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S015 焦れったいんだけど!

168話よりもしばらく前のお話。

区切りにくかったので、少し長めです。

 ナオが「水着を作ってくれ」とか言い出した。


 夏になったら水遊びがしたい、らしい。


 でも、水遊びだけじゃ無くて、絶対、期待してるよね? あたしたちの水着姿。


 いやまぁ、別に良いんだけど。

 興味ない、とか言われたら、逆にショックだし?


「まずは、ナオたちの水着だよね。どんなのにする?」


 ここ、自宅の裁縫室に集まっているのは女性陣3人。

 当然のこととして、ナオとトーヤはシャットアウト。

 測らないといけないしね、体型とか。


「短パンで良いでしょ。ナオたちだって、ブーメランパンツを作るとは思ってないでしょうし」


「注意点はトーヤくんの尻尾だけですね。下着と同じ感じで良いでしょう」


 ナオたちの下着の作製も、実はあたしたちの担当。


 「男の下着を作るなんて!」みたいな、アホなことを言う女はここには居ないので、普通に作っている。


「う~ん、実は水着とトランクスって、生地の違いぐらい?」


「少しゆったり目に作って、裾を伸ばせば良いんじゃないでしょうか。腰の部分も紐を通してますから、ずれたりする心配も無いですし」


「作りがい、ないなぁ……。どの布を使おうか……」


 さすがにトランクスと同じ布だと、濡れたら透けちゃうよね。

 厚手の物で、それなりに肌触りが良い物。


「これで良いかな? どう思う?」

「うん、良いんじゃない?」


 布を入れた棚の中からピックアップした物を示すと、ハルカは手に取るでもなく、あっさりと頷く。


「ハルカ~、もっと興味持とうよ。好きな水着、作れるんだよ?」


「男の水着なんてどうでも良くない? 機能さえしっかりしてれば」


 まぁ、確かに、男の人の水着を鑑賞したりはしないけど。


 一応、好きな人だよね?


「まぁまぁ、さっさと作ってしまいましょう。染めも必要ですから」


「そうね。生地は良いと思うけど、もう少し染めた方が良いでしょうね」


 あたしが選んだ生地は薄めの紺色。

 水着のイメージ的に、もうちょっと濃い色の方がそれっぽい。


 具体的には、トランクスと区別するために!

 トランクスに見えたら、ちょっと恥ずかしい。


「それじゃ、そっちは任せた。あたしは、他の生地も探してくるね」


 手慣れた様子で、サクサクと作業を始めたハルカとナツキ。


 あたしはそんな2人から離れて、自分たちの水着に使う生地を物色する。


 この裁縫室には、いろんな生地を買い込んであるんだけど……さすがに化繊は無いからなぁ。


 それに近い物はあるけど、残念ながら現代の水着素材ほどの伸縮性は無い。

 薄くて、伸縮性があって、透けもせず、水に強くて、ほどよく撥水する。


 水着の生地って、地味に高性能だよね。

 普段はあまり気にしてなかったけど。


「このへん、かなぁ?」


 あたしが選択したのは、ジャージっぽい生地。

 伸縮性があって透けないとなると、これぐらいしか選択肢が無い。


 ちなみに、これも錬金術で作られる素材だけど、自前じゃなくて買ってきた物。

 錬金術事典に作り方は載ってても、設備とか揃えるの、無駄だし。


 この世界の錬金術って、科学に魔法が混ざったような技術だから、かなーり汎用性は高いんだよねぇ。個人で出来る範囲かどうかは別にして。


 難点は、完全自動化は難しそうな所。


 化学ならプラントを作って自動で大量生産が可能だけど、錬金術はその一部には必ず人の手が入るから、家内制手工業みたいな感じ。


 あと、エネルギー源。


 基本的には魔石だから、これの安定供給が無いと使えないし、そのために必要な人手――具体的には冒険者の数によって、工業化は阻害されているのかな?


 錬金術事典を見れば便利そうな物は色々開発されてるんだけど、それが一般家庭に普及する可能性はかなり低いんだよね。


 本体が高いのは勿論として、例えば『エアコンを1日使うのに必要な電気代は3千円です』と言われて、『よし、買おう』とは、言えないよね?


 一応、あたしたちが作ったコンポストみたいに、自分で魔力を供給することもできるけど、その分コストは掛かるし、一番の問題はそこまで魔力が潤沢な人が少ない事。


 逆に言えば、金がある貴族、魔石を自前で用意できる冒険者などには、それなりに魔道具が普及しているし、一部のコストメリットのある魔道具も一般で利用されている。


 例えば、おトイレとか。

 良かったよ、ここが平気で道に汚物を捨てる様なところじゃなくて。


「ユキ、良い素材は見つかった?」


「あ、うん。表はこれ、裏地はこれ、カップはこれで作ったらどうかな?」


 あたしがぼーっと考え事をしながら生地を選んでいる間に、ハルカたちは早くもナオたちの水着を縫い上げていた。


 形が単純で、元となるトランクスの型紙はあるので、凄く手早い。


「うん、ちょっと高くなるけど……ま、良いでしょ」

「ですね。これもきちんと染めれば、透ける心配はなさそうです」

「ちょーっと野暮ったい感じだけどねー」


 生地が厚いだけに。

 これじゃ、水着で好感度アップ、とかは無理かな?

 ……うん、中身で勝負だよね?


「形はどうする? ビキニ、セパレート、ワンピース――」


「ワンピース一択」


「え、えーーっ、選択の余地無いの?」


「ユキ、ポロリしたいの? 魔物がやってくる可能性もゼロじゃ無いのよ?」


「ですね。さすがにビキニで武器を振るのは……」


「可能性があるだけでほぼゼロなのに~~」


 ナオが索敵をしているし、いきなり戦闘になる事なんて無いと思うんだけどなぁ。


 とは言え、ハルカの言い分は否定できないところ。


 この生地で可愛い水着は無理そうだし、ここは別路線で行こう。


「じゃあ、じゃあ、こんな形で……」


 あたしはさらさらっとイラストを描いて、ハルカとナツキに示す。


「……これって、昔のスク水ですか?」


「うん、そう。このちょっと野暮ったい感じ、生地の伸縮が乏しいからこの形なんだって」


「へー、そうだったんだ? で、ユキはこれの構造、解るの?」


「何となくは? 想像だけど」


 あたしだって実物は見たこと無いし。


「なら別に良いわ。これなら脱げる心配は無さそうだしね」


「はい。えーっと、型紙は――」



 それからしばらく。


 3人で相談しながら水着の型紙を作り上げたあたしたちは、各自、自分用の布を裁断して、製作を始める。


 ナオたちの下着と違って、あたしたちの水着は結構面倒くさい。


 形が複雑だし、伸縮性が乏しいから、自分の身体にきっちり合わせないといけないし、裏地やカップも付けないといけないし。


 ん? もしかして、男の水着も裏地っている?


 ……ま、いっか、男だし。


 あたしは自分の水着をチマチマと縫いながら、同じように水着を縫っているハルカに視線をやる。


 一緒の家で生活するようになってしばらく経つけど、気になるのはやっぱり、ハルカとナオ。


 ハルカがナオを好きなのは、日本に居たときからバレバレだったし、ナオも多分、解ってると思う。


 ……あれ? 解ってるよね? 姉弟みたいみたいな感覚じゃ、ないよね?


 お隣に住む幼馴染みって居なかったから、そのへん、よくわかんないけど。


 うーん、親も仲良くて、一緒に育ってきてるから、その可能性もゼロじゃ無いのがなんとも……。


 ま、ハルカがナオを好きなのは確定として。


 一緒に暮らすようになったのに、全然、ぜんっぜん、進展が見られない!

 距離感が、日本に居たときと一緒!


 いつの間にやら、2人の姿が見えない、とかあっても良くない?


 大抵どちらかの姿は目に入ってるんですけどっ!


 あたしは再び、真剣な顔で水着を縫うハルカを見て、コッソリとナツキに声を掛けた。


「(ねえ、ナツキ。現状、どう思う?)」


「そうですね……そう悪くないと思います。家は手に入れましたし、今の私たちの腕なら、比較的安定的な収入の当てもあります」


「そうね、大分安定したわね。週休二日、長期休暇を取っても貯蓄ができるぐらいには。問題点をあげるなら……」


 あれ? さらっとハルカが会話に入ってきたんだけど?

 ナツキとの内緒話のつもりだったんだけど?


 しかも、思ってた方向性と違う。

 ……あ、言葉が足りなかったか。


「場合によっては、簡単に無くなるって所でしょうか。土地建物は一応私たちの物ですが、領主に出て行けと言われれば終わりですし、私たちの収入も、マジックバッグがあればこそ。万が一、私たちと同じ様なマジックバッグを持つ人がラファンに来れば、競合します」


「まぁ、そうよね。可能性はあると思う?」


「今のところは低いですね。今の領主はまともですし、ラファンの町は田舎で、魅力に乏しいですから。オークや銘木を運べるほどのマジックバッグを持っていれば、もっと都会で十分に稼げます。有名なダンジョン都市あたりが良い感じみたいですね」


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!」


 このままじゃマズいとインタラプト。

 あたしは話の方向性を変える!


「今のこの流れなら、恋バナじゃない? 恋バナの流れが来てたよね? 女の子が3人集まってるんだよ? 異性が居ない状況で! しかも男の子と遊びに行くための水着を縫っている! 何でそんな真面目な方向に行くの!?」


「ふぅ……ユキ、今はそんな状況?」


 状況だよ? 今、余裕が出てきたって言ってたじゃん。


 ヤレヤレ、みたいに肩をすくめて首を振るハルカだけど、あたし、知ってる。


「ハルカ? 追及されたくないだけだよね?」


「……何のことだか?」


「ナオとはどうなってるのよ! 日本に居たときから焦れったいと思ってたのよ! 幼馴染みで家が隣でとか、テンプレ過ぎる状況に居て、進展遅すぎ!」


 もうぶっちゃける。

 遠慮無し。


「な、何言ってるのよ! わ、私とナオは、そんな――」


 ビシリと突きつけたあたしの指に、ハルカはしどろもどろになって視線を逸らした。


 そんなハルカの様子に、ナツキも少し面白そうな笑みを浮かべる。


「はいはい、判りきったことを誤魔化すのは止めましょうねー。で、どうなんですか?」


「ナツキまで……。はぁ……別に進展は無いわよ」


「なんで! 今まではお隣さん。今は同じ屋根の下。どーして進展無いの!?」


「難しいのよ! 一旦距離感が決まっちゃうと!」


 ……いや、まぁ、解らなくはないけどね?


 大丈夫そうかな? と思っても、踏み込みにくいんだよね?


 現状、上手く行っているし。


「それに……できちゃったら困るし。この状況で出産とか、怖いじゃない」


 ハルカが少し躊躇うように言葉を濁し、俯いてボソリとトンデモ発言。


「あれぇぇぇぇ!? なんでいきなりそこに飛ぶの!? もっと、こう、プラトニックな段階は無いの!? 手を繋いで、デートして、キスをして、とかさぁ」


 話がめっちゃ飛んだよ?

 急転直下、ジェットコースターなラブなの?


 じれじれも困るけど、いきなり2人で個室に籠もる時間が増えるのも困るんだけど。


 同居しているあたしとしてはっ!


「手を繋ぐのも、デートも普通にしてるし……」


 あぁ、うん、してたね。2人は。

 ナオの方がデートと認識してるかは知らないけど。


「キスはまだだけど……私がナオに告白して、その流れで迫られたら拒めないし。行くところまで行っちゃったら」


 ふぃ、っと目を逸らして、呟くハルカ。


「乙女か!」

「乙女よ!」


 だよね。知ってた。


 むしろ、乙女じゃないと言われたら、めっちゃショックを受ける。


 そんなハルカの様子を見て、ナツキはふむふむと少し納得したように頷く。


「ですが、確かに出産は不安ですね。医療設備が整った日本であっても怖いですから」


「マジメか! そして、気が早い! もっとこう、前の段階で甘酸っぱいあれやこれやは無いの?」


「その、あれやこれやをしてたら、つい踏み込んじゃうかもしれないじゃない? 文句を言う親もいないし」


「若い性の暴走かよっ!」


「ですが、こちらだと私たち、成人なんですよね……」


「ヤメテ! 今それを言わないで!!」


 色々想像しちゃうから!


 今後、ハルカとナオが2人きりで居たら、そう言う目でしか見られなくなるから!


 ただ普通に訓練してただけでも、顔を赤くして汗をかいてたら、『もしかして事後?』とか、頭よぎっちゃうから!!


「でも実際、私が戦えなくなったら、パーティーとしてはちょっとマズくない?」


「え、この話まだ続くの?」


 ホントに? とハルカの顔を見返したあたしに、ハルカは少し不満そうな表情を浮かべる。


「ユキが恋バナしたいって言ったんじゃない」


「これって恋バナ? もう一歩か二歩、進んでない? ゼク○ィを飛び越えて、ひよこク○ブじゃない?」


 そこまで行っちゃうと、あんまり楽しめないんですけど。

 恋バナ的には。


「ですが、重要ではありますね。『明鏡止水』に産休制度、作りましょうか」


「え、何それ。分け前保証?」


 そりゃ、そのくらい構わないけど。


「いえ、妊娠期間が重ならないよう、出産調整制度? 1人だけならともかく、複数抜けると仕事ができなくなりますから」


「……日本でそれを『産休制度』とか言ったら、フルボッコだね」


 ブラックのレッテル貼りは免れない。


 でも、現実的ではある。


 あり得ないとは思うけど、万が一あたしたち3人が同時に妊娠したら、1年以上、収入が途絶える。


 日本なら妊娠期間も仕事ができるけど、さすがに子供がお腹にいる状況で、戦闘行為は無いし、出産後も当分は赤ちゃんに付きっきりは確実。


 栄養価が調整された粉ミルクなんて売ってないし、便利な紙おむつは存在しない。その代わりに魔法はあるけど、使えるのはハルカとナツキのみ。


 逆に乳母を雇うという方法はあるけど……それにもコストは掛かるしなぁ。


 きちんと貯蓄しておくにしても、不安は大きい。


 うん、必要だね、調整。


「それより、あなたたち2人はどうなの? ナオを狙う、みたいなこと言ってたと思うけど?」


 そうハルカに指摘され、あたしとナツキは顔を見合わせる。


「狙うというか、ナオのパートナーという位置が、この世界で一番安全に暮らせそう?」


「そうですね。気心が知れているのが一番です。価値観の相違は家庭生活の大きな阻害要因と聞きます」


「恋愛感情は?」


 ハルカのその問いに、あたしたちは少し考え込んだ。


「……普通に好き、かな? 顔もエルフになってさらに美形になったし、見てて心地よい? どうこう言っても優しいしね」


「異性の中では一番好きですよ? ハルカみたいに、燃え上がる恋心は……微妙ですけど」


 日本に居たら結婚は疎か、告白もしなかったと思うし、『アナタしか見えない』、とかそんな事は無いから、もし素敵な異性と出会えれば方針転換の可能性はある。


 けど、ナオ以上にお金を持っていて、安心できる相手って、そうそう居ないと思うんだよねぇ。


 トーヤが悪いとは言わないけど、獣人のお嫁さんをもらう気満々だし、誰か解らないその人と仲良くできるかも解らない。


 その点、ハルカとナツキなら安心。ずっと一緒に居た実績があるから。


 安心、とても大事。


 そんな私たちの回答に、ハルカは少し呆れたような表情を浮かべる。


「大概酷いわね、2人とも。っていうか、別に燃え上がってないから!」


「はいはい、ずーっと燻っているんですよね。風を送ってあげますから、火を着けましょうね~~」


「なるほど。あたしたちがナオにちょっかいを出すことが、塩ならぬ、風を送ることになると。さすがナツキ、上手いこと言う」


「余計なお世話! 2人にはありがた迷惑という言葉を贈るわ!」


「うーん、あんまり燃え上がっても困るか。煽りすぎて、一線越えちゃったら――」


「黙れ」


「「はい」」


 怖っ!


 人を殺った事ある視線だったよ、今の。


 ――あー、冗談じゃ無く、あったか。あたしも含め。


 はぁ……。

 『常識』的に正しいとは解っていても、たまに思い出すと、落ち込むね。


 もちろん、放置すれば罪の無い人が殺されるんだから、そうすべきだろうし、それが冒険者の仕事なんだけど……ちょっぴり、兵士、仕事しろ、と言いたい。


 尤も、それも嫌な仕事を他人に押しつけてるだけなんだけどねー。


「それよりも! 今は、ユキとナツキの話だったでしょ! もっと、こう、素敵な出会いとか、白馬の王子様的な物とか無いの?」


 白馬の王子様……?


「結婚なんて打算です。若い人にはそれが解らんとです。……ハルカ、現実見よう?」


「えぇぇ……確かにある程度の年齢になると、年収が第一条件とか聞くけど……それは、アラサーあたりの考えじゃない? 実は、ユキ、年齢偽ってる?」


 呆れたような視線を向けるハルカに、あたしは首を振る。


「こらこら、アラサーのお姉さま方に怒られるよ? でも、実際問題として、選択肢が無いでしょ?」


 王都に行けば、もしかすると王子様には会えるかもしれないけど、さすがにシンデレラストーリーに憧れるほどには子供じゃない。


 脳天気に憧れられるのは小学生まででしょ。


 結婚して課せられる義務を、『好き』だけでナントカできるほど楽じゃないと思う。良く知らないけど。


 きっと、嫁姑戦争の何倍も酷い物が、ドロドロと渦巻いているに違いない。多分、現実的に命の危険があるんじゃないの? そう言う世界って。


 いや、うちのお母さんと、お婆ちゃんは仲良かったけどね?


「ナツキは? ナツキはどうなの?」


「大学ぐらいまでモラトリアム期間が続くなら別ですが、そう言う世界じゃないですからね。考え方も変えないと」


「こっちもか……まぁ、確かに、昔から『亭主元気で留守が良い』みたいな言葉があるけど」


「いや、さすがにそこまで達観してないし、あたしも普通にデートとかしたいとか思うけどね?」


 だけど、こっちの人と結婚するような、ある意味での『度胸』は無い。


 日本でも素性不明な相手との結婚は敬遠されるのに、こちらではなおさら。


 結婚は家と家同士の繋がりという面もあるのだから、どこで生まれたかすら言えない相手との結婚に、家族が賛成できるわけが無い。リスクが高すぎる。


 それでも結婚するのであれば、それらを乗り越えるほど相手に好かれているか、もしくは相手も似たような状況か。


 この時点で、所謂いわゆる公務員や堅気の職人などは結婚相手から除外され、残るは冒険者かそれ以下の怪しい奴らか。


 恋愛の難しさ、解るよね?


 いや、恋愛だけなら良いんだけど、結婚は難しいよね?


「そっかー、2人は結婚に実利を求めるタイプかぁ……」


「『実利』とまでは言いませんが、形だけでも結婚していた方が、面倒事は少ないでしょうしね」


「うんうん。冒険者を続けている間は良いけど、引退して定住したときに、独身女だと、面倒事も多いみたいだしねー。偏見とか、色々」


 日本ですら中高年になって独身だったら、微妙な視線を向けられることがあるのだ。


 こちらの世界では、もっと酷い。


 確実に『問題がある女』と見られて、近所づきあいも難しいほど。


 それがよそ者だったら、言うまでも無いよね?


 田舎で一人スローライフなんて、あり得ないから。


 下手したら、スリラーライフになるから。


「もちろん、今後誰かと大恋愛する可能性は否定しないけど……取りあえず、ナオはキープ?」


「酷っ! 今までで一番、酷い! それ、ナオに言うんじゃ無いわよ!」


「あ、キープは言葉が悪いね、ゴメン。別に二股掛けてるわけじゃないしね。それに、今一番好きなのがナオなのは嘘じゃ無いよ?」


 柳眉を逆立てたハルカに、慌てて言い訳。


 ナオを蔑ろにするつもりは無いけど、ハルカもいるし、友達的なパートナーで十分かな、という感じなのだ、あたしとしては。


 四六時中ベタベタじゃなくて、たまに2人で一緒に出かけるぐらいがちょうど良い?


 多分それぐらいの方が、長く上手くやっていけると思うし。


 冷めてる?


 でもさ、芸能人とか、結婚したかと思ったらいつの間にやら離婚してたり。

 離婚した直後に、また結婚したり。で、また離婚。


 結婚に対するネガキャンでもやっているのか、と思うような夢も希望も無い情報を流すマスコミだったり。


 多分、あの辺が出生率の押し下げに、結構寄与してるんじゃないかな?


「それにさー、あんまりあたしがガツガツして、『ハルカを押しのけてでも!』とかやったら困らない?」


「うっ……。それは、ちょっと困る、けど……」


 あたしが苦笑しながら肩をすくめると、ハルカは少し視線を逸らし言葉を濁した。


「私もユキと似たような物でしょうか。こちらに来た以上、割り切るべきは割り切ると考えていますから。それに私の周囲でも、恋愛とか特になく結婚した人も、案外多いですよ? それでもそれなりに上手くやっているようですし」


「あー、ナツキの周りだとそうなのかな? 金持ちの旧家だし」


「えぇ。お見合い結婚はそれなりに多いですね。大半は『恋愛』ではなくて、『それなりに気が合って、結婚生活がやって行けそう』と思えば結婚する、って感じです」


「大人になるってそう言う物なのかしら? ……確かに、私の知り合いにも、結婚相手の条件ばかり気にしている人もいたけど」


 そう言う物なんだと思うよ?


 単純な好き嫌いで結婚できなくなるから、日本も晩婚化が進んだんだろうね。うんうん。


「よし。ハルカに二号さんの了承も取れたところで、水着作り、がんばろうかな!」


「えぇ、そうね。………あれ? そう言う話だった?」


 何やら首を捻っているハルカを尻目に、あたしは縫い掛けの水着を完成させるため、作業を進めたのだった。



 ナオの視線を釘付け、じゃなくても、ちょっと気になる、ぐらいにはなっておかないとね。


 あたしの人生設計のために!


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[一言] ♂×3♀でも 同居生活なら倫理的にも問題ない…… ……
[一言] 芸能人の結婚が長続きしないのは 御互いに見栄を張っているからで…… …… 疲れて別れるパターですね。 長続きするのは 本性をさらけ出してお互いに譲歩納得できる関係か 子供を作るけど対等な同居…
[良い点] 久々に読み返すとこの回は味わい深いですね。転移したばかりの時はどっちが本命?なんてトークをしてたのが日本にいた時からバレバレ、と表現が変わってるのがすごく良い。 事実ベースとしては矛盾です…
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