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[Web版] 異世界転移、地雷付き。  作者: いつきみずほ
第七章 ダンジョン
226/500

202 肉エリア

前回のあらすじ ----------------------------------

以前見つけたペンダントは魔法の威力を弱める効果を持っていた。

再びダンジョンの探索に向かい、5層目の奥でボス部屋を見つける。

そこにいたのはゴブリン・ジェネラルとキャプテン2匹。これをあっさりと撃破する。

「ふぅ……。皆さん、だいじょうぶですか?」


 警戒を解かず、慎重に3匹とも動かないことを確認したナツキが、小さく息を吐く。


「問題なし。魔法を切られたのは、ちょっと驚いたけど」


 うん。同感。


 切られたのが、多分俺の使った『火矢ファイア・アロー』だったのが、ちょっとショックである。


 はっきり言って、速度優先で使った『火矢ファイア・アロー』に対処できる敵なんて初めてである。


 これまで、かわされて狙った場所からずれることはあっても、当たらないなんて事は無かったのだ。それをまさか剣で切られるとは……。


「だよなっ!? 一瞬、二度見しそうになったぜ」

「トーヤ、見る余裕あったのかよ?」

「視界の端で、だがな。さすがジェネラルって所か?」


 トーヤの倒したゴブリン・キャプテンの方が少し前に出ていたので、見えないことはないのだろうが……まぁ、視野が広く、余裕があるのは良いことである。


「3本は対処できなかったみたいだけどね。この分だと、魔力を多く消費しても、2本使う方が良いのかしら?」


「あとは、もっと速度を上げるか、射線を考えるか、だよね。真っ正面から撃つんじゃなくて」


「2本同時なら、切り払われる可能性は減るだろうが、避けられる可能性もあるから……要訓練、だな」


 大した敵は出てこないと若干侮っていた部分があったのだが、まさかこんな所で、初めて魔法に対抗する敵が出てくるとは。


 とはいえ――。


「思ったよりは簡単に斃せたな? ジェネラルのわりに」


「まぁ、ジェネラルやキャプテンとは言っても、ゴブリンだしね」


「ゴブリンの魔石が250レア、オークで3,000レアだからなぁ。そんぐらいの差はあるって事じゃね?」


「目安として、ゴブリン何千匹分とか言っても、それだけの数を率いることがあるってだけでしょうしね。単独だとこんなもんなんじゃない?」


 なるほど。


 上位種が脅威なのは、それに出会うときは同時に大量の取り巻きに出会うから、か。


 確かにたとえゴブリンであっても、連携して襲われると結構キツいだろう。


「ゴブリン・キングだと万単位のゴブリン? それにジェネラルとかのバリエーションや、アーチャーとかの絡め手が混ざると、確かに怖いよね」


 正に『数は力』。


 俺たちの使える広範囲の殲滅魔法は、未だ実用レベルには至っていない。


 レベル8にある『爆炎エクスプロージョン』あたりがまともに使えるようになれば、一気に広範囲を爆破することができるのだろうが、『火球ファイアーボール』程度だと、多少強化しても10匹程度が精々だろう。


 と言うか、それ以上に強化できるのであれば、おそらく『爆炎エクスプロージョン』が使えるようになる。


 だが、予測される必要魔力量を考えると、対応できるのは頑張っても千単位までだろう。


 レベル9の『火炎雨レイン・オブ・ファイア』、レベル10の『火炎旋風ファイアー・ストーム』あたりになれば、それこそ軍勢を相手にできるのかも知れないが、できればそんな魔法が必要になる状況には遭遇したくないところ。


「率いるゴブリンが居ない時点で雑魚……とは言わないが、くみやすいか。『火矢ファイア・アロー』を切り払える時点で、剣で戦うとちょいキツいかもなぁ」


「お前も一応、できるだろ? 剣も属性鋼になってるし」


「できるとは思うが、経験がな。オレたち、剣を持った敵との戦いなんて殆どしてねぇだろ? お互い以外」


「まぁ、スケルトンぐらいだな」


 仲間内の訓練を除けば、スケルトンと……あとは、盗賊ぐらいか。雑魚だったけど。


「そう思うなら、次に来た時には戦ってみるか? 魔法無しで」

「それも良いかもな。訓練がてら。技術アップになるかもしれねぇし」


 うん、考えてみればありかもしれない。


 魔法で斃せる以上、ある程度の安全は確保できるし、普段とは違う良い訓練相手と言えるかもしれない。


 まあ、それもここのボスが復活してからの話である。


 俺たちは死体をマジックバッグに放り込み、錆びた剣2本とゴブリン・ジェネラルが持っていた剣を拾い集める。


「こっちの剣は……ゴミだな。くず鉄。こっちは……『ゴブリン・ジェネラルの剣』か。魔法を切れるんだから、価値はあるのか?」


「属性鋼――俺たちの剣でも一応切れるだろ? 白鉄製だと、無理って事は、白鉄製の剣より高いのか?」


「わわっ! それならちょっとしたボーナス? やったね」


「名前がイマイチですけどね」


「うん、ちょっと格好悪いわよね。トーヤ、使う?」


「何でだよっ! 使う必要性が一切無いわ!」


 見た目は普通の剣……いや、ちょっとだけ見窄みすぼらしい剣な上に、性能としても俺たちが作った剣には劣るだろう。


 普通にギルドへ売却である。


 トーヤはハルカから差し出された剣を受け取りつつ、そのままマジックバッグへ放り込み、錆びた剣も同じようにマジックバッグへ。


「はい、終~了~。先に進むぞ。扉、出現してるし」


 トーヤの言うとおり、ゴブリンたちを斃して少しすると、タイラント・ピッカウを斃した時と同様、部屋の奥に扉が出現していた。


 その扉を開けて進んだ先にあった部屋は、これまた前回と同じ、先へと続く階段と魔法陣、そして宝箱。


「初回討伐ボーナス、再び、か?」

「ボーナスかどうかは判らないけどな。ナツキ、頼む」

「わかりました」


 いつものようにナツキが罠を調べ、蓋を開ける。

 それを俺たちが覗き込み、ユキが手を突っ込んでそれを拾い上げた。


「毎度の如く、宝箱が無駄におっきいねぇ。水晶玉かな? 濁ってるけど」


 手のひらに載るサイズ――串団子の団子ぐらいの乳白色の珠。

 宝飾品か、何らかの効果があるアイテムか。


「トーヤ、判る?」


 ハルカの問いに、トーヤがじっとそれを見つめて困ったように首を振る。


「あ~~、『宝珠』だな。詳細は不明。すまん」


「再びディオラさん行きかぁ。今度も同じぐらい時間が掛かるんだよね、やっぱり」


「掛からない可能性もあるが、その場合は、大した価値がないって事になるだろうな」


 時間が掛かるのは面倒くさいが、簡単に判明して価値が低いってのも空しいので、時間が掛かる方が良いという事になるわけだが……逆に時間が掛かって、価値がないのが一番空しいか。


 良い鑑定士がラファンに常駐してくれるのが一番なのだが、まぁ、まず無理だろうな。現状のラファンでは。


 ちなみに、最近さっぱり出番の少なくなった【ヘルプ】だが、これで見ても『宝珠』と表示される。


 常識では無いので仕方ないのだろうが、ポイント消費が大きかっただけに、ちょっと悲しい。


 ――いや、キャラメイク時にはとても役に立ったし、こちらに来た当初には助けてもらったわけだから、ポイント分の価値は十分にあったんだとは思うが。


 アドヴァストリス様の神殿(もう)でをしたおかげか、魔物の名前の判別には使えるし。


 なお、現在ナツキが身に着けているペンダントを見ると、ディオラさんから聞いた情報が表示されるので、備忘録程度には役に立ち、魔物以外でも決して無価値になったわけではない。


「一先ずは保留ね。こっちの魔法陣はやっぱり出口直行、かしら?」


「傾向からすればそうなると思うが……。せっかくだからここに転移ポイントを置いておきたいな」


 帰りが良くても行きが面倒くさい。

 そのためには転移魔法と転移ポイントが必須。


 ユキの作ったマップを見ると、この場所は2層目の魔法陣があった場所の直下に近い場所にある。


 なので、直線距離を考えれば、そこからここへ転移することはそう難しくは無いと思われる。


 ――転移ポイントさえ設置できれば。


 ちなみに、ダンジョン内からダンジョンの外への転移、そしてその逆というのはかなり難しいらしい。


 本によると、ダンジョンというのは一種の別世界であり、実際に地面の下に存在しているわけではないというのだ。


 入口だけは『元の世界に繋がっている』状態なため、俺たちが入口に設置した転移ポイントをダンジョン内から確認することはできるのだが、例えば2層に設置した転移ポイント、その直上に当たる場所を、地上で探す、ということはできない。


 何故なら、『直上の地上』が存在しないのだから。


 別の世界というのはそういう事である。


「う~ん、やっぱり石の下ってのを、試してみる?」


「そうだな。ダメ元でやるしかないか。失敗したら転移ポイントが勿体ないが」


「安くは無いけど、必要経費でしょ、その程度。材料費だけで作れるんだし」


 まぁ、今後このタイプのダンジョンが続くなら、埋めることは不可能になる。


 紛失や破損覚悟で石畳の上に放置するか、ダンジョンに取り込まれたりする可能性に目を瞑り、石の下に埋め込むかしかないだろう。


 ちなみに、冒険者ギルドがダンジョン内に設置する転移装置は、常に警備を貼り付けていたり、頑丈な建物を作ったりして、その維持に努めているんだとか。


 それに必要なコストを思えば、そう簡単に設置できないのも納得である。


「それじゃ、石畳、剥がしてみるか。トーヤ、よろしく」

「おう、任せろ」


 力仕事はトーヤの仕事。


 ちょっと申し訳ないが、俺との隔絶した筋力の差を考えれば、必然ではある。


 トーヤがマジックバッグから取り出したツルハシを、一辺30センチほどの石の隙間に差し込み、ゴリゴリと動かすと、少し石が浮き上がったので、その隙間に俺がショベルを突っ込む。


 更にツルハシを移動させ、少しずつ石をずらし……。


「よいしょっと!」


 トーヤが一気に持ち上げ、ドンッと地面に転がった石畳の厚さは20センチほどもあった。


「おー、なかなかの厚み……。ま、1個取れれば後は簡単だな」


 トーヤが抜き取った場所に手を突っ込んで、更に3つほど石のブロックを取りのける。


 その下にあったのは、平らな岩盤。


 そこもツルハシでガリガリと削って転移ポイントを設置、削り取った土を戻して固める。


「あとは、これを戻せば完了か」


「そっとな、そっと。落としたら、転移ポイントが壊れるから――あ、ちょい待ち」


「ん?」


 再度はめ直そうとしていたトーヤを制止し、俺は石のブロックを一つ手に取り、『軽量化ライト・ウェイト』を使ってみる。


「……ふむ、この状態なら普通に掛かるのか」


 軽くなったブロックを元の位置へ。


「お? おぉ? ……なるほど。元に戻すと、結構すぐに効果が切れるのか」


「ダンジョンの構造物に戻った、って感じなのかもな。残りも戻すぞ? 良いか?」


「あぁ、ありがとう」


 トーヤが慎重に残り3つのブロックを戻した後、軽く叩いて表面を平らに。


「……ふぅ。これで見た目は元通り。どうだ?」


 違いと言えば、多少ブロックにツルハシの跡が残っている程度。

 転移ポイントも……問題なく感知できるな。


「問題ない。これがずっと保てば言うこと無しだが……」


「あたしの方も問題なし。1年とは言わないから、せめて半年程度は保って欲しいよね」


「保たないようでしたら、早晩、ダンジョン探索は切り上げることになるでしょうね。無駄な時間が多すぎます」


「そうね。今のところ、夏場以外は入る理由も無いけど……ま、先に進みましょうか」


「だな」


 転移ポイントの設置を終えればこの部屋には用はないし、帰還するにはまだ早い。


 俺たちはツルハシなどを片付けて階段を降り、6層へと進んだのだが……その階層はちょっと予想外の展開だった。


 何というか……端的に言うなら肉階層。



 まず6層。


 ここで出てきたのはフレイム・ボアーとフレイム・ピーコック。

 簡単に言えば、豚肉と鳥肉である。


 フレイム・ボアーはタスク・ボアーとは違い、魔物分類で、炎を吐いてくるちょっと厄介な魔物である。……但し、鼻から。


 見た瞬間、全員で「「「鼻かよ(ですか)!?」」」とツッコんでしまったは仕方の無いことだろう。


 その衝撃的な、いや笑撃的な光景に一瞬トーヤの剣筋が乱れたので、僅かばかりの効果はあったのだろうが、その直後には首が落ちていたので、単なる一発屋でしかなかった。


 炎のブレスも射程が短く2メートルに満たないので、判ってさえいればあまり怖くはない。



 フレイム・ピーコックの方はちょっとクジャクっぽい羽を持ち、その羽を飛ばして攻撃してくる鳥の魔物。


 一般的なクジャクよりは少し小さく、広げた羽も1メートルあまりなのだが、その羽は燃えるように赤く、飛んできた羽は実際に燃えている。


 フレイム・ボアーと一緒に出てきたときには、その遠距離攻撃が少し面倒だが、羽をバサリと広げないと飛ばせないという弱点があるため、攻撃モーションと言うのも烏滸おこがましいほどバレバレである。


 その羽も剣で切り払える程度の物で、それ以外の攻撃はクチバシでつついたり、足でひっかいたりするぐらいの物で、近づいてしまえば非常に弱い。


 長物を持つ俺やナツキからすればただのカモである。名前はクジャクだけど。


 得られる肉は血抜きをしてもかなり強烈な真っ赤で、鳥としてはちょっと不思議なのだが、特徴と言えばその程度。


 味自体はブロイラーみたいな感じで、使い勝手が良いというのがハルカたちの評価だった。



 7層に出てきたのは、フローズン・ジュボアとアームドテイル・グリプト。


 フローズン・ジュボアは体長30センチぐらいの、ぴょんぴょん跳ねるネズミもどき。


 地面だけではなく、壁や天井も使って素早く跳ね回る。


 その動きはちょっと厄介だが、当たれば一撃で死ぬので、まぁ弱い。


 魔法を当てるのは困難だが、ハルカやユキの攻撃でも簡単に斃せるレベルの耐久度である。


 これの特徴はなんと言っても、最初から冷凍肉になっているところだろう。


 戦っているときは柔軟に動いているのだが、死んだ瞬間にカチコチになる。


 血抜きもできないし、解体も難しいので、「正直、どうなんだ?」と思ったのだが、本によるとこれが良いらしい。


 まず血抜きに関してだが、むしろ下手に解凍して血抜きをしたりせず、そのまま調理することで美味しく食べられるんだとか。


 試しにちょっと焼いて食べてみたのだが、確かに美味かった。


 クセが無いわけではなく、ある意味でとてもクセがあるのだが、それがアクセントとなって美味いのだ。予想外なことに。


 確かにこれなら、血抜きが不要というのも頷ける。


 そしてもう1つ。


 魔力の関係か、下手にカットしたりしなければ、この冷凍肉状態は常温で数日間は保つらしい。


 これはマジックバッグを持っていなかったり、水魔法で凍らせることができない冒険者にとって、非常にありがたいことなのは言うまでも無い。



 アームドテイル・グリプトは一応、哺乳類になるのか?


 硬い鎧に覆われた尻尾をエビのように丸め、その尻尾をこちらに向けて飛んでくる、ミサイルみたいな魔物。


 推進力は口から吹き出す水で、たまにその水を直接吹き付けてきたりするので侮れない。


 切り裂くのは結構難しいのだが、トーヤの剣で叩くと一撃だった。


 難点は、攻撃を避けてしまうと遠くまで飛んで行ってしまうところか。


 普通に食えるとは書いてあったが、フローズン・ジュボアほど珍しくはなかったので、今のところ、そのままマジックバッグで眠っている。


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― 新着の感想 ―
[一言] 新たな魔物 (4)で既にダールズ・ベアーが魔法をかき消したりはたき落としていたので、ゴブリンジェネラルが初めて対抗したわけではないと思います。 主人公がダ熊の事を忘れていた場合や、このダンジ…
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