていない。


 もちろん、ただの勘違いの可能性、完全に別種族になっていてクラスメイトと判断が付かない可能性もあるので確実ではない。

 だが、生きて生活をしているのなら全く情報がつかめない可能性は低いと思っている。

 身元の怪しい俺たちが金を稼ぐとなれば、冒険者にしろ、日雇いにしろ、その他の求人にしろ、冒険者ギルドを利用せずに済ますことは難しいのだから。


「もう1つの理由は、上手く適応できなくても、1ヶ月以内なら何とか生き延びている可能性が高いこと」


 極論すれば、ほぼ水だけでも1ヶ月なら何とか生きている可能性がある。

 あるが……


「いや、あいつらはもっとしたたかだろ?」

「だよな? 夕紀はもちろん、那月だって」


 そうじゃ無ければ、ハルカはもちろん、俺たちだってもっと焦っていた。

 何とか生き延びるだろうという信頼に近い物があったからこそ、まず自分たちの足場を固めるほうを優先していた所もあるのだ。


「まー、そうなんだけど。ただ、2人だけだとすると、問題は不測の事態が起きた時よね」


 危険なことをしなくても、日雇いで得られる賃金で何とか生活するぐらいはできる。

 ただ、キツい肉体労働ができる男に比べ、女の場合は軽作業が多く、どうしても賃金が低い。

 もちろん、いかがわしい仕事に手を出せば全く逆になるが、あいつらがそういう事をするとも思えないし、そう言う状況になっているとも思いたくない。


「貯蓄ができてないと、片方が風邪でも引いたら厳しいでしょ? 私たちなら残り2人で支えられるけど」

「まぁ、そうだな」

「ぶっちゃけ、オレならお前たち2人が寝込んでも宿代ぐらいは稼げるが……」

「そりゃトーヤが獣人の男だからだな」


 トーヤをガテン系で労働力換算するなら、2人分以上。

 普通は無理である。


「いくらトーヤでも、貯蓄がなければ薬代なんかで破綻するわよ。そんなわけで、早く探しに行きたいわけ」

「もちろん反対はしないが、当てはあるのか?」

「私たちが最初に転移した場所がこの街から東の草原。更に東に進むとサールスタットっていう川辺の街があるの。多分だけど、私たちはその街とこの街周辺に転移させられたんじゃないかな?」

「――この街を中心に、その周辺に転移させた可能性は?」

「もちろん、あるわね。ただ、東西南北を比べると、東が一番安全なのよね。邪神の厚意に期待するなら――」

「南の森なんかに転移したらすぐに死ぬ、か」


 ある程度慣れた俺たちでも、ディオラさんの忠告に従って未だ南の森には踏み入っていない。

 それが何の準備もしていない初日の段階なら、更に危険度は高いだろう。

 邪神の目的はよく解らないが、流石に転移即死亡はやらかさないだろうという希望的観測から考えれば、ハルカの予想はそう的外れでもない。


「もっとはっきり言ってしまえば、現時点でこの街に居なくて、サールスタットにも居ないとなれば生存が危ういんだけどね……」


 ちょっと表情を暗くして、ため息をつく。

 確かにこの街、ラファン周辺に転移して半月以上経っても街にいないとなれば、それは死んだか、サバイバルの達人か。


「サールスタットまでは街道を歩けばそう危険は無いわ。半日ほどで着くはずだから」

「うん。じゃ、今日は準備と休息に充てて、明日の朝出発する、で良いか?」

「賛成。特にハルカ、結局この数日、まともに休んでないだろ?」

「トーヤが原因だがな。干し肉、作りすぎ。そもそもアレ、どうするんだ?」

「うっ、すまん」


 俺が指さしたのは、部屋の隅に積んである樽。

 干して体積は何分の1かに減っているが、それでも樽数個分はある。

 さらに乾燥ディンドルも、大きなサイズの麻袋に2つ分ほど置かれている。

 はっきり言って持ち運べる量では無い。


「それは大丈夫。親父さんに相談して倉庫を貸してもらえるように交渉したから」

「おぉ、さすがハルカ!」


 塩漬け用の樽を融通してもらってから、ハルカはちょっと親父さんと親しくなっていた。

 ほぼ喋らないのは変わってないのだが、朝夕の食事でちょっとオマケしてくれたり、多少融通を利かせてもらえる程度には親しくなった……気がする。

 具体的には、最初からエールの代わりに水が出てきて、少し値引きしてくれるぐらい。

 ――ちょっと微妙か?


「あとは、ディオラさんに少し街を離れることを伝えるぐらいかしら」

「準備は特に必要ないか。なら、今日はハルカの休養も兼ねて、街を観光しないか? せっかく異世界に来たんだから」

「賛成! 必要なところ以外、ほとんど行ったこと無いよな、オレたち」


 クラスメイトを探すときも、トレーニングを兼ねて街中を走っていたので、のんびり見て回る機会はこれまで無かったのだ。


「そうね。幸いお金にも余裕があるし、多少ショッピングも良いかしら?」


 俺たちの提案に、ハルカがちょっと嬉しそうに頬を緩める。

 まとう空気もちょっとホッとしたように感じるのは気のせいではないだろう。

 『金がないのは首がないのと同じ』という言葉もあるが、今の俺たちの首は強固に繋がり、ちょっとぐらいの贅沢じゃビクともしない。

 1日ぐらい、遊んでも良いよな?

 うん、オッケー。問題ない。


「よしっ! それじゃ行こうぜ!」


 トーヤが勢いよく立ち上がるのに合わせ、俺とハルカも立ち上がった。

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