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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第七章 ダンジョン
242/500

218 Not ミノタウロス

前回のあらすじ ----------------------------------

ダンジョンの15層に戻り、牛乳の回収。15層の果物はウメとモモだった。

16層へと続く道にはボス部屋の扉がある。

その中にいたのはストライク・オックスよりもかなり大きな魔物だった。

 それは巨大な2足歩行する牛。


 それだけだとミノタウロスの様にも思えるが、あれは半人半牛。こちらは100%ビーフ――もとい、100%雄牛である。


 オークが二足歩行の猪といった様相なのと同様に、こちらも二足歩行の牛であり、人っぽさを感じないのは、全身に毛が生えていて体勢もやや前屈み、更に顔が完全に牛な為だろうか。


 オーク同様、前足が蹄ではなく、物を掴めるようになっているところが、牛との大きな違いか。


 ちなみに、なぜ雄牛と判ったのかと言えば……言うまでも無いよな?


 ある程度収納されているとはいえ、位置的に顔の前あたりにあるのでちょっと気になる。


 二足歩行の魔物はちょっと謙虚になって欲しい。


「ナオ! どう?」

「多分、いける」


 脅威は脅威。だが、斃せないほどでは無い、はず。


 ヘルプで判った名前は『マードタウロス』。

 強さ的にはオークリーダーよりも少し強いぐらいか。


 両手でトーヤの身長ほどもある斧を持ち、鼻息も荒く侵入してきた俺たちを睨み付けている。


 【看破】で気になるのは――。


「【咆哮】を使うかもしれない。気を付けろ!」

「了解!! すぅぅ――、『がぁぁぁぁ』」


 先手必勝と言うべきか、トーヤが咆哮を上げてマードタウロスに突っ込む。


 その咆哮はマードタウロスの動きを一瞬止めたに過ぎなかったが、効果は決して低くなかった。


 トーヤの攻撃への対応が僅かに遅れ、マードタウロスはやや不安定な体勢で剣を受け止めることになる。


 だが、そんな体勢でも、マードタウロスの膂力は侮れない物があった。


 拮抗したのは一瞬。


 マードタウロスはすぐに斧を振り上げるようにして剣を弾き、トーヤを後退させる。


「チッ。力では負けるか」


 当たり前である。


 身体を伸ばせば、恐らく身長はトーヤの2倍ほどはあり、胴体に対する腕や足の比率も、普通の牛に比べて比べものにならないほどに太い。


 二の腕の部分など、確実に俺の胴回りより太いし、そこから繰り出される攻撃の重さも推して知るべし。魔力による強化が無ければ、トーヤに対抗などできないだろう。


「トーヤ、援護は?」

「問題ない。やらせてくれ!」


 強いは強いが所詮1匹。


 ダールズ・ベアーほどの脅威は感じないので、魔法使い3人が攻撃を行えば問題なく斃せるレベルだろう。


 トーヤの希望に、ナツキが確認するようにこちらを振り向き、俺が頷くと、薙刀を構えたままで俺たちの方へと下がってきた。


 マードタウロスも後退するナツキに追撃するよりも、正面に立って剣を構えているトーヤの方が気になるらしい。


 デカい斧をトーヤに対してブンブンと振っているが、やや大ぶりな攻撃は避けるだけなら問題は無いようで、トーヤはその攻撃を正面から受け止めることはせず、少しずつダメージを与えている。


 一撃のダメージはオーガーよりも大きそうだが、オーガーに比べると攻撃速度も、動きも遅い。


 ダールズ・ベアーを除けば、過去最大規模の巨体ではあるが、正に『当たらなければどうということも無い』である。


 トーヤもそれを認識してか、焦ることも無くじわじわと足を削っているので、ますます動きは緩慢になってきている。


「う~~ん」


「ユキ、何か気になる事でも?」


「いや、大したことじゃ無いんだけど……あの腕の肉を使えば、マンガ肉が実現できるかなって」


「……をい」


 いや、確かにできそうだけれども!


「そうね、あの太さなら可能……いえ、ダメね。腕は骨が2本あるから。使うならモモ肉ね。腕より太いし」


 あぁ、そうだね、下膊部には2本の骨があるよね。でも上膊部なら――って、真面目に検討することか?


 確かにちょっと憧れはあるけど!


「日本でもまれに作られていましたけど、随分小ぶりでしたし、成型肉を使ったまがい物でしたね」


「それは仕方ないよ。仮に売っていても、家庭だと調理できないし、食べきれないもん」


「核家族化が進んでますからね。最近では普通サイズのスイカが売れないって話ですし」


 うん、そだねー。大きいスイカだと普通の冷蔵庫では冷やすのも大変。残れば夏場なのに冷蔵庫を圧迫する。大家族でないとなかなか消費しきれない。


 以前ウチでは、冷蔵庫を新しく購入した時に、おまけとして特大のスイカをもらったことがあるが、それこそそんな時で無ければ、特大のスイカが入るようなスペースは空いていないことだろう。って――。


「いやいや、スイカと同列に語るなよ、ナツキ」


「似たような物じゃないですか? さすがのトーヤくんでも、マンガ肉サイズのお肉を1人では食べきれないでしょう」


「だよねぇ。『上手に焼けました!』サイズだと、10キロぐらいありそうじゃない?」


「あぁ、アレね。確かに」


 とあるゲームに出てくるマンガ肉……っぽい物。それ以外でもマンガ肉と言えばその程度の量はありそうである。


 1ポンドステーキ20枚分。


 うん、無理。


 今のウチの家族7人全員で、そのうちトーヤ、メアリ、ミーティアの獣人組が大量に消費すると考えれば何とか? というレベルだろう。


 しかしそうなると、マンガ肉に齧りつくという夢が果たせないわけで。


 やるせない。


 ――いや、マジックバッグがあるから、1人で何日も掛けて食べることも不可能では無いのだが。


 スイカを丸々一個食べてみたいとか、そのレベルの『やってはみたいけど、やってみたらすぐに挫折する夢』というヤツだろう。


 そんな事を話していると、マードタウロスとガッツガッツとやっていたトーヤから抗議が飛んできた。


「おーい、オレが苦労してるのに、暢気な話してるなぁ!」

「ん? 苦労してるのか?」

「……いや、そんなでもないけどよぉ~」


 ちょっと釈然としない様子のトーヤではあるが、もちろん俺たちは、トーヤの戦いからは全く目を逸らしたりはしていないし、いつでも魔法で介入できるよう、集中力を途切れさせたりもしていない。


 のんびりと雑談をしているのは、それぐらいトーヤの戦いに余裕がありそうだからである。


 簡単に斃せるほどには弱くないが、一瞬のミスが命取り、と言うほどには強くもない。


 総じて言うなら、『訓練相手には最適』だろうか。


 トーヤもそれが解っているのか、変に無理したりせず、少しずつダメージを与える方に集中している印象。


 素材の回収を考えるなら、魔法での一撃必殺の方が良いのだろうが、そればっかりではスキルアップにならないし、たまにはこんな戦闘も必要だろう。


 ――そういえば、転移で跳んできたから、5層のボスが復活したか確認してなかったなぁ。


 復活しているようなら、俺もあそこで槍の実戦訓練をやるべきかもしれない。


「てええぇぃ!」


 そんなことを思っている間に、トーヤの攻撃がマードタウロスの足を大きく切り裂き、その巨体が大きな音を立てて地面へと倒れ込む。


 それと同時にトーヤが追撃をして、右の手首を砕く。


 そして、がらんと地面に転がる巨大な斧。


「そろそろ決着か」


 無事に終わりそうと息を吐いた俺に対し、ユキの方は困ったような声を上げた。


「あぁ……モモ肉に傷が……」

「そっちの心配かよ! 本気で作るつもりなのか?」

「うん。ま、片足は無事だし良いか。1回作れば満足だし?」


 まぁ、冷静に考えて、モモ肉の丸焼きなんて、そこまで美味くはないよな?


 見た目のインパクトはあるとしても。


 メアリたちの歓迎会で、タスク・ボアーの丸焼きを作った時も、結局丸かじりなんてせず、削り取ってタレを付けて食べることになったし。


「おーい、無事に勝ったオレに対する賞賛は?」


 マードタウロスが斧を手放した後は簡単だった。


 頭を地面に着けていれば、正に攻撃してくれと言っているような物。


 トーヤは首筋に剣を叩き込み、マードタウロスに止めを刺していた。


「おめおめ。パチパチ」

「はいはい。よく頑張ったね。『浄化』」


 俺がてきとーに手を叩いてやると、ハルカもやや投げやりな感じに賞賛、返り血に汚れていたトーヤを綺麗にしてやる。


「怪我が無くて良かったです」


「でも、1人で戦わせてあげたんだから、むしろお礼を言われるべき?」


「ナツキ以外の対応がヒドイ! ……まぁ、1人で戦ったのは、オレのワガママだけどさ」


「斃すだけなら問題ない敵だったしな。とは言え、次のボスか、その次ぐらいからは注意が必要そうな気はするな」


「そうね。そう考えれば、実戦訓練も必要よね。雑魚だけ相手にしていても、レベルアップは図れないと思うし」


「だろ? オレたちの間だけでの模擬戦じゃ、限界あるし」


「戦い方、結構バラバラだもんね、あたしたちって」


 トーヤの剣は当然として、俺の槍とナツキの薙刀でも扱い方は異なる。


 小太刀に関してはトーヤ以外の全員が使っているが、ユキ以外は補助的な武器に留まるし、そもそもの問題として、人間相手と魔物相手では戦い方が異なるわけで。


「ボス相手の訓練……悪くないと思うけど、なかなか復活しないよね、このダンジョン」


「ですね。平均的にどうなのか判りませんが、10日以上……下手をすると1ヶ月ほど必要みたいですし、残念ながらあまり頻繁には戦えませんね」


 スキルアップのために1人ずつ戦ってみるにしても、それなりの時間が必要になる。


 もちろん相性があるので、例えばマードタウロス相手に戦うのは、トーヤ以外にはナツキと俺ぐらいにはなるだろうが、それでも1ヶ月から2ヶ月ぐらいは必要になる。


「その間、先に進むにしても……2つ先のボスに辿り着く頃には、夏は終わりそうだな」


「確かに最近、少し涼しくなってきましたよね」


「となると、来年の夏?」


「このままダンジョン探索を続ける方法もあるとは思うが、未だにダンジョン入口周辺の方が、魔物が強いんだよなぁ」


 つまり、そちらで戦う方がレベルも上がりやすいだろうし、稼ぎも良いという事。


 11層以降では宝箱も見つかっていないし、これまでの宝箱にしても、ボスの初回討伐報酬(俺予測)以外は大した物が入っていなかった。


 ボスを斃す毎にあの宝箱があるのならやりがいもあるのだが、ボスが復活しても宝箱は復活していなかったことを考えれば、あれが初回討伐報酬的な何かだというのは、そう間違ってもいないだろう。


「ま、そのへんのことは、涼しくなった時のダンジョンの状況で考えれば良いじゃねぇか。それよりお宝。取りに行こうぜ?」


「まぁ、そうだな」


 トーヤの言うとおり、確かに今考えても仕方が無い。


 俺たちはひとまずその問題を棚上げにして、マードタウロスの死体と無駄にデカい斧を回収し、新たに出現していた扉を開いて奥へと進んだ。

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