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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第七章 ダンジョン
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206 再びの鑑定依頼

前回のあらすじ ----------------------------------

家に戻ってダンジョンの話を聞き、ミーティアが訓練に参加したがる。

メアリがラファンはダンジョン町にならないのかと訊くが、不可能と答える。

ミーティアも加えて早朝訓練。

 早朝訓練を終えた俺たちは、ダンジョンで手に入れた物の処分のため、冒険者ギルドを訪れていた。


 朝食を食べた後、大量にある魔物の死体を解体してから来たので、時間帯的に、すでにギルドの中は閑散としていた。


 今回の魔物の解体では、メアリとミーティアにも練習がてら手伝わせている。


 冒険者になるなら、これができなければ話にならない。


 子供にグロはキツいか、とも思ったのだが、2人とも顔を血で汚しながら「お肉♪ お肉♪」と笑顔で解体作業に邁進していたので、それは杞憂でしか無かったようだ。


 さすがに手際はまだまだだが、自分たちで食べる用であれば問題ない程度には解体できるので、獲物が無駄になることも無かった。


「ディオラさん、今回は大量よ」

「お帰りなさい、皆さん。……ダンジョンですか?」

「そう。多少は収益もマシになってきた感じかしら」


 副支部長なのにいつもカウンターに座っているディオラさんに声を掛け、まずはカウンターの上に、宝珠、錫杖、ランプを並べる。


「これらは鑑定依頼。金貨3枚で良いのよね?」

「はい。お預かりします。やはり時間は掛かってしまうと思いますが……」

「それは仕方ないわよね。お願い」

「解りました」


 代金を受け取ったディオラさんは、ひとまず宝珠などを奥へと運んで行く。


「次は、魔石と毛皮なんかだけど……裏に行った方が良い?」

「量が多いなら、その方がありがたいですね」

「了解」


 ディオラさんの要望に従い、ギルド裏の倉庫へ移動して、最初に魔石を納品。


 魔石はハルカたちが魔道具を使う際にも使用するのだが、ストックは十分にあるし、あえてキープしておきたいほどの品質の魔石も無いので、まとめて売却。


 高価な魔石は無かったが、数だけは多かったので金貨300枚あまりにはなった。


 次に毛皮やビッグ・オストリッチの羽などの素材、それに肉。


 まだ解体していない魔物もマジックバッグに残っているのだが、それでも金貨100枚は優に超える。


「確かにこれぐらいの物が得られるなら、悪くないダンジョンですね。……まぁ、行き帰りの問題は解消されないんですが」


「私たちも、涼しいってメリットが無ければ、わざわざ入らないと思うしねぇ。あ、でも……」


「……? どうかしましたか?」


「いえ、何でも無いわ」


 首をかしげて聞き返したディオラさんにハルカは首を振るが、ハルカが口に出しかけたのは、恐らく11層で見つけた草原のことだろう。


 あそこに関しては全員が興味を引かれ、探索をすることは決定事項となっている。


 仮に涼しい季節になっても、これは変わらないだろう。


 今後ダンジョンがどうなっていくのかは判らないが、興味深い物が多ければ、ボチボチと探索を続けることになる可能性は高い。


 そもそも、来年の夏も、再来年の夏もあるわけだし、転移ポイントが上手く機能するようであれば、長期的に探索を続けることになりそうである。


「そういえば、ディオラさん、俺たち最近、町にいないことも多いんですが、ラファンの様子はどうですか?」


 俺たちがケルグに行く前には、食料の値上がりが孤児院の台所を直撃していたようだが、それが解消されているのは一応確認済み。


 問題はその他に何か影響がないのか、である。


「そうですね、ケルグの騒乱の時には食料品の値上がりが少し問題になっていましたが、すでに落ち着いていますね。むしろ、ナオさんたちが教えてくれた肥料のおかげで、新鮮な野菜類が多く市場に並ぶようになりましたし、冒険者も新たな収入源が増えて、若干好景気でしょうか。ありがとうございます」


「いえ、大したことでは。誰かが思いつきそうなことですし……なんで知られてなかったんでしょうね?」


 魔物の肉を普通に食べるのだから、気付きそうなものだが……。


「あの後解ったんですが、どうも新鮮な――言い方は悪いですが、殺して時間の経っていない魔物を使わないとダメなようです。なので、魔物を普通に持ち帰って、解体した余りを堆肥にしてもあれはできなかったんでしょうね」


 例えば、オークが氾濫した時の討伐。


 今回は俺たちが事前に潰したが、通常はギルド主催で討伐が行われる。


 その際は大量のオークが荷馬車で町に運ばれるわけで、解体した余りを堆肥にすることもあっただろう。


 にもかかわらず、あれが知られていなかったのには、そんな理由があったようだ。


 今この町がやっているように、コンポストを狩り場の近くまで持っていくか、俺たちの様に斃す端からマジックバッグに放り込み、まとめてコンポストの脇で解体するかしなければ、あの肥料は作れないのだ。


 しかも普通のコンポストにある粉砕機能は、小さい骨を砕ける程度で、魔物の死体をまるごと磨り潰すほどのパワーは無いのだから、死体をそのまま放り込む人もいなかっただろう。


 俺たちだって家庭菜園をしようと思わなければコンポストを作らなかっただろうし、スカルプ・エイプを埋める作業にうんざりしていなければ、そこまで強力な粉砕機能を付けることも無かったはずだ。


 そう考えれば、あの肥料がこれまで知られていなかったのも、頷ける……か?


 世界規模で考えれば知っている人もいそうだが、つぶやくだけでお手軽に情報が拡散する世界じゃないし、論文を学会誌に発表したり、研究結果の共有なんて事も多分一般的では無い。


 あえて広げようとしなければ、情報なんてそんな物なのかもしれない。


「となると、大量生産は難しそうですね」

「はい。作るだけならできるでしょうが、採算を考えると……」


 例えば狩り場の近くにコンポストを設置し、できた肥料を消費地に運ぶ。


 不可能ではないだろうが、それにかかるコストを考えると、行える場所は限られるだろう。


 増える収穫量とその販売価格、それに対して、手間や肥料価格がペイしないと意味が無い。


「ちょっと便利な肥料止まりって感じなんだね。その方が面倒が無くて良いよね」


 ユキが納得したように、そして少しホッとしたように頷く。


 実際、頼まれて情報とコンポストは提供したが、あれがメチャメチャ有用とか、とんでもない農業改革とかになってしまうと、それに付随する面倒事も多そうである。


 コンポストの増産依頼程度ならまだしも、農家や商人なんかを敵にしてしまう可能性も考えられ、俺たちからすればそれは避けたい事態である。


 それに見合うリターンがあるならともかく、現状ではこれ以上の利益なんて期待できないのだから。


「ありがとうございました。それでは、また来ます――」

「ちょっと良いか?」


 俺たちがギルドを辞そうとしていたその時、いつも倉庫で働いているおじさん――50絡みで名前は知らない――が声を掛けてきた。


「あ、はい。どうかしましたか、アンドリューさん?」


「そっちの、あー、明鏡止水のパーティーだったよな? さっき依頼されたアイテムの鑑定、出たぞ」


「「「えっ!?」」」


 時間が掛かるって話だったんじゃ?


「と言っても、ランプだけだがな。他は本部送りだ」

「あー、やっぱりあのランプ、あれでしたか」


 ディオラさんがウンウンと頷いてそんな事を言うが、俺たちにはさっぱり見当が付かない。


「あれ、ですか?」


「はい。あのランプの魔道具はちょっと有名な物――ですよね、アンドリューさん?」


「ああ。あれは『虫除けランプ』と呼ばれる物だ。魔力を注ぐと光がともり、その光が届く範囲から虫を遠ざける効果がある。冒険者にも人気の魔道具だな」


「虫には悩まされますからねぇ。ある程度以上になれば刺されることは無いんですが、鬱陶しいし、いるだけでも不快ですから」


 俺たちの場合、『聖域サンクチュアリ』を使って野営中の虫除けを行っているが、当然ながらこの魔法を使える人物はかなり希少である。


 それを考えれば、虫除けランプが冒険者に人気、と言うのも頷ける。


「尤も、持っている冒険者は少ないんだがな。大抵は金持ちが買い取る」


 不快なだけでそうそう刺されることが無い冒険者に対し、いわゆる『レベル』を上げていない金持ちや子供にとって、虫刺されは現実的な脅威である。


 それ故、赤ん坊がいる金持ちや、子供の出産祝いなどに非常に喜ばれる魔道具らしい。


 錬金術で作ることもできるらしいが、効果はダンジョンから見つかる物の方が高く、当然に値段も高いようだ。


「つーわけで、これは返しておく。他の物は時間が掛かる。それじゃな」


 アンドリューさんは言うだけ言うと、ランプを俺たちの前にトンと置くと、またギルドの奥へと戻っていった。


「えーっと、そういう感じみたいですが、いかがしますか? 売却されますか?」


 『聖域サンクチュアリ』があるので俺たちに必須では無いが、便利と言えば便利。


 虫除けと考えると、この魔法はちょっと大げさだし、代わりにこれを使っても良いかも知れない。


 と、思ったのだが、ナツキたちはちょっと違うことを考えていたようだ。


「これは、メアリたちに渡しておきましょうか」

「そうね、庭仕事をするときには便利そうね」

「あたしたちは刺されないからねぇ。ちょっと鬱陶しいだけで」


 そうか、それがあったか。


 こちらに来て庭の草むしりとかしていても、蚊に刺されることが無かったため失念していたが、日本にいたときには結構悩まされていたよなぁ。


 そう考えれば、これは庭仕事を任せているメアリたちに最適な魔道具。

 ナツキたちの提案に反対する理由は無い。


「ふふっ、お優しいですね。後の2つは鑑定が完了したら、改めてご連絡させて頂きます」


 そう言って微笑むディオラさんに見送られ、俺たちはギルドを後にした。


    ◇    ◇    ◇


「そんなわけで、メアリ、これはあなたに預けるわ」

「良いんですか? かなり高い物ですよね?」

「高いは高いけど……ま、気にするほどじゃないわ」


 ダンジョン産の虫除けランプの相場は金貨100枚から、というお値段らしい。


 今の俺たちでも、虫除けのためだけに買うにはちょっと高い代物だが、手に入ったんだから使わない理由も無い。


 そして使うなら、一番有効な使い方をするべきだろう。


「えーっと、壊してしまわないか心配なんですが……」


「その時はその時。雑な扱いをして壊した、とかじゃなければ別に怒りませんから」


 ランプを差し出されてもちょっと身を引いて、受け取りづらそうにしているメアリに、ナツキが微笑む。


 実際、実用品なんだから、壊れることもあるだろう。

 飾っておいても仕方が無い物だし。


「庭仕事、頑張ってくれてるみたいだし、これくらいはね。あと、暑さの方はどうにもならないから、水分補給は十分にね」


 このあたりの暑さは日本ほどには蒸し暑くはないし、気温も体感的には30度前後という感じなのだが、それでも熱中症にならないとは限らない。


 暑さ自体は薄着になれば耐えられるというレベルなのだが、そうなるとやはり虫刺されは気になるわけで。


 虫除けランプを引っ込めない俺たちに、メアリは観念したように、恐る恐る受け取る。


「解りました。使わせてもらいます。ありがとうございます」


「うん。しっかり活用してね。壊すのが怖いから使わない、とかしないように」


 そう念を押すユキに、メアリは苦笑して頷いた。

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