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191 ピニングへ (2)

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

ケルグを出て、ピニングへ向かう。移動手段は自前の足。

メアリとミーティアは背負って走り、途中で休憩する。

 その後、休憩を切り上げて出発した俺たちは、途中で更に3度ほど休憩を挟み、おおよそ予定通り、まだ昼よりは朝という時間帯にピニングに到着した。


「さすがに領都。大きい町ね」


 圧倒的に大きいとは言えないが、ラファンはもちろん、ケルグよりも大きい町。


 それがネーナス子爵の治める領都ピニングである。


 当然、出入りする人の数も多く、門の所には短いながらも審査を待つ人の列ができている。


 その最後尾につき、トーヤとナツキはメアリたちを背中から下ろす。


「トーヤ、お疲れ~」

「疲れというか、身体が凝った感じだなぁ」


 ユキの言葉に、トーヤが腕や背中をグリグリと回しながら応える。


 重さ的には問題なくても、自由に身体を動かせない、そのあたりがちょっとキツいんだよな。


 背負っているのが人だから、乱暴に走るわけにはいかないし。


 特にトーヤは、俺やナツキとは違い、ずっと1人で担当したわけで。


 休憩時間毎に身体をほぐしていたが、疲労は溜まることだろう。


 帰りは多少メアリたちにも走らせるか、もう少し休憩時間を延ばした方が良いかもしれない。


「トーヤさん、ありがとうございました」

「おう、気にするな。まだ子供なんだから」


 ぺこりと頭を下げたメアリの頭を、トーヤがわしゃわしゃと撫でる。


 メアリはボサボサになる髪の毛にちょっと困った表情を浮かべつつ、苦笑する。


「こら、女の子はもっと丁寧に扱いなさい」


 そんなトーヤの手をユキがペシリとはたき、バッグから取り出したブラシでメアリの髪を整える。


 だが、俺の目はユキがメアリの耳を触って、嬉しそうな表情を浮かべたのを見逃しはしない。


「ナツキお姉ちゃん、ありがとうなの!」

「はい。ミーティアちゃんもお疲れ様」


 こちらは穏やかに、ナツキがミーティアの頭をなでなで。


 そして、審査待ちの列の進む速度は速く、そんな事をしている間に俺たちの順番が来た。


 俺たち全員が担当の門番にギルドカードを提示すると、「ほう。ランク5か」とボソリと呟き、チラリとメアリたちに目をやるだけで、そのまま通してくれる。


 門番が少し気に留める程度には、ランク5は珍しいらしい。


 一緒に居たメアリも少し驚いたようで、門を通り抜けてしばらく歩いてから、俺たちに向かって訊ねる。


「えっと、ハルカさんたちって、ランク5の冒険者なんですか?」

「そうよ?」

「スゴイです!」

「スゴイの!」


 メアリとミーティアからキラキラした瞳で見上げられ、顔を見合わせる俺たち。


 低くはないと思っているが、尊敬されるほど? と思ったのだが、メアリに曰く、ケルグではランク4でも威張っている冒険者がいるらしい。


 少なくともランク5は、一般人である2人が『スゴイ』と思えるぐらいのランクではあるようだ。


「真面目で堅実にやってたら、十分になれるランクだと思うんだけど」

「ハルカさん、堅実な人はあまり、冒険者になりません」

「……そうね」


 ピッと指を立てて、根本的なことを指摘するメアリに、思わず俺たちは納得する。


 堅実な人は、便宜上冒険者になったとしても、その多くはいわゆる土方の仕事を請ける日雇い労働者だろう。


 ランクが上がるような依頼を請けることは、ギャンブル要素も多く、命の危険もある。


 それでいて、この世界の冒険者ギルドの場合、ランクを上げるためには戦闘力だけではなく、ある程度の品行方正さも必要とされるため、それなりに尊敬を受ける部分はあるのかもしれない。


「でも、オレたちの場合、あんまりギルドの依頼は請けてないんだけどな」


「そうなんですか? でもそれでランク5になってるって事は……さすがです!」


 更に尊敬の視線を向けられ、微妙に居心地が悪くなる。

 縁故というか、コネというか、ディオラさんのおかげというか……。


 まぁ、あれでもディオラさんは副支部長なワケで、少しは優遇してもらったところがあったにしても、それなりの実力は認めてくれているのだとは思う。


「さて、最初は宿を確保した方が良いわね。今回はギルドを頼りましょうか」


「そうだな。この時間ならあまり混んでいないだろうし」


 話を変えるように言ったハルカの言葉に俺も乗り、辺りを見回す。


 利便性の関係で、冒険者ギルドは門の近くに置かれていることが多いのだが……この門じゃないのか?


 少し探しても見つからなかったため、近くにいた人に訊いてみると、この町の冒険者ギルドは町の中心付近にあるらしい。


 それというのも、この町の門は東西南北4カ所に設けられていて、特にいずれかの門の使用頻度が高いという事も無いため、どこから入っても使いやすいようにということらしい。


 教えられたとおり町の中心部に向かうと、冒険者ギルドの建物はすぐに見つかった。


「なかなかにデカいな!」


 トーヤが見上げて言ったとおり、その建物はケルグと比べても二回りは大きく、4階建て。3階建ても珍しい中では高層建築と言っても良いのではないだろうか?


 ラファンであれば、この時間帯に冒険者ギルドに出入りする人はほぼいないのだが、ここでは俺たちが見ている間にも、パラパラではあるが人の出入りがある。


「それじゃ入りましょうか」

「は、はい」


 ちょっと緊張した返事をしたのはメアリ。

 ミーティアは隣にいるユキの手をギュッと握っている。


 まぁ、気持ちは解る。

 今だって、武器を持ったゴツい男が数人、入っていったわけだし。

 俺たちだって、最初にギルドに入るときには少し緊張したから。


 ユキも少し不安そうに見上げるミーティアに、優しげに微笑み、手を引いてやっている。


「心配しなくても、おかしなのは居ないと思うぞ? 見た目は……コメントできないが」


 その仕事の関係上、少々迫力のある人物が多いのは否定できない。


 俺は苦笑しつつ、ギルドの扉を開けて中に入る。


 一瞬、視線が向けられ、そのまま離れていくかと思ったら、二度見されて一気に視線が集中した。


 おや? 子供連れだからか?


 ――と思ったのだが、視線の多くは俺とハルカに向いていて、ユキとナツキにもそれなり。


 エルフ、やっぱり珍しいのか。


 数少ない女の冒険者、それに一部男の冒険者からも視線を向けられ、微妙に居心地が悪くなる。


 ラファンやケルグでは人が少なかったので、あまり気にならなかったのだが。


 ユキとナツキは外見だろうな。可愛いし。


 ナンパに来ないのは、ギルド職員の目があるからなのか、それとも後ろでトーヤが目を光らせているからか。


 見た目的に強く見えるのはトーヤだけだからな、俺たちのパーティー。


 まぁ、見るだけなら何も言えない。


 俺たちはそんな視線を気にしないようにして、カウンターへと向かう。


「宿を紹介して欲しいんですが。1泊金貨1枚以内ぐらいで」


 そう言いながらハルカがギルドカードを提示すると、それにチラリと目をやった受付嬢は頷いて、町の地図を取り出した。


「わかりました。安全性や食事の評判などを優先するならこちらの『2番通り1番』亭。ギルドと門からの距離など利便性を考えるなら『いにしえの噴水』亭が適当かと」


「『2番通り1番』亭……そのままの名前なのね」


「はい。2番通りの一番南にあるから、ですね。女性にも評判の良い宿ですよ」


「わかりました。ありがとうございます」


 お礼を言った後は、そのまま足早にギルドを出る。

 テンプレ的に絡まれることは無さそうでも、注目されているのは少々居心地が悪い。


 視線から逃れて、俺たちは揃って息を吐き、その足でお勧めされた宿へ向かう。


 殆ど議論する余地も無く選んだのは、2番通り1番亭の方。

 決め手はやはり安全性と食事の評判である。


 女性が多いから安全性は重要だし、食事の味は言うまでもない。


 名前を聞くだけで場所が判るという、ある意味便利な、そしてある意味で手抜きな名前の宿だったが、実際に利用してみると、お勧めされるのも解る、なかなかに悪くない宿だった。


 料金は朝夕付き4人部屋利用で1人あたり1泊大銀貨7枚。


 ラファンの微睡みの熊亭が大銀貨3枚に満たないことを考えるとかなり高いが、田舎と都会の違いもあるので、単純比較はできないだろう。


「それじゃ、一先ずは領主の館にアポイントメントを取りに行きましょうか」

「だな。どうすれば良いんだ?」


 当然ながらそんな経験は、俺たちの誰も持っていない。


「当然、訊いてあるわ。ギルドで貰った紹介状を門番に渡して、宿の場所を伝えておけば良いんだって」


 さすがハルカ、卒が無い。


「誰が行く?」

「誰でも良いけど……行くついでに昼食も食べましょうか?」

「なら、全員か」


 頼めば昼食も出てくるだろうが、一応ここは領都。

 少しだけ、この周辺の食堂が気にならないでもない。


 旅装から普段着に着替え、全員で領主の館へ。


 宿から領主の館までは比較的近く、門前に立っている門番に紹介状を渡して伝言を頼む。


 最初に「冒険者ギルドから」と伝えたのが良かったのか、一般人的な服装の俺たちにも特に不審な様子も見せず、門番は紹介状を受け取ってくれた。


 その後は繁華街へと向かい、食堂を物色するわけだが……。


「また、トーヤの鼻に頼るか?」


「別に構わねぇけど、責任は取れねぇぞ?」


「一応、少し高めのところを選べば問題ないとは思うけど……どうだろ? ちょっと変わった物が食べたいという気がしないでもない。せっかく別の街に来たわけだし」


「ケルグは成功だったから、1回ぐらいは失敗しても良いかもしれないわね」


 ケルグでトーヤの鼻を頼って入ったお店は、ヤスエの監修でも入っているのか、値段から考えれば十分に美味しい食堂だった。


 ……まぁ、黒パンを避けられたことが、その大きな要因なのだが。


「あまり特産品などは期待できそうにないですが……メアリちゃん、何か知っていますか?」


「すみません。知りません。ケルグから出たこと無かったので……」


 ナツキの問いに、少し申し訳なさそうに応えたメアリに対し、予想外なことを口にしたのはミーティアだった。


「エールが美味しいって聞いたことあるの!」


「「「えっ!?」」」


「ミ、ミー、なんでそんな事知ってるの?」


「近所のおばちゃんが話してたの」


 驚いて訊ねたメアリに、ミーティアは平然と答える。


 おばさんネットワークか。


 子供って、大人の話していることを聞いていない様で、その実、地味に聞いていて、しっかり覚えていたりするから侮れない。


「ミーティア、良く知ってたわね」

「えへへ、どうってことないの」


 ハルカに褒められ、照れた様な笑みを浮かべて、もじもじとするミーティア。


 一緒にくねくねと揺れる尻尾が可愛い。


「とは言え、オレたち、エール飲まないからなぁ。トミーの土産に買って帰ってやっても良いけどよ」


「それじゃ、やっぱりトーヤの直感と嗅覚で」


「了解。じゃあ、適当に……」


 それなりに清潔で、少し価格帯が高い店を選べば食べられないことはない。


 最初の頃は日本にいたときと同じ様な感覚で、安い店を選んでいたのだが、ここでは安い店を選べば順当に不味いだけ。安っぽい味でも普通に食べられる日本とは違う。


 微睡みの熊のような大当たりはそうそう無いのだ。


 てな感じで、トーヤが選んだ食堂だったのだが――。



「メアリ、ミーティア、ご飯はどうだった?」


「美味しかったの!」


「すっごく、美味しかったです。でも、あの、良いんですか? 結構高かったですけど……」


「まぁ、ちょっと高かったが、許容範囲だな」


 俺たちが注文した料理は大銀貨1枚から2枚の範囲。


 庶民が普段食べる昼食としては少し高めだが、3食から5食分程度なので、凄く高価と言うほどではない。


「問題は、これぐらい出さないと、ちょっと厳しそうって事だな」


「だよね。何とか及第点って感じだったよね」


「少し、舌が肥えてしまいましたね。……自分で作ってるわけですけど」


 そう、その程度の料金を払っても、俺たちからすれば『文句を言わずに食べられる』というレベル。そこまで美味しいと言える物ではなかった。


「あんなに美味しかったのに?」


 ミーティアは不思議そうに首を捻るが、ハルカたちの【調理】スキルは伊達ではない。


 更に料理に関する知識と、俺たちの舌に合う味付け。


 インスピールソースを代表とする、普通の店ではコスト面で使わないような良い材料。


 それらによって作り出される料理は、はっきり言って日本にいた時、母が作っていた物よりも美味しい。


 手に入る材料の制限から、バリエーションの少なさだけは少し不満だが、こうやってたまに外で食事をすると、それが贅沢な悩みだと実感する。


 それでも不満は不満なわけで……。


「どれくらい待つ必要があるかだけど、宿の食事もあんまり美味しくなかったら、自炊かなぁ?」


「一応、ある程度は持ってきていますから、1ヶ月程度ならなんとかなりますが……」


 自炊とは言っても、宿で台所を借りるのは難しいだろうし、マジックバッグにある料理を食べることになるだろう。


 一応は作り置きという事にはなるが、幸い、それが問題にならないのがマジックバッグである。


「まぁ、せっかく領都まで来たんだから、昼ご飯ぐらいはちょっと贅沢をして、食べ歩きしても良いと思うけどね」


「だなぁ。バカンスよりは金も掛からないだろうし」


 適当に店を変えて食べ歩きをしていれば、そのうち美味しい店に遭遇するかも知れない。


 尤も、それもこれも、どのくらい滞在することになるか次第なのだが。

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