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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第七章 ダンジョン
229/500

205 にゅーちゃれんじゃー?

前回のあらすじ ----------------------------------

9層と10層はアンデッドエリア。雑魚アンデッドを光魔法で蹴散らす。

速度優先で進み、10層のボスを斃す。

宝箱でランプを得て先に進むと、11層に広がっていたのは草原だった。

「えーーー! ダンジョンの中に、そんなのがあるのです!?」


「そうなの。見渡す限りに草原と森林が広がってて、ダンジョンの中とは思えない光景だった!」


 身振りを交えて話すユキを、ミーティアがキラキラとした瞳で見上げる。


 どうもミーティアは、冒険の話を聞くことが好きなようで、俺たちがのんびりとしていると、「何か話して」とせがまれる。


 中でも良くせがまれるのがユキで、次点でナツキ。


 理由は見ての通り、ジェスチャーを交えて臨場感たっぷりに話すからだろう。


 俺たち、大した冒険もしていないだけに、俺なんかが話すと、盛り上がりに欠ける事、この上ないからなぁ。


 その点ユキは、良い感じに話を膨らませて話すので、俺が聞いていてもちょっと面白い。


「ナオさん、本当なんですか?」

「信じ難い気持ちは解るが、本当だな」


 やや半信半疑、微妙な表情を浮かべているメアリに、俺は頷く。


「何でダンジョンの中に森なんかが……」


「実は、そこまで珍しいことではないみたいだぞ? ありふれている、ってわけじゃないが」


 本によると、ダンジョンの1割程度には、地上に似た環境が再現された階層があるらしい。


 それは森や草原だけではなく、湖や川、雪山や火山、そしてごく希ながら海まで再現されているというのだから、なかなかにとんでもない。


 但し、『どこまでも広がる空と海』などではなく、その一部を障壁で切り取ったようなイメージで、ある一定以上からは進めなくなるらしい。


 つまりは、限定的な再現という事にはなるのだろうが、海には魔物以外の魚も生息してるようなので、かなり不思議かつ、興味がそそられる物がある。


 もし今のダンジョンで見つかれば、魚釣りとかしてみたい。

 海の魚、食べたいし。お刺身とか。


「メアリも冒険者になる気があるなら、頑張って勉強して、本を読まないとね? せっかく読める環境があるんだから」


「そうですね。本は1冊金貨10枚以上する物が多いですから、新人の冒険者だと読める機会なんてあまりありませんよ?」


「はい、頑張ります……」


 頑張りますとは言いながら、勉強よりも身体を動かす方が得意なメアリの表情は、やや暗い。


 彼女の読解力は、簡単な文章が何とか読めるという程度なので、俺たちが読んでいるような少し難しい本を読むのは、まだ難しいのだ。


 まぁ、読めるだけでもマシなんだけどな。この国では。

 ギルドの依頼票も、まともに読めないような冒険者も普通にいるし。


 そんな冒険者は、数字や単語の拾い読みで何とか内容を把握して依頼を請けるようだが、不完全にしか理解していないため、ディオラさん曰く、時々トラブルも発生するらしい。


 なので、冒険者としては文章が読めるだけでも、ちょっとしたアドバンテージだったりする。


「でも、森のあるダンジョンは、珍しいことは珍しいんですよね? だとすると、他のダンジョン町みたいに、このラファンも発展する……?」


「それは……少し難しいと思いますよ?」


「え、何でですか?」


「まず、ダンジョンに辿り着くのが非常に難しいのです。私たちぐらい……ランク5の冒険者なら問題ないかもしれませんが、この町にいるような低ランクだと、ダンジョンに着く前に死ぬ危険性がとても高いのです」


 そして、ランク5の冒険者であれば、あのダンジョンはイマイチ効率がよろしくない。


 俺たちみたいに、『避暑を兼ねてダンジョンで小遣い稼ぎ』ぐらいの気持ちであればともかく、がっつり稼ぐのであれば、それこそ涼しい地域に移動する方がきっと良いだろうし、この国にはダンジョン都市も存在するので、そちらの方が稼ぎはもちろん、鑑定などのサポートに関しても充実している。


「そうなんですか~。それではダンジョンの町にはなれないです……。あ、でも、そのダンジョンまで道を作っちゃえば?」


「それも難しいわね。メアリはこの町の特産品、知ってる?」


「えっと、家具ですよね?」


「そう。その中でも高級品は森の奥で伐採できる銘木を使っているの。ダンジョンがある場所よりも近くの」


 銘木の伐採が可能な場所まで道が引けるのであれば、それはほぼ確実な利益が見込める。


 少なくとも、上手く行くかどうかも解らない『ラファンの町、ダンジョン町化計画』よりも手堅い政策である。


 にもかかわらず、それは行われていない。


 つまり、ネーナス子爵にとって、あの森に道を作ることはそれだけ難しいのだ。


 ダンジョンまで道を作ることは、更に言うまでも無いだろう。


 本来であればダンジョン以前の問題として、ラファンの産業を考えれば、多少無理をしてでも銘木を確保できるように手を打っておくべきだったと思うのだが、それさえもできていない現状を考えると、ネーナス子爵家の財政は、結構厳しいんじゃないだろうか。


 ケルグの騒乱も考慮に入れれば、『ダンジョンで町おこし』なんて、とても行えるような状況には無いだろう。


「それは……無理そうですね。今、この町の土地を買っておけば値上がりするかと思ったんですが……」


 メアリが残念そうに呟いた言葉を聞き、俺たちは驚いて顔を見合わせた。


「……メアリ、そのこと、自分で考えたの?」


「はい。えっと、安いときに土地を買って、高くなって売ると儲かるんですよね?」


「それはそうだけど……」


 日本でならともかく、この世界の子供がする発想としてはちょっとズレている。


 詳しく聞いてみると、メアリたちを追い出そうとしていた大家の噂として、周囲の大人たちが話していた事を聞いていたらしい。


 くだんの大家は、メアリたちの家があったあたりの土地を集約して、高く売ろうとしていたようだが、それに関連してそんな話が出たようである。


 学習能力はなかなかに高いんだよな、メアリって。


 俺も周囲にいる大人として身を慎まなければ、メアリがあまりよろしくない学習をしてしまうかも……?


「でも、メアリ? そもそもあなた、土地を買うようなお金、持ってないでしょ?」


「そこなんですよねー。……そうだ! ハルカさんたちがごっそりと土地を買って、ダンジョンまでの道も作ってしまうってのはどうでしょう?」


 残念そうな表情を浮かべていたメアリがポンと手を打って、良いことを思いついたとばかりに笑顔を浮かべるが、それは土台無理な話である。


「……メアリ、俺たちのこと、どんだけ金持ちだと思ってるんだ? 無理に決まってるだろ」


「道を作ること自体は、長い時間を掛ければ不可能じゃないかもしれないけど、うまみは少ないわよねぇ」


 そもそもラファンでは、簡単に買えるほどに土地は余っていないのだ。

 値上がりを期待して買い込む事自体、難しい。


 町を囲む壁の外であれば可能かも知れないが、もし壁を広げるとなれば、良くて適正価格での買い取り、悪ければ没収される可能性すらある。


 土地転がしなんて無理な話だろう。


「一種の都市開発ですからね。土地の所有権が微妙なこの国では難しいでしょうね」


「頑張って開発しても、成果だけ貴族に取り上げられるとかされたら、堪らないものね」


 日本であれば企業が周辺の土地を買収して、大規模開発を行うことも普通にあるが、それは土地の所有権がしっかりとしているからこそできる事。


 この国でも土地は普通に購入できるのだが、貴族の都合で強引に取り上げられたりすることも無いとは言えないんだよなぁ。


 尤も、所有権が曖昧だからこそ、俺たち冒険者が森なんかで自由に狩りができる部分もあるのだが……。


「むー、ダンジョン町は無理ですか。残念です。良い方法だと思ったんですが」


 不満そうな表情のメアリだが、できない物はできない……いや、リターンの見込めないことはできない。


「私としては、メアリにはもっと堅実に稼いで欲しいんだけど……なんでダンジョン町に拘るの?」


「だって、ダンジョン町になったら、冒険者になりやすいじゃないですか。お話を聞くと、ダンジョン自体は初心者向けみたいですし」


「そんな事か。それぐらい、俺たちが連れて行ってやるぞ?」


「良いんですか?」


「おう。容易いことだ。少なくとも道を作ることに比べれば、な?」


 俺が笑ってそう言うと、メアリは頬を染めて恥ずかしそうに下を向いた。


 これまでの経験から、できるだけ人に頼らないという習慣が身についているのかもしれないが、家族として受け入れた以上、そのくらいの面倒を見るのは当然なのだから、変に遠慮しないで欲しいところ。


「と、言っても、最低限の技術を身につけた後でだがな。少なくともゴブリンを1人で斃せる程度にはならないと」


「はい! 訓練頑張ります」


 顔を上げて、ふんっと鼻息も荒く、拳を握るメアリ。


「ダンジョン? お姉ちゃん、ダンジョンに行くの!? ミーも! ミーも行きたい!」


 そんな俺たちの会話に飛び込んできたのは、今までユキから話を聞いていたミーティアだった。


 ユキの方に視線を向けると、ちょっと困ったように苦笑している。

 これは、面白く話しすぎた、と言うところか?


 実際にダンジョンに入ると、特に俺たちのようなマジックバッグを持っていなかったり、魔法使いがいない場合は、結構キツく、泥臭い部分も多くあるわけなのだが、子供向けのお話としては省かれる部分だよなぁ。


「行くって……ミー、あなたは訓練もしてないじゃない」

「やるの! ミーも、シュシュって魔物を斃すの!」


 メアリの少し呆れたような言葉に、ミーティアは何やら武器を振るようなジェスチャーで主張した。


 再び、ユキに視線を向けると、両手を合わせてペコペコと頭を下げている。


 これは、彼女の話す『武勇伝』が影響を与えていることは間違いないだろう。


 うん、気持ちは解る。


 カンフー映画とか見たら、映画館から出た後で、できもしないのについ真似したくなるよな?


「えぇっと……」


 困ったように俺たちに視線を向けるメアリに、ハルカは苦笑して頷く。


「ミーティアがやりたいのなら、教えるのは構わないわよ?」


「やるの!」


「でも、やるのなら甘えは許さないわよ? 朝も早く起きないといけない。それでもやる?」


「うぅ~~~、……やるの! 頑張るの!」


 ミーティアはちょっと悩みつつも、両手をギュッと握ってキリッとした、でも可愛い表情で強く宣言する。


 とは言え、ミーティアはまだ7歳。


 武器の扱いを教えて良いものか、と思わなくもないのだが、町の外に出るだけでも危険がある世界。俺たちが思うよりも武器はずっと身近な存在である。


「解ったわ。お姉ちゃんと一緒に頑張りましょうか?」


「うん!」


 そう言ってハルカが差し出した手を、ミーティアは笑顔で握り返した。


    ◇    ◇    ◇


 翌日の早朝。


 ミーティアが前日に宣言したとおり、俺たちは彼女も交えて早朝訓練を開始していた。


 初日ではあるが、ミーティアにとって早起き自体は特に苦にならないようで、スパッと目覚めて俺たちと一緒に軽い体操、そしてランニングはすでに終わらせている。


 俺も小学生の頃は朝起きるのが辛くなかったが、高校生の頃は……あぁ、単に夜更かししていただけか。今は早起き、別に辛くないし。


 そして、メアリが訓練に参加したときにも思ったことではあるのだが、獣人の体力は子供であっても馬鹿にならないようで、それなりに長い距離を走っているにも拘らず、ミーティアは苦も無く俺たちに付いてきて、完走していた。


 日本なら中学生でもちょっと厳しいぐらいの距離なので、あまり小さい子供と考える必要も無いのかもしれない。


「さて、メアリは片手剣を練習してるわけだけど、ミーティアは何か希望はある?」


「うーんと、ユキお姉ちゃんと同じのが良いの!」


 あまり悩むことも無くミーティアが選んだのは、小太刀だった。


 これは単純に、昨日聞いたユキのお話が影響しているのだろう。


 ちなみに、メアリが片手剣を選んだ理由は特に訊いていないが、おそらくは同じ獣人であるトーヤが使っているから、と言う理由が大きいんじゃないだろうか?


 実際、メアリは見た目よりも力があるので、そう悪くない選択だとは思う。


「小太刀か……入手性が悪いのがちょっと問題だけど……ま、大丈夫でしょ」


 少し考えた後、ハルカは頷く。


 現状で作っているのはトミーだけという欠点はあるが、俺たちと一緒にいる限りは供給できるし、小太刀が扱えれば小剣でも戦えないわけでは無い。


 そもそもミーティアが冒険者になるかも判らないわけで……。


 ――ま、そのへんはトーヤに丸投げで良いだろう。きっと。


「それじゃ、メアリはいつも通り、トーヤに習ってね」

「はい!」

「おう。それじゃ、行くか」


 メアリとトーヤが木剣を手に、離れたところで基礎練習を始める。

 これは最近のパターン。


 トーヤの方は朝練の後半ぐらいになると、俺たちと模擬戦をやるのだが、メアリはまだまだ木剣を振り続けるのみ。


 かなり退屈だとは思うのだが、今のところ腐ることも無く、真面目に熟している。


「ミーティアはナツキに任せたいんだけど、良い?」

「はい。構いませんよ」

「よろしくお願いします、なの!」


 ナツキは小太刀を模した予備の木剣をミーティアに渡し、手を取って教え始める。


「えいっ! えいっ!」


 ……うむ。剣を振る速度が幼女のものではない。


 シュバ、シュバ、と良い音がしているので、結構あっさりと、ゴブリン程度、瞬殺するようになるかもしれない。


 幼女コワイが現実になりそうである。


「私たちは各自練習ね」

「はーい」


 俺とハルカ、ユキは自主練。

 魔法と武器の扱い、半々ぐらいで練習するのが普段のパターン。


 基礎訓練だけにちょっと退屈なのだが、これも経験値と思えば、耐えられる。


 そして今日も俺たちは、自分の生存率を上げるために訓練に励む。


    ◇    ◇    ◇


 「ミーは案外我慢強い」


 ミーティアが訓練に参加すると宣言した後、「いつまで続くか」と口にした俺たちに対し、そう答えたのは姉のメアリだったが、その言葉に嘘は無かった。


 きっと脚色が混ざっていただろうユキの武勇伝とは違う、とても退屈な訓練にもかかわらず、彼女が泣き言や不満を漏らすことは一度も無かった。


 そして何時しか、7人で早朝訓練に励むのが俺たちの日常の光景となるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ミーはというか、メアリも我慢強いですよね。
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