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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第七章 ダンジョン
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209 草原 in ダンジョン

前回のあらすじ ----------------------------------

アンデッドが復活する前に、再びダンジョンへ。

8層へは転移できたので、少し休んで10層まで移動。

転移ポイントを設置し、11層へと進む。

「見た目は普通の草原、なんだよなぁ。果てがある様には見えないんだが」

「正面は普通でも、背後はちょっと異常だけどね」


 背後にあるのは、超巨大な岩壁。


 左右と上方、いずれも霞んで見えなくなるまで伸びた岩壁に、俺たちの降りてきた階段がポッカリと穴を開けている。


 実際にそこまで岩壁が伸びているのか、ただそう見えているだけなのかは、俺たちには判断が付かない。


「端には見えない壁みたいな物があるんだろ? さすがファンタジーって感じだよな」


「バイオスフィアと高性能モニタと考えれば、高度な科学技術でも実現できそうだけどね。宇宙空間で生活するための実験とかあったでしょ?」


「失敗したけどな、あれ」


 自然環境を科学的に再現することはそう簡単ではないようで、大金を注ぎ込んだわりにあっさりと失敗してしまったらしい。


 単純に『閉鎖空間で持続可能に生活する』だけなら別なのかもしれないが、『自然を作り出す』には、更なる科学技術の発展が必要になりそうである。


「……雨とか降るのかしら、この階層って」

「このへんの植物が普通の植物なら、降らないとダメだろう」


 足下の草をちぎってみた感じ、ごく普通の、名前こそ知らないがラファン周辺に生えている草との違いは分からない。


 不思議なことにダンジョンの魔物は、食料が無くても生存できるようなので、このへんの雑草も『水が無くても成長できる』可能性もゼロでは無いが……。


「風も吹いていますね。太陽っぽい物も見えますし……対流が起これば風も雲も発生しますから……いえ、でもよほど広くないと……」


「いいじゃん、ファンタジーバンザイで」


 悩み始めたナツキの思考をぶった切ったのはユキ。


 だが実際、その通りである。ダンジョンの仕組みを科学的に説明できないのだから、この階層だけを取り上げてどうこう言っても仕方がない。


「……そうですね、考えるだけ無駄ですね」


「そうそう。見たままをそのまま受け入れれば良いんだよ、別世界なんだから」


「ある意味、真理ね。私たち、魔法とか使ってるし?」


「ふふっ、それを言われてしまっては何も言えません。魔力ってなに? と言われても困りますしね」


 俺たちの科学知識はこの世界でも有用だが、『魔力』というファクターがある以上、決して万能ではない。


 いや、正確には『魔法』と言うべきだろうか?


 俺たちの体内にあり魔法のエネルギーとなる物が魔力、発現した現象が魔法である。


 空気中に漂い、魔物発生の要因となると信じられている物が魔素であり、魔物から得られる物が魔石。


 その魔石からは魔力が得られ、魔力をエネルギーとして動作する物が魔道具だ。


 このあたりの言葉は結構いい加減で、俺たちも含め、一般人はあまり正確に使ったりしない。


 日本で、放射線も、放射能も、放射性物質もみんなひっくるめて『放射能』とか言っていたりするのと似たような物である。


 ただ『放射能』との違いは、魔力関連はまだまだ不確定な部分が多いので、定説が固まっていないことにある。


 例えば魔道具が発現する効果。

 これは魔法なのか、そうでないのか。


 『魔法だ』派閥と、『魔法じゃない』派閥で激しい議論が交わされ、今のところ『魔法だ』派閥がやや優勢なようだが、圧倒的多数は『効果があればそんなのどうでも良い』派閥である。


 ちなみに俺たちは、どちらかと言えば『魔法じゃない』派閥。


 魔法を『魔力を消費して効果を発現する物』と定義するなら、ハルカたち曰く、「計算が合わない」らしい。


 細かいことは省き簡単に言うと、入力より出力が大きい事があるんだとか。


 ハルカたちはそれを、魔素の介在があるのではないかと仮定したようだが、『魔力』ではなく『魔素』を使う場合、それは魔法なのか?


 そもそも『魔素』とは何なのか?


 何となく『魔素』を感じることはできるが、それは魔力とは違う物なのか?


 総じて言えば、『よく解らない』。


「ま、説明できなくても『魔力』が存在して、現象が起きるのは否定できない事実だよな」


「そうね。実際、科学文明であってもそれは変わらないし。グラビトンが見つからなくても重力は存在するし、ヒッグス粒子が見つかっても質量は変化しない」


 もしかすると数千年先の未来では、マジック粒子とかそんな物が証明されるのかもしれないが、それの有無にかかわらず魔法は使える。


 今は素直に、この不思議環境を受け入れるしか無いだろう。


「それで、どうするんだ? 道が無くなると、何処に向かうべきか逆に難しくなるけど」


 背後には壁があるが180度、どの方向に向かうも自由。

 但し、次の階層への階段が何処にあるのかは謎。


「敵の反応は無いの?」


「それなりにあるが、脅威度は低い感じだな。これだけ見通しが良ければ見えてもおかしくないんだが……」


 むむっ、【鷹の目】発動!


 ……って、発動なんかしなくても常時発動中なんだが。


 よくよく目を凝らしてみれば、【索敵】でヒットした場所に、動体反応が。


「――っ! あれか! うわ、凄い擬態……」

「え、どうしたの?」


 思わず漏らした声に、ユキたちが首をかしげる。


「敵は小さめの狼みたいな動物。体毛が緑で、ゆっくりと近づいてきている。見えるか?」


 一番近くにいる個体、【鷹の目】がなくても見える距離にいるヤツを指さすが、俺以外は首をかしげるのみ。


 見えることと、見つけられることは別問題、と言うヤツである。


 軍隊のギリースーツとか、こんな感じなのだろう。


 体毛と周りの草の色がよく似ているので、相手の場所が判った上でよくよく観察しないと気付けない。


 黒っぽい鼻先は草の中に隠し、風で草が揺れるのに合わせて少しずつ近づいてくる。


「……あっ、判った。あれね!」


 さすがはアーチャーと言うべきか、最初に気付いたのはハルカだった。


 すぐさま弓を構えたハルカは、素早くそれに向かって矢を放つ。


 彼我の距離は40メートルほどはあるだろうか。


 放たれた矢はそれに向かって正確に飛んで行くが、さすがに距離がありすぎる。


 こちらに気付いていただろう敵は、矢が突き刺さる前に大きく跳んで矢を避けた。


「あっ! あれか!」

「うわー、あれは気付けないわ……」

「索敵が無いと、怖いですね、あの敵は」


 その動きによってハルカ以外も敵の姿を認識し、少し呆れたような声を上げた。


 トーヤも【索敵】で大まかな場所は判っていたはずだが、擬態を見抜くには至らなかったらしい。


「けど、思ったよりも細いな……?」


 草に紛れていたときにはよく判らなかったが、空中に飛んだ姿を見ると、想像していたよりも随分と細身。


 2層で遭遇したハウリング・ウルフと比べると、一回りか二回りほど小さい。


「取りあえず斃しに――っ! 一気に近づいてきたぞ!」


 ハルカの攻撃が契機になったのか、先ほど矢を避けた奴を筆頭に、周囲に散らばっていた敵の反応が、俺たちに向かって殺到してきた。


「わ、判りにくっ! 何匹いるの!?」

「12……いや、13! 半円状に近づいてきている!」


 背後は壁があるので、それ以外の場所から俺たちを囲む様に近づいてくる敵。


 索敵反応ではバッチリそれが解るのだが、実際に見てもかなり判りづらい。


「これは、かなり厄介ね!」


 とか言いつつ、しっかりと矢はヒットさせているハルカ。


 見つけにくいだけで強さ自体はさほどでもないようで、敵はそれだけで戦闘不能に陥っている。


「どこにいるか判りづらいよ!」


「はい、不意打ちされると怪我するかもしれませんね」


 俺は【索敵】と【鷹の目】の合わせ技で敵の位置を把握し、『火矢ファイア・アロー』で1匹ずつ屠っているのだが、ユキは草の動きで大まかな位置を捉え、『火球ファイアーボール』でやや大雑把に攻撃、ナツキは跳びかかってきた物を的確に切り捨てている。


 トーヤは【索敵】のおかげで、近くに来た敵の姿を捉えるのには苦労していないようだが、遠距離攻撃の手段を持たないため、ナツキ同様に俺たちを守るように近場で動く。


「――っ! コイツら連鎖するのか? 追加が来てるぞ」


 トーヤの声に索敵範囲を広げてみれば、最初の13匹――すでに残りは数匹だが――に加え、その更に遠くから20匹以上の反応が近づいてきている。


 強くはないので、危機感を覚えるほどではないのだが。


「なぁ、突っ込んできて良い?」

「好きにしろ」

「よっしゃ!」


 剣を構えて走り出すトーヤの背中を見送り、俺は小太刀を構えた。

 ハルカもすでに弓は置き、ユキの方も魔法から小太刀へと切り替えている。


「不意打ち前に気付けば面倒くさい、っていう程度の敵ね、これは」

「あたしでも、さすがに数メートルまで近寄ってきたら判るしねー」


 判ってしまえば魔法を使うほどでもない。


 それぞれがサクサクと切り捨てていき、10分も経たないうちに、俺たちの周りには40匹ほどの死体の山ができたのだった。


    ◇    ◇    ◇


「よし、これで最後。ある意味、死体集めの方が面倒だったな?」


 トーヤが一人突っ込んだおかげで、3分の1ほどの死体は遠くに分散していた。


 それを手分けして、マジックバッグの中へと放り込む。


 但し、ユキの『火球ファイアーボール』が直撃した数匹に関しては、肉片になっていたので、魔石だけ回収。


 逆に綺麗だったのは、ハルカが弓で斃した個体と、トーヤの剣で撲殺された個体。


 ほぼ傷が無いので、毛皮は高く売れそうである。


「なかなかに綺麗な色よね。ちょっと不思議……」

「地球だと、こんな色の毛皮って見たこと無いよなぁ?」


 ふわふわ感には乏しいが、色自体は綺麗である。


 こんな色の毛皮は町でも見かけたこと無いし、もしかすると、高く売れるだろうか?


「突然変異でもなければ、この色はあり得ないと思いますよ。鳥類とは違って」


「……そういえば、鳥類はカラーバリエーションが豊富だよなぁ。極彩色の鳥だっているし。何でだ?」


 首を捻って言ったトーヤの言葉に、俺も改めてそのことに思い至る。


「あぁ、ちょっと不思議だよな。獣の多くは茶色系、後は白と黒ぐらいか?」


 鳥のカラフルさに比べて、あまりにも地味。


 保護色なのかもしれないが、カラフルな鳥が生き延びられたのなら、少しぐらいカラフルな哺乳類が生き延びていても良さそうなのに。


「そのあたりは進化の問題らしいですから……。目立つ色だと草食動物は敵に見つかりやすいですし、肉食動物も狩りがしにくいですよね」


「鳥は?」


「鳥は果物や木の実、虫などを食べる物が多いからじゃないですか? 逆に猛禽類でカラフルな羽を持っている種は、いないんじゃないでしょうか?」


「なるほど……なんか納得できる説明。さすがナツキ」


 ナツキの解説を聞いて、ユキがふむふむと頷く。


「正しいかどうかは判りませんけどね。魔物の場合は、そのあたりとは別に存在している生物ですから、こんな体毛もありなんでしょう」


 食わなくても生きられる魔物故か。


 ダンジョンならば捕食される心配も無いし、ダンジョン以外でも魔物が捕食のために襲われることはあまりないらしい。


 ただし、縄張り争いで殺し合いになる事はあるようなので、魔物同士が仲良くしているわけでは決してない。


「ところでトーヤ、この魔物の情報は?」


「『グラス・コヨーテ』。草原に生息していて、さほど強くないが集団で襲ってくる。毛皮に価値あり、肉はあまり売れず、だと。魔石は1,100レア。安いな?」


 俺の問いに、トーヤが視線を空中にさまよわせ、獣――グラス・コヨーテの説明を読み上げる。


 すでにトーヤは、冒険者ギルドから購入した魔物事典は読破しているので、そこに載っている既知の魔物であればすぐに答えてくれて、結構便利。


 歩く魔物事典である。


 俺も一応読んではいるが、そんなトーヤの存在もあり、すぐに思い出せるほどには読み込んでない。


「時間当たりの稼ぎなら悪くない気もするが、一気に数が減るから、トータルとしては微妙か」


「だよな。オレの索敵範囲だと、残存数、ゼロだぜ?」


 トーヤよりも広い範囲の感知が可能な俺なら、多少は魔物の反応が捉えられるが、一気に40匹ほども狩ったので、かなりクリーンになっている。


「まぁ、この階層の収益性はひとまず置いておいて。どの方向に向かおうかしら?」


「どの方向、と言っても、草原か、森か、ですよね?」


 現在の視界、左を0度として、右を180度とするならば、120度ぐらいの方向、1キロ以上先に森が見えるだけで、それ以外はすべて草原。起伏も無いので、地平線が観測できる。


 そう、地平線。


 ダンジョンの中で地平線……不思議である。


 これまでのダンジョンの階層、その広さを考えれば、地平線が見える様な広大さがあっても異常とは言えないんだろうが、それだけの大空間が柱も無く存在しているとか……あぁ、うん、そのへんは考えないんだった。


「行くなら森じゃないかな? 草原って退屈そうだよね?」

「それには同意。グラス・コヨーテ、面倒くせぇ」

「雑魚だけど、数がなぁ」


 トーヤ同様、面倒くさい。


 殆ど作業だから、得られる戦闘経験もイマイチで、きっと経験値も少なそう。


「反対する理由も無いわね。それじゃ森に向かいましょ。ナオ、索敵はよろしく。強くなくても、不意打ちされると危ないからね」


「了解。グラス・コヨーテの擬態は馬鹿にできないからな」


 索敵が無ければ不意打ちされていた可能性は、決して低くない。


 俺は改めて索敵に注意を払い、森へと向かって歩き始めた。

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