翡翠の羽 (2)
前回のあらすじ ------------------------------------------------------
佳乃は治癒魔法特化型でキャラメイク。
仲の良い紗江、歌穂(獣人)と共に転移することに成功する。
「さて、行動を開始する前に、互いのスキルを教え合おうか。方針を決めるためにも」
「そうじゃな。せっかく3人一緒になれたんじゃ。協力しない手は無いのじゃ」
「えっと、それじゃ、まず私から――あれ? なんか見えるのです」
紗江が小首をかしげ、両手を顔の前に持ってきて何かを探すように動かす。
「なんかって?」
「佳乃には見えない? 私の名前や年齢、先ほど選んだスキルなどです。私のスキルは、と考えたら目の前に表示されたのです」
それはいわゆる、キャラクターシート?
表示したいと思えば――おっと。確かに表示された。
先ほど選んだスキルの一覧が。
但し、能力値なんかは無い様子。
ちょっと残念。
「へー、こんな機能があるんだ?」
「そうじゃな。スキルを確認できるだけみたいじゃが……」
「これなら、選んだスキルを忘れてしまった人も安心です。私の場合、忘れるほどありませんけど」
と言って教えてくれたのがこちら。
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【魔法の素質・火系】 【魔法の素質・土系】 【火魔法 Lv.8】
【土魔法 Lv.4】
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……酷すぎる。
「いや、思い切り良すぎでしょ! しかもこれ、必要ポイントいくつよ!?」
「見ての通り、種族をエルフにしましたから、トータルで150ポイントです」
「私より多いし! もうちょっと考えて取ろうよ!」
私も特化型にしたつもりだったけど、これを見てしまうと、むしろ万能型に見えちゃうよ!
「魔法使いって、こんな感じじゃないのです? 剣で戦うなんて自信ないから、後ろから魔法を撃っているのが一番楽かな、と。クラスメイト、まとめて転移すると思ってましたの」
「道理じゃな。しかもこれだけ魔法レベルが高ければ、足手まといにはならんじゃろう」
「ゲームみたいに、バランス良くパーティーが組めればね! ギャンブル要素、大きすぎ!」
ゲームをやらない人が、『戦士』、『魔法使い』、『僧侶』とか単純に考えたら、こんな感じになるのかな?
戦う事だけを考えればありと言えば、ありなのかも知れないけど……。
「しかし、佳乃。実は、儂も似たようなもんじゃぞ?」
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【異世界の常識】 【魅力的な外見】 【大剣の素質】
【大剣 Lv.8】 【豪腕 Lv.3】
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「獣人にしたから、儂はトータル130ポイントじゃな」
「歌穂の方が酷いよ!? 大剣しか使えないじゃん!!」
【異世界の常識】は本当に常識的知識だけだし、【魅力的な外見】も外見が変わるだけ。
【豪腕】なんて、単純に腕力が上がるだけなので、本当に大剣を振り回すことに特化している。
「せめて【魅力的な外見】を取らないとか、【大剣】のレベルを1つ下げるとかできなかったの?」
「半端なのはダメなのじゃ。特定の場面では誰にも負けない。そんなキャラが活躍できるのじゃ」
それってゲームの話だよね?
ゲームじゃないこの世界だと、『日常』が存在してるんだけど?
「ほれほれ、佳乃のスキルも教えるのじゃ」
「私も大概、一点豪華主義だけどさぁ……」
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【異世界の常識】 【魔法の素質・光系】 【魔力強化】
【片手鈍器 Lv.2】 【頑強 Lv.2】 【病気耐性】
【毒耐性】 【光魔法 Lv.7】 【薬学 Lv.3】
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特化型で作ったはずの私のスキル構成なのに、2人の前では普通にすら見えてくる不思議。
「ほうほう。バランスは良いの」
「完璧な大剣特化と魔法特化の2人に比べればね!」
「でも、歌穂が接近戦に特化してくれたのは助かりました。歌穂まで魔法特化になっていたら、佳乃が前で戦う事になってました」
「そうだね、さすがにレベル2で前衛を任されるのは、ちょっと不安かな?」
防御力が高い人がいないのが不安だけど、そこは歌穂を前に押し出して、頑張って回復させよう。
外見的にはちょっと罪悪感を感じるんだけど、さすがに魔法使いが前に出るのは無し。
「でも、誰も【スキル強奪】とか、異常に強そうな物は取ってないんだね?」
私がふと思い出したことを口にすると、歌穂と紗江が揃って呆れたような表情を浮かべた。
「邪神と名乗っている相手から、そんな強力そうなスキル、貰うわけないじゃろ?」
「強そうなのは、どう考えても破滅が待っているとしか思えません」
「あれじゃよな、『……力が欲しいか』ってやつ。ヤバげなスキル持ちなんぞ、主人公枠か、敵役か……。大抵碌な事にはならんのじゃ。簡単に退場するモブも困るが、トラブル満載の主人公になんぞにもなりたくない」
「ゲーム思考が過ぎる――って言えないあたりが怖いね。神様とかに会っちゃうと」
「それがさっき言っていた、ほどよいキャラの濃さ、ですか? なかなかに綱渡りなのです」
歌穂に対して、少し呆れたような顔を見せる紗江だが、それは私も同感。
そもそも加護が貰えるほどに神様の興味を引いてしまったら、その時点でダメなんじゃ?
よし、ここは私のモブ力で、歌穂のメインキャラ力を薄める事としよう。
……ちょっぴり、圧倒的治療能力スゴイ! とか思ってたんだけどなぁ。
◇ ◇ ◇
「でも、幸いと言うべきか、パーティー構成のバランス的には悪くないよね?」
単純に分類するなら、戦士、僧侶、魔法使い。
オーソドックスと言えば、オーソドックス。
「まぁ、そうじゃな。じゃが、佳乃がおれば、あとの2人はどんなスキル構成でも、なんとかなりそうじゃがな」
「う~ん、確かに?」
私以外が戦士2人でも、比較的普通のパーティー。
私と同じ様な構成の僧侶3人でも、一応戦えるし、回復もできるので問題なし。
2人が完全後衛型の魔法使いの場合は、私が前に出ないとダメなので、少し大変だけど、なんとかなりそう。
「仮に、全員が儂みたいな戦士であっても、それはそれでやりようがある。問題は、紗江じゃな」
「え、私、ダメでしたか?」
「ダメじゃないけど、全員が紗江みたいな選択だと、冒険者としてはちょーっと、辛いよね」
圧倒的火力はありそうだけど、近づかれたらゲームオーバー。
万が一、単独で転移したときに一番危なかったのは、紗江かも知れない。
冒険者よりも戦争で役に立ちそうな感じである。
「逆に、佳乃が完全な特化型じゃなかったのは、助かったと言えるの」
「私としては、特化型だったつもりなんだけどねぇ。……一応、バランスを考えたところはあるけど」
キャラメイクの時に考えたのは、この2人のこと。
もちろん、治癒系に特化した一番の理由は、私の嗜好なんだけど、歌穂は性格的に直接戦闘を選びそう、とは考えていた。一緒にテーブルトークRPGをやったこともあるしね。
紗江は逆にゲームとかやらないし、切ったり殴ったりはしそうに無いイメージだったので、魔法使いか、アーチャー的な遠距離攻撃タイプかと予測。
想定以上に特化型ではあったけど、概ね予想通りではあったので、私たちの友情もそう捨てた物じゃないよね?
「ま、取りあえず、移動前に戦闘力を検証しておこうか? 幸い、ここは周りに人がいないし」
職業(?)的にはバランスの良い私たち。
但し、それは上辺だけ。
実際にできる事は全く把握できていないのだ。
幸い、私たちが転移してきたのはどこかの草原。
近くに街道が見えるけど、人通りは一切無い。
一先ずは安全そうではある。
けど、私の【異世界の常識】によれば、町の外では普通に魔物が跋扈しているみたいなので、戦闘力の検証はとっても重要だ。
ついでに言えば、現状で曲がりなりにも戦えそうなのが、紗江のみと言うのもちょっと怖い。
「では、まず私からしますね。手持ちで一番強力なのは……火魔法のレベル8、『火炎放射』か『爆炎』みたいです」
「『爆炎』! 心惹かれるのじゃ」
「では、そちらを使ってみます」
「あ、一応言っておくけど、かなり離れた場所にお願い」
「了解です。――『爆炎』!」
その言葉と共に紗江の手から飛び出したのは、野球のボールほどの黄色く輝く球体。
それが正にピッチングマシーンから飛び出したかの様な速度で直進し、数十メートル先に着弾し――。
ズガァァァン!!
とんでもなかった。
はじける光と爆音。それは瞬間的に直径10メートルほどのクレーターを作製、かなりの高さまで土埃を舞い上げる。
「「「………」」」
想像以上の威力に、揃って無言になる私たち。
と同時に、紗江がバランスを崩したのか、ふらりと揺れて地面に座り込んだ。
「紗江、大丈夫?」
「はい。でも、恐らく魔力? それが殆ど無くなってしまったみたいです」
そう言いながら立ち上がろうとした紗江だったけど、再び尻餅をついて額に手をやる。
威力を考えれば、確かに魔力消費は大きそうではある。
でも、1発で終わりって……いくらなんでも燃費、悪すぎない?
「魔法のレベルと、魔力総量は別という事かの? 地味に厳しいのう」
魔法スキルにポイントを注ぎ込めば、所謂MPが増えると思っていたんだけど、現実はそんなに甘くなかったみたい。
私は追加で【魔力強化】を取ってるから多少はマシかも知れないけど……魔力の消費量は常に気を付けておいた方が良さそうだ。
「次は私かな? でも、できること無いんだよね……」
こちらに来た後、現在の光魔法レベルで使える魔法は自然に理解できた。
でも、実は光魔法って、攻撃魔法が一切無いのだ!
あえて言うなら、アンデッドに使える『浄化』と、武器に付与する『聖なる武器』だけど、どっちもここで検証できるような物じゃないし……。
「なんじゃ、佳乃はパスか? となると、次は儂なんじゃが……言うまでも無いよな?」
「大剣、無いもんね。……はい、検証作業、しゅーりょー! ……わぉ」
検証結果。
紗江の魔法は強力だけど、数撃てない。
私と歌穂は、敵が出てきても、できることが無い。
「……ねぇ、ちょっとマズくないです? 私たち」
「マズいね。武器が無いのがマズいね」
「いや、紗江はもっと弱い魔法を数使う方法もあるじゃろ? 佳乃の方は……ほれ、鈍器なんじゃから……」
歌穂は辺りをキョロキョロと見回すと、近くにあった木から、私の腕ほどもある枝を強引に折り取り、ボキボキと小枝や葉っぱなどをむしり取ると、50センチほどの棒状にしてから私に差し出した。
「ほれ、これを鈍器代わりに」
差し出されたので素直に受け取った私だけど、それは棍棒と言うにも烏滸がましい、単なる木の枝なワケで。
一応、ブンブンと振ってみるけど……。
「……なんて酷い絵面」
これ、端から見れば、不審者じゃない?
◇ ◇ ◇
「へぇ、ここで治療を行いたいと?」
「はい。ダメですか? 少々、路銀が乏しくて」
「いや、町の外だから好きにして構わないが……」
はい。どう見ても怪しまれてます。
私たちが今いるのは、街道を進んだ先にあった小さい町。
その門の前。
そこに立っていた門番から向けられる視線が痛いです。
当たり前だよね。貧相……では無いけど、普段着を着た女の子が3人。
所持品は私の持っている棍棒もどき。
メンツは人間にエルフ、それに子供に見える獣人。
これで怪しまない門番がいれば、見てみたい。
「いや、その、ちょっとトラブルがありまして……。あ、何でしたら、門番さん、怪我でもあればタダで治療しますよ?」
「……別に疑っているわけじゃないが、先日、打ち身になったところがある。見てくれるか?」
ちょっとでも好感度アップ、と申し出てみると、私にとっては『運良く』と言うべきか、腕まくりした門番さんの二の腕には、青黒くなった打ち身の痕が。
「はいはい。お任せください」
『小治癒』の1回ぐらい、信用を得るためなら安い物。
実験にもなるし、ある意味ちょうど良い。
「『小治癒』」
魔法を掛けると同時に、見る見るうちに治っていく打ち身の痕。
それを見て、怪しげだった門番さんの視線も、一気に和らいだ。
「おぉ……なかなかの腕だな。これなら確かに路銀は稼げそうだが……こう言っちゃ何だが、こっち側の門に、怪我した冒険者なんぞ、殆ど来ないぞ?」
「……そうなんですか?」
「ああ。通ってきたなら判っていると思うが、魔物なんてほぼ出なかっただろう? ラファンからこの町に来るのに怪我をするのは、よっぽど運の無い奴だけだ。やるなら、川を渡った向こう側、あっちの門の外が良いぞ?」
門番さんが指さした方向を見ると、真っ直ぐに伸びた道の先に船着き場が見える。
なるほど、この町は渡し場なんだ。
川を渡った向こう側は、こちらよりも危険度が高い、と。
じゃあ、あっちでやる方が稼ぎは良いよね、うん。
但し、そっちの門の外で、私たちが無事でいられれば、だけど。
「良い情報、ありがとうございます」
「治療してくれた礼だ。気にするな」
気分的には、『ティラリラッタラー。佳乃は良い情報を手に入れた!』
で、『Next Mission! 所持金をできるだけ減らさずに、対岸へ渡れ!』ってところ。
私たちの所持金は邪神から貰った大銀貨30枚。
目の前には、人の良い笑みを浮かべた門番。
後ろにいるのは、『常識』を持っていない紗江と、明らかに大人相手の交渉には向いていない歌穂。
――フフフ、コイツはタフな交渉になりそうだぜい。
私は内心そう呟いて、流れてもいない額の汗を拭った。
新作、投稿してみました。
比較的、スタンダード(?)な話だと思います。
もしお時間あれば、たぶん下にリンクが表示されていると思いますので、そちらか、作者マイページから読んでみてください。









